第138話、詩織「行けぬなら、みんな倒して、ホトトギス」
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
『──やん〜で〜れの〜、かな〜た〜へと〜』
「ん?鈴子?」
鳴り響く着信音に、その電話の主が誰なのか察する。
きっと向こうも試合が終わったのだろう。そう思いながらスマホを取り出して、画面に映し出された名前を見る。
「広樹?その曲は?」
そこから流れる独特の歌が、メリルの興味を引いたみたいだ。
「ああ、斉木に……友達に勧められた曲なんだ。ちょっと設定してみた」
「どこかのアニソンみたいデスネ」
「アニソンなんだよ。ちょっと前に『今のお前にピッタリだ』って言われて……俺ってアニメ好きに見えるのか……?」
少し落ち込む。
斉木とアニメの話をした事はない筈なのに。
イベントの終幕後にした連絡も──
──『なあ、お前の好みってどんな娘なんだ?部屋に閉じこもる根暗っ娘じゃないよな?な?』と、
何故か女性の好みを聞かれたくらいだし……
なんでこの歌を勧めてきたのか、もっと理由を問い詰めていれば良かったと今になって考える。
今日の夜にでも連絡して問いただそう。ついでにオーストラリアに旅行している事も教えてやろう。
お土産も頑張れば渡せそうだ。買って帰ろう。
『──脆弱の、き〜みに〜』
「っと…」
長く待っている鈴子に悪い。
メリルに『すまん』と断って背を向ける。
「もしもし……ああ、無事に終わった──」
────。
「やんでれ?なんでしたっケ〜、聞いた事のある様ナ〜、う〜ん?」
やんでれ?病んでれ…ヤンデレ?
確か日本アニメで聞いた事があった言葉だった。
広樹は『ヤンデレ』という何かが好きなのだろうか?
「……後で詩織に聞きまショウカ」
広樹が電話をする背後でボソッと呟く。
彼女ならきっと知っているだろう。そんな予感がとてもする。
そしてここで一旦この興味は胸に仕舞おう。
とりあえず状況確認をする。
・イベント会場からの退場を無事回避。
・広樹が演技を継続中。
・広樹の演技に便乗して本音を語らず、自然の流れで共に行動。
よし、ここまでは大丈夫。それと次のシナリオも考えられた。
・詩織と接触して『詩織と遊びに来てたんデスヨ』と打ち明けて、偶然の再会を演出する。
詩織と広樹は仲が良い筈。詩織は彼に絶大な信用を寄せて、彼は詩織に気遣う態度を見せていた。
崩落した施設内で『何か手伝う事はないか?』と詩織を気にかけていた。その光景から関係は良好だと推測できる。
「これでプランは完成デスネ」
早く詩織に連絡しよう。
彼女のことだ、きっと既にゲームを終わらせて広樹達の捜索を続けているに違いない。
詩織の番号を開いて、呼び出しボタンを押す。
「……ヤンデレ〜」
違う。もっとテンポがゆっくりで、そして暗く…
「ヤン〜デ〜レの〜、かな〜た〜へと〜」
さっそく頭に染み付いた。
新しく覚えた歌を口ずさみながら、詩織が連絡に出るの待ち望む。
そして数秒、
「……詩織?……詩織!」
見えたのは人間要素を思わせない黒い怪物。その中に詩織がいる事は、メリルだけが知っていた。
「詩織ー!こっちデ〜ス!……ん?」
詩織が背中を向けて遠ざかっていく。
「詩織〜!『──もしもし、メリル』Wow!」
端末から聞こえたの声に肩を跳ねらせる。
忘れていた。詩織に声を送っている最中も、スマホから詩織を呼び出していたのだ。
『色々と聞きたい事があるけど……その前に、ゲームに勝ってくるわ』
あれ?なんか怖い…
「そ、そうデスカ。まだ終わってなかったんデスネ…」
『心配しないで。大丈夫だから。すぐに終わらせてくるわ』
「が、頑張って下サイネ〜」
『ええ頑張るわ。頑張る目的がもう一つ増えて……手加減無しでヤれそう』
「し、詩織?」
『──を見てると、頭が痛くて、胸が苦しくて、ギスギスしてムカムカして、全身から力が込み上げてくるのよ……』
最初の声が聞こえなかった。だが、段々と詩織の声音に違和感を感じさせた。
『だから勝ってくるわ。そして必ず、そっちに向かうから』
「は、は〜イ。わ、分かりマシタ〜…」
「じゃあね。メリル」
ブツッと、スマホから音が途絶える。
底知れぬ恐怖があった。詩織の言葉一つ一つに怖いナニかを彷彿させた。
その正体に気づけぬまま、メリルはスマホをポケットにしまう。
そして振り向くと、そこにはまだ会話中の広樹がいた。
「分かった。じゃあ待ち合わせ場所で」
広樹も電話を切って後ろに振り向いた。
「これから友達と待ち合わせるんだけど……」
彼は言葉を詰まらせる。きっとこの後の言葉は私が言わないと進まない。メリルはそう思って口を開いた。
「一緒に行ってもいいデスカ?実は知り合いが別の人と組んだみたいで、終わるまで暇なんデスヨ」
「それじゃあ」
詩織とは逆の方向へと、メリルは足を向けた。
────。
そして数十分後の後日談……ではなく、二度目の後事談である。
「おい!男三人が泡を吹いて倒れたぞ!」
「なんだあの日本人少女は!敵味方関係なしにぶっ倒しやがった!」
選んだのはバレーボール。
能力で作った筋肉細胞を脱ぎ去り、色香を感じさせる運動着姿でコートに立った。
2ゲーム先取のルールで試合は開始。
それがたった1ターンで勝負は決着した。
「あの少女!相手のサーブをレシーブしたかと思えば!」
「味方の顔面にストレート決めて頭上に打ち上げやがった!」
詩織の放った豪速球が、待ち構えていた味方の頭部を直撃。
味方の鼻血が染み込んだボールがネット上に高く飛んだ。
「そして爆音を轟かせた殺人スパイク!目にも止まらないボールが相手の一人をエンドラインの外に吹き飛ばした!」
「そしてボールが少女の頭上に跳ね戻って来たのが運の尽き!」
二人目の鼻血が染み付いたボールが詩織の真上に飛来する。
そして詩織はバックステップを踏んで、最適な距離から高く飛ぶ。
「そして二度目の殺人スパイク!既に背中を向けて逃げていた男の後頭部に直撃!倒れた男から血の池が今も広がっているぅぅう!」
「コートが血と泡の地獄だ!誰か!医療班を呼んでくれぇええ!メディィイックゥウウウ!!」
恐怖と悲鳴を背にしながら、詩織は染まった瞳で歩き出す。
敵も味方もない。欲しかったのは確実な勝利のみ。その為なら誰であろうが贄にする。
そんな意思を感じさせる佇まいに、誰もが一人の人物を思い出し、心の中で絶叫と共に震えていた。
(((に、日本から!第六天魔王がやって来たぁああ!!)))
ゲームにも登場する残酷無慈悲の大武将、織田信長。
その禍々しい姿を、歩き去る詩織の背中に幻影として浮かんでいた。
読んでくれてありがとうございます!
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