第163話、メリル「これは死にマス!グチャグチャになって死ぬのは嫌デスゥウ!!」
書きあがりましたので投稿します!
よろしくお願いします!
「んっ……此処は?」
「あら、ようやく起きたのね」
「重い…この贅肉、邪魔」
「詩織?…それに内守谷さん?」
私を担いでくれているのか、少女達の顔が左右にあった。
改めて意識をハッキリさせて、周囲を見回すと、
「ん〜?……ちょ、ちょっトォオオ!!?」
見たのは、足場の無い足下だった。
「担いでいるんだから暴れないでよ」
「さっきから贅肉が当たって痛い……暴れるなら捥ぐ」
そんな二人の理不尽な声が聞こえるが、驚かない方がおかしい。
何故なら私達は、高層ビル同士の間を走ってジャンプを繰り返しているのだから。
まるでジャパニーズ忍者だ!
「止まってくだサイ!!落ちマス!死んじゃいマスゥウ!」
「落ちないわよ。序列者二人の人体強化で運んでいるのよ」
「せっかく担いで上げてるのに……この贅肉、やっぱり捥ごう。捥げばもっと早く走れる」
意識が再び飛びそうだ。
一体何がどうやって、こんな最悪な状況に立たされてしまったのか。
精神が擦り切れる中、私は必死に気を失う前の記憶を掘り返して──!?
「ォォォヴオオエエエエッッーー!!?」
「ちょっと!?下に嘔吐物を撒き散らすなんて何を考えているのよ!!」
「常識が無い……そんな世間知らずに、この贅肉は勿体ない」
下の道路に私の朝食が降り注ぐ。それを見た二人が何かを言うが、私は吐かざるを得なかった。
……………………。
『私を見捨テダァノニィ!私を置イテ行ッダァノニィ!私を生贄ニシダァノニィィイイイイ!』
……………………。
そう広樹に泣き叫んだ私がいた。
夢だったが、そんな病んだ私が生まれたのは、気を失う寸前に身に起きた、恐ろしい体験によるものだ。
「あんなっ…私は何も悪い事なんてしてないノニっ」
「…………」
「…………」
「何黙ってるんデスカ!?」
「「別に」」
「『別に』…じゃないデスヨ!?私に何をシタのか忘れてませんヨネ!?」
『黒い触手』と『激悪臭』の記憶が蘇る。
身体を謎の触手で縛り付けられて、その上で頭部に酷い悪臭で形造った靄の球体を被せられた。
そんな拷問を想わせる悪夢によって、私は意識を手放したのだと思い出す。
「あんなっ、あんなっ…!」
「謝るわよ。私達も冷静じゃなかったから」
「良い乳してる……贅肉じゃなかった」
「謝っても良い乳って言われても、それで私の心が晴れると思いまシタカ!?」
「「思ってない(わ)」」
「だったら!まずは私を地面に下ろしてくだサイ!話はそれからデス!」
「それは無理よ」
「出来ない」
「どうしてデスカ!?」
「自分の端末を見れば分かるわ」
「はい…」
内守谷さんの手に握られた端末を見させられる。
どうして私の端末を二人が持っているのか、そこを強く問い詰めたいところだったが…
「なっ、なっ、なっぁああ!!?」
「緊急任務よ。オーストラリア支部の校長からの」
「ホテルを占拠しているテロ組織の対応……その為に私達は急いでいる」
「私が眠っている間に何があったんデスカ!?」
悪夢から目覚めて、また悪夢。
本当に何が起こっているのか理解が追いつかない。
「メリル、事を柔軟に受け止めるのよ」
柔軟に受け止めきれる範囲を超えていますケド!?
「簡単だよ…ホテル行って…壊滅させて…はい終わり」
『はい終わり』…そんな事言われても!はいそうデスカ、と言える訳ないデス!
「ん、鈴子、そろそろよ」
「分かった…」
詩織が走るを止めて、私を覆う様に内守谷さんの身体にしがみつく。
「メリル、舌を噛まない様に口を閉じてなさい」
「行くよ…」
「えっ、あのっ、何をしようとしてるんデスカ?」
恐れながら聞く私に、二人は淡々と答えた。
「「特急列車に飛び乗る(のよ)」」
高層ビルの真下に見えた線路。
そこを超高速で走行している列車に向かって、私達は宙に飛び立った。
「しぃぃぬぅぅううううう!!?こんな高さから!?走行中の特急列車に!?身体がグチャグチャになっちゃいマスヨォオオ!!?」
「大丈夫よ」
「本当に変わった…もう前の面影がない…」
真下にかざした詩織の右手。
そこから出現したのは黒く生々しい塊だった。
「何デスカソレ!?詩織ぃ!その手から出ている黒いのは何デスカ!?」
「さっきも見た筈なのに、メリルもう忘れたの?」
「え?」
…………あっ。
「私を縛った黒い触手!?」
「完成形となった『黒槍出現』よ。広樹のお陰で、私はこの能力を真の形にする事が出来たの」
広樹のお陰で!?
あの合同任務からそう経ってないのに、何をどうしたらそうなるんデスカ!?
「衝撃に備えなさい。最後尾に着地するわよ」
塊は車一台分の大きさまで膨張し、蛸を連想させる形へと変わる。
そしてそれを下敷きにする体制で、詩織は列車へと押し付けた。
グチャギチュギュチュドヂュジュグチグチュギュチュグチャッッッッ!!?
「削れテル削れテル削れテル!?地面に色々とバラ撒いてマスヨォオ!?」
「ん、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。それにこうでもしないと、システムに異常を感知されて、急停車されそうだから」
衝撃を列車だけではなく地表にも逃した影響で、通った線路に黒い細胞のクズが散乱する。
だが、詩織はどうって事ない表情で、黒い塊を増殖させ、線路の砂利に押し付け続けた。
そしてようやくと…
「じゃあメリル、オーストラリア支部の学生証を出しなさい」
────。
「ママ!お外が真っ暗になったよ!」
「ん?そんな訳……え?」
「ね!なんでだろう!……ああ!?お外が見える様になった!」
「…………疲れてるのね。一緒に寝ましょう。向こうに着くまで」
「はーい!」
────。
「ん?なっ、なんだアレは!?」
車掌室にいた男が目の前に見えた光景に動揺する。
ガラス窓の先で頭上から黒い何かが地面に伸び、それが線路上の砂利に肉々しい音を立てながら削られていたのだ。
「れっ、連絡を…!?」
震えた手で、運転室に連絡を取ろうと受話器に触れる。
だが、
バンッッ!!
「ストップ…」
「!?」
信じられない光景を男は見た。
音と声が聞こえた先を見ると、そこには外からガラス窓を叩く、草葉を想わせる長髪を持った少女が張り付いていた。
そして、その腕には……
「ごめんなさい…こういう者です…ご協力をお願いします…うぐっ」
泣きながら学生証を見せる金髪の少女も合わさって、男は状況に反応するまで、数秒固まり続けた……
読んでくれてありがとうございます!
前話の第162話なのですが、一部修正しました!
置き手紙に「夜中に天乃が逃げられなかった設定の追加」。それと金○に刀を打ち込んだ後からの「灯火の「ふん!」を追加」しました!
どうかこれからもよろしくお願いします!