第147話、詩織「中等部以来かしら?こういう事をするのは」鈴子「覚えてないよ。でも、やらなきゃいけないなら、やる」
お久しぶりです!
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
三人の作戦はいたって単純だった……
「広樹くん、さっき君を押し倒した彼と仲良く戻って来たが、どういう事なんだい?ギスギスしたりするだろう?」
「いえいえ、スポーツに接触や事故を付き物なんで、ちゃんと謝ってくれて、仲直りしましたよ」
エリスの疑問に軽い雰囲気で答える広樹。
その言葉にメリルが笑顔を見せる。
「それは良かったデス。これで心置きなく試合が続けられるマスネ……ん?広樹、右手に持っているその紙は何デスカ?」
「ああ、これは彼の連絡先で、困った事があれば相談に乗ってくれるって、今回の慰謝料として貰いました」
貰ったばかりの名刺を見せながら、ルーカスとの間に結ばれた関係を伝えた。
その事にエリスとメリルは、
「本当に彼は良い人だね。出会ったばかりの少年にそこまで優しくなれるなんて、それも戦っている相手にだよ。ドラマみたいだ」
「スポーツは国籍も文化も関係ありまセンカラネ。フィールド内では敵デスけど、外に出ればスポーツで競い合った仲間デス。きっとこの後も良い関係になれると思いマス」
ベタ褒めである。
エリスとメリルがルーカスを高く賞賛し、広樹もそれに乗った。
「そうですね。本当にカッコいい人でした。スポーツが得意で、すぐに謝ってくれて、自分の連絡先まで教えてくれて、そして─」
そしてソレを強調して言う。
詩織と鈴子の心に届かせる目的で……
「チームメンバーに限らず、相手チームとも仲良く出来るルーカスは、人間として大きく見えました」
そしてエリスは、
「広樹くん、チームメンバーと仲良く出来るのは当たり前だ。そこは当たり前なのだから褒めなくて良いだろう」
メリルも、
「チームメンバーと仲良く出来るのは当たり前デス。そんな当たり前の事が出来ない人間なんていまセンヨ」
最後に広樹も、
「確かにそうですね。当たり前の事を言ってました──」
ボコ殴りである。
陰口の連続射撃である。
仲間割れをしていた詩織と鈴子に、精神的ダメージを三人で与えたのである。
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「ようは矛先を向けられない様にしたい。その為の口車作戦だ」
「でも、それで本当にうまく行くんデスカ?友好の大切さを伝えても、あの二人が仲良く出来る光景が見えまセンヨ」
「俺も、あの二人は犬猿の関係くらい仲が悪いですよ」
エリスの考えに納得しない広樹とメリル。
だがエリスもその意見に同意だった。
「分かってるさ。だから二人は組ませない。いや組めないか。つまりは私達が中継役になるんだ」
エリスが残る後半戦の戦い方を説明する。
「今回の口車であの二人の間の摩擦が少し減らせる筈さ。この三人の間だけのパス回しくらいは許容してくれるだろう」
「それじゃあ詩織と内守谷さんは抜きって事デスカ?それはなんでも……」
「ああ、勝てないね」
詩織と鈴子を抜きにして、あの外国人チームに勝てる見込みは薄い。
メリルの心配に、エリスは「当然さ」と言葉を続ける。
「だから均等にあの二人は使い分ける。簡単に言えば、不公平を作らない様にボールを渡すんだ。勿論、差別のしないパス回しをね」
「それって…私が内守谷さんにボールを出すって事デスカ?」
恐る恐ると聞くメリルに、エリスは頷く。
「出す。そして私も詩織ちゃんにボールを出す。これで二人が機嫌を悪くしたら、本当に手の付けられない我儘っ娘って事だね」
諦めた口調でエリスは言う。
つまり、これで無理だったら、
「その時は諦めよう。もう他に思いつかない。犬猿の関係よりも酷かった、混ざらない水と油の関係だったと潔く諦めよう」
「「…………」」
広樹とメリルは押し黙った。
「まずは詩織ちゃんに私がボールを出す」
「エリスがボールを出せる相手は、広樹か内守谷さんのどちらかだけデシタカラネ…」
「おかげで弱点を狙われたよ。だが、これからはその縛りを捨てる」
相手が狙いを定めていた弱点。
それはエリスとメリルが、ボールを出せるコースが制限されていた事である。
だが次の初手では、その裏目をとって得点を奪う。
試合が始まってからの、初めての『エリスから詩織へのパス』。
「詩織ちゃんへのパスが成功したら、次は鈴子ちゃんにパス。それを繰り返しながら、私達も狙えるところを狙う」
詩織と鈴子だけに得点を取らせるのではなく、自分達も出ようとエリスは伝えた。
その考えに広樹とメリルは頷く。
「じゃあ、逆転を目指して行こう!」
エリスが一喝し、三人はベンチに座る少女達の方へ向かった。
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試合が始まってすぐ…
『怖い……』
コート内にいる全員がそう思った。
その視線の先には、詩織と鈴子が静かに立っている。
だがそこにある雰囲気は、前半戦と打って変って静黙。
声も出さず、呼吸音も聞こえない。
ただあまりにも静か過ぎるその姿が、敵味方関係無しに不可解に感じさせていた。
(静か過ぎマス……怖いデス……どうシマスカ?エリス)
(出すしかないさ。じゃないと絶対に負ける……だがその前に)
エリスが視線を向けるのは、離れた位置にいる広樹にだった。
「っ!っ!」
ボールを持つ広樹が、相手ディフェンダーに圧迫されていた
(完全に捕まってるね…)
(そして私達も…)
エリスとメリルも同様にマークされ、エリスにパスを送る手段が完全に途絶えていた。
エリスにボールを渡すには、そのまま直接パスするか、メリルを中継してパスするかの二択しかない。
だが広樹、メリル、エリスの三人がマークされた以上、それは困難となった。
(詩織と鈴子にはほぼノーマークデスカ……でもそう考えマスヨネ。広樹がボールを持っている以上は……)
(試合が始まってから、広樹くんは一度も詩織ちゃんと鈴子ちゃんにボールを出していない。それが裏目に出たか…)
(私やエリスのパスよりも、あの二人は広樹からのボールが欲し過ぎてイル。そのおかげでずっと大苦労デス)
(片方に出そうとすれば、もう片方に強く威圧される。それで広樹くんはずっとパスが出来なかったからね)
広樹がパスを出せるのはエリスかメリルのみ。
前半戦に続けて、後半戦もそれを貫くしかなかった。
(このままじゃあ…)
パスコースは塞がれ、ボールを持つ広樹が捕まっているこの状況。
この場を打開する方法を思考するが、一筋の可能性すら見つからない。
(無理にでも動いてマークを外すしか)
(ボールを受け取れる位置に移動スレバ)
タイムオーバーが迫る広樹。
あと数秒で相手のボールになってしまうところで、メリルとエリスは少しでもチャンスを作ろうと、靴音を鳴らしてコートを駆ける。
「「っ!」」
だが、当然相手ディフェンダーに行く手を阻まれた。
キャリアと体格の差から、そのマークを外す事が出来ない。
そしてタイムオーバーになる……
その時だった。
「広樹…」
鈴子が一言呟いた。
そして人差し指を伸ばす。
「っ!?」
その意図を考えたが無理だった。
(((詩織に指先を向けた!?)))
詩織を指差している鈴子の姿を見て、三人は驚愕する。
それは相手チームも同じだった。
「くっ!?」
相手チームの一人が動く。
その方向には詩織がいる。
彼は鈴子の意図を読んで、とっさに行動に走ったのだ。
だがそれよりも、
彼が詩織に向かうよりも先に、
「詩織!」
広樹は詩織に投球した。
「詩織に投げれたのかよ!?」
ボールを奪えなかった相手が驚きを吐き出す。
パシっと音を鳴らす少女の手。
そこに収まったボールを見て、詩織が瞳を光らせる。
「させるか!」
「行かせねえ!」
走る詩織の前に立ち塞がったのは、二メートルを超える二人のブロッカー。
「…………」
その場で停止し、詩織はシュートフォームのポーズを取る。
そして地面を蹴って飛躍した。
(俺達の方が高い!絶対に通らねぇ!…なのにっ!?)
(なんだっ、この悪寒は!?)
長髪の影に隠れた詩織の光る瞳。
それを見たブロッカー達は、恐怖に似た危機感を抱いた。
(ああ届かないさ。詩織ちゃんのボールは決してゴールに入らないだろう──でも違う)
全員がその一瞬に視線を取られる中で、唯一エリスだけがソレを見た。
詩織の背後、詩織の真後ろにいる存在をだ。
「フッ」
詩織は空中でシュートフォームを解き、ボールを持った腕を大きく回す。
上から下へと右腕を回転させ、、運動着を掠めながら背後に向かって橙色の直線を描いた。
それはフェイントを使ったバックパス。
(鈴子に!?)
(内守谷さんに!?)
(((((ノールックパスだとぉおお!?)))))
広樹とメリルだけじゃない。相手チーム全員も驚愕した。
詩織が放ったのは、遠くにいる鈴子へのバックパス。
だが普通のバックパスじゃない。
詩織は背後を確認せず、会話もせず、打ち合わせを見せず、遠く離れた位置にいる鈴子にパスを放ったのだ。
パシっ!!
そしてそれを鈴子はしっかり受け取った。
まるで理解していたかの様に、綺麗にボールが鈴子の両手に収まったのだ。
(ああ、この光景は良い。私が考えていた結果よりも断然に輝いているよ)
飛躍する鈴子を見つめながら、エリスは口元を緩めた。
詩織と鈴子によるノールックパス。
息の合わなかった二人が見せた、息が通じ合わなければ出来ないコンビプレイ。
その瞬間にエリスは笑わずにはいられなかった。
「中等部の頃以来?それとも初めてかしら?私とアナタが組むのは」
「知らないよ…過去に組んだ事があったとしても…わざと忘れる…絶対に」
大きな曲線を描いたボールが、白いネットに音を鳴らす。
そして二人は静かに呟きながら、お互いに片手を打ち鳴らし合った。
「酷いわね。でもきっと思い出すわよ。アナタが思い出したくない体育の時間とかね」
「だったら…この試合に勝って…すぐに忘れる」
読んでくれてありがとうございます!
初めて詩織と鈴子が手を取り合った瞬間かもしれないです!
ぜひ次話も楽しみにしていてください!