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第166話、メリル「詩織が暴走状態になってしまいマシタ!!?」鈴子「私が治療する」エリス「私は縛られる」

書きあがりましので投稿します!


今回は長文投稿にしました。

半分にして投稿しようかと迷いましたが、今回はまとめる事にしました!


どうかよろしくお願います!

「さて大臣。そろそろ貴方も説得を協力してくれませんかね?この国の政府に」


「いくら脅しても、我が国はテロに屈しないぞっ!」


「お〜怖い怖い。だが、その減らず口はいつまで続くかな」


笑うテロリストは、右手に持った銃を縛られた女性に向けた。


「な、何をする気だ!?」


「人質は大勢いるんだ。一分毎に一人殺しても、数日は持つだろうさ」


「や、止めろぉ!」


「だからさ、早く条件を呑んでくれよ。俺だって、こんな手荒な真似はしたくないんだ」


「っ……っ!」


「口をパクパクさせても、状況は変わらないぜ。今から開始だ。お前が正しい回答を口にするまで続けるぞ」


その言葉に囚われた客達から悲鳴が飛ぶ。


「一、二、三──」


「止めろ!そんな事をしてただで済むと」


「カウントの邪魔をするなよ。今すぐに引き金を引いても良いんだぞ?」


「くっ…」


「でも、一人か二人殺した方が、お前の口も軽くなりそうだな」


そう言って、テロリストは銃の引き金に指をかけた。


「むぐぅう!むぅぅっっ!」

「むぅぅっ!うぅう!むっっ!」


「あばよ──」

「ボス!」


「あぁ?」


引き金を引くところで、突然とかかった仲間の声。

それにボスと呼ばれたテロリストは銃を下ろして、そちらに耳を傾けた。


「巡回に出していた仲間との通信が次々に途絶えています!」


「おい、まさか警察組織が乗り込んで来たのか?こっちには人質がいるんだぞ」


大臣を横目に、彼は仲間に指示を出した。


「ホテル内のスピーカーを全て乗っ取り、侵入者に言い聞かせろ。これ以上下手な真似をすれば、人質の半分を殺す」


「ボ、ボスっ、実はまだ報告が」


「なんだ?」


「その侵入者が、どうやら警察組織ではないらしく…」


「警察組織じゃない?それはどう言う事だ?」


「通信が途切れる直前で、仲間が口々に叫んでいたんです……『モンスター』と」



────。

────。



「来るなぁ!来るなぁあああ!!」


「何だよアレは!こんな奴がいるなんて聞いてないぞ!」


乱射乱射乱射乱射と。

止まない銃弾の嵐に、ソレはひるむ事なく向かって来ていた。


「ぐぁっ!?」

「あがぁっっ!?」


ムチごとくしなった触手が、テロリストを次々に壁や天井を叩きつけていく。


「おい!銃弾が一発も当たらねぇぞ!」

「通信も繋がらねえ!一体どうなっているんだ!」


ソレに向けて撃ち放っている筈の銃弾が、一発も当たらず、狂った方向に飛んでいく。

何度も試し続けている通信が、一向に繋がる気配を見せない。


今そこにあるのは、ソレによる一方的な蹂躙だけだった。


「おい!エレベーターだ!とにかく別階に退避!」


その叫び散らす指示によって、十人近いテロリスト達が、一斉にエレベーターに飛び乗った。


そして『閉じる』を激しく叩き、ガシンと隙間なく扉は閉まる。


「おい!なんだよあの化物は!あんなっ、一体何処から入って来たんだ!」


「知らねえよ!ただ、アレがホテル側の何かである事は絶対にないのは確かだ」


「だな。とにかく今は別階に降りて、すぐにボスに報告をっ……っっ!?」


ポチポチポチポチと、一人の男が『開く』を押しているのが見えた。


「何やってるんだよ!おい!ソイツを止めろぉおお!」


「止めっっ!?こ、コイツ、泡吹いて白目を向いてるぞ!?」


「はぁ!?じゃあなんでっっ、おいおい!ソイツの身体に巻きついているその黒いのは何だぁあ!!」


彼が見たのは、男の身体に絡みついた黒い紐状の何か。

吐き気を感じさせる黒色を持ちながら、それは脈打つ様に伸縮を繰り返していた。


「おい!とにかくやめさせっっ──!?」


ガシッ!と、扉を掴まれる音が聞こえた。

その音に吊られて、彼等がそこに視線を向けると、


『GLUUUUUUUU……!』


エレベーター内に侵入する黒い影。

そして扉は閉まり、そのエレベーターは何者も降ろさないまま、動き出した。



────。

────。



「私達は…本当に正義の味方なんデスヨネ?」


「何言ってるの?…悪いのアッチ…テロリストだよ」


「そうよメリル。どうしてそんな疑問を持てたの?」


「私がおかしいんデスカ!?あんな恐怖に染まった顔を前にシテ!?」


詩織、鈴子、メリルは、お互いの距離をゼロにして、身体を密着させ合っていた。

そして周りには黒い細胞が三人を包み込み、その外では阿鼻絶叫が繰り広げられている。


「詩織の能力によってモンスターに変装。そして内守谷さんの能力によって銃弾回避と通信遮断。……もうヤバイ組み合わせデスヨ」


「ヤバくても、これが一番都合良くて、手っ取り早いのよ」


「今は広樹との再会が最優先……もし文句があるなら……外に出る?」


「だ、大丈夫デス!こんな敵のど真ん中でほっぽり出さないで下サイ!」


メリルは震えながら、二人の思考に口出しをしないと決めた。


「メリルはもう外を見ない方が良いわね。いちいち細胞に覗き穴を作るの、結構面倒くさいのよ」


「ぅぅ…でも、やはり慣れない事をしてイルト、どうしても外が見えないのが怖くなるんデス」


「私の銃弾回避に…不満があるの?」


「無いデスヨ!はい!スッゴイ能力デス!怖いもの無しデスネ!」


鈴子の持つ『誘導改変インダクション・マダフィケィシャン』の効果によって、向かって来る全ての銃弾をらして回避している。

その正確性は、今の今までに撃たれてきた数千を超える銃弾の数が証明してくれた。


「そ、それで、どうやって広樹を見つけるんデスカ?流されるままに細胞に包まれた訳デスケド…」


「いつか見つかるわ」


「いつか!?」


詩織の軽い返答に、メリルが瞳を丸くする。


「能力自身に委ねているのよ。『広樹を見つけ出しなさい・テロリストは殲滅』って。電源を切っているのか連絡は繋がらなかったし。だったら、もう手段なんてコレしかないわ」


「能力に委ねてるっテ…まるでこの能力に独自の人格があるみたいな言い方デスネ…」


「有るわよ。細胞だもの」


「へぇ!?」


「アナタの身体にだって、生きる為に自動で働く免疫細胞がいるでしょう?この能力も、私の為に自動で働いてくれているのよ」


「つまり…単純な命令を出して、後は任せられる能力…って事?」


「簡単に言えば鈴子の言葉通りよ。要するに『AI』なのよ、私の能力は」


「エ…『AI』デス…カ」


詩織の説明に、呆然と言葉を詰まらせる。


「…ん?」


そして何故か、特急列車に飛び降りた記憶が脳裏によぎった。


「あの…詩織?…この能力はわずかながらに人格を…命を持っているんデスヨネ?」


「ええ、そうだけど」


「電車に着地する際に、かなりゴリゴリとやっていませんデシタカ?」


「…………言いたい事は分かるわ」


思う事があったのか、その声音に重みが生まれる。


「でもねメリル。私が生み出した細胞は、私の為に働かないといけないのよ。つまり率直に言うと──」


詩織はガシッと右手で肉塊を握りしめ、


「私の為に死ねるのなら本望でしょう。私の能力なんだから」


『っ〜〜〜〜!!』


今、ジワァァ〜と周りの細胞が汗を湿らせた気がした。


あれ?本当に僅かながらの人格なんデスカ?

どうしてか、細胞達が恐怖で震えている気がシマスヨ…?


「例えばだけど、病原菌から身体を守ってくれる『白血球』だって、約十二時間以内に死滅しているわ。つまり、私達人間は生きていく上で、一日に数え切れない程の命を殺しているのよ」


その例え話と『黒槍出現ブラック・アペアランス』を一緒にシマスカ!?

またジワァァと変な汗を流してイマスヨ!詩織が作った黒い細胞達!


「し、詩織…、私自身も、こんな事を言うのはおかしいと思うんデスケド……少しだけでも、能力に優しくなれまセンカ?」


私は手元にあった細胞を撫でながら、小さく思いを伝えた。


「…………」


「言葉が出ないのは、詩織も思う所があったって事デスヨネ……ん?」


撫でていた細胞が徐々に柔らかく、そして自分のお尻の下の細胞も、何故か座りやすくフィット感の様な感覚が生まれていた。


ああ、やっぱり…


「詩織、やっぱり細胞このこ達は生きて──」


「詩織、見つけたよ」


「そう。ようやくね」


「へ?」


けろっと詩織はいつもと変わらない表情で振り向いた。


「電波の流れ的に……たぶん当たり」


「じゃあメリル。これから仕事よ」


そう言って、詩織は赤い液体が入ったボトルを出す。


信憑性しんぴょうせいが必要なの。だからメリル、一芝居よろしく」


「え…あのっ、詩織?一体何を」



────。

────。



「おい!設置しておいた監視カメラはどうなってる!」


「電波が乱れており、うまく映像が送られません!」


「くそっ」


ボスは唾を吐き捨てて、大臣の方へ向かった。


「お前達が用意したモノじゃないだろうな?モンスターって奴は」


「違う!私は何も知らない!」


「じゃあアナウンスで脅迫してみるか。おい、適当に一人引っ張り出せ」


「や、止めろ!」


大臣が必死な表情を作る中で、パソコンと向き合っていたテロリストの一人が声を上げた。


「繋がりました!廊下の映像が見られます!」


「そうか、これでモンスターの正体が……!?」



────。



『助けてぇぇ!誰か!誰かぁああ!』


そこに映ったのは、金髪巨乳の少女が黒い怪物に追われている映像だった。


『GLAAARRRRRRRRッッ!!』


「あたっっ!?あ、足がっ!いやっ、来ないで!私はまだ死にたくない!」


『GYRRRRRRRRッッ!グシャッッ!』


「ぉぼぉっっ!?」


華奢な胴体が黒い怪物に噛み付かれる。


そして少女の口から赤い血を吐き出させ、その服を真っ赤な血の色に染め上げた。


「や、やめて…まだ、まだ死にたくないよ……ッッ!?ォォォボギャブギジュッッ!!」


ぐちゃぐちゃと音を鳴らして、少女が怪物の口の中へと飲み込まれ、


『グェェップ!』


そのげっぷを最後に『ブツッ!』と、映像が途切れた。



────。



「っっ……っ!?」


その映像を見た者、聞いた者は、何も言い出せず、ただ身体を震わせるしかなかった。


アレはなんだ?

一般人に見える少女を、無残に喰っていたぞ。

あんなのが同じ建物内にいるのか?


積み重なる恐怖の連鎖に、ボスと呼ばれる男は拳を叩きつけて叫んだ。


「soldierだ!急いで部屋の周囲に集中させろ!あの化物をこの部屋に絶対に入れるなぁあ!」


その指示に従って、テロリスト達は汗を噴出させて動き出した。



────。

────。



「大丈夫なんデスカ私達?」


正気ハイライトの無い瞳でメリルは言った。


「トマトジュースだから飲んでも人体に悪影響はないわ。安心しなさい」


「良い吐きっぷりだった…」


「そっちの大丈夫じゃないデスヨ!」


瞳に光を取り戻してから、甲高い声で怒鳴り散らす。


「もう私達が何をしているのか分からなくなってきまシタヨ!任務中にトマトジュースを吐くなんて、常識外れも良いところデス!」


「人質を殺させない為よ。受け入れなさい」


「メリルは…人質が殺されても良いの?」


「うぐっ…!」


確かにあの芝居によって、私達が警察側の者ではなく、人喰いの怪物であると誤認させられただろう。


その証拠に、テロリストが私達に脅迫してくる事は今までに起こっていない。


「アナタの吐いたトマトジュースが、大勢の人間を救ったのよ」


名言風に言ってますが、所詮は嘔吐物デスヨ!先生達に知られたら、私の経歴に嘔吐物の文字が書かれて汚されそうデス!


「詩織…少しだけ、通信遮断、切っていい?」


「三十秒」


「分かった」


それを聞いて鈴子の顔色が緩くなる。今までにいていた集中力が、ようやく抜けたみたいだ。


そして端末を取り出して、何処かに連絡を入れた。


「…………やっぱり、通じない」


「居場所を悟られない様にしているのよ、きっと…」


相変わらず二人の頭は広樹で満杯いっぱいの様だ。


「よくよく考えてみれば、こんな下っ端が徘徊している場所にいる方がおかしいのよね」


その下っ端とやらは、今も阿鼻絶叫を上げていた。


二人には聞こえないんデスカ?

私は聞いているだけで、ちょっとした鬱に目覚めかけてマスヨ?


「詩織の能力……無人独立型で量産出来ない?」


「……」


「索敵を増やせれば…見つかる可能性も上がる」


「……ええ…そうね」


鈴子の提案に、詩織は息を詰まらせながら賛成する。


だが詩織が苦しそうな表情をしている。そこに嫌な予感がした。


「詩織?苦しそうに見えマスガ、大丈夫デスカ?」


顔を手で隠し、今の詩織はまるで頭痛に苦しむ姿だった。


「無人独立型…私の近くに置かず、単独で長距離動ける細胞…」


「詩織、あの、無理はしない方ガ……たぶん初めてじゃないデスカ?内守谷さんの今の注文は…」


「大丈夫よ。少し集中させて……くっ!」


詩織に心配を拒絶され、その直向ひたむきな思いの強さに唾を飲み込む。


「……ん、詩織?」


「内守谷さん?どうしたんデスカ?」


「……何かが違う……おかしい」


違和感を感じた内守谷さんが、詩織の肩に手を置いた。


「詩織……?」


「────」


「詩織っ…どうして何も言わないんデスカ?」


「────」


詩織は何も言わなかった。

そして内守谷さんの手が、詩織の顔に被せられた手を掴み、そっと持ち上げる。


「「ッッ!?」」


「────」


白目を向いて、感情を宿さない能面の顔が、今の詩織そこにあった。


「詩織!?一体どうしっっなっ!!?」


「これはっ…!?」


身体を包む細胞が急激にうねりだし、身体が乱雑に強く振られる。


『アガァァァ!?』

『やめっ!やめてくれぇええ!』

『殺さないで!助けてくれ!』

イダイダイダイダイダイダイっっ!!?』


そして激しくなる外からの叫び声。これは只事ただごとではないと、私は詩織の顔を両手で掴んだ。


「詩織!起きて下サイ!何かがマズイデス!早く今やっている事を止めて下サイ!」


シュルシュルッッ〜!!


「ぐぁ!?し、詩織!?触手が私の身体に!?」


内部に突如と生えた黒い触手が、勢い強く絡みついてきた。


「これは…ん」


内守谷さんが詩織の頭に手を置いて、


「脳内の血液循環が異様に早い……たぶん操作不良そうさふりょう……脳自体に異常……暴走の可能性がある」


「なっ!?」


「もっと考えるべきだった……詩織がオーストラリアに来たのが早過ぎた事を……詩織が今の能力に覚醒してから、能力検査を受ける時間が無かった事を……だから限界ラインも、能力の危険性も未検査の状態だった」


明かされる事実に、私は心臓を止めかける。


私は何も疑っていなかった。詩織はいつも計画的に任務を遂行する完璧思考の持ち主。それが私の知っている詩織であり、今もそうであると思っていた。


だが今は、


「────」


その意識のない顔が私を恐怖させる。


シュルシュルー!!


「しっ、詩織ぃい!や、やめてっ!これ以上はっっ!」


腕と足を拘束され、胸と腹に触手が不規則に押し当てられる。


「能力で脳自体を調整する……慎重を要するから、通信遮断を解除して進める……今は耐えて」


「えっ!?ちょっ!そ、それよりも!どうして内守谷さんは襲われないんデスカ!?」


「たぶん…メリルの優しさが原因」


「優しさ!?意味が分かりまセンヨ!!」


優しさとは何デスカ!言葉が足りな過ぎて、余計に分からないデス!


「さっき、メリルは細胞に優しくしてた……それが細胞に変な影響を及ぼしているのかも……『AI学習』って言葉もあるくらいだから」


「えっ!?で、でも、そうだとしても!優しくしていた私がどうして襲われてるんデスカ!」


襲うのなら、理不尽な事を言っていた詩織の方に向く筈だ。

なのに、優しくしていた自分に攻撃の矛先が向いている。これでは不条理だ。


「あくまで推測……私は詩織の脳を調整して救おうとしてる、だから襲われない……そしてメリルは」


「ゴクっ」


私は息を飲んで、その答えを聞いた。





主人あるじである詩織が眠っているうちに、優しくしてくれたメリルにイケナイ事をしようとしてるんじゃない?」





「…………いっ、いぃいやぁあぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」


シュルシュル!プニュプニュ!ニュチョニュチョ!ジュブジュブ!グリグリ!サワサワ!グニグニ!モミモミッッッッ!!


四方八方から身体を抉る触手に、私は必死に限界の限りを尽くして抵抗した。

だが一向に振りほどけず、身体は無残に好き勝手に弄られ尽くされる。


「今は耐えて……そして一つ言っておく」


この状況で何か言う事があるんデスカ!?

そんな事よりも助け──


「お尻に力を込めた方が良い……たぶん、一番危険」


「ッッ!?あ、あっ、アナ」


「ア○ル・バンカー」


言われなくても分かってマスヨ!?


縛られている両手両足は使えナイ!触手をふせぐ手段はお尻自体に力を込めるしかナイ!?


何デスカコレ!?本当に何デスカコレ!?


「メリル」


次は何デスカ!?


「狙われてるよ」


「へ?」


私はゆっくりと、震えながら下半身を見た。



ニュル…



「っっ!?ォオオおおおお!!させまセンッッッッッヨォォォォオオオオ!!」


「おお…」


関心と驚きの表情を作る鈴子。

その視線の先には、触手に縛られながらも両手でお尻を塞ぐメリルがいた。


「くぅっっ〜!!本当なら振動粒子バイブレーション・パァーティクルを使いたいのデスガァ!」


「刺激を与えてもし細胞を崩壊させたら、私達の正体がバレる……それは絶対に駄目」


「分かってマスヨ!だから人体強化で対応しているんデス!」


外のテロリスト達にモンスターの正体を明かせば、作戦がバレて人質を使われてしまう。

それは絶対に阻止だと、私は己の大切なモノを賭けて触手の猛攻に抵抗した。


「お願いだから目を覚まして下サイ!詩織ぃいいいい!」


「────」


「まだ時間がかかる……それとメリル」


内守谷さんの指が、何故か私の顔に向けられる。


「顔がガラ空きだよ」


「へ?ムゥ!?」


く、口に触手ガァ!?こじ開けないデ下サイ!?歯に押し付けないでぇえ!こんなモノを口に入れたくないデス!


もう嫌ぁああ!もうこんな場所にいたくないデス!


私を外に出してぇえ!



────。

────。



「ZZZ〜〜」


「ZZZ〜〜」


ゲシっ


「痛っ、んん?」


「ZZZ〜〜」


エリス……寝相が悪いな……


足を退かして、もう一眠り。


ゲシっ


「痛っ」


「ZZZ〜〜」


「…………」


幼女の細足でも、蹴られると痛い。


「エリス、ちょっと起きろ」


「ZZZ〜っっんん?なんだい?」


「少し寝相が悪いんだが、どうにか出来ないか?」


「ああ、それはすまない。だが、此処が窮屈きゅうくつ過ぎるのも悪いと思うが」


確かに俺達二人がねむるには、此処エレベーター狭過せまずぎる。


「んん〜、これで」


エリスは俺の鞄の紐を取って、


「足を縛って、寝相防止を」


『臨時ニュース!紐で足を縛られた幼女と、その紐の持ち主である日本人学生を発見!エレベーター内で一体何が!?』


もし眠っている間に救助が来たら、そんなニュースが待った無しで起こるだろうな。


「俺が手錠で縛られるからやめてくれ」


「それではどうやって眠る?私もこんな時に言うのはアレなのだが、この機会にたくさん眠りたいんだ」


「ん?夜更かしでもしたのか?」


「ああ、やらなければいけない事がたくさんあってね」


御令嬢だから習い事や親の手伝いで忙しいのだろうか。


「ふあ〜〜…んん、他の私には悪いが、この私だけでも眠らせてもらいたい」


「他の私?この私?」


「すまないが、もう少し眠らせてくれ。もしまた迷惑をかけたなら、勝手に足を縛ってくれても構わないから」


「いや構うよ。俺が犯罪者になっても良いのか?」


「ZZZ〜〜」


俺の言葉を聞かずに、エリスは寝息を立て始めた。


「エリスー!おーい!」


「ZZZ〜〜」


肩を叩くが目覚めない。

本当に眠気の限界で意識を手放している様だ。


「俺は起きてないといけないのか?」


ゲシっ


「っ……起きてても関係なしか」


エリスの寝相が悪い時点で、狭いエレベーター内に共にいれば、ただ蹴られ続けるのは目に見えてる。


「…………」


俺も凄い眠気に襲われている。


昨日の夜にあの同性愛相談メールが二通も届いたのだ。気になり過ぎて、普段通りに眠れる筈がない。


非常事態の最中でも、やる事がない空間にいれば眠気に襲われるのは必然だった。


「ZZZ〜〜」


本当に羨ましいなエリス。


俺はこれからどうしたものか……


本当に……


「…………メリル」


ふと脳裏に浮かんだ金髪の少女。


本当に最低な事をしてしまったと実感している。

自分に優しくしてくれた少女に、あの戦闘民族ふたりを押し付けてしまったのだから。


正直、謝って許してくれるのなら、土下座もいとわない俺がいる。


「電話、してみるか……」


この際メリルの状況が分かれば、後はもう何でもいい。もうメリルが無事でいてくれれば、俺にはどうでも良かったんだ。


そう覚悟を固めて、俺はポケットから端末を取り出した。


「ZZZ……んんー!」


「っん?……え、ちょっと待て、それで寝てるのか?」


瞼を閉じたまま立ち上がるエリスに驚愕する。

寝相悪さコンテストがあれば、間違いなく優勝しそうな姿だ。


「ZZZ〜〜ガチャ〜〜」


「ガチャ?」


「ガチャ〜〜……出ろ!幼女!」


バァンッッ!!と、エリスは右拳を叩きつけた。


ただ叩きつけたのなら良い、だがその叩きつけた場所に問題がある。


エリスの拳の先で、『44階』のマークが光っていなければ、笑い話で済んでいたのに……


「寝相の悪さにも限界があるだろぉおおおお!!」


ポチポチと『44階』を連打するが、取り消しが効かず、エレベーターは動き始めた。


「幼女来たぁ〜〜ロリハーレム〜〜ZZZ〜〜」


「ロリはお前だろ!ロリがロリを求めてどうするんだ!」


本当にやばい!エリスの寝相の悪さで危険な状況にっしぐらだ。


これまでの事を思い返せば、今このホテルはテロリストによって何かが起きている。


そんな最中さなかに自分達が現れてみろ。酷い目に遭わされる事は確実だ。


「よし!そうだ!大丈夫だ!すぐに閉めよう!そうすれば解決だ!」


自分に強く言い聞かせ、恐怖を払拭する。

そう、とにかく扉を閉じれば終わるんだ。そうすれば一からやり直せる。


俺は絶対に危ない事には関わらない!そう決めたんだ!


だからエリス、もう俺は覚悟を決めたよ。


「縛るからな」


本人公認の縛りだ。だから問題ない。

ロリコンに間違われるよりも、テロリストに遭遇する方が危険過ぎる。


現在の階は『20階』。まだ時間はある。

ならば今から縛ってしまおう。

後から迷うのは俺の悪い癖だ。ならば今だ。


「ZZZ〜〜っ?……幼女〜〜ZZZ〜〜」


「後は!」


連打連打連打連打連打連打連打連打ッッ!


とにかく『閉まる』を押し続け、扉が開く瞬間を待つ。


もしテロリストが待ち構えていたら人生終了。逃げられる光景が思い浮かばない。


だから精一杯に祈ろう。

この先にテロリストがいない事を。


「頼むからっ、本当にっ、お願いしますっ」


本当に不幸だ。不運だ。災難だ。

俺はいつからこんな痛劇に遭いやすい体質になってしまったんだろう。


戦闘学に転校してからいつもそうだ。

詩織も、鈴子も、任務も、イベントも、旅行も、その全てが戦闘学から始まった。


命の危機に直面して、走馬灯の様に悪夢が蘇る。



『44階』



点滅する光を前に、


「死にたくない!死にたくない!死にたくない!」


ああ神様!酷い目が続いた俺に、どうかチャンスを下さい!

心からのお願いです!もう戦闘学の支給金を望みません!誤魔化して転校手続きを済ませてしまった事への罰なら、もう十分に悪戦苦闘を味わいました!


だからどうか!

こんな俺にも!平和な世界に戻れるチャンスを下さい!

今まで通りの安全な生活を送らせて下さい!


どうか!


どうか!


どうかぁああ!


この扉の先が平和であって下さ────


「んんっッッーーンンッムチュンンーンンンーンンムブチューーんんーームゥーーーチュッムンブニューーンンーーーンーー!!?」


「…………」


「んん!!?ひっ!?広っ!?ムチュッゥ!!ぉ樹!んんーー!広ぃムゥゥ〜ー!広樹ブチュゥ〜ムゥゥ!?」


しばられ、つるされ、しぼられている。

その光景を前にして俺は、


──ガシン!


「…………」


『閉まる』を押すのを止めなかった。



神様……これはご褒美なのでしょうか?

読んでくれてありがとうございます。


詩織の暴走ですが、第137話の伏線を回収しました。榛名と博士が詩織の暴走を予期して、心配するシーンが書かれています。


少し危ないシーンを書きましたので、一部修正するかもしれません。

どうかよろしくお願います。

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