第169話、メリル「うぅ、トマトジュースで服がベトベトして気持ち悪いデス…」
書きあがりましたので投稿します!
よろしくお願いします!
「鈴子」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないわよ?」
詩織が何を言おうとしているのかを、鈴子は言われずとも分かっていた。
「私はスカート……絶対に渡せない」
スカートに手を押し付けながら、鈴子は冷たく言い放つ。
詩織はメリルにパンツを貸し出して、今はノーパンになっていた。
その状態から自分に声をかけたのだ。警戒しない理由がない。
「違うわよ。私は鈴子にノーパンで過ごしてもらおうとは思ってないわ」
そう言って、何食わぬ顔で詩織はあるものを取り出した。
「この黒いパンツと交換してくれないかしら?」
「ん?なんで自分が履かないの?それに何で予備を持って……」
「……サイズが合わないのよ」
その言葉が嘘なのだとすぐに分かった。
「そのパンツの素材は何?」
「…………」
その沈黙が答えなのだと、鈴子ははっきり理解する。
そのパンツの正体は、周囲を覆っているものに他ならない。
「そんな呪いの装備……私は履きたくない」
それは細胞によって編み込まれた『黒いパンツ』。
よく見れば、そのパンツは生きているかの様に伸縮を繰り返している。
完全にパンツの姿をした物体Xだ。
「呪いの装備なんて失礼ね。生温かいのは別として、フィット感は良い筈よ」
「生温かい時点で気持ち悪い。自分で履いて」
「これは世界にたった一つだけの生細胞100%パンツなの。価値が分かる研究者に渡せば、それなりの高値で取引されるわ」
「お金に困ってない。それに消滅するパンツじゃ矛盾している。とにかく絶対に嫌だ」
詩織の言葉を強く否定して、出されたパンツを突き返す。
詩織が能力を解除すれば、そのパンツは消えてしまう。
研究者に渡す以前に、戦闘中にノーパンになる可能性すらあるのだ。
「自分が履けばいい」
詩織が生み出したのだ。ならば本人が一番履きやすいだろう。
「ワンピースまでなら耐えられたわ。でも」
詩織はパンツを裏返して、その肌触りを確かめた。
生温かく、ドクッドクッと脈拍を鳴らしている。
それを知りながら、そのパンツを履いてテロリストに立ち向かうという事は…
「これをピッチリ履いて戦うなんて、どんな変態よ」
「知ってる、だから拒否してる」
鈴子の揺るがない拒否姿勢。
それに詩織は諦めた様にパンツを握った手を下げて…
ズバッ!
「っ!?」
おもむろに鈴子のスカートを摘んだ。
「っ!っ!くっ!恩をっ、仇で返すのっ!?」
「どうせ近接戦なんてしないんだから、パンツくらい貸してくれてもいいでしょ!」
ノーパンを賭けた猛烈なファイトを、少女達は黒い生物の中で開始した。
────。
────。
ぐいっ、ぐいっ…
「ん?エリス、何をしているんだ?」
「ああ、ちょっとパンツに変な汗がね……勝負の直前だからかな」
男の前で堂々とパンツを摩っているエリスさん、犯罪臭がやばいです。
いや、ワンピースドレスの上から触っているから見えないけども。
性に疎い幼少期だから、男の前で平然とそうしてしまうのだろうか…
「何か言ったかい?」
「いや何も」
明後日の方を向こう…
まあ、ここは普通の廊下なだけに、特に見るものはないが。
「なあエリス。別について来なくても良かったんだぞ」
「お構いなくー」
「でもエリスの足じゃあマズいだろ」
「普通に早いよ。スーパースプリンター並みさ」
一瞬で分かる嘘を…
「本当に危険なんだ。俺も正直言えばやりたくない」
「それでもやるんだろう?」
…………やる。
やらなければならない。
頭の中にメリルの泣き顔がずっと残っているんだ。
やばい。精神にかなり響いてる…
このまま何もせずに逃げたら、心に一生消えない傷が出来るかもしれない。
駄目元でも自己満足でも、何かをしないと俺はきっと後悔する。
弱い俺にでも、今からする事くらいは出来る。
「助けたい人がいるからな」
「ははは……メリルちゃん、無事だと良いね」
ああ、無事を祈りたい。
何事もなく救い出す事が出来たら、詩織達の件を謝ろう。
「本当に良いのか?もう予定の時間だ」
「私のバスケは広樹くんも見ていただろう?私の瞬発力を信用してくれ」
それを聞いて、バスケの時の記憶がよみがえる。
その身体に似合わない高い身体能力は確かにあった。
でも正直、気が進まない。
その細足が常々に不安を抱かせている。
「やはり、私がいると不安かい?」
「そりゃあそうだろ」
「そうか……じゃあ!」
エリスは俺の手に握られていた物を奪い取り、そのピンを抜いて遠くに投げた。
「その不安を消そうじゃないか」
「ちょっ─!?」
俺は慌てて耳を塞ぐ。
ビィ────────────────!!
それは音響手榴弾と呼ばれる、甲高い激音を鳴らせる手榴弾。
彼等から譲り受けたソレを、エリスは躊躇もなく使ったのだ。
「エっ…エリスぅ…くっ!」
耳に激痛が走る。
遠くに投げてはいたが、それでも耳を痛めるには十分な高音が鳴り響いていた。
だが今は狼狽えている暇がない。
何故ならこの音響手榴弾の使い道は──
「来たよ」
微かに聞こえたエリスの呟きに、廊下の奥に意識を集中させた。
ズチャ…ヌチャ…ズチャ…ヌチャ…
来た。
耳が痛くても、その音だけは聞き間違えない。
この生々しい足音は間違いなくヤツだ。
『GLUUUUUUUU……!』
その唸り声に心臓の鼓動が速くなる。
だが二度目の遭遇だ。両足は震えずいつでも動く。
徐々に大きくなる音に、俺はゆっくり後退った。
「まだだよ…もっと引きつけるんだ…」
低い声でエリスは言う。
「あの巨体だ。十分に逃げられるさ」
その言葉に俺は足を止めた。
「……エリスは俺の背後にいてくれ」
「ふふっ…ああ分かった」
微笑みながら背後に回るエリス。
さあ来い。
お前からメリルを助け出してみせる。
『GLUU……!』
シュルシュル……と、黒い触手がゆっくり伸びる。
それに合わせて、俺達も徐々に背後に退がった。
一本、二本、三本……
増えていく触手は合計で七本になる。
シュルシュル…
「八本目だね……そろそろ」
エリスの言葉を聞いて、両足に力が篭る。
相手は確実に自分達に狙いを定めた。
目の前の臨戦態勢が何よりの証拠だ。
後は作戦通りに、アイツを目的地まで誘き寄せるだけだ。
「よし、行く……ぞ……」
「っ?広樹くん?どうしたんだい?」
俺は言葉を止めた。
エリスが背後で何かを言うが、それは耳に入らない。
だって、
そんな、
あれは、
シュルシュル…
八本の触手が握っていた『何か』がある。
それは小さく、柔らかそうで、千切れやすさを思わせる。
そこには少女が履くべき『純白のパンツ』があった。
「ぁ─ぁ──ぁぁ─」
駄目だ。
それを鮮明に見てはいけない。
だが足は震えて動けず、近づいて来る怪物がパンツを明瞭に見させた。
そのパンツには無残に千切られた跡があり、
そして──
「血…が……ぁ」
真っ赤な鮮血が純白の底を染め上げていた。
メリル?
メリルのか?
メリルが?
そんなそんなそんな──
うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?
読んでくれてありがとうございます。
最後のですが、サブタイトルから察してもらえると嬉しいです…(念の為に)
これからもよろしくお願いします。