第170話、テロリスト「お前の手でヒロインを救い出せ!」エリス「これが広樹くんの力なのか…」
書きあがりましたので投稿します!
今回は長文にしてみました。
よろしくお願いします。
「今は走るんだ広樹くん!」
俺は腕を引っ張られながら走っていた。
無様に、不恰好に、情けなく、エリスが引っ張ってくれなければ足は止まってしまうだろう。
それ程まで俺の心は打ち砕かれていた。
あのパンツはきっと、俺がメリルを見捨ててしまった事への罰なのだ。
そう強く思わせる。
俺の所為でメリルが……
「ぅ─ぁぁ──」
「広樹くん!」
もういいんだ。
俺が悪い。
あの優しかったメリルはもう…
「血のついたパンツがなんだい!そんな物だけでメリルちゃんが死んだと思うのか!」
っ!?
エリスの怒号に目が醒める。
メリル…オーストラリア支部の序列五位…
俺はメリルの強さを示す称号を知っていた。
「パンツだけじゃ分からない!まだメリルちゃんは生きている!本来の君の役目を思い出すんだ!」
役目。
そうだ。
俺の役目は、あの怪物を目的地までに誘導する事。
「っ…もう行けるね」
「ああ」
今は血のついたパンツを記憶から消し去れ。
今はメリルを救う事だけを考えろ。
走れ、走るんだ。
彼等が待っている部屋まで。
────。
────。
千切れたパンツがあった。
「「…………」」
「Wow…」
メリルがそう呟き、現状を再確認する。
「ノ、ノーパンが二人も……任務中なのに……」
それは鈴子のパンツであり、激しい取り合いの最中で千切れてしまったのである。
今の詩織と鈴子は、誤魔化しようのないノーパン状態。
それにメリルは深刻な顔を作る。
「ど、どうするんデスカ!これでは外部での近接戦は出来まセンヨ!ちょっとでも動けばアレが見えてしまいマス!」
アレとはアレだ。
パンツで隠すべき場所。
見られれば一発で変態扱いされ、露出狂と呼ばれてしまう秘部である。
「このままでは変態デス!テロを制圧しても、明日の新聞には『ノーパンの女の子二人が!』とか『戦闘学の変態的な教育方針とは!』になっちゃいマスヨ!」
笑えない話だ。
もしそうなれば、色んな大人達が頭を抱える事になる。
だがメリルが次に言う事が、二人にとって本気の危機感を感じさせるものだった。
「下手をすれば広樹にマズイモノを見せる羽目にもなりマス!」
「「っ!!?」」
グッと表情が沈み込む詩織と鈴子。
事態の深刻性を分かっているのは、誰よりも本人達だった。
スースーする下半身を意識する様に、その両手は常にスカートを触っている。
そして徐々に彼女達の片手は、ある方向に向けられた。
「え?あ、あの、何をしようとしてるんデスカ?」
「「……」」
「ま、待って下サイ!この選択はおかしいデス!間違ってマス!」
「「……」」
「ノ、NOoooooo!!」
冷静さを失った二人の瞳には、メリルのスカートしか写らない。
いつでも広樹の前に出ていい様に、二人にはパンツが必要だったのだ。
────。
────。
「もう少しだ!」
エリスが叫んだ先に大扉がある。
「広樹くん!」
「エリス!」
ラストスパートをかけての全力疾走。
エリスを先頭に薄暗い廊下を駆け抜ける。
そして背後から追って来るのは、触手の塊へと変貌した怪物だ。
追いかけながらも触手を増やし、それを足として使って速度を上げていた。
『GLAAARRRRRRRRッッ!!』
その咆哮で心臓が止まりそうになる。
だが耐えろ。もう後一瞬だ。
そして──
「よく来たな!!」
扉を開け放ち、飛び込む様に彼の胸に顔を埋めた。
「こっちだ!」
横腹を抱えられ、彼の赴く方へと運ばれる。
「それじゃあ!ヒロインの救出劇を始めるぞ!」
その部屋は一つの扉を除けば、窓も別扉もない閉鎖的な空間。
だが空間の端にはたくさんのバリケードが作られており、その影では武装した彼等が銃を構えて待っていた。
「衝撃に備えろよ!ヤツが入って来たら一気に行く!」
その声に彼等は反応し、銃を中央に構える。
『GLAAARRッッ!!』
扉を粉砕し姿を現したのは、もはや肌を見せなくなった触手の塊。
いざ触手が部屋を犯そうと伸ばされる。
「地獄を見せろ!」
その言葉を皮切りに、彼の仲間がリモコンに指をかけた。
────。
────。
俺は彼等に説明した……
まず殺す方法ですが、『ガス爆発』と言う手があります。
あの怪物が謎の力で外に逸らしているのは、己にとって『害的要因』のみ。その定義が可能なら、『可燃性ガス』はその害的要因に含まれるかが重要になります。
でも、もし害的要因として認識される前に、可燃性ガスを充満させた部屋に誘き寄せられたら、一気にボンッと殺せる。
もし呼吸をしていたらな、確実に内部にも爆発が周り、確実に仕留められるでしょう。
でも。
今回はメリルを救いたい。
その為には殺す方法は使えない。
だから、次の方法はメリルを救える方法です。
────。
────。
部屋に強烈な激震が唸りを上げた。
そして床が崩落する。
一つ下の部屋の天井に、調理室から拝借した『可燃性ガスボンベ』を埋め込んで、床を破壊するに足り得る爆弾を仕掛けていたのだ。
「計算通りだ!」
テロリストの彼はホテルの見取り図を覚えていた。それはテロを成功させる為に得た情報であり、その中には建築中に使っていた詳細資料もある。
それ故に床の崩落が難なく叶ったのだ。
「行くぞ!」
そして怪物に畳み掛ける彼等。
崩落し、瓦礫で身動きが出来なくなった黒い怪物。
その触手の元へと一斉に飛び込んだ。
「撃ちまくれぇえ!」
鳴り響き連続する銃撃音。
そこから撃ち放たれた銃弾は、触手を粉々に成り果てさせた。
「ボウズの言った通りだ!至近距離なら弾道が曲がらないぜ!」
瓦礫の上で歓喜の声を上げるテロリスト達。
その正攻法は、鈴子から教えてもらったアドバイスによるものだ。
彼女の能力『誘導改変』の例によれば、至近距離からの投擲物の誘導は難しいらしい。
それは運動エネルギーの大きさによる理由が大きく、軽く投げたゴムボール程度なら、力が弱く三メートル以内でも操作可能だが、火薬で爆発させ放たれた銃弾の場合は、その強力な運動エネルギーから至近距離での操作が間に合わない。
もし怪物の謎の力が『誘導改変』に類するモノであれば、この定義に当てはまる。
中長距離ではなく恐れを捨てての至近距離。
それが誘導改変の攻略法だ。
「削れ削れ!肌を露出させろ!」
ナイフを用いる者も現れ、その触手をズタズタに引き裂く。
夥しい数の触手が次々と床に落ち、みるみると皺のある皮膚が露出した。
「行ってこいボウズ!お前のヒロインを助ける為に!」
怪物の対応に手一杯の彼等。
その人数が限られた状況において、力もなく銃が使いこなせない者が、この重要な役割を担う事になっていた。
「防護着はちゃんと着たな!」
「プロテクトっ…イエス!」
怪物の腹臓物に飛び込み、メリルを引っ張り出す役。それが俺だった。
彼等から借りたヘルメット付きの防護着を着用し、その上から鉄製ワイヤーを巻きつける。
これで全てが決まる。
失敗は許されず、戦い続けている彼等の体力が無くなる前に、メリルを見つけ出さなければならない。
「三〇秒後に引き上げる!絶対に放さねえから安心しな!お前とヒロインの体重くらい、俺一人で引っ張り上げてやる!」
ワイヤーを握るのは彼一人。
語る言葉は英語だったが、その自信と覇気感が宿る声音と瞳に、言葉が通じずとも強い信頼を感じさせた。
「っ!」
崩れた床から、俺は下にいる怪物へと飛び降りる。
触手が奪われ、肌が露出し、瓦礫によって身動きがとれなくなった黒い怪物。
弾力ある皮膚に着地し、その胴体にナイフを入れて、皮膚に切り穴をこじ開ける。
防護手袋に覆われた両手を差し込み、その内部に限界まで潜り込ませた。
────。
────。
『二人がこんな変態だとは思わなかったよ。まさかノーパンでテロ組織に立ち向かうなんてな』
蔑んだ瞳で軽蔑を吐く広樹がいた。
『じゃあな。もう俺の前に現れるなよ。下半身丸出しの露出魔女共が』
あんまりだ。自ら望んで下半身を露出した訳ではない。
これは事故が積み重なった事による偶然の結果だ。
決して自分からパンツを脱いだ訳じゃない。
それなのに、それなのに、それなのに、
『ほんと気持ち悪いよ…お前ら』
その姿と声が脳裏によぎり、絶望に締め付けられながら少女達は戦う。
そう、今は崩落によって『黒槍出現』で生み出した怪物の動きが封じられている。
それに加えて、至近距離からの追撃も受け、唯一あった攻撃手段である触手が根こそぎ刈り取られてしまっていたのだ。
その状況下で少女達は、怪物の内部で必死に踠き戦っていた。
「や!やめて下サイ!これでは結果は見えていマス!」
「じゃあ返しなさい!代わりにこの黒いパンツをあげるから!」
「いりまセンヨ!?そんなモノを秘部にしたら嫌な未来しか浮かびまセン!」
「大丈夫っ、きっと色々と良い筈っ、触手エイリアンに捕まった女キャラクターも笑顔だったっ、だから私にその普通のパンツっ」
「なんでそんな知識を持っているんデスカ内守谷さん!?絶対に色々と良くないデス!笑顔になってる人は頭がイッチャッテル人デスヨ!」
パンツによるパンツの為のパンツを賭けた超激戦。
逃げ場のないキャットファイト。
その哀れとしか言えない戦いにおいて優勢を貫き続けていたのは、パンツを履いていたメリル・キャンデロロだった。
露出魔達にはないダイナマイツな巨乳と、煌びやかな金髪。
そして変態とは決して言わせない証拠を履いたオーストラリア支部の序列五位が、その戦況を一方的に支配していた。
「私には人体強化がありマス!能力を使っている二人では、私に敵いまセンヨ!」
怪物に変装する為の『黒槍出現』。
銃弾から身を守る為の『誘導改変』。
それらの能力を使用し続ける代償として、詩織と鈴子は人体強化が使えない。
それ故にメリルは容易く四本の手からパンツを守る事が出来ていた。
「代わりにこの黒いパンツを履きなさい!」
「パンツっ!」
だが止まらない。
幾度と手を弾こうとも、二人の猛攻は激しさを増すばかり。
その裏に隠れている意思の正体は恐らく……
…………っ!?
メリルはハッと表情を豹変させて、二人の片腕を左右の手で掴んだ。
「お、思い出しマシタ!そうデス!二人に伝えないといけない事がありマス!」
「「パンツ!」」
「ちょっ!?」
二人が残っていた片手で、隙のあった股へと侵入を試みる。だが、
ガシっ!と。
メリルの腿が手を挟み込み、股への侵入を防いだ。
「本当に大事な事なんデス!お願いデスから一度止まって下サイ!」
「なら一度パンツを脱ぎなさい」
「話はそれから」
「そんな事を言っていると本当に後悔シマスヨ!?」
猛攻は止んだが、そのパンツへの執着は消えていない。
もし両手両腿の力を抜けば、必ずパンツを奪いに来る。
だがきっと、次の一言で冷静さを取り戻す筈。
メリルはそう信じ、数分前の出来事を話すと決めた。
「いいデスカ。話シマスヨ。大事な情報デス」
「「パンツ」」
「パンツしか言えなくなったんデスカ!?」
もう駄目だ。率直に言ってしまおう。
「さっき触手に捕まって外に放り出された時にデスネ!なんと外に─」
「「っ!?」」
「広……ん?どうしたんデスカ二人とも?」
突然と肩を震わせた詩織と鈴子。
その瞳は徐々に、自分達の背後へと向いていた。
「「…………」」
「ん?」
声を発さず固まってしまった二人に、メリルはゆっくりと視線を伸ばした。
詩織と鈴子の視線の先には、彼女達の足がある。
そして見えてしまった。
……………………手?
黒い細胞から突き出た防護手袋が二つ。その左右の手が、詩織と鈴子の片足を力強く握り締めていた。
「「「…………」」」
……………………っっ!!?
「メリル!」
「放さないでっ!」
「ちょっとぉおお!!?」
詩織と鈴子の身体が外に引っ張り出されようとしていた。
それをメリルが握っていた両手と、挟めていた腿でなんとか抵抗する。
マズイ。今の二人は本当にマズイ。
足から引っ張り出されると言う事は、つまり下半身から外に出てしまうと言う事だ。
今の二人はノーパン。
それ故に本当にマズイ。
詩織と鈴子の丸出し下半身が、外部へと突き出てしまう。
それはヤバイ。本気の本気でヤバイ。
故に三人は全力で抗った。
「「「嫌ァアアアア!!」」」
────。
────。
動いてる!
生きている様に!
意識がある様に!
良かった!生きてたんだ!メリルが!
『嫌──ァ──ア』
聞こえた!中から悲鳴が僅かに聞こえた!
分かった!怪物の中なんて嫌だよな!今から救い出すぞ!待ってろメリル!
────。
────。
「重いぜ!これは確実に掴んだな!その手を絶対に離すなよボウズ!」
テロリストの彼がそう叫び、本気の瞳でワイヤーを引き始める。
「いっけぇええええ!」
一ミリ、二ミリ、三ミリ…と上に上昇するワイヤー。
だがすぐに─
「引っ張られるっ!?くっ、怪物はヒロインを逃さない気か!」
一ミリ、二ミリ、三ミリと、ワイヤーが下へと降下する。
相手の力と彼の力はほぼ互角……いや、僅かに負けていた。
「飲み込まれるっ!?ボウズまでっ!そんな事やらせるかぁああああ!!」
全身の細胞を奮起させて、彼は必死に両足を踏ん張らせる。
手袋には血が滲み出し、半壊した床に亀裂が生じ始めながらも、彼の意思は曲がらず真っ直ぐに向いていた。
「ァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
それが悲鳴なのか咆哮なのか分からない。
だが彼の身体は抗う事をやめず、そのワイヤーに全てを注ぎ込む。
だが現実は違う。
そのワイヤーは徐々に下り、彼の体力も限界を迎えかけていた。
「クソォッ!クソォッ!クソォオオオオッ!!」
こんなところで終わってしまうのかっ…!
彼は嗚咽を吐きながら弱い自分に涙を流した。
手の痛みが麻痺へと変わり、両足の震えが大きくなる。
既に本人が一番よく知っていた。
数秒と掛からずに、握力と脚力は消えてしまう事に。
「おっ、俺は絶対にっ!このワイヤーを離さねぇぞぉお!!」
ズルズルと身体がワイヤー引っ張られていく。
だがワイヤーから手を決して離さず、彼はその意思を貫き続けた。
そう、たった数秒。
彼が絶望して、そのワイヤーを離してしまっていたら。
それは間に合わなかっただろう──
「俺も力を貸す!」
「踏ん張れ!」
「お、お前ら!?下はどうしたんだ!」
背後に立った仲間を見て彼は驚愕した。
「俺達のいない分も頑張るってよ!今も生えてくる触手をミンチにしまくってるぜ!」
「ああ!だから心配するな!絶対にあのボウズとヒロインを救い出すぞ!」
「っ!ぁ…ぁあ、ああ!やるぞ!」
彼は涙と共に、再び力を捻り出す。
そして徐々に徐々にと、ワイヤーは崩れた床を削りながら、上へと引っ張られ始めた。
────。
────。
誰がこの光景を想像し得ただろうか…
一人の少年と少女を救う為に、テロリスト達が躍起となって全霊を貫き通しているこの光景をだ。
十年前、百年前、五百年前……
ある筈がない。戦闘学を創設する前の記憶にすら。
どんなに記憶を遡ろうとも、この光景を目にした瞬間は一度もなかった。
これが荻野広樹による洗脳か?
相手の精神を改変し、強い正義感を作り出す力なのか?
分からない。疑ってしまう。信じられないのだ。
そこに魅せられる意思は偽物なのか?
その自発的な協力は偽りなのか?
私は嘘には見えなかった。
「君達は一体…」
テロリストに留めていた彼等が、全く別の姿へと変わっていく。
犯罪という十字架を背負いながらも、その両手には真っ白な正義感に覆われて、輝かしい程の光がそこに生まれつつあった。
銃弾と触手が飛び交う地獄と呼べる空間の中で、彼等は一丸となって正義の使者へと移り変わっていく。
純粋に広樹とメリルを救い出す。ただそれだけの為に。
「「「ぉおおおおおおおおっ!!」」」」
「おいボウズ!もう少しだ!頑張れ!」
「ボウズの邪魔はさせねえぞ触手共!くらいやがれ!」
「お前のヒロインを救い出せ!お前が外に出るまで、俺達は必ずお前を守り抜いてやる!」
……………………なるほど。
本当に彼は未知だ。
良くも悪くも私には彼は測りきれない。
少なくとも、今この時だけはね…
ああ……これが広樹くんなのか──
読んでくれてありがとうございます。
少し卑猥な表現もあって、文書を少し書き直すかもしれません。
どうかこれからもよろしくお願いします。