第180話、鈴子「…………」テロリスト「やめてくれぇえ!?」
書き上がりました!
これからもよろしくお願いします!
ごめんなさい!いきなりですが今話の一部を改善しました! よろしくお願いします!!
「ゔぎゃぁああああ!?」
「やめてくれぇ!降参でも何でもするからぁああ!」
「…………」
テロリスト達から上がる悲鳴の連鎖。その原因は鈴子の右袖から伸びる黒い触手にあった。
「お前に人の心は無いのか!?」
「男にこんな醜態を晒させて楽しいか!?」
「人間の皮を被った悪魔め!!」
無数の触手が乱舞を踊り、男達を次々に蹂躙していく。まるで相手の弱点を弁えているのか如く、触手は独自に動き回って男達を気絶させていくのだ。
そう、触手はあくまで独自に動いている。故に鈴子は思う。
(私の所為じゃない…)
それは自動攻撃。詩織が事前に命令を与えた触手が、鈴子の手から勝手に攻撃しているだけなのだ。
その事情を免罪符に、鈴子は無視を決め込んだ。
(早く合流しないと…)
そして鈴子は恐れていた。
自分の能力を跳ね除けて、外部に繋がった謎の通信。それを起こせる手段は能力しか有り得ない。
しかも自身の『誘導改変』を余裕に掻い潜れる程の能力。
その恐ろし過ぎる不安要素に、鈴子は詩織達との合流を目指した。
(もう人質の制圧を終わっている筈。なら最後は)
重鎮達が集められ、テロリストのボスとsoldierが待ち構えている最上階。
その近くに詩織達がいる。
そこに狙いを絞って、鈴子は触手片腕に走り抜けた。
────。
────。
そして……
「……っ!……ッッ!……」
「「…………」」
彼は白目を向いてピクピクしていた。
それを作った……いや連れて来た人物はというと、
「私は悪くない……何もかも触手が悪い」
鈴子の右腕に絡み付いた黒い触手。その触手がテロリストをお持ち帰りしてきたのである。
「はぁぁ〜」
詩織は溜め息を吐き出し、彼の首に腕を巻く。
ゴキッ!
鳴ってはいけない音を響かせ、彼は触手に包まれながら動かなくなった。
「し、詩織?……まさかっ」
「気絶させただけよ」
そしてパチン!と詩織が指を鳴らす。その合図に反応するかの様に、気絶していた彼が立ち上がった。
「人員が一人増えたわね」
彼は歩き出して部屋の一角に移動する。そこには彼と同じ武装をした男達が整列していた。
その光景にメリルは呟く。
「これは非人道的じゃないデスカ?」
「はぁぁ、あのねメリル。大切な事を一つ教えてあげるわ」
テロリストに情けをかけるメリルに、詩織は真面目な顔で言った。
「相手が犯罪者だったら何をしても許されるのよ」
「許されないデスヨ!?」
メリルが正論をぶつけるが、詩織は聞く耳を持たずに鈴子の方を向く。
「事情は何となく察したわ。不安要素が現れたんでしょ?」
「そう」
鈴子は詩織達の目の前に出てきた理由を話した。
「私の妨害を掻い潜って、外部との通信を図った誰かがいる。きっと私以上の能力使い」
「っ!?」
メリルが驚愕し身体を震わせる。目の前にいる鈴子以上の実力者。いやもしかすればそれは人間ではなく、
「厄介なsoldierがいるかもしれない、と言うことね」
詩織の推測に、鈴子を首を縦に振る。
「何の目的で通信を送ったのかは知らないけど、それなら早期解決を目指した方がいいわ」
「そのために私が来た」
優れた戦力が加わった事により、詩織の口に笑みが生まれる。
「正直、彼等だけじゃ不安だったのよ」
それは触手を寄生させて揃えた操り人形。気絶させたテロリストを、詩織は能力で操っているのだ。
「じゃあ作戦を説明するわ」
────。
────。
『ソレ』は粘液を擦り合わせながら、生温かい息を吐き出していた。
大きさ問わずの伸縮を繰り返す黒い触手の群と、床を踏み締める極太な四脚。
そして『ソレ』の周囲では、生気を示さない武装集団が立ち並んでいた。
『GARRRRRRッッ……』
『ソレ』が人ならざる声を漏らし、武装集団が足を鳴らす。
その行手に見えるのは閉鎖された赤い大扉。そこを目指して、黒き軍勢は歩み出した。
────。
────。
「ボス!廊下を見張らせていたsoldierの反応が消えました!」
「何っ!?」
部下からの報告にボスが汗を落とす。
自身の瞳でモニターを確認すると、部屋の外で徘徊させていたsoldierが一機残らず反応を消していた。
「ま、まさかっ…」
──ゔぉぉ……ゔぉぉ……
「っ!?何だこの音はっ!!」
微かに聞こえた異様な音に、ボスは恐怖し周囲を見回した。
その音の先を辿れば、閉ざされた大扉がある。
そして段々と謎の音は接近し、扉に波紋が走った。
「と、扉の前に何かいるぞっ」
「soldierを前に出──」
その瞬間、扉は破れ飛んだ。
そして、
「ひぃいいいいいいっ!?」
扉の近くにいたテロリストが悲鳴を上げた。崩壊した扉の跡から現れた黒い軍勢。
その姿を見て、誰もが吐き気を催した。
「な、なっ…なんでそんな姿にっ…」
触手が蔓のように絡まる男達。ドクドクと脈を打ち、粘着質な音を武装に鳴らす。
「ォォ……ゔぅぅ……」
一部から聞こえるのは悶え苦しむ仲間の嗚咽。
意識の無い表情をするも、その身体は小刻みに痙攣を見せていた。
『GARRRRっっ……』
軍勢の中心に『ソレ』はいた。
重ねられた武装の奥底に見えたのは、黒い触手を伸ばす四足歩行の異獣。
『GARRRRRRRRRRRRRRRRっっ!!』
『ソレ』は咆哮した。そして膝を軋ませる。
その合図に従うように武装集団は宙を飛んだ。
「なっっ!!?」
常人では不可能な跳躍を見せ、軍勢は部屋にいたテロリスト達に殺戮を向けた。
『GARRRRRRRRっ!!』
怒号飛び交う戦乱の勃発。
テロリストが銃口を向けるのは、自身に襲い掛かる全てにだった。
「くっ!?防弾チョッキか!」
「本体じゃねえ!黒い触手を狙え!あれがソイツらを操っているみたいだ!」
「ぐぁあ!?う、うわぁ来るなぁああ!!」
仲間の一人が押し倒された。そして覆い被さった元仲間から触手が伸びる。
「やめ、やめろぉお!?あががガガガガガガガガッッ!!」
白目を向いて悲鳴を上げる。首を小刻みに痙攣させて、正気の沙汰ではない表情を彼は見せた。
そして悲鳴が止んだ頃、
「ぉ……ぉぉ……ゔぉおおッッ!」
「なっ!?」
仲間は立ち上がり、触手の絡まった脚で跳躍を見せた。
「奴らに近づくな!!身体を乗っ取られるぞぉおお!!」
────。
────。
「……わ、私達が正義デスヨネ?間違ってないデスヨネ!」
「間違ってない。それよりも手筈通りに進めて」
鈴子が天井を指先を向けて言う。二人が今いるのは、詩織が戦っている部屋の真下だった。
「りょ、了解デス。信じてマスヨ!私達は人道に背かない戦いをしているんデス!デスヨネ!ネエ!」
メリルは『振動粒子』を天井に放ち、天井のコンクリートを削り出す。
だが、
「うぅぅ、やっぱり時間が掛かりそうデス……」
「そのまま……振動に一点集中してて」
鈴子がメリルの手に触れ、『誘導改変』で粒子を操作。天井に浴びせていた粒子を最適化し、作業速度を大きく跳ね上げた。
「そろそろ開通……予定時刻は?」
「あと十秒デス」
腕時計を見て答えるメリル。
そして鈴子が笑みを浮かべた。
「余裕」
その一言を呟いた直後に、天井の穴が上階に繋がった。
「あとは人質が落ちてくるのを待つだけ」
保護した人質を下階に落とす。それが三人の立てた作戦だった。
予定の場所に救出用の穴を作り、詩織が戦闘に乗じて人質を穴から下階に落とす。
そうして人質の身柄を確保してから、テロリスト制圧に本腰を入れるつもりだった。
だが、
「遅い…」
「確かにそうデスネ…」
開通してから一分が経っている。既に人質が一人くらい落ちてきても不思議じゃない。
「……詩織?」
ふと、その名を呼んだ瞬間。
天井の穴から、黒い何かがボトボトと落下してきた。
「「っっ!?」」
詩織と鈴子が唾を飲む。
本来なら受け止める筈の落下物を、二人は見逃して床にぶちまけてしまっていた。
だが違った。そこに落ちてきたのは、二人の思考になかった異物だった。
「これは…詩織の」
それは両断された跡のある黒い触手。それを見て、鈴子とメリルの目の色が驚愕と恐怖に変わった。
「メリルっ!人体強化っ!上に行くっ!」
「は、はい!」
メリルが人体強化をして、その腕に鈴子が絡まる。そして床を踏み抜いて、メリルは穴の中へと飛び入った。
そして──
「「なっ!?」」
その光景を目の当たりにして、二人は声を失った。
「た、助けてくれぇ……」
「なんで…俺達は…」
「ひぃぃ!嫌だ…死にたくないっ」
それは地獄絵図。誰もが黒い細胞に飲み込まれながら、涙と嗚咽を吐き出している無残な光景が広がっていた。
「全員が細胞に飲み込まれてる?」
「まさか詩織がまた暴走ヲ!?」
相手問わずの無差別な『黒槍出現』の発動。真っ先に浮かんだ最悪の可能性に、鈴子とメリルは詩織の姿を探した。
だが見えない。部屋全体を見回しても、いるのは細胞に飲み込まれたテロリストと人質、それと今もなお動き続けているsoldierだけだった。
「お、お前らは?」
近くにいたテロリストが声をかける。
「わ、私達は戦闘学の…」
「っ!?た、助けてくれ!!俺達は何もしてないんだ!!」
彼は間髪入れずに助けを求めた。そして泣き叫ぶようにソレを口にする。
「お嬢ちゃんが俺達を守る為にっ!今も戦って──!?」
男が言い切る前に、何かが上からは落下してきた。それは黒い細胞の破片。
それを見て、二人は恐る恐る天井を見上げると、
「「っ!?」」
シャンデリアに絡まる太い背骨が見えた。黒い肉片を隅々に貼り付けながら、黒鋼の骨を光らせてソレはゆっくり蠢いている。
『アアアアアアアアッッ!!』
それは両手の鉤爪で天井に張り付いた『下半身の無い巨人』。胸の下から背骨を伸ばし、胸の上からは性別不明の上半身が雄叫びを上げていた。
「しっ、しお…」
その姿にメリルは彼女の名前を呼ぼうとした。その瞬間である。
「鈴子!メリル!急いで皆んなを外に逃して!」
その声を轟かせたのは、怪物への豹変を疑った詩織からだった。
その声を辿ると、太い背骨の隙間に彼女の姿が見えた。
「今の敵はテロリストじゃない!このsoldierよ!」
詩織が叫び、銃弾を機械の頭部に撃ち鳴らす。
『アアアアアアアアッッ!──ははは、いくら撃っても無駄だよ!姫路詩織くん!嗚呼ッ!まさか日本支部の序列者がいるとは!こんなに素晴らしい日はない!』
soldierの声が人の声へと移り変わる。その声音を聞いてメリルは青瞳を震わせた。
「っ…ジョン・マイヤー…」
『おや?これはこれは!オーストラリア支部のメリル・キャンデロロくんじゃないか!ハハハ!これは良い!君も捕獲して、我らWDCのsoldierにしてあげよう!』
そして怪物は動き出し、轟音と共に降り立った。
『この私の傑作!『soldier・Mary』でね!』
読んでくれてありがとうございます!
ようやくクライマックス突入です!
ジョン・マイヤーですが、第34話、詩織(私は広樹を信じる!)で一度登場しているWDCの幹部の人です。
詩織のヒロイン度が(戦力量産で)下がった気がしますが、最後はテロリストを庇いながら戦っているので……まだヒロインとしてセーフだと信じたいです!
それと今回登場したテロリストは全員男性です。(念のために)
どうかこれからもよろしくお願いします!