第165話、老人「空が騒がしいのぉ」エリス「百体もいるんだ。私一人が抜けても、問題ないだろう」メリル「正義の味方に向かって叫ぶ悲鳴には聞こえないデス…」
お久しぶりです!
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
「出入口を全て占領し、武装した人員を全体に配置か…」
白髪を生やす老人が、高い建物の屋上から周囲を見回す。
敷地は数キロ単位に及び、その全ての出入口が封鎖板で塞がれ、銃と防弾チョッキで武装した男達が警察組織からの侵入に備えていた。
「AK47にRPG、RPK、手榴弾、ガスマスク…よくこんなにも揃えたのぅ奴らは…」
常人の視力を超えた視認能力で、老人はテロリストの姿を完全に読み取る。そして更に見えてしまったモノに、頭を深く抱えた。
「予想よりも戦力差があり過ぎるぞぉ。その上にアレまで持ち込まれておる。これからどうするのじゃ?」
「今は何も出来ないよ。私達が居場所を掴む前に、奴等に先手を取られたんだ。なら後手に立った私達は、後手らしく振る舞うしかない……ああ、それにしても──本当に許せない」
老人の隣にいた白髪の幼女が、瞳を鋭くさせて、その光景に憎しみ感情を抱いた。
「また、あの忌々しいモノを…」
彼等の周囲を歩く黒い塊。
それは戦闘力を持つ者にとって、忌むべき存在である。
「『soldier』、しかも複数操作型。一つの脳で十数機体を動かす、制圧に適した型だ」
「多くはspiderだのぉ。よくもこんなに集めたものだわい」
蜘蛛型の機械兵が、テロリストの周囲を徘徊する。
その光景に幼女は苦虫を噛んだ顔で、掴んでいた情報を思い浮かべた。
「WDC……ようやく情報が繋がったよ」
『soldier』、それは戦闘力者の『脳』を利用し、非人道的な方法で生産された戦闘兵器。
それをテロリストが保有していると言う事は、WDCが彼等に売り込んだのだと一目瞭然だった。
「一つの脳での大量操作。そんな負荷を負わされれば、人間の方が無事では済まない」
「外道だのぉ。だが、まだ脳死にはなっておらん」
「人間の方が死ねばsoldierも停止する。だが、それは絶対に駄目だ」
「では人質と脳、全てを救出するのじゃな?」
「そうだ。絶対に」
決意を表明し、次に幼女は敷地の中央を見た。
「土竜……いや、大蛇か」
そこに見えたのは、土塊に汚れた巨大soldier。
「まさかsoldierで地中から侵入して来るとはのぉ」
大穴と巨大soldier。その両方から、テロリストがどのような手段で侵入して来たのか察しがついた。
「何方も地中から侵入するには十分な形じゃ。そして奴らは入念な準備をして、此処に赴いたのじゃろう」
「半年か、それ以上も前からか。本当に一杯食わされたよ」
「そうじゃな。それで、一杯食わされたワシ達は、後手としてどう打って出る?」
「ああ。まず人質だが…きっと大丈夫だ」
「全てを把握しているのじゃろうな?」
「百体も用意したんだ。人質を百箇所に分けるとは思えないよ」
「確かにそうじゃな。だが、その内の一体、エレベーターに乗っておる個体はどうしておるんじゃ?エリス」
エリスと呼ばれた幼女は、頭を左右に振って溜息を吐いた。
「駄目だ。念には念を入れて百体も作ったんだ。思考伝達が入り乱れてて、個体一人一人の詳しい状況までは読み取れない……まぁ、向こうにいるのも私自身。『私』は『個体』を信じているよ」
「そうか…まぁ、貴女がそうおっしゃるのであれば」
「いきなりの敬語は止めてくれ……はぁ」
敬語を言い出す老人に、エリスは嫌な顔に浮かばせて、ゆっくりと空を見上げた。
「……君は、アレが自然な現象とは思えるかい?」
「むぅ、そうじゃなぁ…………」
老人を空を見上げて、その光景に思考をめぐらせる。
そこに見えたのは黒い霧状の雲波。
轟音を鳴らしながら、稲光を走らせて、次第に突風が吹き荒れ始めていた。
「ゲリラ豪雨?…いや、それにしては成長が早過ぎる」
「だが、アレを人工的に発生させる技術なぞ、現代にある訳が……ん?」
「気づいたかい、今私も可能性として浮かんだよ。今オーストラリアにいるじゃないか。この天候を作り出せる少女が」
「まさか…近くにいるのか?」
「ああ、間違いな『ポツッ』ん、ああ、遂に降ってきたな」
頬を濡らした雨粒を、エリスは袖で拭った。
「嵐が吹き荒れそうじゃわい」
「文字通りの嵐が吹くだろう。建物の中にも……それじゃあ、私達も行動を開始しよう。数少ない大人の戦闘力者なんだ。しっかり働いてもらうよ」
「老いぼれに働けとは……いや、人の事は言えんな……」
「何か言ったかい?」
「何も言っておらんよ。さ、早く行くぞ」
────。
────。
「広樹くん、いつまで座っているんだい?非常電源もつき、今なら扉は開くだろう。外に出て状況の確認を」
「今は駄目だ。エリス、今は何もせずジッとしていてくれないか」
「何もせず?どうしてだい?」
疑問を浮かべるエリスに、俺は気遣いを抜きにして、敬語を捨てる事にした。
「俺は前にも、これによく似た状況を経験したんだ」
「っ…これによく似た状況をかい?……その話、詳しく聞いても良いだろうか?」
エリスの好奇心を前に、俺は話そうか迷う。これは戦闘学にとって、口外しても良い情報なのだろうか。
……いや、簡単に説明すれば問題ないだろう。
非常ランプに照らされた彼女の顔と向き合って、俺は過去にあった事実を掘り返した。
「前にこれ似た状況に立たされた時、俺は何も考えずに脱出する事だけを考えたんだ」
思い出したのは、約一ヶ月前の記憶。
任務で国を渡り、空港で他校の教師に追い出され、憂さ晴らしにデパートで歌った過去。
だがその先に待っていたのは、今みたいなエレベーターに閉じ込められた状況である。
そこから俺は、地獄の様な経験を味わった。
「何とか脱出には成功したんだ。でも、その先に何が待ち構えていたと思う?」
「待ち構えていた……?」
言葉が浮かばないエリスに、俺は真っ直ぐに答えを言う。
「軽蔑と、取り返しのつかない失態だったんだ」
「っ!?」
今思えば、あの時は何もせずエレベーター内で救助を待っていれば良かったと思える。
俺の所為で、任務に参加していた者達が怪我を負い、大人達からは軽蔑を宿した瞳で睨まれた。
唯一、詩織と天草先生の慰めが、俺の涙の留め具となって、今以上に落ち込まずに済んでいる。
だから、もう何もしない。
此処で待っていれば、きっと助けが来てくれる。
これ以上誰かの迷惑になる事はしたくない。
俺はそう決意して、ただ待つ事に徹する事にした。
「一生の後悔がその時だった。だからはっきり言える。今は動く時じゃない、と」
「……本当に良いんだね?その選択で」
「ああ」
「……分かった。君の判断を信じよう」
「ん、いいのか?エリス」
簡単に外を諦めたエリスに、俺は小さな不審が浮かべた。
「君の経験からなんだろ?なら一度信じてみるさ。それに一個体だけなら、然程大きな影響にはならない」
「ん、私だけ?」
「君が動くまで、私も待つとするよ」
────。
────。
「ゲリラ豪雨の所為で、俺達災難だな」
「口を動かす前に足を動かせ。早くコレを運び出すぞ」
重圧感ある重機関銃を担いで、暗い水路を歩く二人のテロリスト
そして到着した高い段差に重機関銃を降ろし、自分達も陸地に上がった。
「水路からの侵入者を防ぐ為だったが、水かさも増して、流れも急流だ。見張りは必要ないだろう」
「じゃあ俺達も上に行かないか?此処すっげー臭いしよ」
「そうだな。外から見張れば十分だろう」
二人は水路に背を向けて、重機関銃を再び担ぎ出す。
「それじゃあ行くぞ」
「ああ…………ん?…ッ、ッ!?」
「ん、どうした?」
「お、お前……足に」
「足?」
背後にいる仲間の言葉で、男は自分の足に視線を向けた。
ウニョ…
「……蛸の足?」
「いや!?大き過ぎるだろう!?」
強く否定される最中、ソレは急激に動き出した。
「なぁッッ!?ぐぁぁあああああ!!?『ドボォンンッッ!!』」
引っ張らられるままに、男は水路に転落した。
それを見た仲間が重機関銃を放り出して、すぐに腰から銃を引き抜く。
「おいぃ!!大丈夫か!!」
…………。
「くっ…!」
彼は意を決して歩き始める。
注意深く水路に視線を落としながら、ゆっくりと側に近づいた。
「おい…何処に…」
彼が濁った水面に顔を写した────その時、
ザバァアアア!!──ウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョ!!
水面から生え伸びたのは夥しい数の黒い触手。
「あっ…!?ぅうああああああああああああああああ!!」
彼は絶叫しながら銃を乱射する。
だが触手は退く動きを見せずに、男の身体をきつく縛り付けた。
「なっ!?何なんだよこれはぁぁああ!?」
抵抗するが、触手は一向に振りほどけない。
「くっ!だ、誰かぁ!」
彼は小型無線機に何とか手を伸ばし、スイッチを押した。
「此方!水路Aー7!水路にて、謎の──なっ、ななっ!?」
『なんだ!何があった!?』
耳に聞こえた仲間の声よりも、彼はソレに意識を奪われた。
そして最後には、その表情を崩壊させて──
「もっ、触手人間がぁあああ!『ブツッ!』」
通信は途切れ、彼の叫びが最後まで届く事はなかった。
読んでくれてありがとうございます!
エリスの持つ能力を少し書いてみました!そしてWDCの伏線を回収しました!今回の戦いでは、soldierを持ったテロリストとの戦闘です!
これからもよろしくお願いします!