第172話、エリス「キまってるキまってる!メリルちゃんが逝ってしまうよ!」
投稿時間が遅くなって申し訳ありません!
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
「WHY!?なんデスカこの状況!?crazy!please tell me!hurry!hurry!hurryッッ!」
壊れたラジオみたいに言葉を連発するメリル。
まさか怪物の体内で恐ろしい目にあって、その影響で心が…
「とにかく銃撃を止めて下サイ!!あの中には──」
「メリル!」
「!?」
狂った事を言い出し始めたメリルに、俺はありったけの一喝を吐露する。
今しなければいけないのは、メリルの混乱に向き合う事じゃない。
「聞きたい事は後で必ず話すから!だから今は立ってくれ!」
今も怪物との戦いは続いている。
メリルは救い出せたが、それで終わりではない。
怪物はまだ生きている。
「序列者だから武器は扱えるよな!俺ので大丈夫だったら、持って来たのを」
「ちょ、ちょっと待って下サイ!違うんデス!きっと広樹達は何か勘違いヲ!──」
シュルシュルッッ!!
「ぐェっ!?」
「メリルぅう!?」
背後から忍び寄ってきた触手が、メリルの首に瞬く間に巻きついた。
それを見てすぐに、俺はメリルの身体に身を乗り出す。
「ぐ、苦じいデスぅぅっ!締まってマズっ!死にマズっ死にマズっ!!ひ、広樹ぃ!私を離して下ザイィ!本当に洒落にならないデズぅぅっ!」
「離す訳ないだろ!何があってもこの手は絶対に離さない!もう俺はお前を見捨てたくないんだ!」
「違うんデス!本当に違うんデスヨ!」
「メリルぅうう!!」
「や、ヤバい……デス……もう……意識が…………ァヮヮ」
ぶくぶくぶく〜と、メリルの口から白い泡が噴き出した。
「は!そんな!メリル!よくもメリルをぉおお!」
憎悪と怒りが心に満ち溢れる。
散々メリルを嬲っておいて、まだ彼女を苦しめるのか。
ちょっと前に見た、あの血が染みたパンツ。
今思えば、あのパンツが証明するメリルの怪我はなんなのか。
怪物の醜悪な姿によって『殺された』と想像したが、メリルが生きていた事によって、別の結論が悶々と浮かび上がる。
『血のついたパンツ』+『触手』=???
ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!
メリルの大切な初めてがぁああ!こんな触手モンスターにぃいい!
きっと初めては大切な人とが良かっただろう!
こんなクトゥルフ神話に現れそうな生物にメリルの純潔が奪われた!
許せない!許せる筈がない!
こんなにも怒りを覚えた事は、過去の一度もない!
「ボウズ!待ってろ!今すぐに!」
襲ってくる触手を銃で撃退しながら、もう片方の手でナイフを振り上げた彼は、メリルの首元で触手を断ち切った。
「早く逃げろ!此処は俺達で何とかする!」
「っ!エリス、あの人はなんて……まさかっ」
「あの身振りで分かるだろ!早くメリルちゃんを担ぐんだ!」
切羽詰まったように言うエリスに、俺は心を震わせる。
激しく燃えていた闘争心が消えて、逆に冷えた別の感情が胸に浮かび始めていた。
「その嬢ちゃんを早く安全な所に連れて行きな。ここからは俺達の仕事だ」
「お前の役目は終わったんだ。俺達に戦い方を助言し、自分の手で彼女を救い出した」
もう二人の声音が耳に入り込む。
目の前に立ったのは、正義の味方を彷彿させる三人の男達。
その構えた銃口の先には、今も激しい戦いが織り成す戦場があった。
「お姫様を救い出した王子様は、さっさと退散しな」
澄まし顔で彼は言う。
英語で聞き取る事は出来ない。
だが瞳と声音、そして空気で分かってしまった。
彼等は身を賭して、自分達を外に出させようとしている事を。
「広樹くん!メリルちゃんを!」
はっ、メリルが…!
でもそんなっ!
「行きなぁ!そして振り向くな!」
あ…あ……やめてくれっ……
俺もっ……一緒にっ……
いや……それじゃあメリルが……
「お前みたいなガキは戦わなくていいんだ」
彼がその顔を見せてくれた。
そこにあったのは弱い子供を悪から守る大人の顔。親や教師が見せてくれる優しい大人の顔だった。
「お前のようなガキに会えて良かったよ。友達の為に命を賭けられるお前に会えて…」
その言葉を皮切りに、一つの銃口が自分に向けられる。
「さっさと行け!じゃないと俺がお前達を撃ち殺す!」
そう言いながら彼は弾を撃ち出し、足下に煙を生ませた。
「広樹くん!」
エリスに袖を引っ張られ、身体が出口に向けられる。
「まっ、待ってくれエリス!彼等を残して─」
「メリルちゃんはどうするんだい!」
「!」
メリルの肩を抱き寄せたエリスが、強い声音で叫んだ。
「今は一刻も早くメリルちゃんを安全な場所に連れて行く!それが彼等の意思なんだ!」
袖から手を離し、俺の身体をパシンと叩く。
俺だけを見つめ、エリスはその小さな喉を震わせた。
「今も彼等は戦ってくれている!揺るがない想いの強さでだ!君の為に!メリルちゃんの為に!その正義に等しい意思を君は無下にするのか!」
返答も言い訳も許さない怒涛の言葉の数々。
その容姿に見合わない瞳と声に、俺の手はゆっくりと、メリルの手に向いた。
「…………分かってるっ……ああっ、分かってる!」
勢い強くメリルの腕を首を回し担ぐ。
そして崩れかけの床を蹴って、開いた扉へと迷わずに走り出した。
ごめんなさい。
そしてありがとうございました。
メリルを救ってくれて、俺の願いを聞き届けてくれ。
もしまた会えたら、その時は一緒に──
────。
────。
「なあ、俺決めたよ」
「何をだ?」
彼は屈託のない軽い笑顔で言う。
「この戦いが終わったら……自首する」
「……そうか」
「おいおい、理由を聞かないのか?」
「聞く必要がないからな」
「はあ?それはどう言う意味だ」
彼は気の抜けた顔を作って、その言葉の意味を考えた。
だが答えを見つけるよりも先に、
「俺も自首するからだよ」
そう言って、彼も微笑みながら語る。
「子供の為に力を振るう。短い間だったが、それが俺の心に響いたんだ」
「同じかよ…まぁ、そうだな。偶然乗りかかった船だったが、悪い気はしなかったな……まぁ、なんだ…」
彼は照れ臭そうに頬を掻いた。
「今からでも遅くねえかな……子供達を守る、正義のヒーローになるのは」
「くくくっ…さあな。無事に生き残ってから、ゆっくり考えればいい」
「ははっ、違いない」
同意と彼等は笑い合う。そして歩み出した。
触手と銃弾が舞う、地獄と化した世界へと。
「自首するまでは死ぬなよ、お前ら」
「お前が死なねえ限り死なねえよ」
「刑務所に入る前に一杯やろうぜ」
最後にそう締めくくり、彼等の笑顔に終わりが訪れた。
黒い触手が三人に襲いかかる。
その一瞬を研ぎ澄ませた瞳が捉え、至近距離から銃弾を撃ち放った。
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