第175話、テロリスト「お、おい、お前ら……男同士でキスして何をしているんだ…………な、なんでこっち近づいて来る!?やめろ!俺にはそんな趣味は──!!」
大変長くお待たせしてしまい申し訳ありませんでした!
書き上がりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
彼等は安らかな表情で眠っていた……
「ありがとうっ!なんとお礼を言えばいいかっ!」
仲間を救われた彼は、涙を流しながら詩織の手を握り締める。
「お礼なんていいわ。当然の事をしただけよ」
「き、君達は本当にっ…ありがとうっ!ありがとうっ!っっ!」
繰り返される感謝の言葉に、詩織と鈴子は笑みを口元に浮かべる。
一見すればそれは感動的な場面に見えるが、その背後にはやり切れない表情をするメリルがたたずんでいた。
(真実を知られたらとんでもない事になりそうデス…)
メリルは彼等の下半身を覆っている白布を見て、常に内心震え続けていた。
それは彼が帰って来る前に被せたものであり、その下には治療後の下半身が隠れている。
そう。あの黒い細胞で治療した下半身をだ。
後に連れて来られた二人にも、『秘密の治療法』と彼に伝えてから隠し隠し治療した。
故に隠れている。あの黒くてドクドク脈打つアレが──
(っ!?シ、白布が膨らんでっ…まさか!?)
突如と白布にお山を作った下半身を見て、心臓の鼓動が跳ね上がる。
(気づかれマス!?何をアピールしようとしているんデスカ!)
ムクムクと大きくなったソレを隠す様に、メリルはさりげなく移動した。
(まさか増殖!?成長しているんデスカ!どんどん大きくなってマス!?お願いシマス!縮んで下サイ!今は外に出てきちゃ駄目デス!)
白布の下に隠れているソレに、メリルは心の中で懇願した。
それを聞き届けたのかムクムクと大きくなっていたお山は静まり返り、ショボショボ〜と縮んだ姿を見せた。
(良かったデス……でも、まだ)
油断出来ない。その下半身には今もソレが蠢いている。
彼等を死なせない為に。
ダメージを受けた臓器の代わりとして。
ソレが今も彼等の秘部にあるのだ。
(詩織っ…一体、アナタは一体どこでっ…!)
人道から道を踏み外してしまった友達を見る様な瞳で、メリルは詩織に涙腺を滲ませた。
もう出会った頃の詩織には戻れないのか…
そんな言葉を浮かべるも口にせず、メリルは涙を我慢しながら一歩踏み出した。
「詩織、これからどうするんデスカ?」
それは現状から目を背けたい気持ちが生んだ一言。
今から逃げ、次に進みたいと願うメリルが放った苦し紛れの言葉だった。
そんなメリルに詩織は、
「それは彼次第よ」
日本語で返事をしてすぐ、その声音は英語へと変わり、涙をこする彼に問いかけた。
「教えてくれますね」
「ああ…」
詩織はテロリストだった彼から、ありったけの情報を聞き出した。
────。
────。
「人質が集められた場所が十箇所。それと重鎮達が集められた場所が一箇所なのね」
「ああ、人質の箇所を最小限に抑えて、最低限の人員設置にしてあるんだ」
テロリスト側の人数よりもホテル側にいる人数の方が遥かに多く、その為に人質を密集させて少人数で見張らせている。
殺して人数を減らすよりも、取引材料の為に活かしておく。それがテロリスト側が人質を大事に残している理由らしい。
「銃で脅せば動けないからな。一人が勝手に逃げれば他の誰かが死ぬ。そんな集団心理を植え付けているんだ」
「少人数って聞くけど、具体的には何人くらい?」
「八人ぐらいか、それぐらいだ」
「本当に少ないわね」
「ああ。だがそこには人間よりも頼れる武器が配置されて…っ」
「?」
口を噤んだ彼に詩織は『遠慮しなくていいわ』と挟む。
「っ……soldier……が、配置されているんだ……ボスに取り上げられて少ないが、それでも恐ろしい事には変わりない。命令一つで蜂の巣が出来ちまうんだからな…」
それを聞き、彼女達の瞳が強張った。
「すまない。気分を害する話だったよな」
「いえ、今更よ」
戦闘力を持つ者なら誰もがsoldierを忌み嫌う。
その事情を知っていた彼はそれを言うか悩んでいた。
その気持ちを察して詩織は言う。
「アナタ一人が責任を感じる話じゃないわ」
「すまない…」
最後まで謝り続ける彼に詩織は小さく微笑んで肩に手を置く。
『ありがとう』と一言かけ、その瞳が鈴子に向いた。
「何平方メートルあるのか知らないけど、敷地内の全域に能力を発動する事は可能?」
「無線の電波は覚えた……それだけに集中を絞れば余裕」
「駄目元で聞くけど、soldierを操っている電波を捕まえるのは可能?」
「リスクが向こうの脳に……やらない方が最善」
不安要素を語る鈴子に詩織は「そうね」と一言漏らし、
「口を塞ぐしかないわね。メリル、脚力重視の人体強化をお願い」
「きゃ、脚力デスカ?どうシテ?」
「どうしてって、そんなの決まっているわ」
テロリストの彼を背にして、詩織はメリルに言う。
「人質を全員救い出して、悪の根源を断ちに行くのよ」
────。
────。
数百人の人質が集められた玄関ホール。
そこを一望出来る上階で──
「ふぁぁ〜」
「お前、怠るんでるんじゃないか?」
「そりゃあ怠るむさ。ボスが遂に壊れちまったんだぞ」
少し前に届いた『ある情報』で、彼等はボスに対する信用を失くしていた。
「黒い触手の化け物って…いきなりそんな話が信じられるか?」
黒い化け物が建物内を徘徊し、一般人と仲間を襲っている。
そんな事をいきなり言われて誰が信じるのか。
「信じられないな」
聞いた全員がボスを疑っている。
果てにはsoldierの大半がボスに取り上げられ、その信頼は限りなく地に落ちていた。
「その上に無線が通じなくなったんだ。どうするよ?」
「ああ。それが一番の問題だな」
無線機のスイッチを入れるも、聞こえてくるのは雑音のみ。
壊れている様子もなく謎の電波障害が続いていた。
「とりあえずは現状維持だろ。無闇に動けば色々と混乱する」
「既にボスが混乱しているがな」
ボスの悪態を吐き、彼は背中を向ける。
「それじゃあ適当に歩いてるぜ。現状維持なんだろ?」
「ああ、そうしてくれ」
彼は手を振って「了解」と軽く言った。
そして彼は歩き出し────振り向いた。
「ん?どうした?」
疑問を呟くが、彼は反応する素振りを見せずに近づいてくる。
「お、おいっ」
その両手が自分の両肩を掴み、下を向いていた彼の顔が真正面にグイっと上がった。
そして見えた。
『GRARRRRッッ〜』
「クボゥオッッ!?」
それは彼にとって(男同士では)初めてのファースト・ディープキス。
だが口に侵入してきたのは生温かい舌ではなく生温かい触手だった。
「ムゥゥゥゥウウッッ!?」
必死に叫ぼうとするが、口が触手で塞がれて声が上がらない。
そのまま誰にも知られず彼等は──
────。
────。
鈴子の『誘導改変』による、敷地全域への『電波障害』の発生。
それにより無線機は完全に使用不能となった。
テロリスト側は連絡する術を失い、指示系統は沈黙。
何処で何が起こっているのかも、ボスからの指示も行き届かなくなった環境の完成により、詩織とメリルの人質救出作戦が難なく実行されていた。
「次の角を右よ」
「りょ、了解デスゥッ!」
メリルは走っていた。
全力でひたすらに、その姿を視線に捉えさせない速さで。
序列五位の人体強化にかかれば、忍び足で高速疾走が可能である。
その群を抜いた脚力を最大限に活かして、メリルは誰の目にも止まらない速さで走っていた。
「このまま行けばホールを見下ろせる上階に着くわ。扉に敵がいるかもしれないから──」
「今よりも気配を消すんデスヨネッ!分かってマスゥゥッ!」
メリルは背中に担いでいる詩織に言葉を返す。
詩織は能力を治療に使っている事で、人体強化が使えない状態だった。
それ故にメリルに担いでもらっていたのだ。
「目立たない様にスマートにね」
「さっきと同じって事デスヨネ!念押ししなくても大丈夫デスッッ!」
正面に赤い扉が見え、その足にさらなる加速を纏わせた。
そして扉が見えた事により、詩織は能力を発動する。
黒い細胞を出現させるその力を、視界に映ったドアノブに生み出した。
「開けるわ」
その言葉と共に扉は静かに開放する。
そして開いた隙間に見えたのは、銃を持った男だった。
「好都合」
男が詩織とメリルの存在に気づいた。
そして見せるのは銃を構える姿だったが、男は発砲せずに一瞬もがいた様な動きを見せる。
だがその動きは二秒も満たずに突然と止み、男はゆっくり銃口を下ろした。
「まず一人」
扉が完全に開け放たれた出入り口。
その脇に立っている男の横を、メリルの足が通り過ぎる。
誰の視界にも映らない疾走と跳躍。
上からホールを見下ろした詩織は、そこにいる全てのテロリストの首元に、黒い細胞を生み出した。
「さぁ、私の命令通りに動きなさい」
────。
────。
詩織が持つ『黒槍出現』を最大限に発揮したテロリストの征圧方法。
それはテロリストに『細胞』を寄生させて、身体を無傷で乗っ取る事だった。
身体全体に細胞の糸を張り巡らせ、気絶させたテロリストを生きたまま操り人形にする。
廊下を徘徊する者と人質を見張る者。
その全てのテロリストが詩織の支配下へと移り変わった。
ボスにも人質にも悟らせずに、誰にも気づかれない救出劇を達成したのだ。
そして残るは──
「残るは最上階にある重鎮達の部屋のみ。ようやくね」
「し、詩織っ…」
「何?」
「何?じゃないデスヨ!?ちょっと休ませて下サイィ!死にマス!どれだけ走らされたと思っているんデスカ!!」
メリルは感情を爆発させて詩織に突っ掛かった。
「確かに走らせ過ぎたわね」
「そうデス!このまま行ったら私は戦えない状態で現場に立たされマス!だから休憩を」
「え?メリルも戦うつもりだったの?」
「……え?」
「後はボス達を倒して、重鎮達を救い出したら終わりのシナリオだったのだけど」
「ひ、一人で片付けるつもりだったんデスカ?」
「隠れながら細胞を寄生させて仕舞えば終わりよ」
「うぅ、果たしてそう簡単に終われるんデショウカ…」
「大丈夫よ」
不安な表情を浮かべるメリルに、詩織は自信溢れる瞳で言う。
「もう此処は私達の独壇場よ」
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