第141話、エリス「喧嘩するほど仲が良いと言うが、この二人はどうなのかな?」
書きあがりましたので投稿します!
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「パンデモニウム……ね」
「怒らないの?汚名で呼ばれたのに?」
平然とする鈴子の態度に、詩織の中で疑問が生じる。普通であれば怒る筈だと思っていたからだ。
「フッ…怒らないよ」
そして鈴子は微笑みながら言う。それはまるで、小さな悪巧みをしようとする少女の顔つきで。
「もう私には…その汚名はそぐわない」
「そぐわない?それはどういう意味?」
「そのままの意味…私はもう…パンデモニウムじゃない」
その発言に詩織は溜息を吐き出す。そして思い出すのは鈴子の部屋事情だった。
「あのゴミ部屋に住んでいて、よくそんな事が言えるわね。まさか、お掃除代行サービスにお願いした?……いえ、引きこもりのアナタが他人に部屋を触らせる訳ないか」
「絶対に触らせないよ…他人にはね…フッ」
「っ、さっきから『フッ』って言ってるけど、何が可笑しいのよ?」
鈴子の繰り返される笑み息に、詩織はイラついた声音を作る。
だがそれに鈴子は動じず、何かを待ちわび、楽しむ少女の顔をやめない。
「可笑しいよ……だって」
「?」
一瞬広樹を横目でチラ見して、再び詩織の方に視線を向ける。
その動作を詩織ははっきり捉えていた。
「私の部屋はもう…ゴミ部屋じゃないから」
「…………へ、へぇ〜〜、掃除したんだ?」
唾を飲み込んでから詩織は言葉を返した。やや受け入れ難い事実が飛び込んだからだ。
「プロモーションに参加した意欲もそうだけど、やっと自分の生活習慣の間違いに気づけたのね」
苦笑いを浮かべ、嫌味を込めながらも、詩織は称賛を言葉を送った。
「でも、よく掃除なんて出来たわね」
「フッ……フフッ」
「?」
詩織の言葉を前に、鈴子は突然と顔を下に向けて小さく笑い出す。何も知らない詩織の言葉一つ一つが心をくすぐり続け、それが我慢の絶頂に達したのだ。
「詩織……確かに私の部屋は綺麗になった…でも、私が掃除をしたんじゃないよ」
「っ?どういう事よ」
「こういう事」
そして鈴子の両手が、近くにいた彼の片腕をガッチリ掴み取る。広樹の右腕である。
その姿に詩織の瞳が大きく開いた。
「まさかっ!」
「私の部屋は…綺麗だよ」
「クッ!……っ…………」
鈴子の言葉が、詩織の精神に火をつけた。
だが、一歩踏み込んだところで、詩織は高ぶる気持ちを必死に胸の内に抑え込む。
「どうしたの?殺気が消えた…」
火に水をひっくり返した様な、静まり返った殺意。その姿に鈴子は疑問を持った。
「…………ええ……そうね……消した。ちょっと私にも考える事があるのよ」
悔しさを宿しながらも、何か別の側面に考える顔つきで、詩織は平然とする仕草を見せる。
「考えるよりも先に手を出す。今までの私がそうだったから、今改めて整理すると分からなくなる」
「…?」
独り言を漏らすを詩織を見て、鈴子は不可解な気持ちを抱く。
数日前に船で戦った時の詩織と、今目の前に立っている詩織が、同一人物ではないと思えたからだ。
何かが違う。姿が同じでも、その中身が異なっていると直感した。
「……整理すると、分かるものね……フッ」
「っ?何を笑ってるの?」
鈴子ではなく、次に笑ったのは詩織だった。
それは先ほどに鈴子が見せた微笑みとそっくりで、詩織も悪巧みを思い付いた子供の様に笑っている。
「ええ笑えるわ。だってアナタがさっき言った事実が、どうしても笑えてしまうもの」
「それはどういう事?」
「こういう事よ」
詩織の視線が広樹に向いた。
そして淡々と質問をする。
「ねえ広樹、鈴子の部屋を掃除したのは本当?」
「え……ああ、本当……だな」
迷った口振りながらも、広樹は事実を証明する。それに詩織の笑みが増す。
「じゃあもう一つ……『鈴子の部屋を見てどう思った?』」
その言葉に鈴子が瞳を大きくする。その質問の意図を読み取ったからだ。
そして広樹は正直な気持ちを呟いた。
「『人間の住める部屋ではない』……と思ったよ」
「フッ!」
「っ!?」
詩織は勝ち誇った表情で鈴子を見下ろした。
「清々しい気持ちだわ。私は汚名に相応しい姿を見られてないけど、アナタの方はバッチリ見られているじゃない」
「くぅっっ!」
「綺麗に掃除されたとしても、『パンデモニウム』は広樹の記憶の中で永遠に生き続けるのよ!」
「詩織ぃぃっっ!」
────。
────。
ちょっとしたキャットファイトを見ている気がする。
詩織と鈴子だろうか。もし猫にしてみたらそう見えるかもしれない。このキャットファイトを猫にしてみたらきっと可愛いな。猫だけに。
ア○ルバンカーも気になるが、詩織の言っていたパンデモニウムは何となく想像できた。いや思い出してしまった。
(記憶の中で永遠に生き続けるのは確かだな。あの部屋は絶対に忘れられない)
それが純粋な感想だった。
大量のゴミ袋、汚れた容器、脱ぎ散らかった衣類、埃臭い布団、異臭を放つその他諸々……
……忘れよう。覆い被さった鈴子の記憶も含めて、頑張って忘れよう。
(それにしても…)
何故ここに詩織がいるのだろう?
鈴子は来る事を察していたと言うが、全く予想もつかなかった。
実は仲が良い?
船の戦いの時も喧嘩っぽく会話していたが、もしかしてお互いをよく知り合う仲なのではないかと思えてきた。
「広樹くん広樹くん」
「何ですか、エリスさん」
「ん?敬語?」
「いえ、もうこっちの方が落ち着けて…たぶんこの中で立場が一番弱いの、俺ですから」
但し、鈴子は除く。ゴミ部屋の主人であり、ゲーム依存者の彼女だ。
凄い部分を見た後だと恐縮してしまう自分がいるが、それでも駄目な部分が印象強い。
「それで何ですか?」
「ああ、この娘も広樹くん達の友達なのかい?」
「ええ。姫路詩織よ、よろしくね」
その質問に答えたのは、鈴子から視線を離した詩織である。
「実はこの娘と遊びに来たのよ」
そして握られたのは金髪青瞳の少女の右手。
オレンジ色の運動着を身に纏った、メリル・キャンデロロだった。
「ね、メリル」
「そ、そそ、そうデスネー!ハ〜イ!詩織と遊びに来まシタ!」
謎の殺気がメリルを包み込んでいる。
何故かそう見えた。
「本当に私は詩織と会場に来ました!リアルにバイクを炎上させてデース!」
ん?バイクを炎上?
メリルさんアナタは何を言っているのですか?
「なので内守谷さん!私は何も企んでいまセン!詩織の存在がアリバイデス!」
「…………」
考え込む素ぶりを見せる鈴子。
曲げた指で顎を持ち上げながら、ジィィ〜と詩織を見る。
「確かに……詩織が不利益に関わる事はない……」
「大体予想がつくけど、もしメリルが不利益を企んでいたら、私の手で矯正するわ」
「ヒッ!?」
「メリル・キャンデロロ……もし何か企んだら……私もヤルから」
「ッッ!!?」
メリルの顔から大量の汗が流れ落ちる。目の前にいる二人の言葉が、彼女の精神力をズキズキと限界まで削り尽くす。
「勿論デス!私は安全!良い子デス!何も悪い事をしまセンヨ!」
必死の弁明を叫ぶメリルにちょっとだけ同情する。
だって怖いもん。詩織と鈴子は。二人が組むとテロリストだって逃げ出しそうだ。
ベンガルとマンチカンって表現したけど、実際は喧嘩で大型客船を沈没させちゃう少女達だからね。そりゃ怖い。
「「…………」」
「本当デス!信じてくだサイ!どうしてオーストラリア支部なだけで疑われるんデスカ!そんなのオカシイデスヨ!間違ってマス!」
ああ、ちょっと本当に可哀想に見えてきた。
怖いけど、止めに入った方がいいのかな?
横から見ても、詩織と鈴子の眼の色が怖い。あれでジッと見られたら記憶に残りそうだ。
「ああ……詩織、鈴子?」
「「何?」」
「何でもないです」
「「そう」」
ごめんメリル。俺には無理だった。
心の中で謝るから、そんな命乞いをする瞳で見ないでくれ。
俺には荷が重過ぎる。
この世にこの二人を止められる人間なんて、いない──
「あの〜、ちょっと宜しいでしょうか?──ヒッ!?」
いきなり声を掛けてきた運営スタッフが、言葉の端で悲鳴を漏らす。
だがすぐに姿勢を正して、改めて口を開く。
そして詩織と鈴子も耳を傾けた。
「次のゲームの準備が整いましたので、ご案内をさせていただきます」
ゲームと聞いて一つ予想してしまう。
今自分が着用しているのは、運営側が用意してくれた運動着。
勝負に勝った後から、運営に着続ける様に言われていたのだ。
だからゲームと言われても、電子系じゃなく実技。
そして此方にいるのは、詩織、鈴子、メリル。
……あれ?詰んでる?
エリスは分からないが、もしあの三人の誰かを相手に戦う事になったら確実に終わる!
メリルがヤバかったもん!相手の顔面をわざと狙って気絶に追い込んだからね!
入賞者って何人までなんだ!?
もし二人以内だったら確実に死ぬ!
あの三人の誰かと当たったら、俺は絶対に棄権する!今決めた!
「それともう一つ、次のゲームに参加するのは、この場にいる五人のみです。他の部の方々は棄権しましたので──」
死んだ……
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