第16話、天草先生「戦いで一番大切なのは、『その瞬間』なのよ」
お久しぶりです!!
書けました!!♪───O(≧∇≦)O────♪
これからも、感想・コメント・アドバイス・助言・間違い箇所・訂正など、お待ちしております!!
6月19日に助言があり、一部を訂正しました!
私は大型モニターに映し出されている映像に驚愕を隠せなかった。
私だけじゃない、このジムにいる全員がその結果に困惑していたのだ。
「先生……この結果は……」
「ええ、分かっています」
私を先生と呼ぶ生徒も、未だにモニターから目を離せないでいる。
モニターには、姫路詩織が血塗れ姿で倒れている姿が映っていた。
この結果が生まれる三十分前。
「天草先生!姫路さんと荻野くんがシミュレーション訓練機に入ったんですが!モニター観戦してはダメですか?」
一人の女子生徒が、驚くことを言ってきたのだ。
(詩織ちゃんが!?)
興味を爆発させている生徒を他所に、天草先生は信じられない事態が起こっていることに言葉を失う。
「まじか!?俺も見てぇええ!」
「もしかして!第十位vs多重能力者の対決とか!」
「先生!私も見たいです!」
話が伝染し、今や生徒の瞳は私を強く指していた。
でも、大丈夫なのか?
(彼が何をするのかも分からないのに…)
私の広樹くんへの評価は『可愛い生徒』だった。だが、それは『能力』を抜いての話だ。
まだ、資料でしか彼の存在を知らない私は、この状況をどうするかと迷う。
続く生徒たちの願いの声に影響されて、『彼の実力を知りたい』の一言が心に芽生えてしまった。
「分かったわ!じゃあ見ましょうか!」
迷い顔の内心とは裏腹に、生徒たちにポジティブ声で、みんなの願望を叶える言葉を上げた。
「先生!話を聞きつけてきたみんなが集まって、一つのモニターだけでは見られません!」
確かに、目の前には、ほぼクラス全員が集まっていた。
それだけじゃない、偶然にもこのジムでトレーニングをしていた別クラスの生徒もいたのだ。
「ああ!もう!分かったわ!!じゃあこのフロアのモニター全てに映します!」
「「「「「「おおおおお!!」」」」」」
私の声に大興奮を見せる生徒たち。
もう、みんなの笑顔が見れれば良いと、私はジム管理者に頼み、フロア内にある全モニターに、仮想現実の映像が映し出された。
「あの二人、何やってんだ?」
「姫路さんが説明をしてるみたいね」
「音声をもっと大きくしたいな」
生徒の言葉に答えた管理者は、フロア内にあるスピーカーの音量を大きくした。
『じゃあ、また会いましょう』
聞き取れる音声が聞こえた。どうやら、彼等は対人戦をすることになったらしい。
詩織の発した言葉を皮切りに、二人の姿がその場から消えた。
「おい!これ対人戦だぞ!しかも二人の対決!」
「やっべぇええ!これは見ものだぞ!」
「どっちが勝つのかな!」
このフロアにいる全員が手を止めて、点在するモニターに視線を飛ばしていた。
この状況は、恐らく『第十位』の影響が大きいのだと予測できる。
(やっぱり詩織ちゃんは人気者ね)
モニターの映像が二つに割れて、左右に二人の姿が映し出される。
「姫路さんがデザートイーグル!?」
「あんな高威力を選ぶなんて!」
「きっと荻野くんは強いのよ!」
「能力を持つ犯罪者を捕まえたって話があるしな!」
詩織の武装に声を荒げる生徒たち。
私もその姿に驚いていた。
(詩織ちゃんが本気!…でも銀行の件で彼の姿を見た彼女なら……)
この場で唯一、荻野広樹の実力を知っているのは姫路詩織だけだったのだ。
彼女が本気になる相手が彼。
その言葉が、モニターを見る人に植え付けられた。
「おい!荻野のあれは何だ!」
「AK-74、CZ805ブレン、スコーピオンEVO3、PP-2000……俺の知らない銃も有りやがる……」
「おいおい!何丁出しているんだ!二十丁以上はあるぞ!」
「予備マガジンと銃弾も出してる!しかも使い切れない量!」
広樹の足元を覆い尽くす鉄の塊に、モニターを見る全ての瞳が混乱の色を見せていた。
(広樹くん……あなたはいったい……)
何をやろうとしているのか。私は分からなかった。彼は今まで一般人として生活していたはず。それが何だ。
(何を確認してるの…)
彼は手慣れた手つきで、流れ作業のように銃器を一つ一つ触っていく。それが何なのか分からないが、間違って出した訳ではないと理解した。
「銃器全てを地面に放置しているぞ!?何でだ!?」
「銃を使わないのか!?」
「おい、あの腰にあるのって…」
「ああ、刀だ。」
「第十位を相手に銃器なし…」
「いや!荻野は能力を複数持ってるんだ!銃器の力なんて……あれ?」
「おい?どうして荻野は、銃器を出したんだ?」
疑問が生まれた。確かに矛盾だ。どうして、戦闘力と複数の能力を操れる広樹が、銃器を出したのか。そして、何故それらをその場に放置したのか。謎が支配する中、モニターでは、銃器を地面に放置し、刀を下げて歩き始める広樹の姿。
(詩織ちゃん、序盤で位置を掴んだわね)
詩織は迷わない動きで階を降りる。あえて崩れた穴を利用することで、最短ルートで彼の元に向かっているのだ。
(確かに、未知数の能力を持つ相手に、長期戦は望めないわね)
彼が透視系を持っている可能性も考えれば、居場所を早々に知られる確率は高いのだ。それ以外にも理由があるが、総合的に考えて、手数が少ない詩織が短期戦に持ち込むのは正しかった。
「姫路さんが荻野を見つけたぞ!」
「荻野は気づいていないな」
目論見通りに、広樹に近づけた詩織。
でも、これは……
(詩織ちゃんの予定通り……なのに、この悪寒は何?)
目に見えるものに震えが走る。詩織が優勢に見えるはずなのに、この寒気はなんだ。
そして私の中で、一つの思考が生まれた。
(詩織ちゃんの目論見が……彼の目論見だったら……)
その思考が走った瞬間、状況が大きく動いた。
「荻野が手榴弾を!?いや、発煙だ!」
「姫路さんの位置を掴んでいる。聴覚を戦闘力で強化したのか?」
「いや!姫路さんは注意深く近づいたんだぞ!物音を立たせていない!」
「じゃあ!透視系か!?」
「姫路さんが走るぞ!」
彼は詩織ちゃんの位置を掴んでいる。全てが彼の目論見だったのだと、理解してしまった。
「おいおい!姫路さんが行く先にどんどん発煙手榴弾を投げてるぞ!完全に先を読んでいる!あれは透視系だけじゃないぞ!?」
「あれは予知系か!?能力を複数持っているのは本当だったのか!?」
彼の姿を見る者たちの目が興奮で溺れる。彼という未知の存在が、見る者たちを魅了したのだ。
(校長……とんでもない生徒を私の担当にしましたね)
荻野の担当にさせた上司に、不満をぶつける天草先生。
改めて、彼の危険性と重要性を知ったのだ。
モニター内の状況が進み、詩織は決心した顔を作り、来た道を引き返した。
「そりゃ、引き返すよな」
「煙が充満した道を進んだら、透視系で近づかれて、刀で一刀両断だぜ」
「ああ、そして余分な距離を作るのも駄目だ。透視系があるのなら、どこに隠れても意味がない」
「なら、もう短期決戦だな」
生徒たちは状況を整理し、この戦いの終幕が近づいていると理解した。
彼女の次手は、来た道を引き返すことだった。
だが、それも彼の目論見の中だった。
走る彼女の頭部に、鉄の塊が飛んで来たのだ。
「閃光手榴弾か!?」
「ああ、普通の手榴弾は、爆発が起きるまでに数秒の時間が生じる」
「そのタイムラグで姫路さんが逃げれば、爆風で発煙の煙が吹き飛び、荻野が丸見えになるな」
「だから!閃光手榴弾を投げたのか!さらには、フラッシュで目を潰せる!」
全員がその答えに辿り着く。だがまだ完全な正解ではなかった。
「姫路さんの姿が消えたぞ!?」
「いや!崩れた穴に落ちたんだ!」
「まさか、これも計算したのか……」
「馬鹿!そんなこと出来るわけっ!」
この状況を彼の意思によって、起こされたことを認めたくない声が上がる。だが、モニターに映し出されるものが全ての証拠となる。
そして、次に彼女を襲うのは、閃光手榴弾によるフラッシュ。
地面にひれ伏し、しわを寄せながら目を閉じる詩織。
その姿は、モニターを見る全ての人間を驚愕させた。
第十位が負ける。
その可能性がこの場を支配しているのだ。
それでも、彼女はデザートイーグルを手に持ち、上体を起こした。
「まだ諦めてない…」
「ああ、恐らく視力の情報を切り捨てたんだ。今あるのは聴覚のみ。あの状況で出来る限りの強化をしているはずだ」
そして、彼女の頭上で、彼が投げた手榴弾が壁に当たる音がなる。
それに合わせて、詩織は地面を強く蹴りつけた。
「躱したな」
「ああ、強化した聴覚なら気づけるはずだ。そして、それがどこに落ちるのかも予測できる」
「身を守れる障害物が目で認識できないなら、限界まで距離を離すしかない」
その言葉は正しい。だが、それも広樹の計算の中に入っていると知るのには、一瞬もかからなかった。
その手榴弾が落ちる場所をみんなが見た。
そのとき、それを認識した瞳に恐怖が映り込む。
そうだ。広樹が放置した武器弾薬の山。詩織が落ちた地点から、近距離にあったのだ。
この場にいる全員が見た。
その武器弾薬の山に手榴弾が流れるように沈み込むのを。
その結果が生み出すのは………
「「「「「「!?」」」」」」
大きな爆発音。それは手榴弾の音だけではない。何発にも並ぶ数え切れない弾薬が爆発した音。
そして微かに見えた飛び散る直線の影。
それによって作られたのは、恐怖を刻み込まれた空間。
「おい……あれはもう……」
その場にいた彼女の姿は、誰もが予想できたものだった。
弾丸の雨を浴びたのだ。その結果が生み出し、作り上げる姿など、戦闘学の人間なら誰でも分かることだった。
着ている服から赤黒いシミが広がる。
壁と地面には、赤いペンキをぶちまけたような光景が広がっていた。
手足が繋がっていることが不思議に思うほど、その姿は酷いものだったのだ。
「ッオェェっ!」
「おい!大丈夫か!」
「あんな光景をみたら、弱い奴は吐くよ」
「……おいっ、まだ姫路さんが動いているぞ!?」
「生きてたのか!?……でも、あれじゃあ、もうっ…」
「おい!荻野がまだ!」
「続ける気なのか……」
廊下の煙が晴れ、丸見えとなった穴を凝視する広樹の姿がモニターに映し出された。
それは、『まだ終わらせない』という言葉を体現させた面持ちをしていたのだ。
「っ!」
この場にいる一人の影が動いた。それは天草先生。彼女が向かったのは眠っている二人がいるシミュレート訓練機、その操作パネルだ。
彼女はパネルに指先を走らせ、広樹の目の前に一つの表示版が現れた。
『勝利』
その文字が現れたことにより、広樹の歩行は停止した。その判断によって、多くの生徒が落ち着きを見せた。
だが……
『……は?』
「「「「「「!?」」」」」」
モニターに映る彼の発した声に、この場にいる全員が恐怖を抱いた。
その声の意味は何だ?
『これが第十位の実力なのか?』と思った不満の声なのか。
『まだ続けさせろ』と何かに訴える声なのか。
答えは闇だ。それを問い質すことは、誰にもできない。
この場は荻野広樹という人間に呑み込まれたのだ。
「先生……この結果は……」
「ええ、分かっています」
モニターから目を離し、隣にいる生徒を優しく撫でる。
第十位が負けた結果。
私が彼の続行を諦めさせた結果。
だが、認めるしかない。彼は序列者に並ぶ実力を持った人間なのだと。
この光景を見た全員が知ったのだ。
荻野広樹の恐ろしい実力を。
「二人が起きるまでには数分かかります。具合が悪い人は医務室に、ほかの皆さんは教室に戻ってください」
私の呼びかけに反応した生徒は、クラス関係なく散り散りにこの場から消えていった。
(本当に……失敗だったわ……)
私は後悔した。生徒たちは彼に恐怖を抱き始めただろう。虐めは起きないが、距離を置かれるのは必然。
私は端末で、クラス全員に『ジムで観たことは忘れなさい。そして、彼を怖がらないであげて。』とメッセージを送り、二人が起きるのを待った。
これからも読んでもらえると嬉しいです!!
よろしくお願いします!!╰(*´︶`*)╯