第179話、鈴子「っ?…私の能力が…無効化された?」サラ「もしもし校長?」
書き上がりました!
これからもよろしくお願いします!
昨日も投稿したので、確認していただけると嬉しいです!
「っ!?」
「ん?どうしたんだい鈴子ちゃん」
肩を震わせた鈴子に、エリスが歩み寄った。
「……通信が外部に繋がってる」
「それはどういう…」
何も事情を聞いていなかったエリスが疑問を漏らす。だが鈴子はそれ以上の説明をせず、彼等の治療を完璧に済ませて立ち上がった。
「後は経過を見るしかない……でも峠は越えたから」
「ああ!本当にありがとう!俺の仲間を助けてくれて!」
「うん」
熱い感謝に鈴子は瞳を泳がせる。彼等が今も寝込んでいる理由は、本来鈴子と詩織にあったからだ。だがそれは伝えず、内緒を貫こうと詩織と共に決めていた。
「どうせ敵はテロリスト。この場に来ても対処は出来る……私は行く」
「お、おい!お嬢ちゃん一人で行く気か?」
「大丈夫」
鈴子は懐から黒いカードを取り出して見せる。
「私は強いから安心。それに気になる事が出来た」
鈴子の素性が書かれた生徒証。それを見て、改めて彼は鈴子の実力を再確認した。
「じゃあね。安静に」
そう言い残して鈴子は扉から出る。だがすぐに、
「鈴子ちゃん」
「エリス?」
背後から呼び声に、鈴子は振り返った。
「君は武器を…何も持っていない様に見えるが」
「詩織に全部貸した」
「丸腰で行く気かい?」
エリスの心配に鈴子は右手を横に伸ばす。そこには何も持たず、手首まで隠れた長袖があるだけだ。
「……私は今、敵の通信を妨害する為に能力を広範囲で発動している。でも、その妨害の最中に、外部に繋がった通信があった」
新たな疑問を聞かれる前に全てを話してしまおうと、鈴子は全てを単純かつ明確に語った。
「その正体が分からない。私も出た方がいい……だから」
ズジョジョジョ……と、粘液が擦れ合う音が、鈴子の右袖の中から聞こえ始める。
「私は行く。大丈夫、妨害は続けるし、ゲリラ豪雨も継続する」
「っ!?」
袖から伸び出したのは黒い触手。タコの足みたく何本にも生えたそれが、鈴子の守る様に宙を舞う。
「でも私の容量はそれで手一杯。だから『黒槍出現』を使って身を守る」
「なんで、鈴子ちゃんがそれを……」
「コレの強さはエリスも間近で見た筈」
鈴子は触手を周囲に漂わせながら振り返る。
「気持ち悪い……右腕だけでも……本当に気持ち悪い」
そう悪態を呟きながら、少女は廊下の奥へと消えていった。
────。
────。
「ああもしもし校長!やったー繋がったー!」
『繋がったーじゃないわよ!パイロットから聞いたわよ貴女!』
ホテルの一室でサラは微笑みながら端末を握っていた。
だが連絡相手はその真逆。オーストラリア支部の校長、ジェシカ・ウィリアムは怒り心頭である。
『ウイングスーツでの上空数千メートルからの特攻!自殺願望でもあるのかしら!』
「急ぎたかったのー。だってメリルちゃんがいるかもしれないんだもん」
『だもんじゃない!』
止まない怒りに、ハハハと苦笑いを漏らすサラ。それを見たリリー・ジョウソンは、心配そうな表情でサラを見つめる。
「ふふふ、大丈夫だよ」
サラはリリーの頭を撫で、心配ご無用と余裕の顔を見せた。
「ねぇ校長。とりあえず重要目標の一人は保護したよ。大臣の娘のリリーちゃん」
『っ!』
「後は大人の重鎮達だよね」
端末を操作し、サラは改めて送られてきた命令と情報を整理する。
「う〜ん…ちょっと気が進まないな。いくら最悪の結末を回避する為って言われても」
『っ、しょうがないじゃない…政府からの命令なんだから』
サラに与えられた命令は、指定された重鎮達の人命保護。つまり、
「人質全員を救い出せる提案をして欲しかったね」
『人質が何百人にいると思ってるのよ?』
多過ぎる人質の数に、政府は保護対象に優先順位をつけていた。それは彼等が持つ機密と影響力に起因し、テロリストに利用される前に解決を図る為である。
「でも校長ー」
口端を吊り上げてサラは言う。それは嬉しい誤算だった。
「ホテルの状況がね、かなり面白い事になっているんだよ。私達にとって好都合なね」
『好都合?』
「校長に連絡しようとしたら、さっきまで全く繋がらなかったんだ」
その原因を探る内に、サラは一つの事実に辿り着いていた。
「能力による通信障害が発生中〜。施設内は妨害の嵐だよ」
『なっ!?』
「さっきテロリストをはっ倒して、無線を奪って確かめたんだけど、この現象は相手が作ったものじゃないね」
左手に握り締めたテロリストの端末。そこには雑音しか流れていなかった。
「それに今起こっているゲリラ豪雨も不自然。そこから推理していくと、一人の少女が思い浮かぶんだ」
『……日本支部の序列九位』
「そうそう彼女!内守谷鈴子ちゃん!」
ここまでの大規模な異常現象を起こせる人物。それが偶然にも、今オーストラリアにいるのだ。しかもメリルからの連絡も途絶えている。
そこから導き出される結論は明確だ。
「メリルだけを向かわせる手筈だったみたいだけど、オマケが付いてきちゃったみたいだね」
本来であれば監視任務を中止して、メリルが単独で警察組織と合流する手筈だった。だがメリルが合流した報告はなく、通信も繋がらない。
サラの推理が信憑性を帯びていく。
「でも通信障害は好都合。こっちのやりたい放題だよ。相手に気づかれないからね」
『貴女まさか!?』
「大丈夫大丈夫。ちゃんと優先順位は守るから」
ウイングスーツを脱ぎ去り、既にサラは銃器で武装していた。
「それに今しかないよ。テロリストを制圧するチャンス」
『っ…』
「私の能力なら確実に重鎮達を保護しきれる。でもそれだけじゃあ他の人質が危ないよね」
『……ええ、そうね』
「政府にも事情があると思うけど、ちょっとやりきれないかな」
『……』
「現場の状況も変わってきてるし、ここは現場にいる私の意見が重要視されるんじゃない?」
それを聞いたジェシカは、考えた末に覚悟を決めた。
『きっとホテル内にいる筈よ。彼女達と協力して、テロリストを制圧しなさい』
「スペシャルメンバーだね!了解!メリルちゃん、詩織ちゃん、鈴子ちゃん、それと……ごめん、誰だっけ?」
『荻野広樹よ!』
「そうそう!この五人がいれば楽勝だね!そして極め付けが私の能力!…………あっ、校長」
明るかった声音が急に下がり、サラは苦笑いを浮かべながらジェシカに言う。
「そろそろ通信を切りたいかな。能力を節約しておきたいから」
『え、ええそうね。でも、通信を切った後に休憩を挟めれば』
「いやー実は休憩が挟めなくなっててね」
『挟めない?』
サラの言葉にジェシカは疑問を浮かべた。
「ちょっと予定が狂っちゃって。もう能力発動しちゃった。しかも解除したら死者が出ちゃう状況」
『はあっ!?』
「ハハハごめん!だから切るね!バーイ!」
『ちょっと待ちなさい!まだ話は─』
ブツっと通信を切って、サラはベッドに寝かせた彼を見る。
「ん〜、おかしいな〜」
「おかしい?」
「うん、おかしい」
疑問を漏らしたリリーに、サラは説明を口にする。
「私の『万全到達』は、対象を完璧な状態に復元し、常に固定化させ続ける能力なんだけど」
そこには血の跡の無い綺麗なスーツを着た広樹がいた。それはサラの能力によって、傷と衣類を完全に治したからである。
だがサラには分からない事があった。
「まだ彼の身体が光っているでしょう」
「うん、光ってる。ひび割れた光の筋みたいのが見える…」
「そう。本来なら光は消えていて、彼は目覚めている筈なんだよね」
『万全到達』を発動させ、完璧な状態になるまでは常に発光が続いてしまう。つまり彼の治療はまだ済んでいないと、サラは可能性を言う。
「あの鎌に毒でも盛られてたのかな。それが体内に入って、治療に時間がかかっているのかも」
「毒!?」
「大丈夫。私が能力をかけた以上は絶対に死なないから」
涙を滲ませたリリーに、サラは改めて安心を伝えた。
「でもこれで私の休憩は無くなっちゃったな。鈴子ちゃんの通信障害もいつまで続くか分からないし、早めに行動に出ないと」
サラは右手に能力を込め、そこに光の渦を生み出した。
「今からリリーちゃんの身体を強くするからね」
右手をリリーの肩に置く。そこから光がリリーの全身を覆い、体内に染み込む様に光が飲み込まれた。
「よし!じゃあリリーちゃん、右手を出して。私の能力の凄さは知っているよね?」
「う、うん」
出された右手をサラは握り、もう片方の手にはナイフを取った。
そして躊躇なく、
「っ!?」
リリーの右手にナイフが振り下ろす。だがナイフは皮膚を切り裂く事なく、血を一滴も流さなかった。
「衝撃も感じないでしょ。今のリリーちゃんは銃弾を受けてもピンピンだから安心してね」
これでリリーが任務中に怪我をする事はない。そしてサラが次に能力を使わなければいけないのは、
「早く残りの保護対象者を見つけないと、時間切れだね」
『万全到達』には制限時間がある。それが過ぎれば能力は解除され、怪我を負える身体に戻ってしまう。
だが今のサラは、予定外の問題を抱えていた。
「時間切れになったら、確実に彼は…」
『万全到達』の最悪のデメリット。それは能力を解除すれば、発動前の状態に戻る事。つまり広樹の怪我が治療前に戻り、出血多量で死ぬという事だ。
あくまでサラの能力は完全状態の延長であり、事件が済んだら広樹は病院に待った無しで担ぎ込まれる。
「こんな場所で、死ぬなんて…」
それが彼の結末になる事は、サラは許さなかった。
「名前は知らないけど、リリーちゃんの為に戦ったのは知っているわ」
サラは広樹の頭を撫で、そして誓う。
「必ず貴方も救うから」
そう最後に言い残し、サラはリリーを連れて扉から出て行った。
読んでくれてありがとうございます!
姫路詩織『ア○ルバンカー』(略・R18)
内守谷鈴子『パンデモニウム』(略・悪魔達が住む都市)
サラ・ホワイト『シンデレラ』(略・童話のお姫様の名前)
ちょっと色々と差があるのに気付きました。