第137話、榛名「こんな事って……」博士「あとは広樹くんに任せよう……」
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
「あの〜博士?」
「何かなぁ榛名くん?」
「これは一種の体罰だと思うのですが」
榛名はデコボコの木板に正座させられていた。十露盤板と呼ばれる三角形の木を並べた拷問台である。
その理由を求める言葉に、腕を組む博士は溜息を吐き出した。
「分からないのかい?」
「まったくこれっぽっちも」
「十露盤板じゃなくてぇ、この電動足つぼマッサージ台に乗せてあげようかぁ?かなりの激痛だよぉ?」
「ごめんなさい。ちゃんと反省していますのでやめて下さい」
激しくブルブル音を鳴らす台を見せられて、榛名は十露盤板の上で土下座する。
「詩織についてですよね〜…でもあれは」
「精神が不安定な状態だったからかい?…でもそれ以前の問題だと思うんだよぉ?」
「それ以前?」
「私や校長に緊急連絡を回すべきだったねぇ。私が言いたいのは、君の足りなかった行動力の事だよぉ」
「あぁ〜〜」
「まったく君って娘は…」
パサッと、榛名の前に数枚の資料が置かれる。
「これは?」
「詩織くんのデータだぁ。意識が覚醒した瞬間のねぇ」
「へ、へぇ〜」
「君は知らないと思うがぁ、少しまずい状態になっているねぇ」
「へ?まずいんですか?」
「ああまずい。こんな状態で外に出すなんてぇ、もう大変だよぉ」
博士の意味深い雰囲気に、榛名はゆっくりと資料を拾い上げる。
「…………っ!これは」
「手遅れにならなければいいんだけどねぇ……まぁ向こうには広樹くんがいる訳だし……何とかなればねぇ……いやぁ、難しいかなぁ……」
「……」
「今の彼女の精神は不安定だぁ。彼女が彼女じゃなくなったらぁ、君だって悲しいだろう?」
─────。
白髪の幼女に連れられて、広樹と鈴子が人混みに姿を消した。
「くっ、見失ったわ」
五感を強化して広樹を追跡しよう試みようとするが、目の前に広がる光景に実行不可能を余儀なくされた。
「視覚は無理。聴覚も、嗅覚も…」
人口密度が高く、様々な音と臭いが入り混じった空間内で五感強化は意味を成さない。
一度見失ってしまったら、探し出すのは極めて困難だった。
だが見つける手段はまだ残っている。
確実に見つかる方法が…
「広樹に連絡を……でも、それは……」
別に隠れる必要はない。後ろめたい事もない。
自分を助けてくれた広樹に早く会いたくて、此処まで手段を選ばずに突き進んで来ただけだ。
メリルにも宣言した筈だ。『隠れて尾行する必要はない』と。
…………それなのに、
「……」
長蛇の列を並んでいた時間に、ずっと求めていた広樹にようやく会えた。
その瞬間からだ。
心に小さな迷いが生じ始めたのは…
「なんで私は……こんなにも……なって」
メリルと逸れて一人になった所為なのか。
何かが途切れた様に声音が沈み始める。
「銀行の時から……」
ふと、広樹と最初に出会った時の記憶が蘇る。
油断し、危うかった自分を助けてくれた広樹の姿。
その日から自分は変わり、彼をひたすら追いかけ始めた。
「彼の学校で鬼ごっこをしたり、辛いラーメンを食べてお腹を壊したり……」
他にもまだある。彼と求めて起こした行動が。
そして掠れて見失ってしまった。その行動に走ってきた気持ちの正体を。
「能力の形が変わったから……なのかしら」
能力の仕様が変化し、自分の精神にも影響を及ぼした。
そう考えれば納得できてしまう。
不明点の多かった己の能力が、今では完全な制御下にある。
命令すれば好きな形になる細胞の集合体。
それが黒棘出現の完成形なのだと目覚めた時に実感した。
そして能力の不安に駆られていた自分が消え、新しい自分へと変われた。
その新しい自分が広樹に何を求めている?
「…………鈴子と、メリル」
思い出す。彼女達は自分の気持ちをそれぞれ代弁していた。
正解も不正解も分からない回答だったが、今それが私には必要だった。
イベントの時に鈴子が己に唱えてきた『広樹を求めた理由』。
それにはっきりとした回答はない。
ただ広樹を求めていたからだ。
そこに明確な理由はなく、『強さを求めたい』『彼から学びたい』『彼の姿を見たい』『彼の思考を知りたい』、『彼の近くにいたい』と、自分を見失うほどの曖昧な意思の数々。
理由の集合体。明確な言葉では表せない理由の山。
その結果として、広樹の近くにいれば全てが集約すると結論に至って行動していた。
メリルが己に唱えてきた『広樹への気持ちの正体』。
今考えると、それは一言で答えるのなら『分からない』と言ってしまう。
彼女は『恋愛感情』と言っていた。
そんな甘い気持ちは抱いた事がない。今までの努力の弊害が成した経験不足。
その結果が感情理解に乏しい自分を作り上げたのだとしたら、今までの自分を自己嫌悪と共に笑ってしまう。
本当に恋愛感情なのか?
もし戦闘力を磨く事以外にも時間を費やしていたならば、その答えが見えていたのかもしれない。
好意はある。嫌悪はない。
だが恋愛としてかは分からない。
例え方が見つからない。
最初、メリルには『宝物』と伝えた。
だがそれは私の人生が作り出した感情論の答えに過ぎない。
だとすれば、普通の感情論に従えば何?
普通の感情論を照らし合わせたら、私は広樹にどんな気持ちを抱きながら、あんなにも強く執着してきた?
どうして今も彼に執着している?どうして離れられない?
私にとって『荻野広樹』とは何?
分からない分からない分からない──
……………………。
分からないわ、メリル。
やっぱり明確な言葉が出てこない。
でもね。これだけは分かる。
私は『広樹が誰かと仲良くしている光景』が嫌なのよ。
心がギスギスするの。締められたように苦しいのよ。
だからメリル。
どうして……ねぇ、どうして?
どうしてアナタが──
広樹の隣にいるの?
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