第146話、詩織「────」鈴子「────」メリル「怖いデス、見たくないデス、逃げたいデス」エリス「早く帰ってきてくれないとマズイ」
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
「野菜ジュースだったのかよ!?」
トイレから出た矢先に金髪の彼と出くわし、事のあらましを全て話した。
だが、どうしてか知らないが、彼は大きく安心しきった表情を浮かべている。
「本当に良かった!そうか!ゲロだったのか」
泣きそうです。全然良くない。
なんでこんなにも嬉しそうなんだこの人。
「俺にとってはかなりの大事故ですよ…」
「あっ…まあ、お前にとっては良くなかったか…」
詩織と鈴子のあの表情を思い出すと、今でも会場から消えたい気持ちだ。
「いや〜第一印象が完全に血だったからさ!鼻からもドバァーと出てたから本気でビビってたんだ!」
「口を我慢してたら、油断して鼻から出しちゃったんですよ……血に見えたんですね」
「ガチで見えてた。だってよ…」
彼は己の体格と俺の体格を見比べて言った。
「押しつぶされて無傷でいられる訳が無い…って、もしかして内出血でも起こしたのかと思ったんだ」
ああ、確かに思う。まさにその通りだ。
「実は…」
「ん?……っっ」
襟元をめくり上げ、彼の瞳が素肌に向かう。
これは新しいジャージに着替えた際に、初めて気づいたモノだ。
「おいおい!早く医務室に!」
「いや!本当に大丈夫ですから!試合には出られるんで!」
首元から肩にかけて、青い痣が滲み浮かんでいた。
アドレナリン効果なのか、無意識だったお陰なのか、鏡で見るまで痛みは感じなかった。
だが改めて気づくとかなりズキズキする。じみに痛い。
「でもよ、痣が広いぜ。それと他にも怪我があるんじゃないか?」
「本当にマズかったら退場しますよ。でも…」
ふと思い浮かぶ。ゲームに依存する少女の顔が。
「これで俺が退場になったら、後で面倒くさそうなので…」
「なんか事情があるのか?」
「はい…」
考えたくもないが、途中退場した後で鈴子が納得しない幕切れになったら、何か恐ろしい事がありそうで怖い。
ならせめて最後まで試合には出る。その方が危険が少ない気がしていた。
「ちなみに俺からもいいですか?…その…俺の嘔吐物、どうなりました?」
「あ、あ〜すまん。俺も分からねぇ…」
え?
「お前が心配だったんでな。二度見する余裕が無かった」
「……なんか、本当に誤解させたみたいで」
そこまで心配してくれた彼に申し訳なさが浮かんだ。
「いや、正直ホッとしてる。無傷じゃなかったが、一大事にならなくて本当に良かったぜ」
出したのが血だったら、確かにヤバかったかもしれない。
その怖さはバスケをやっていた自分もよく知っている。
「試合で怪我させたら、かなり精神的に引きずりますよね」
「ん?お前もスポーツをやってるのか?」
「中学時代にバスケ部でした」
「本当か!だからお前だけ普通だったのか!」
「普通?」
「ああ」
浮かび上がった疑問に、彼は笑いながら語る。
「お前以外の娘達は運動神経は良かったが、フェイントとかの騙しプレイに弱かったんだ。長距離シュートや高速ドリブルとかの飛び抜けた技が出来るのに、それ以外はほとんどド素人だった」
ああ納得。
確かに凄い運動神経は持っていた。
だがその動きは練度の低いバスケ。
「お前だけは経験者の距離感を持っていたが、他は経験の無さが浮かんでいたよ。それに加えて即席に組まされたチームだったからな。チームプレイも出来る筈が無い」
いや、チームプレイに関しては違う。
単に詩織と鈴子の仲が悪かっただけ。
側から見ても二人は威嚇し合っていた。
知っていたが、あの二人は相当仲が悪いみたいだ。
その影響がメリルとエリスを縛り付けて、結果的に俺にだけパスが送られる事に……
あれ?怪我の原因があの二人に見えてきたのは俺の考え過ぎか?
もしもあの二人が仲良くやっていたならば、良い試合になってたんじゃないか?
「本当にそっちは勝ち目が少ないよな。……すまん」
謝られた……つまりそれは、
「運営側の仕業ですか?」
「まあな、白状するよ」
怪我を負わせた罪滅ぼしからなのか、彼は淡々と説明してくれた。
この試合には運営側が呼び寄せたプロ選手が幾人も参加している事。
入場制限にコスプレを課したのは、度の過ぎたゲーム依存者を選別する為。
野菜ジュースなどは、健康面を考えながらの半分嫌がらせらしい。
それらを聞いて、薄々感じていた疑問が晴れ始めた。
「じゃあ貴方もプロなんですか?」
「いや、俺は少し違うな」
彼はポケットから小さなポーチを取り出す。
「他の四人はプロなんだが、俺はそいつらの友達だな。流石にプロチームから五人を引っ張るのは無理だったんだろう。で、俺が呼ばれた」
そう言って、彼は一枚の紙を渡してきた。
「今回の詫びだ。何かあったら呼んでくれ。無料で乗せてやるよ」
「ん、タクシー?」
名刺には名前と連絡先が記されている。
「ルーカス?」
「ああ、俺はルーカス。ストリートバスケを趣味にしているタクシードライバーさ。プロの奴らにも知り合いが多いから、特別に合わせられるぞ?」
気前の良さを出した金髪を輝かせる白人、ルーカス。
「じゃあ機会があれば…」
「ああ!任せな!」
そんな会話をしながら、やうやく通路を抜ける。
会場は相変わらず混雑していた。
「……こんな大勢の前で吐いたんだな……俺」
今になって帰りたくなった。
「恥ずかしいのは分かるが、此処まで来たならコートに戻ろうぜ。きっと大丈夫さ」
ルーカスに優しく励まされ、迷いながらも決意を固めた。
まずは逃げてしまった事を謝ろう。
そして自分の嘔吐物は、係員に相談しながら自分で片付けよう。
「じゃあ」
「俺は今回の事を運営側に伝えてくるぜ。血じゃなくてジュースだったってな」
立ち見をする観客を掻き分け、コートに続く通り道に出る。
ルーカスに片手を振って別れ、
「ん?」
真っ先に見たのはチームのベンチ。
そこにいたのは、
(詩織に…鈴子か?…)
頭にタオルを下げ、床を見つめる二人が座っていた。
垂れ下がる白布に隠れて、その表情は全く見えない。
だがその背後からは、水分が蒸発しているかの様な蒸気的なナニかが見えていた。
そして何かブツブツ呟いている声が……怖い。本当に怖い。
言葉に言い表せない気味悪さが二人から滲み沸いていた。
(…………さてと)
無視だ。見なかった事にしよう。
あの怖いオーラを出している二人は置いて、自分の嘔吐物の処理をまず考えよう。
そして視線をコートに伸ばした……が、
(無い!?俺の嘔吐物が消えてる!)
コート中を見回すが、自分が吐いた嘔吐物が見つからなかった。
(……ははっ、そうだよな、放置する訳がないか)
数十分も消えていたんだ。もう既に掃除してくれたのだろう。
この場で掃除をしてくれる人間で考えられるのは、
(お礼と謝罪に行くか)
ルーカスと話している運営スタッフを見つけ、お礼を伝える為に歩き出す。
「広樹くん、ちょっとストップ」
「ストップデス」
「へ?」
グイっと服を引っ張って止めたのは、背後に立ち並ぶエリスとメリルだった。
もしかして、吐いた事で何か言われる?
まだ心の準備が……
「作戦会議といこうじゃないか」
「作戦会議?」
「時間は一秒も惜しいんデス」
メリルの泣き出しそうな声音に、身体の向きを変える。
吐いてしまった失敗で何か言われると思ったが、話は全く別だった。
「ちょっと口裏を合わせるだけで良いんだ。後は広樹くんの言葉でスイッチが入る」
「スイッチ?」
エリスとメリルが背後に振り返り視線を伸ばす。
そこにいたのは表情の見えない少女達……
「…………スイッチって、何のスイッチですか?」
そして、白布に隠された瞳から『ギュポーン』と起動音を発する事となる。
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