第177話、???「お、お兄ちゃんの……背中から…………なんで……いや……いや……いやぁああああああ!!」
書き上がりました!
これからもよろしくお願いします!
最後に挿絵があります!
「いいかいリリー。君の能力は特別だ」
パパの声が部屋に響く。
片膝を着いて、真剣な眼差しで私に言葉を続けた。
「その能力はリリーを助けてくれる。もしもの時があれば、その力を頼るんだよ。戦闘学の先生に怒られてもいいから」
「その時って?」
「……危険な時さ」
私の出した疑問に、パパは頬を掻きながら言う。
「パパは馬鹿でね。正しいと思った事を隠さず言ってしまうんだ。……それをね。良くないと考える悪い人達がいるんだよ」
「悪い人たち?」
「そう。そしてその悪い人達が私の家族を攫いに来るかもしれない。リリーを人質にして、私に間違った事を言わせる為にね」
「そんな!パパは何も悪くないのに!」
「……リリー」
パパが私を抱き締める。
「ハハハ!そうだね。パパは何も悪くない」
「パパ?……泣いてるの?」
頬に感じた濡れた感触。
それがパパの涙なのだと直ぐに分かった。
「リリー。パパは一杯頑張るからな。頑張って、この国を良い国にするからな」
涙を滲ませながらの強い決心。
それを聞いた私は、握り拳を作ってパパに贈った。
「パパ!がんばってね!」
────。
────。
『暗示』
発動すれば視界に歪んだ道筋が見え、その通りに向かえば悪い事にはまず遭遇しない。
それがオーストラリア政府のとある大臣──の娘である、リリー・ジョウソンの持つ能力だった。
「うぅ……」
迷った自分を導いてくれる道しるべであり、未来予知や予言よりも曖昧な『予感』に等しい不確定な力。
戦闘学の研究者からは『鼠が持つ第六感に近いかもね。ほら、あの動物は沈みそうな船から引っ越す習性があるだろう』──それを聞いたパパが、研究者をひと殴りしたのを覚えている。
その能力を使ってリリーは、暗い廊下を一人歩いていた。
そして辿り着いたのは塗装の剥がれた鉄扉。
警戒しながらゆっくりと開けると、そこには特に荒らされた形跡のない、段ボールや資材が積み重なった光景である。
「そうこ?」
そう見えた部屋に踏み入れて、視界に浮かぶ歪みを追って進み続ける。
そして足を止め、能力が導いた先にあったものに疑問を呟いた。
「段ボール?」
棚と棚を挟んだ小さな通路。その光が届かない一角の奥に、やや大きな段ボールがポツンと一つ置かれていた。
上部から側面をガムテープで何重にも固定された異様な外見。何かを封じ込んでいるのかと彷彿させる見た目である。
(この中に私のきぼうが?)
私はその箱に手をかけた。
だが、
「っ!、ぐっ〜!!」
何重にも貼られたガムテープを剥がそうとするが、剛情過ぎる粘着質と量に苦戦する。
もう上部から開けるのは不可能なのだと、次の手段に打って出た。
その段ボールは上部こそ頑丈に固められていたが、底の下部には何もない。
その下部から開けようとひっくり返そうとする。──が、
「お、おもいぃっ!」
中にギッシリ詰め込まれているのか、微動だしない段ボール箱。
だがそれでも最後の希望なのだと必死になった。
本当なら私は今頃パパと一緒にいたのに…
でも遊びたくなって、自由に歩き回りたくて、護衛を騙して抜け出して…
そして気づいたらホテルはおかしくなって、私は逃げて隠れて独りぼっち。
今見つかったらどうなるのか分からない。でもきっと酷い目に遭う。そしてパパが悪い人たちの言いなりに……
そんなの駄目!
────ゴソッ
「っ!」
突如と動いた段ボールに手を離す。
ゴソゴソッと音を立てながら、その段ボールの下から足が生え、ゆっくりと立ち上がった。
「────」
「っ!?」
その声に私は驚く。段ボールに隠れた上半身から声が聞こえ、今まで自分が叩いていた箱の正体を知った。
でも分からない。その言葉の意味が。でも聞き覚えがある。
英語じゃなくて、別の国の…………
そうだ、パパが外交で仲良くなった人が言っていた。そして教えてくれた。
私が今、何を伝えたら良いのかを──
「……『タ』…『スィ』『ケ』『テェ』」
「──」
段ボールは上に持ち上がり、隠れていた顔が現れる。
その顔は外交の人と同じ様に平べったい顔で、お兄ちゃんと呼ばれるくらいに若く見えた。
でも分かる。この人はテロリストじゃない。
それだけを気持ちのバネにして。
私はもう一度、
「『タスケテ』!」
「イ…イエス……」
男の人はそう答えて、私の涙を拭いてくれた。
────。
────。
「ボス。何度も試しましたが、やはり仲間との連絡が一切通じません。仕掛けていた監視カメラも同様にです」
部下からの報告に顔を歪ませるボス。
彼は爪先を噛みながら、人質達に顔を向けた。
「お前達が何かをした……って訳じゃななさそうだな。本当に」
「くっ…だからそう言っているだろう…」
答えた彼は両脚から血を流していた。そこには生々しい弾痕がある。それを行なったのはテロリストのボスであり、及んだ理由は『ある情報』を吐かせる為だった。
「そうかよ。まあいい、とりあえず縛るぞ」
「っ!!」
「まだお前に死なれちゃ困るんだよ。畜生が」
ボスは彼の片脚を縛り止血する。
「挑発に乗っちまったじゃねえか、よ!」
「くっ!!」
もう片方の脚も縛り、ボスは嘆息を吐き出しながら立ち上がった。
本来なら人質を使って吐かせる予定だったが、それを行えなかった訳がある。
それは血を流す彼の執念が作り出した、悪にも染まる覚悟の結果だった。
「お前は政府の人間に向いてねえぞ。最悪の発言が飛び出たものだ」
「……」
「ハッタリだと思ったが、それを調べた時点でお前は人質を一人殺したんだ。分かっているよな」
テロリストは一度、人質の頭に引き金を引いていた。「人質をいくら殺しても無駄だ。私は決してお前達に口を開く事はない」、そう彼は言い切っていたのだ。
政府の人間が一般人を犠牲にする。そんな逝かれた言葉に、ボスは脅し尽くした後にその引き金を引いた。
結果は空撃ち。
「本当に撃っちまっても良かったんだがな」
「……」
「今は人質が一人でも欲しい。囮として使える餌がな」
化物が来てしまった時の為の保険。故に部屋にいる人質を無闇に減らすのはやめたのだ。
故に彼の脚に銃弾を撃ち込んだ。最後は我が身欲しさに情報を吐くと思ったが、結果は沈黙に終わり、
「チッ……本当に面倒だ」
ボスは頭を悩ませていた。それは何も吐かない彼の頑固さと、もう一つ……
「ボス。情報を吐かせた事にして、此処にいる全員を口封じとして殺せば…」
長引く状況に、部下の一人が耳元で進言した。
「スポンサー様は証拠映像も御所望なんだ。コイツが吐いた瞬間の映像をな」
「スポンサーと言うと…」
「情報を他国の諜報機関に漏らした張本人達さ」
テロリスト達が求め、彼から吐かせようとしている情報。だがその情報は既に裏で漏らされた情報であり、その裏事情を知っているボスは頭を悩ませていた。
何故ならその情報を漏らしたのは、今も血を流しながら耐えている政府の重鎮。その仲間達だったのだから。
「口封じ。チッ…空回りし過ぎてて、気が滅入るぜ」
「ボス…」
銃を片手に握って、テロリストの彼はゆっくりと歩き出した。
「ああ、え〜と確か……ダニエル・ジョウソンだったか」
「今頃になって名前で呼ぶのか…」
「大臣って呼ばれ続けるのがお望みかい?」
その銃を頭に突きつけて、彼は口をニヤケさせながら言う。
「俺の名前はケニーだ。遅過ぎる自己紹介だが、まぁよろしくな」
「本名ではないのだろう?」
「ハハ、当たり前だが、そうだな」
銃を向けられているのにも関わらず皮肉を言い切ったダニエルに、ケニーは愉快に口元を緩ませた。
「ある仮説を語ろうか」
「仮説だと?」
「一度しか話さないからじっくり聞けよ」
彼はのんびりとして、気の抜けた雰囲気でそれを語った。
「ある政府の重鎮が弱みを他国の諜報機関に握られ、それをネタに裏で脅され続けている」
その言葉にケニーの部下が止めようするが、ケニーの鋭い瞳に押し黙った。
「きっと骨の髄までしゃぶり尽くされる〜。そうなる前に、どうにかこの問題を片付けなければ〜〜と考えた重鎮は、とても非道で糞な方法を考えました」
「重鎮が、非道な方法…だと」
「何重もの人を介して、自分の正体を悟られない様にしながらテロリストに依頼を出した。『この情報をダニエル・ジョウソンから吐き出させ、それを拡散せよ』と」
「なっ!?」
「『証拠映像もしっかりと撮れ!それを国中に見せつけるのだ!』……めでたしめでたし。あ、物語じゃないな。単なる仮説だったか」
「お、お前達はまさか!?」
「仮説の時間は終了だ。まあそろそろ本気にならないとな……おい、探索型のヤツを寄越せ」
ケニーの指示に、部下が一機のsoldierを連れて来た。
「悪いなダニエル。ちょっと髪と血を貰うぞ」
そう言ってケニーは縛られたままのダニエルから、乱雑に髪の毛を引き抜いた。
そこには血もついており、そのまま髪をsoldierに見せつける。
「コイツは探索型の能力を搭載したsoldierでね。入手したDNA情報から、その持ち主に近しい者を見つけ出すsoldierなんだ」
彼が語るsoldierの姿からは、恐ろしさしか感じない。
鋭く光る鎌を両手に持ち、四本の足が地面に伸びる。その姿はまるで…
「soldier・mantis。これを使うのは正直心が痛むぜ」
蟷螂の形をしたロボットに、怯えを隠せない人質達。
その大きさは普通の蟷螂とは違い、馬程の大きさがあったからだ。
「本当に心が痛むんだ。怪我をさせずに、彼女を連れて来れるのかがな」
「彼女……まさかお前っ!?」
「お前のDNA情報から探し出して、この場に連れて来てやるよ。ずっと心配していただろう。お前の娘、リリー・ジョウソンをな」
「止めろ!!」
「情報を吐かせるのはお前の娘を連れて来てからで良いだろう」
ケニーはそう言って、mantisを扉の外に放った。
「せっかくの親子旅行なのに悪いな。まぁ可哀想だが、こっちも引けないんだ」
────。
────。
薄暗い静寂な廊下で、
「嵐が酷い」
「その影響で電波が乱れているのかもな」
窓から見える雨風、そして鳴り響く落雷。
それを見ながら、二人のテロリストは廊下でたむろっていた。
「通信も通じねえし、どうするよ?」
「現状維持じゃねえのか?こっちに人質がいるんだし、時間は十分にある」
「確かにそうだな」
タバコに火をつけて、ふぅーと白い息を浮かべる。
そんな退屈な空間の中、ゴソっ…と、
「ん?」
「どうした?」
「い、いや…」
振り向いた一人に釣られてもう一人が首を回す。
そこには乱雑に物が転がった廊下しかなかった。
「物音がした気がしてな」
「ネズミじゃないか?そこに転がった植木鉢にでも隠れていたんだろう」
「……ああ、そうかもな」
転がっている観賞用の植木鉢に、彼は納得と窓の方に見向く。
「ボスが言っていた化物……あれは何だったんだろうな」
「狂ったんじゃないのか?」
「やっぱりそう思うよな」
はぁ〜と溜息を出して、二本目のタバコに火をつける。
「こんな大事な時に、ボスは一体何を─」
ゴソっ
「っ?」
「どうした?」
「…………おい、やっぱり何かおかしいぞ」
彼は銃を構えて慎重に歩き出した。
視線の先には転がった植木鉢、ブランドバック、台車、破かれたカーテン、段ボールと様々な物が乱雑に広がる光景がある。
「あの部屋か?」
「油断するなよ」
「ああ」
彼は静かに近づき、閉じられている扉に手をかける。そしてバンっと開けて、そこに銃を構えた。
「…………何もいないな」
「まだだ。ベッドの下も見るぞ」
部屋の隅々まで確認して、そこに誰もいないとはっきり判断する。
「すまん、本当に」
「いや、こんな嵐だ。外の音と勘違いしたんだろう」
肩を叩いて励まし、二人揃って廊下に戻る。
「……」
「次はどうした?」
「いや、きっとまた勘違いだ」
「気になるだろ。勘違いでもいいから言ってみろ」
「あ、ああ」
彼は廊下の壁際を指差した。
「この辺に段ボールがなかったか?」
「ん、あ〜……どうだったかな」
────。
────。
「ハァハァ」
「ハァハァ」
これは決して犯罪じゃない。腹の下に小学生くらいの女の子がハァハァ息を吐いているけど、別に何もしてないよ。俺もハァハァしているけど。
「ハァハァ……ウッ」
あ、女の子がマズそう。上に被っていた段ボールを取る。
「大丈夫か?」
「──っ、──」
英語で言葉は分からないが、「大丈夫」だと目から伝わって来た。
そして女の子は廊下の先にあるエレベーターを指差して、袖をクイっと引っ張る。
「ああ、分かった。早く抜け出さないとな」
周りに人の気配はなく、カモフラージュに使っていた段ボールとお別れをする。
「…………やっぱり、ガムテープの有無なのか?女の子には気付かれたのに、テロリストには気付かれないって…」
「──っ!」
「ああごめん、今行くよ」
袖を引っ張られながらエレベーターに辿り着き、女の子はボタンを押して光らせる。
「なあ、やっぱり危ないんじゃ……」
一歩後ろに引いた俺に、
「──っ!──っ!」
「ごめんごめん、だから大声は出さないでね」
女の子はエレベーターの扉を叩いて、何かを必死に伝えていた。
いや、本当に隠れていた方が良いと思うんだけど。
どうしてこうなった…
救助が来るまで倉庫に隠れ続ける筈だったのに…
「──」
目の前にいる女の子に駄々を捏ねられて、現在進行形で危険な場所へ。
最初は反対したけど、一人で廊下に出ようとする女の子の姿に負けました。ほっとけない。
それに彼等が生きていたら、きっと俺みたいに……
……いやでも怖い。本当に怖い。
え、このままエレベーターに乗っても大丈夫なの?もしかしたら玄関ホールにテロリストが待ち構えているんじゃないか?
いや、普通に待ち構えているよね。
ヤバイ、今からエレベーターに閉じ籠る作戦に変更しない?
「──っ」
よし着いた。
じゃあ扉を閉めて、静かにエレベーター内で、
ポチっ。──と押さないでよ。
「女の子をほっとけない俺が憎い…」
無謀に向かって進み続ける女の子に、俺は涙を堪える。
初対面の時は『タスケテ』って涙目で言ってたけど、今じゃあ勇敢に迷いなく突き進んでいる。
そんな女の子に、俺はどうして付いていっているのだろう。
「はぁ……ん?八階?」
てっきり一階に向かうと思ったが、少女が押していたのは八階をボタンだった。
え、本当に何が目的なの?
「──」
ギュッと握られる小さな手。
「……」
…………いや、本当に分からない。
いくら考えても、その行動の先に何を望んでいるのか掴めない。
そしてエレベーターが八階に到着した。
「──っ!」
「ちょ、ちょっと待っ!」
また引っ張られながら廊下を進み出す。
無警戒にエレベーターから出るって、本当に怖過ぎるよこの子。
で、一体に何処に向かおうと?
…………ん?非常階段?
あーつまり、此処から一階に向かうと?
「──」
ん、え?立ち止まるの?
…………あれ?本当に何を?なんで止まり続けているの?
「い、行くぞ」
「─っ!」
止められました。
え、このまま何もせずに?
それは危な過ぎないか。
「…………」
「…………」
なんでこんな事に付き合っているんだろうか…
このままじゃあ本当に──
『KISYRRRRRRRRRRRR!!』
「「っ!!?」」
広樹と少女の肩が同時に跳ねる。
非常階段の上階。その奥から恐怖を感じさせる声が鳴り響いた。
「ちょ!?何か来てるぞ!火花を散らしながらナニか来てるぞコレ!!」
「──っ!!」
ようやく走り出す少女に追走する。
怖い。背後からやって来るナニかに震えながら、とにかく走り抜ける。
だが、
「っ!?こんなっ…ああ!もう!」
「っ!?」
走っていた少女の遅さに我慢できず、その小さな脇腹を抱える。
「くっ!は!?え、こっちに!?」
少女が叫びながら指差した。
「良いんだな!本当に良いんだな!」
そう言いながら少女の指差した方に走り抜ける広樹。
そして見えて来たのは長広い窓が取り付けられた廊下だった。
「はぁっ!はぁっ!くっそっ…!もうっ……あがっ!?」
つまずいて絨毯に身を転がす。
「だ、大丈夫か!?」
「─、──」
少女は平気だと、頭をコクコクと縦に振る。
だが、すぐにその表情が恐怖に染まった。
「ァ……ァ……」
少女は広樹の背後を指差す。
それに釣られて、心臓をバクバク震わせながら、ゆっくりと背後に振り返った。
『KISYRRRRRRRRRRRR……』
それはロボット。黒い迷彩色を持ち、鋭い鎌を携えた蟷螂の形をしたロボットだった。
そして明らかに包丁サイズはあろう鎌を、躊躇もなく、
「ちょっっ!?」
少女を抱き締めて回避する。絨毯に身を転がして、身に付けていた武器が散乱した。
「武器が!?」
鎌がショルダーのベルトを切り裂いたのだ。
「っ!!」
目に入った武器を掴み取る。このロボットからは逃げられないと、無我夢中にその引き金を引いた。
博士から頂いた武器。その名は『白縛』。
以前に鈴子が詩織に使った武器であり、その凄さは既に知り尽くしていた。
あの序列十位を、あの姫路詩織を封じ込めた、相手の身動きを止める武器。
その弾から生まれた白い煙は、空間に漂う水分と温度で粘着質を見せて、すぐに凝固。
蟷螂の身体は白い煙の凝固体に覆われて、完全に動きを止めた。
「ハァハァっ、ぁぁっ、ハァハァっ…」
息を切らしながら安堵する。
訪れたら危機から脱したと、心の底から安心した。
「──っ!────っ!」
「ああ、怖かったな。もう安心だぞ」
泣きながら胸に抱きつく少女に手を置いた。
背中と頭を撫でながら、フゥ〜と呼吸を落ち着かせる。
「元はと言えば、お前の無鉄砲が原因なんだけどな」
笑いながら皮肉を吐いて、少女を抱き締めながら立ち上がる。
そして窓に近づき、外を見下ろした。
「やっぱり、普通にいるよな…」
真下に見えたテロリストとロボット。もし下に行けば、見つかって捕まるのがオチだと、出口に向かうのを明確に断念した。
「よし、次からは俺の言う通りに行こうな」
「──っ」
少女も恐怖が心に染みたのか、顔を激しく縦に振りながら、その細腕を自分から離さない。
ギュッと爪を立てて、ちょっと痛いくらいだ。
「大丈夫だ。だからちょっと離れてね。とりあえず武器を拾わないと…」
少女を窓際で下ろして、周囲に広がった武器を拾う。
そして凝固した白い塊──蟷螂が閉じ込められている白い塊の周辺にも手をかけた。
「これは諦めるしかないな」
ロボットと共に固まった武器から視線を離し、ギリギリの所で無事だった武器を握る。
「はぁ……もうこんな事はこりごりだぞ」
溜め息を吐きながら、顔を上げる。
そして少女の方を見ると、
「──っ!──っ!」
青い瞳がくっきり見える。そして震えた指先が、自分の真上を指しているのだとすぐに分かった。
それは悲鳴。だが恐怖に縛られた少女は声音を出せず、乾いた無音の叫びしか伝えられなかった。
「そ、…そんな……まさか」
俺はゆっくりと背後に振り向く。
そこに見えたのは、
────ザクッ
「ぇ?」
腹に刺さった物を見る。
それは黒く光る鎌だった。
包丁台の大きさをしたソレが、今自分の腹に深く刺さっている。
「な……なんだ…………これ?」
────ズバッ
鎌は綺麗に引き抜かれ、そこから赤いナニかが色鮮やかに流れ出る。
分からない。何が起こったのか分からない。
「──っ!──っ!」
少女の声がようやく聞こえた。だが薄い。それに小さい。何故かその声が霞んで聞こえていた。
いや、違う……
感覚だ……身体の感覚が薄くなって……
……何も聞こえなった
……痛みも……あれ、視界が暗くなっていく?
何が……どうなって……




