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第17話、ゆり「俺は子供たちの間ではアイドルにゃんだぜ」 バラ・ひまわり・その他…「「「「「「はいはい、そうですねー」」」」」」 ゆり「なんにゃ!その態度は!」

お久しぶりです!

そして長く間を空けて申し訳ありません!

頑張って書きました!

確認もしていますが、もし間違った書き方があったらごめんなさい!


感想やコメント、アドバイス、助言、訂正など色々とお待ちしております!

わからないことがまだ多いですが、

これからも学んでいくつもりなので、

よろしくお願いします!


ごめんなさい!さっそくでした!6月20日に一部を訂正、あと最後を少し増やしました!


間違い、訂正場所を教えてもらい、9月17日に訂正しました!

「……暇だ」


ジムでシミュレーション訓練機を体験した後。広樹は自宅に帰っていた。

なぜなら……












広樹はゆっくりとまぶたを開く。

クラスメイトの姿はなく、天草先生と詩織の二人だけが目の前にいた。


「先生、まだ一限の終了時間になっていませんが?……」


「み、みんなは教室に戻ったのよ。私が課題を忘れていてね!その課題に取り組んでもらっているわ!」


三人しかいないジムの中で、天草先生は目を泳がせながら、そう言った。


心なしか、詩織の俺を見る目が酔っている?何故かそんな風に見えた。


「じゃあ、俺も教室に」


「その課題ね!広樹くんが転校する前に出していたものなの!なので!広樹くんがやる必要は無いのよ!」


そして『だから!』と続けたポジティブ声で言われたのは、自宅自習だった。そして現在に戻る。


(残りの授業時間をつぎ込まないと終わらない課題ってなんだ…)


早すぎる帰宅指示に、課題への疑問が思い浮かびながら、暇な時間を持て余す。


「よし」


外に行くか。と決めて、適当な私服に着替え、外に出た。


時刻は十時過ぎ。まだ時間が有り余ってしょうがない。


(まだ何処に何があるのか、分からないな)


舗装された道を歩きながら、周囲を見渡す。

立ち並ぶ木と、密集して立ち並ぶマンション。広樹は来たばかりの街に対して無知だった。


(本当に何もないな)


この地区は住居が多いと聞いてたが、本当にそうだった。

ならばと、脚を駅の方向に向けた。


(モノレールでどっかに行くか)







ゆっくり身体が揺れる。

モノレールに乗って、第一区に向かうことにした。


広樹はまだ、戦闘学の敷地について知識不足。

そして考え思いついたのは


(ガイドブックあるかな)


校長おっさんに色々と教えてもらおうと考えたのだ。


現在、戦闘学の知人で話ができるのは校長だけ(※詩織と天草先生は課題中)と判断し、最初に訪れた巨大ビルに向かうことに決めた。


昼を迎えても、広樹が乗っている車内に制服を着た学生の姿が見える。


(普通なら学校の時間だよな。やっぱり俺の知っている生活スタイルじゃないのか)


今までの常識が通じない。

学校にあった設備もだが、広樹の知らないことが戦闘学には多かった。


(俺が持ってるパンフレットじゃあ、そこまで書いてなかったしな)


広樹は入学手続き書類に同封されていたパンフレットで、準備知識を持っていたが、足りなかった情報があった。それを見せつけられて、軽く揺らぐ。


(その辺を含めて、ガイドブックとか用意してくれないかな)


第一区、学園長室のある巨大ビルがある駅に到着した。


前に訪れたときと同様に、立派な建物が広樹を出迎える。


「……?」


広樹は視線を感じ、扉をみる。

そこには、警備員らしき姿の男が二人いた。そして目が合った瞬間に一人が慌ててビルの中に入り、もう一人は汗を滲ませながら、扉の前で立っていた。


(何かあったのか?俺を見てビルに入ったわけじゃないよな)


謎の疑問に首を揺らす。

広樹は仕切り直して、ビルに向かい始める。

そして扉をすぐ目の前にして、警備員が一歩踏み出した。


「おはようございます。今日はどのようなご用件でしょうか?」


……ああ。前は案内人がいたから聞かれなかったんだな。


この建物は校長、つまりは重鎮がいる。それに相応した警備が敷かれていることに改めて気づいた。

広樹は自分が来た理由を伝える。


「分かりました。すぐに呼んで参りますので、宜しければお待ちいただいてもよろしいでしょうか」


「分かりました」


警備員を指示に従って、建物内に入る。

前とは違い、エレベーターに乗らず、一階広場のソファーに身を預けた。受付カウンターが見える、開放的な空間だった。


(……てか、校長おっさんから来てもらうって、俺の扱いって?…)


自分への対応に疑問を持つ。

学生と校長の身分で、この対応はおかしくないか。

これも戦闘学の常識なのか。

結果的に答えを探さず、広樹は待つことにした。

待つこと五分。


「やあ、広樹くん!待たせたね!」


「いえ、こっちもいきなり来ちゃってすいません、校長おっさん


謝りながらも校長おっさん呼びをやめないのは、まだ根に持っているからだ。


「で、戦闘学の街全体を知りたいんだっけ?しかし、詩織くんに案内をさせれば良いと思うのだが…」


「今あいつはクラスの課題に取り組んでて、別行動中なんですよ」


「……そうか」


(天草先生!詩織くんと広樹くんを別行動にしては駄目と伝えたのだが!?)


校長は内心で混乱してた。

詩織を広樹の案内役兼監視役として一任し、高等部の教師全体にも、極力切り離すなと伝えたはずが、今は別行動。


戸惑いを悟られないように冷静を装った顔で、広樹に再び提案をほのめかす。


「なら、後日では駄目だろうか。私が教えるより、彼女の方が分かりやすいと思うのだが……それに今の君は自宅実習と言われたはずだが」


「後日にすることに関しては別に良いんですが、自宅実習と言われて何を勉強したら良いのか分からないんですよ。初回の授業で帰宅しましたので」


「……そうだったね」


学生には痛い一撃を伝えたと思ったが、それを当たり前の理由で切って捨てられた。

校長の提案を鮮やかに躱した広樹。


このままではいけない、と校長は思った。

広樹を一人にしては何をするか分からない。

これから彼がする行動を防ごうと、思考を回す。しかしあっさりと校長の思考は無駄になってしまった。先に広樹が考えをまとめてしまったのだ。


校長おっさん、とりあえず外を適当に歩こうと思います」


「……おお。そうか……いやすまないね」


「いえ、こっちもいきなり来ちゃってすいません。出来れば連絡が取れるように連絡先を交換してもいいですか?」


「ああ!それは問題ない!うん!やっておいた方が良いな!」


校長は慌ててスマホを取り出し、広樹のスマホに連絡先を記録させる。

校長は広樹の連絡先を持つことによって、今後の連絡がしやすくなることに、少しホッとした気持ちになった。


「じゃあ、またよろしくお願いします」


「ああ、いつでも連絡してきて良いからね」


広樹は軽く挨拶をして扉を出た。

その姿を見届けた後、校長はこれからのことを考えていた。


(今からどこに?見張りを付けるか?いや駄目だね。彼ならすぐに気づかれる……何もできないな)


今回は何もできないと判断し、高い天井を仰ぎ見た。







「さて、外(戦闘学の敷地外)でぶらぶらしようかね」


広樹の外は、校長の考える外とは違った。

彼は自分の常識がある外に行こうと考えたのだ。


自分の気持ちを軽く呟き、脚先を巨大な門へと向けた。しかし……


「許可証が無ければ、生徒はここを通過できませんよ」


目の前にいる門番にそう言われた。

そして、広樹は改めて自分の勘違いに気づいた。


校長おっさんの外って、戦闘学の敷地内のことかよ。だから、何も言われなかったのか)


戦闘学の生徒のルールを思い出し、今ながらにして校長の承諾の意味が理解できた。

戦闘学の生徒は、許可なしに『戦闘学敷地』の外には出られないのだ。


広樹は外に繋がる門を沿うように壁の側を歩く。この壁の向こうには外の世界がある。


(これって囚人か何かではないだろうか…)


自分の存在が籠の鳥だと感じた頃、またも謎の視線を感じた。


その方向へと首を回す。見たのはこっちに歩いてくる一人の女の子。


(小学生?ぎりぎり中学生か?)


まだ幼さが残る一人の少女が自分に目を合わせながら歩いて来たのだ。白い髪を揺らしながら、片手には何処かで見たことがある猫のぬいぐるみを連れていた。






「……」


目の前で静止し、青い瞳を差し向ける少女。「知らない大人に話しかけられたら、とりあえず逃げろ」という言葉があるが、「知らない女の子に見られ続けたら、とりあえず◯◯しろ」みたいな言葉を聞いたことがない。


しょうがなく、自分から口を開こうと決めた。


「何か用か?」


「……困っているように…見えたから」


途切れた言葉を並べる少女。

どうやら、彼女は自分の困った姿を見て近づいて来た善人だったようだ。


広樹は自分より年下に見える少女に、困り事を言ってもしょうがないと思った。


「困っているけど、大丈夫だよ。」


「……私は……力になれるよ」


さらに善人っぷりを表す少女に申し訳なくなった。


(ここまで言われるとな…)


誰かの助けになろうとすることは悪いことではない。彼女の意思を少しでも尊重しようと、解決できない問題を伝えた。

そして…


「……」


少女は無言になってしまった。

無理難題を押し付けてしまったことを今更ながら後悔した。そして目の前の少女に弁明を図る。


「別に大丈夫だぞ。こんな問題、解決できる生徒はいないだろ。お前が気にする必要はない」


「……」


少女は無言を貫き続ける。完全に自分の世界に入り込んでいる。

広樹は少女の考える姿によって、罪意識が芽生え続けていた。


(中学生くらいの女の子に何を考えさせているんだ)


その場から動かない少女をなんとかしようと、解決策を練る。そして目に入ったのが、校長おっさんと会った巨大ビル。


(確か売店があったよな。お菓子か何か買ってくるか…)


少女を元気付ける口実が思いつき、視線を戻そうとする。が、それよりも先に、背後から聞いたことのないわずかな音が聞こえた気がした。


「……ここから……外にいける」


振り返ってみると、青い瞳の少女が再び自分を見ていた。

そして目に入ったのは、非常口のような扉。

壁に扉があったのだ。

そして疑問が生まれる。


(そこに扉なんてあったか?)


さっきまであることに気づけなかった扉。だが、実際に目の前にある。

自分の見落としと決めつけ、その扉の取手に手をかける。


「ええと、なんかサンキューな。教えてくれて」


「……うん」


素直に礼を伝えるも、目の前の少女は持っているぬいぐるみで顔を隠す。

それでも、絞り出した声で返事を返した。


(そりゃそうだ、知らない男と会話なんて。恥ずかしいよな)


ぬいぐるみの端から見えた赤く染める頬を見て、改めて少女に感謝の気持ちを抱く。

ありがとな。と言い残し、広樹は扉の中に入っていった。

少女は扉が閉まるのを最後まで見届けた。




「……よかった」












扉の先はトンネルのようになっていた。奥からは陽の光が見え、それほど暗くはない。


(こんな通路が準備されていて良いのか?)


戦闘学のルールを無視し、簡単に外に出られることに、なんとも言えない疑問が生まれる。


やがて、外の空気を感じられるようになり、陽の光が照らす地面を踏み込んだ。


「……ふむ、何にもないな」


最初の一声がそれだった。


外に出れたのは良い。だが待ち構えていたのは、何も無い舗装された道路。

最初に来た時もそうだったが、外の街から戦闘学の敷地まで、そこそこ長い距離があったのだ。

街に着くまでには、人工物が見えない地平線を歩くだけ。泣きそうになる。


「前は二十分くらい歩いたな」


前回の記憶を呼び起こしながら、ここから一番近い街の方角へと歩き始めた。









みーちーはーなーがーいー、

みーちーはーあーつーいー、

周りにはー、なにもいないー、

この世界はー、おれひとりー、

だけがー、あーせーを、ながしーつづける。


今の自分を歌詞にして歌い続けること二十分。

暑い日差しで汗をかきながならも、人工物が立ち並ぶ街に到着した。


最初はどこに行こうかと迷っている時「グゥゥゥゥ」と腹が鳴る。


「十二時前か」


腕時計で時間を確認し、腹の音の理由を理解した。


「ラーメンが食べたいな」


久しぶりに好物が食べたいと口に出る。


「でも、この辺のラーメン屋は知らないんだよな」


住んでいない街。一度しか来たことのない街であり、店の情報が皆無だった。

そんな時、聞いたことのあるのエンジン音が背後に聞こえた。


「お!広樹!」


車道から聞こえたのは自分を呼ぶ声。

そこには、オートバイにまたがる斉木の姿があった。


「斉木か?ああ久しぶりだな。てか、なんで此処にいるんだ?」


今の時間は授業があったはずだ。だから彼がこの場にいることには疑問が浮かび上がる。


「決まってるだろ!サボりだ!」


「決まってないよ」


うわー。な表情をする広樹。

転校の直前もそうだったが、こいつは学校を休む癖がある。


改めて彼の評価を見直しながら、一つの考えが思いついた。


「なあ、この辺りにラーメン屋はないか?」


「ラーメン屋?食いに行くのか?」


「まあな」


質問に質問を返された。広樹の言葉に斉木は耳をほじりながら、考えを回すそぶりを見せる。そして


「なあ、ラーメンが食べられれば何処でもいいのか?」


「ん?まあいいが」


「よっしゃ!じゃあ乗りな!」


高い声を上げて、椅子の下から予備のヘルメットを投げる斉木。

後ろに乗れと促されるままに、オートバイの後部に体重を預けた。


「じゃあ行こうか!」


「……おう!」


もうなんでも良いや。と思い、適当な返事を返した。










オートバイを飛ばして三十分ちょっと。


「おい。俺はラーメンを食べたいと行ったよな?」


「ああ!ラーメンは食べられるぞ!」


「ああ、たぶん食べられるよ。でもよ、ここはラーメンを食べに来る場所ではないと思うのだが……」


目の前にあったのはファンタジーな世界への入り口。別名、入場ゲート。


斉木に連れて来られたのは巨大テーマパークだった。


「いやー!一人で行くのもアレでよ!ちょうど付き添いが欲しかったんだわ!」


「俺はお前の飾りにされたのね」


連れてこられた理由を知り、不満な態度をとる広樹。


「そう怒るなって!入場代とラーメン一食分くらいなら奢るぞ!」


「別に良いよ。入場代って結構高いだろ」


不満ながらも、自分の友達に高い金を払わせることに抵抗があった。

財布を取り出し、チケット売り場に向かおうとするが


「ほい!これ!」


視界を奪ったのは二枚の紙切れ。

それはこのテーマパークのチケットだった。


「どうしたんだ?これ」


「知り合いから貰ってよ!使うか迷ってたんだ!」


「いいのか?使っても」


「おう!」


チケットを受け取り、その脚で入場ゲートに向かった。


「なあ、改めて考えるとさ」


「おう。なんだ?」


「男二人で遊園地って気持ち悪くないか」


「……ああ、そうだな」


斉木が目を逸らしながら、なんとも言えない表情で返事をした。








フェアリーキャットランド

海外で生まれ、日本に上陸したテーマパーク。

猫と妖精を合わせたキャラクターがらんらんするような世界。


「この猫さ、すっごい見覚えがあるんだけど…」


パンフレットに載っている猫を視線を飛ばして、独り言を漏らす。


「そりゃお前、前にUFOキャッチャーで落としたぬいぐるみのキャラだからな」


「ああ。アレだったのね。てか、人気キャラだったのか」


あの時に取ったぬいぐるみは『ゆり』という名前らしい。

他にも『バラ』『ひまわり』『さくら』『コスモス』と、花の名前を持つ猫が大勢いた。


「ちなみにあそこで女の子とにゃんにゃんしている着ぐるみのキャラの名前は?」


「ももだな。ももの花の猫妖精だ」


小さな女の子が家族と一緒に、淡いピンクの猫と写真を撮っていた。

少し眺めてから、本来の目的に思考を向けた。


「とにかくラーメンを食べたいな」


「おう!地図によるとこっちらしいぞ!」


斉木の案内で歩く。

周囲には平日にも関わらず、大勢の人で賑わっていた。

フードコートと示す場所まで足を運んだが、そこでも人で一杯である。

時刻は一時過ぎ、ピークの時間に訪れた。


「やっぱ見渡す限り埋まってるな」


「ああ、でもテーマパークってそんなもんだろ」


斉木が見渡し評価をつけ、広樹はそれを当たり前と返した。

見渡す限り席が埋まり、空席があるのかも分からない。

とりあえず、席を探すために歩きながら見回す。


「空いてる席あったか?」


「いや、見つからないな……おっ、あったぞ!」


危うさあって、空いているテーブル席を見つけた。

よっ、と荷物を上に置き、席を確保。


「メニュー表はこれだな」


「ラーメンもあるみたいだな!」


流石テーマパークのランチメニューだ。

テーマパークらしさを出したデザイン料理が並んでいる。そして値段も当然のように高い。


「なあ、このハイビスカスラーメンってなんだ?食えるのか?」


「ハイビスカスって言う猫妖精の大好物って売り文句があるぞ。食ってみるか?」


目に入ったのは、赤い花が飾られたラーメンの写真。

具材も赤中心だった。

見たことのないラーメンを目にし、好奇心で注文を決めた。


「じゃあ、このラーメンにするわ」


「チャレンジャーだな!じゃあ、俺は無難にカレーだな」


注文が決めて広樹がカウンターへ、斉木は席で居残ることにした。

賑わうテーブルをかき分けて、到着したカウンターにも長蛇の列。


「こりゃあ十五分くらいかかるな……」


長丁場になると見切りをつけ、呟きを漏らすも列に並ぶ。

斉木もこのくらいは分かっているだろうと、知らせるのを省いた。





長い時間を待ち、ようやく自分の番が訪れた。


「ハイビスカスラーメン一つとカレーライス一つ」


注文をおこない、接客スマイルを振りまくレジスタッフはお金を受け取った。

そして電子端末を差し出される。


「この端末でお知らせしますので、席でお待ちください」


「はい」と端末を受け取り、席に脚先を向ける。

席が見えてきた頃、一つの疑問が目に付いた。


(……斉木?)


座っていた人物は自分の友達で正しい。

だが表情がさっきまでとは違い、何か無表情が入り込んでいる。


そんな斉木の姿に、小さく疑問を抱きながらも席に向かった。


「おい、注文終わらせてきたぞ」


「……っおお!サンキューな!」


寝ていたのか?と思わせるくらいに表情の変化が激しかった。

戸惑いを見せながらも、斉木は感謝の言葉を口にする。


「寝てたのか?なんかボーとしてたぞ」


「ああ!ちょっと考え事をな!大丈夫だ!」


「そうか」


本人が大丈夫と言うのなら追求はしない。


「お前のボーっとした顔を見たらさ、助けてくれた女の子の顔を思い出したよ」


「………そうか」


なんとなく思い出したことを口にした。

あのボーっとした顔は、今どきの女の子がする顔じゃないと、ちょっとした興味が生まれていた。


「ちなみにその女の子のことをどう思った?」


「ん?」


暇をつぶすための話題として会話を繋げたのか、斉木は会話を続けようとした。


「ボーっとしてたよ」


「そうなのか。…ち・な・み・に・可愛かったか?」


今までの斉木に戻った。

前にされたような顔と聞き方で、ボーイズトークが始まるそぶりが見え始める。


「そうだな…普通に可愛かったぞ。将来性というか、大人になったらモデルになれるんじゃないかと思えるくらいは」


「そうか!俺も見てみてーな!」


ウハハハと笑いながら、斉木は言葉を返す。

戦闘力があれば会えると思うが、こいつは持ってない。


「今度写真とか見せてくれないか!ツーショットでな!」


「何言ってんだよお前」


転校する前の雰囲気を取り戻し、この流れのまま時間が流れた。








「赤かったな」


「ああ、でも美味かった」


昼食を食い終わり、歩き回る二人の影。

時刻は二時を過ぎ、行き先を決めずに歩いていた。


「じゃあ何に乗る?」


「……ラーメン食べたし、帰らね?」


「なんでだよ!?」


冗談をほのめかし、本格的に何に乗ろうか迷う。


観覧車、ジェットコースター、メリーゴーランドと様々あるが、どれも長蛇の列があった。


「…やっぱり帰らね?」


「頼むから!冗談を続けて言うのは止めてくれ!」


斉木をからかいながらも探索を続け、乗るものを決めた。




「男二人でコーヒーカップは気持ち悪いな」


「そう言うなよ!面白いぞ!」


勢いよく中央の円盤を回しまくる友達に感じたことを言う。





「同じ馬車に乗ってどうする」


「いやいや!なんか面白いぞ!てか、女子二人がカメラレンズを俺たちに向けてるんだが」


やめてくれ!俺たちはカップルじゃないんだ!と叫ぶが、メリーゴーランドの流れるメロディーが邪魔をして言葉が届くことはなかった。






「やっっとぉおおふぅつぅうぅのぉぉだなぁぁぁぁああああああ!」

(やっと普通のだな!)


「おぉぉおおおおううううう!はぁぁえぇえええななぁぁああ!」

(おう!速いな!)


音速による空気抵抗と重力に襲われながらの会話。

目に映るものが加速しながら、両手を万歳と上げ素直に楽しむ。

広樹は久しぶりにジェットコースターに乗った。






乗った乗り物の数と、並んだ長蛇の列が合わさり、五時を回っていた。


「じゃあ帰るか」


「そうだな!」


今回は冗談抜きだ。明日も学校があることを考える。

入場ゲートをくぐり、ヘルメットを渡される。


「戦闘学まで送るぞ。あの道は長そうだ」


「助かる」


素直に甘えることにした。

どうしてバスが通ってないんだ。と考えながらオートバイの後部に座り、風を感じ始める。


「ああ、正面の門で止まらずに、右の壁に沿って走ってくれ」


「おう!了解だ!」


俺の追加注文に返事を返す。どうして?と聞かないのはこいつの良いところだと、改めて実感する。







「……トンネルがない」


日が沈み、月の光が照らす道を歩く。

広樹は自分が使ったトンネルがないことに動揺を見せた。


「本当にないな。この辺りでいいんだよな?」


「ああ、この辺にトンネルがあったはずだ」


「なら俺も探すの手伝うよ」


「本当に助かる」


「じゃあ俺は向こうを見てくる」


「ああ、頼む。俺は見逃しが無かったか、来た道を戻る」


お互いが逆方向に向かって走り出す。

最終的に見つからず、正門をくぐる結果になったとしたら、後々面倒になると感じていた。

そして、走り始めて一分もしないうちに、後方からオートバイのエンジン音が聞こえて来た。


「見つけたぞ!」


「サンキュー!」


早過ぎる報告に疑問を持たず、久々の大声で感謝の言葉を伝えた。その勢いで、トンネルまで連れてってもらった広樹。


「じゃあまたな!」


「ああ、またな!」


軽く明るい表情をしながら、広樹はトンネルの中へ向かった。




「お帰り」


「うおっ!?」


いきなりの声に驚いてしまった。

昼間に出会った少女が扉を開けた先にいたのだ。

まさか、ずっと居たわけじゃないよね。と心に呟きながら、質問を口にする。


「どうしてここにいるんだ?」


「……戦闘学の規則…駄目だった」


「ああ!悪い悪い!外に出ちゃ駄目なんだっけ!」


それを聞いたら納得した。

どうやら、この善人者魂を持つ少女はわざわざそれを教えに来たらしい。

親の教育が行き届いていると感心してしまう。


「サンキューな。これからは気をつけるよ」


もう外に出ないよ。とは言わずに、少女に軽く礼を言う。


少女は顔を小さく上げ、青い瞳を向ける。

やがて、小さな声でぽつりぽつりと呟きを漏らす。


「……戦闘学から……出ないで」


「おう、出ないよ」


この子の前では、嘘でも良い返事をしておこうと考えた。


少女はその答えにホッとしたのか、淡い顔をくずし、笑みが生まれていた。

その表情が見れて、答えた言葉が間違っていなかったことに安心する。


そして、脚を駅のある方向へ向けようとするが、ふと思ったことを口に出した。


「あのさ、もう暗いし部屋の近くまで送ろうか?」


日が完全に沈みきった夜。少女を一人で帰すのは危ないと思って声に出した。

その言葉に少女は


「……っ……っ」


始めて戸惑う顔を見せてくれた。

これは完全にアレである。


(送り狼と思われた!?)


親の教育が行き届いているんだ。だから完全に危険な犯罪者だと思われたかもしれない。意味的にロリを狙う犯罪者だ。

まずいと思いながら、激しく弁明を図る広樹。


「悪い!何でもないんだ!ただの善意!だけど危ないよな!うん!先生とか呼ぼうか!」


合間を作らず、言葉のラッシュを並べる。

が、その言葉を他所に小さく残念そうな顔を見せながら、少女は口を開いた。


「……いい……まだここにいなきゃ」


ん?他にもこの裏道を使っている生徒がいるのかと疑念を抱く。

そして理解した。この子は俺ともう一人を待つために此処にいたのだと。


「そうか。でも一人で大丈夫か?」


それでも小さな女の子を一人残すのも悪いと思い、心配と告げる。


「大丈夫……よく…待っているから」


どうやら、この扉は少女とその友達の隠し通路だったらしい。


「分かった。じゃあ色々とありがとうな」


「……うん」


再び礼を伝え、この場から離れようとする。だが、最後に


「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺は荻野広樹だ。また会ったらよろしくな」


言葉を受け止めた少女は、おずおずと小さな口を開いた。


「……白姫しらひめ葉月はづき


「葉月か、よし覚えた。じゃあ気をつけてな」


「…うん」


少女の名前を覚えた広樹は、最後に伝えたい事を伝えて、帰路に向かって歩き始めた。











広樹が消えて、


「よう、ただいま」


「……」


壁に埋め込まれている扉から出てきたのは、バイクを押して歩く斉木だった。

彼の発する言葉に無言を貫く葉月。


「無言は傷つくな〜。やっぱり男言葉が気に入らないか」


「……」


「やっぱりさ、昔みたいに女の身体にしてくれないか。その方が楽なんだが」


「……いやだ……広樹が」


斉木の提案に拒否を示す。

その表情は宝物を取られそうな子供のようだった。


「別に何も起きないよ。人工知能は人間に恋をしない」


「……それでも…危険」


「俺を『人間じゃない』、『命を持たない』、『プログラム』といつも言ってるじゃないか」


「…そう。…あなたは…補助装置」


広樹と会うための、と付け加えた。

無表情の仮面を付けた少女は、目の前にいる『物』に立場を再確認させる。


そして、斉木にぽつぽつと近づく葉月。

斉木は少女に目を向けて、軽い表情で口を開く。


「今日はずっと『あの』シミュレーション訓練機を使ってただろ。今日の任務はどうした?」


「……ノルマは達成した」


斉木の目の前で、やるべきことはやったと伝える葉月。


「なあ、そろそろ俺の脳に入らずにさ、お前で行けばいいんじゃないか?テーマパークの時、俺の脳の中にずっといただろ」


「まだ……もう少し……」


斉木の手にあるオートバイを指先で触れる。


突如、機械の塊は白い光に覆われて、大型のキャリーケースに形を変えた。


そのキャリーケースを足元で開き、シャツの上から斉木の腹部を指先で触れる葉月。


「そうかーー」


言葉が途切れる。

斉木の腹部から白い光が広がった。


そして斉木の身体は砂のように細かく崩れ、キャリーケースの中に落ちていく。


辺りは水蒸気が舞ったように、湿った空気が流れた。


「……」


葉月は砂の中から小さな機械のチップを取り出し、手に持った端末に差し込んだ。


『じゃあ、帰りましょうか。葉月』


端末から発せられたのは女の声。

少女は大きく重たそうなキャリーケースを引き、地面にタイヤの跡を残しながら歩き始める。


「……ん……忘れるところだった」


最後に少女は壁に埋め込まれた扉を指先で触れた。

次回も期待していただけると嬉しいです!

今後もよろしくお願いします!

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