第156話、ルーカス「掴まっていろよ広樹。改造に改造を重ねたコイツの実力を見せてやる」
書きあがりましたので投稿します!
よろしくお願いします!
「校長、荻野広樹を確認しました。どうやらタクシーで何処かに向かう模様です」
『そう、メリル以外にも追跡者を放っておいて正解だったわね……では、予定通りに追跡を』
「了解しました」
一台の黒塗り車が動き出す。
そこに乗るのは学生ではなく大人であり、オーストラリア支部の校長が用意した予備追跡者だった。
「タクシーか。確かメリルは近くの公園に向かったよな?」
「ああ、荻野広樹と連絡を取ってな。だが騙されたみたいだ」
「姫路詩織と内守谷鈴子が一緒じゃないと言う事は、あの二人を囮に使い、単独で行かなければいけない場所があるからと分かる。それがオーストラリア支部のメリルに知られたくない事で……なぁ、あの荻野広樹ってヤバくないか?」
車内にいる三人の中の一人が、改めてタクシーに乗る少年に対し唾を飲み込む。
それに他二人は「今さらか?」と、その一人に言った。
「そりゃあヤバイだろ。前の合同作戦でチームから外れながらも、単独行動でWDCに大打撃を与えた少年だ」
彼が戦闘学に与えた功績。彼がいなければ任務は失敗に終わり、多くの戦闘力者を失っていた、そう各支部が評価していた。
「相手を俺達の基準で見ない方がいい。ずっと戦闘学を騙してきたんだ。いまだに能力の正体も公表されていない。いつ俺達が足元をすくわれるか分からんぞ」
そしていまだに明かされていない広樹の秘密。それが分からない以上は、彼等もそれ相応の慎重な判断と行動を余儀なくされた。
「一瞬の行動も見逃すなよ。場合によっては、オーストラリア支部への危機に繋がる行動を起こされるかもしれない」
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「ん?なぁ広樹、お前って何か訳ありだったりするのか?俺達を追ってくる車がいるんだが」
「え?…いえ、訳ありじゃないですけど……少し追われる立場は、あるかもしれないです」
何故か一瞬、詩織に追いかけられた時の記憶が思い浮かぶ。あの時は榛名と共に恐怖した。
だが今回はメリルを生贄にして、彼女が来る理由は無い。
故にもう一つの可能性が次に浮かんだ。
「犯罪とは関係ないんですが……少し厄介な人達に目をつけられています」
「おいおい、マフィアとかじゃないよな?」
「いやっ、危ない組織でもないですよ」
映画などで良くある理由を出され、すぐに否定する。
「どちらかと言うと警察側の組織です。でも、あくまで向こうとは知り合いみたいな関係で……とりあえず敵ではないです」
メリルを思い浮かべながら、ある程度な事を伏せてルーカスに事情を説明した。
恐らくメリルが何かを報告して、オーストラリア支部から追っ手をつけられたのだろう。
日本にいる校長の予感が的中した。
オーストラリア支部は俺と鈴子に接触を図る可能性がある。その忠告を思い出したら、どこか彼等に恐怖を感じ始めた。
「……ふーん、で、どうする?」
「どうするとは?」
「ん〜〜ちょうど直線だしな。そして混んでもいない」
ルーカスは呟きながら、助手席を後ろにスライドさせて、
は?スライドさせて?
「ちゃんとシートベルトはしてるな?それじゃあ、お前が決めろ」
何を?
「この赤いスイッチを押すか、押さないか」
助手席があった場所の底には、ボンベとコードが入り混じった装置があった。
そしてその中心には、赤いスイッチが目立つ機械盤がある。
ちょっと待って、ルーカスさん?
これは映画あるある的なアレですか?
「あの〜このスイッチは?まさかとは思いますが」
「なぁ広樹、それは聞かないのがお約束だぜ。男は黙って押せばいいんだ」
そんなカッコイイ台詞を言われても、何も響かない。
響くのは押してしまった後に起こるかもしれない、映画あるあるの警告音だけだ。
「それに元々コレをお前に自慢したくてな。今日は偽のナンバープレートを貼り付けてるからよ。思いっきりイケるぜ」
ルーカスの楽しげな笑みが、バックミラーから丸見えだ。
そして思う。コレはヤバイ。
乗るタクシーを間違えたのだと、心の底から後悔した。
「ルーカスさん、今回は安全運転でお願いします」
「そうか、安全運転だな」
ルーカスさんの親指が、赤いスイッチに添えられる。
「オーケー。じゃあ行こうか」
「ルーカスさん!?何でスイッチを押そうとしてるんですか!?」
盛大にツッコミを入れるも、ルーカスさんは指をどかさない。
「安全運転がご希望なんだろ?これが俺の安全運転だ」
安全運転の定義とは!?
ポチっ。
押したぁあ!?押しちゃったよぉお!?
シュゥゥウウウウウウウーー!!
何この音!!なんか車内に変な音が響き渡ってるよ!?
「三十秒後に世界が変わるぜ。今ガスを貯めてるからよ」
「……止められませんか?」
「そいつは無理だぁ。残念だけどぉ。ヒャハハハッ!」
詩織ぃい!鈴子ぉお!
お前達でもいい!いや、お前達がいい!!
お願いだから助けてくれぇええええ!!
「ギャハハハハハッ!ヒャハハハハハハハハハッッ!」
爆笑しているルーカスさんのキャラが変わり過ぎて怖いよぉおおおお!
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『校長…緊急報告が』
「ど、どうしたの?」
端末から聞こえる人員の震えた声に、オーストラリア支部総責任者のジェシカ・ウィリアムスは、考えたくない疑念を頭を過ぎらせていた。
派遣した彼等は監視と追跡のスペシャリストだ。
そんな彼等が震えているのだとすれば、その理由は一つしかない。
『荻野広樹を見失いました……』
「…そう。まさかとは思っていたけど……どういう手段を取られたの?能力を使っていたのなら、正体は掴めた?」
『い、いえ。どうやら彼が乗ったタクシーが特殊だったみたいで……いや、これも荻野広樹の計算か?そんな訳…』
「特殊?計算?」
タクシーが特殊?荻野広樹の計算?
私が派遣した彼等は、荻野広樹に一体何を見せられたの?
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