第139話、鈴子「私は内守谷鈴子…○○○○○○○じゃない…ア○ル・バンカーと一緒にしないで…」
書きあがりましたので投稿します!
よろしくお願いします!
「…………」
「…………」
「…………」
あれ?何この空気?なんで皆さん沈黙してるの?
「とりあえず自己紹介でも?」
重たい雰囲気を少しでも払拭しようと、適当な提案を打ち出す。だが、それを目の前に座る草色の髪を伸ばした少女が止めた。
「ねぇ広樹?この娘のこと、どこまで知ってるの?」
「え?」
質問の意図が掴めない。
どこまで知っているのかと聞かれれば、出会ったばかりで何も知らないとしか言えない。
だが一つ気になる点がある。
さっきから隣に座るメリルが、テーブルの下で激しく震えているのだ。そして頬には大量の汗が流れ出ている。
そしてその視線の先には、瞳に怪しい光を灯した鈴子が座っていた。
この状況から推測すると──
「もしかして…お知り合い?」
「会った事はないけど、そう」
鈴子の言葉で状況が一部飲み込めた。
だが待て、ではなんで鈴子の機嫌がこんなにも悪いんだ?今も鈴子は警戒態勢を漂わせる空気をメリルに放っている。
その理由が分からない。
「メリル・キャンデロロ…で合ってる?」
「は、ハ〜イ…合ってマ〜ス…」
「なんで此処にいるの?」
「っ、あ、遊びに来たんデスヨ〜。何か疑っているみたいデスガ、悪い事は何も考えていまセンヨ〜」
「……」
「信じてくだサ〜イ、本当に悪いことは考えていまセ〜ン」
メリルは震えながら質問に答えた。
だが鈴子の警戒心が解かれる気配はない。
そして鈴子は次に短文な質問を打つ。
「第五位なのに?」
「うっ…」
その質問にメリルは瞳を彷徨わせた。
第五位?…まさかね?
そんな筈ないよね?偶然にしては怖すぎるよ。
「偶然にしては…出来すぎてる」
「そ、そうデスネ…」
「第五位の肩書きだけで証拠になる」
「ううっ……」
メリルが顔を伏せて、思考を巡らせる様に沈黙する。
「……アリバイがないと、信じてくれまセンカ?」
「そう、アリバイが欲しい」
「……無いデス……あるとスレバ、最近私の支部が不祥事を起こして、不正に対してシビアになっている事くらいデショウカ……」
メリルはポケットから端末を取り出し、そこに情報を開いてテーブルに置く。
「コレが発覚してから校長はストレスで胃が限界になってマス。更に今は本部から調査官が来訪中……これでは足りまセンカ?」
弱々しい瞳で語るメリルに、ジ〜と画面を見る鈴子。
その二人を見ていた白髪幼女が、頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「私の知らない世界みたいだね〜。広樹くんは分かるかい?」
「分からないです」
幼女に敬語で答えてしまった。それほどまでに今は混乱している。
いや、たぶん知っている世界かもしれないが、信じたくない自分がいる。
第五位?校長?支部?不祥事?本部から調査官?
この言葉が察すると、隣に座る金髪少女の正体がとんでもない人間なんだと分かってしまう。
「メリル…さん」
「広樹?なんで敬語に戻したんデスカ?」
「少し距離を置かせて下さい……それと、ずっと軽々しく口を開いててすみませんでした」
「ちょ、ちょっト!大丈夫デス!私から頼んだ訳デスカラ!なに移動してるんデスカ!なんで正面側に座ったんデスカ!」
怖いからです!とは言えない。とにかく深々と頭を下げよう。
入国初日に鈴子が言っていた『オーストラリア支部には警戒』的な注意は忘れていない。
ちょっとずつ内容が見えてきた。
鈴子が警戒しているのは、オーストラリア支部からの接触。
そしてメリルがその刺客ということ。
え、本当に怖い。どんな偶然でこの娘をチームに誘っちゃったの俺。
こんなわざと罠にハマる様な真似を……ん?
「えっと、メリルさん?」
「敬語をやめてくれまセンカ?」
「ちょっとお尋ねしますが、どうして俺の誘いに乗ったのですか?」
「…………?」
メリルは疑問の表情を顔に出す。
「アナタが誘ったからデスヨ」
「ん?」
「へ?」
広樹とメリルの表情が重なる。
お互いが事実の本質に食い違い、求めている理解に辿り着けなかったからだ。
『メリルside』
・広樹の誘いに乗って、友好な関係を作る為だった。
『広樹side』
・運動神経の良さそうな参加者を選んだ。
それが大まかな理由だった。
そしてメリルは新たに言葉を付け加える。
「私は広樹と友好な関係を─「そうだと思った」ひっ!」
鈴子の殺意ある声音が、メリルの口から悲鳴を上げさせる。
「最初から誘惑が目的だった。私は最初から知っていた」
「う、内守谷さん!信じてくだサイ!これは言葉のアヤというヤツデス!」
「アヤもヤツも関係ない。広樹の誘導尋問で全てが証明できた」
「ゆ、誘導尋問!広樹!アナタは私を利用したんデスカ!?」
あれ?話の流れが変わった?
「最初から全て計算シテ、私の友好関係を作ろうとする気持ちまで利用シテ……」
え、なんで涙目?ちょっとおかしくない?ねぇ?俺が悪代官みたいなポジションにいるのは気の所為だよね?
「全て計算づく。此処に連れて来られた時点でアナタの敗北」
なに計算づくって?
本当に何も考えてなかったよ?
「特別に選ばせてあげる…」
あれ?鈴子の片手に何か集まってる?テーブルの下で何をしているのかな鈴子さん?
「今から尻尾を巻いて帰るか…」
ッッ!?
鼻が痛い!なんだコレ!
まるで中年男性の体臭を濃縮させた様な刺激臭が鈴子の手から!くっせぇええええ〜〜!!
そしてエリス!なんで洗濯バサミを常備しているの!?鼻を摘んでいるソレ、俺にも一つ貸してくれ!
「凄い手品だね。日本の100円ショップのジョークグッズかい?」
いいえ!鈴子の能力100%です!こんな危険な能力だったなんて知らなかった!
ちょっと明日から距離を置きたい気持ちになったよ!
「それとも…病気玉を顔でくらう?」
「ヒッ!?」
そして鈴子の脅しは続いていた。
涙目で震えるメリルの前には、刺激臭を充満させる玉を片手に浮かべる鈴子がいる。
「きっと酷い事になる……早く帰らないと、もっと濃縮になっていくよ」
「かっかかかっっ帰るのはちょっト!難しいといいマスカ!」
「じゃあ」
「え」
立ち上がった鈴子の姿を見て、メリルの顔に死相が浮かび上がった。
鈴子が掲げるのは、黄色い靄が渦巻くボーリング玉大の球体。
汗と涙を流してきたオタク達の分泌気体が、鈴子の誘導改変によって会場中から集められ、色彩を宿した固形化を成したのである。
「さよなら」
女の子が顔にくらえば即死。(かもしれない)
鈴子はそんな悪臭の塊を、躊躇なくメリルの方に向かって投擲しようとする──が、
────「そこまでよ」
鋭く透き通った声と共に、鈴子の片腕が背後から握られた。
メリルと広樹が驚愕する中、鈴子は能面を被った様な無表情で、背後に重い声音を紡ぎ出す。
「やっぱり…いると思った」
「へ〜、そう思った根拠は?」
「船で交わした全て…それがこの状況を予想させてくれた…この妖怪、接着剤」
「だったらアナタは妖怪引きこもりよ」
両者の声音に怒りが入り始める。
他人にする態度ではなく、悪友感を感じさせる空気が二人の間にあった。
メリルと広樹がブルブル震える中、背後に腕を掴まれた鈴子は振り解こうとしなかった。
抵抗せず腕を掴まれたまま、少女は無表情にぼそぼそと言う。
「ア○ル・バンカー」と、
相手に付いた、ふざけた汚名を口にした。
その発言に掴む者の握力が膨れ上がる。口を微笑ませ、額をピクピク走らせ、苦笑いをしながら右手に力が注ぎ込まれる。
「へぇ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「む……」
そして鈴子も抵抗した。
悪臭を集めていた能力を解き、人体強化に切り替えて掴まれた腕に力を込める。
背後の者には絶対に屈しないと、掴まれた腕を解かないまま、単純な力量のみで対抗する。
本当に単純な人体強化のみの力比べ。意地と意地のぶつかり合い。
少女達は大きく動く事なく、片腕と片手のみで争っていた。
「臭い、それで思い出したわ。そう言えばアナタにも汚名があったわね?」
「!」
「アナタが私をそう呼ぶ様に、私もそう呼んであげる──」
掴まれる鈴子がそうした様に、小さく細い声音で言葉に出す。
「悪臭の集め手──『パンデモニウム』」
読んでくれてありがとうございます!
ようやく詩織と広樹が再会する展開に到着しました!嬉しいです!そして鈴子版の二つ名も書けました!
初登場の時にあったゴミ部屋と、脅す時に使う能力の使い方から『パンデモニウム』にしました!本来は『悪魔達が住む都市』の意味で、過去の鈴子の部屋と、病気玉にぴったりだと思いました!
これからもよろしくお願いします!次話も頑張って書きます!