第136話、メリル「このマフィア衣装は通気性抜群なんデスヨ!マフラーも冷たさを感じさせる特殊繊維で作られてマス!」
遅くなって申し訳ありません!
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
「不味い…」
運営側による参加者を追い込む策略が、己に不快感を与えていた。
主に今飲んでいる無料配布の野菜ドリンクによって、
「どうして濃い飲み物しかないんだ?しかも超濃厚だし」
濃厚トマトジュースを口にしながら疑問を吐く。
会場には緑色や人参色、黒色などの濃い色をした野菜ドリンクしかなかった。
そしてこれが運営側の作戦だと思考に過ぎる。
『健康100%の野菜ドリンクを飲め!』と言わんばかりに、とにかく濃い色をした野菜ドリンクしか用意されてなく、嫌々と思いながら飲むしかなかった。
その理由が、
「そして暑い」
会場が暑いのだ。喉が干からびるくらいに暑い。
人口密度の原因もありそうだが、運営側が暖房を入れていると思えるくらいに蒸し暑い。
「暑さと野菜ドリンクのコンボ……絶対に運営側の策略だろ……」
汗を大量に出させて、野菜ドリンクで補給。
身体に矯正を施されている様に見えて、かなりの拷問。
運動と野菜ドリンクは絶対に相性が悪過ぎる。
ウォーターサーバーやスポーツドリンクくらいは用意してくれてもいいんじゃないか?と思うが会場内には見つからなかった。
「とにかく相手を探して、勝たないとな」
空になった容器をゴミ箱に入れる。
鈴子に堂々と勝利宣言をしたのだ。もし退場になってしまったら、後で色々と恥ずかしいし何故か怖い。
気持ちを固め直し、相手を探し始める。
とりあえず組む相手は選別したい。誰でも良いとなると勝てる見込みは薄くなる。
勝率を考慮して、運動ができそうな体型を持つ参加者に狙いを定めた。
だが、
「見つからない。そりゃそうか」
このイベントに参加する人間の特徴は、『椅子に座り続ける系』がほとんどである。
パソコンと向き合ってきた参加者ばかりで、スポーツに適した参加者がほぼ皆無だった。
「誰かいないか?…………ん?」
マフィア?
最初に思ったイメージがそれだった。
背後から見える長い金髪。振り向きざまに見えた青い瞳。
黒いコートと赤いマフラーの暑苦しい姿をした女の子。
だが、人混みをかき分けて歩く姿は、他者と比べてきめ細い。なんとなく平均並みの運動神経は期待しても良いと感じた。
「よし」
声をかけよう。そう思って彼女の方へと向かった。
────。
(私は最低デス)
運動着姿のメリルは落ち込んでいた。
詩織と組むと決めていたのに、心変わりをして広樹と組んだ。
その事実が自己嫌悪に繋がっていた。
(でも約束をしていた訳ではないデスし、問題はないデスヨネ…)
己に言い訳を言い聞かせて、ベンチから立ち上がる。
この機会を有益にできれば、良い関係からスタートできる。
幸いにも広樹は私の事を忘れていた。作戦で一度会っているのだが、その時の接触を覚えていなかったのだ。
それをメリルは利用した。偶然を装った関係の再構成。
これで仲良くなれば、新たな情報も聞き出せて、さらに共に行動できるかもしれない。
詩織には悪いが、メリルは有益なチャンスを見逃さなかった。
「準備は大丈夫ですか?」
「大丈夫デス。それと敬語はやめまショウ。私はフランクが好きデス」
「えっと……じゃあ、よろしく。メリル」
「よろしくデス広樹。まだ癖のある日本語デスので、間違ってたらごめんなさいデス」
考えてみれば、私の未熟な日本語も敬語かもしれない。
自分の言葉を棚に上げてしまうが、この広樹から敬語で話されると少々混乱する。
一度救われている訳なので、恩人に下から見られると微妙な気持ちになる。
そんな気持ちを払拭しようと軽い会話を頼んだ。
「じゃあ、どっちがいい?」
「決めてもいいんデスカ?」
「まあ、どっちを選んでも変わらなそうだしな」
「…………では、私がキーパーをしマス」
「分かった。役割交換は一回までだが、苦しかったらいつでも交代を頼んでくれ」
「了解デス」
そしてホイッスルが鳴る。
選択したのは『サッカー(PK)』。
2点先取すれば勝利の速攻戦。
事前に決めた役割分担を従う。
その役割の交換は一度まで。
やや厳しいルールの下で戦いは開始した。
そして、
────。
20ターンが経過。
広樹とメリルは攻めあぐねていた。
その理由は、
「キーパーが硬いな。まぁキッカーの方は…」
「あの若さでは良い方だ。てか、お前の蹴ったボールが女の子に止められるってヤバイだろ」
「そう言うなよ。手加減しないと、もし間違いが起こったら目も当てられない」
それは相手選手の会話。
サッカーを熟知したかの様な姿勢と口振りは、まるでプロサッカー選手を思わせるほどだった。
てか、
((やっぱり観たことある(ル)!?あの二人!))
広樹とメリルは唖然していた。
贅肉やモジャ感が全くない男性ボディーと、磨き抜かれし引き締まった筋肉。
それはプロが持てる努力の結晶。
そして顔にも見覚えがあった。
プロのソックリさんだったら笑いネタで済んだが、もう笑えない状況である。
もう動きからしてネタじゃない。そう実感させるプレイを彼等は見せていた。
────。
(はは、笑えてきたぜ)
もう地獄だった。
何度蹴っても止められる無理ゲー。勝てる見込みがない魔王を相手にしている気分だ。
だが本当に地獄なのは、ここで負けた後の事だ。
数十分前に自分は鈴子に何を言った?
『すぐに片付けてくる(キメ顔)』
恥ずかしい!!これで負けて帰ったら死ぬほど恥ずかしい!!
なんで余裕ぶって勝利宣言しちゃったんだ俺!
だってしょうがないじゃん!相手が完全にプロ並みじゃん!
脂肪が多い相手を予想していたら、とんだ裏切りだったよ!
オークが出ると思ったら魔王だもん!魔王の降臨だよ!
誰が予想できるかこんなもん!
間一髪でメリルがゴールを死守しているが、俺のシュートが全く入らない!
そして恥ずかしい!ペアを組んだ女の子に支えられている男ってこんなに恥ずかしかったの!?
これはこれで拷問だよ!もう周囲の視線が冷たいし!
負けて地獄、続けても地獄。なにこれ!?
「…………はは」
本当に笑えてくる。もう詰んでいる勝負だ。これ以上続けてメリルがサンドバックにされるくらいなら、もう負けても良いと思える。
これ以上冷たい視線に晒されたくない。そんな気持ちが込み上げてくる。
だから、
「メリル」
謝ろう。実力が足りなくてすまなかったと。
「すまな─」
「広樹、交代して下サイ」
「…へ?」
「私がキッカーになりマス。構わないデスカ?」
迷いのない真っ直ぐな提案。
メリルの真剣味を帯びた雰囲気に、俺はつい首を縦に振ってしまう。
「では、再開デス」
────。
(まさか、これは……)
私は気づいてしまった。何故こんなにもPKが長引いているのか。
相手は間違いなく強者だ。それもサッカーを極めているアスリート。
きっと運営側が呼んだ助っ人であり、無理難題の試練を参加者に押し付けているんだろう。
でも相手が強者だとしても、私はそれなりの運動神経を有している。戦闘力を使わなくても、ぎりぎりの応戦は出来ていた。
だが……
(何故、勝利を決めないのデスカ?)
広樹が淡々と勝利を得ないのだ。
前の合同任務では、彼は誰にも成し得ない活躍をしてみせた。
そんな彼だからこそ、戦闘力を使わなくても高い技術と運動能力を習得していると思っていた。
だが彼は決めない。
既に20回も蹴っているが、一向に防がれているのだ。
そして違和感を感じた。
彼が僅かに作った『微笑み』を、私は見逃さなかった。
笑っている?こんなにも延長戦が続いているのにどうして?
(……っ!?)
そして気づいてしまったのだ。
この一連の流れ全てが、広樹による策略だと。
彼は最初から私の監視に気づいていた。故にチームを組んだ。
恐らく彼は、自分の身を引き換えにしてでも、私を会場から追い出したいのだ。
その理由は当然、もう一人の監視対象である内守谷鈴子から監視を切り離すため。
彼等の企みの重要人物は内守谷鈴子であり、彼女の邪魔をさせないために、彼は囮になり餌になったのだとすれば合点がいく。
私はまんまと騙されていた。甘い餌に食いつかされていた。
そして一度始まった勝負を切り上げるのは不可能。
故に残る手段はただ一つしかない。
「すまな─」
「広樹、交代して下サイ」
強めた雰囲気を身に纏って、私の意思をきっぱり伝える。
彼は宣言していた。『交代してもいい』と。
恐らく私が女で、ゴールキーパーをさせるのは周囲の視線から厳しいのだと社交辞令を放ったのだ。だが全てが嘘だった。
あの『どっちでもいい』や『交代してもいい』の全てが、私を欺く罠。
下手に出て行使権を譲っていたと思わせて、始めから彼が行使権を独占。
既に私は、彼の手の上で遊ばれていたのだ。
だが!まだチャンスはある!
「私がキッカーになりマス。構わないデスカ?」
彼は提案を断れない。既に『交代してもいい』と伝えているのだ。だが、それは彼の計算内でもある。
既に私は詰まされている。勝負はPKで2点先取。
片方が勝っても、もう片方が裏切れば終わらない勝負になってしまう。
故に役割を交代しても、彼が動かなければ詰んでいる。
だが、まだある。
この戦いで勝つ方法が!
────。
40ターン目が経過。
幾度となく蹴り放ったメリルのボールは、相手の巧みな動きによって防がれていた。
そして広樹の場合は、
「はぁ、はぁ」
汗を流して下を向いていた。
キーパーになっても、一向に相手選手に翻弄され続けて、既に満身創痍の状態である。
だがメリルは何も思わなかった。
(こんなにも演技にクオリティーを?流石は大人達を騙してきただけありマスね)
彼は数年間に渡って戦闘学を騙してきた男だ。故にどんなにボロボロになろうが嘘だと分かる。
メリルの目には、演技をしている広樹にしか見えなかった。
(でも、もう感覚は掴みマシタ)
最優先に考えなければならないのは『監視任務』の継続。
その為なら…
五感強化──視覚・聴覚・触覚を、ボールを蹴る為だけに最適補正…
20ターンをかけて最適化を繰り返した『ボールを蹴る為だけの特化強化』
もう反則でも何でもいい。
もしかしたら、この流れ自体も彼の計算通りなのかもしれない。
私の技能を確かめる為に、この活路を残していたのかもしれない。
だが、これしかない。
人体強化──運動能力強化。
もうヤるしかないんだ。この勝負に勝つ為には。
どうか、この一撃で、
「いきマス!」
日本語で高らかに宣言をする。
正面にいるキーパーには意味が届かなかったが、その声音から感じる闘志だけは伝わっていた。
「来い!何度だってお前のボールを受け止めてやる!」
相手は男顔と共に、強さ溢れる構えを見せる。
そしてメリルは、その相手の──
──顔面を狙って『達人シュート』を蹴り放った。
「逝ってくだサイ!!」
音を置き去りにする音速のシュート。どこかの映画でありそうな風の乗った華麗なシュート音。
尋常ではない回転と共に、斜めの曲線を描いたメリルのボールは、相手の反応速度を超えて、『グシャア!!』と、無防備な側頭部を的確に打ち抜いた。
その回転は相手キーパーの耳元を焼いて、跳ね返ったボールがゴールネットに音を鳴らす。
そして相手キーパーはというと、
ドサッ……
「N、NooOOOO!!?」
相手の仲間が絶叫する。
メリルのシュートによって一人のキーパーが、
「ま……」
キーパーが……
「まだ……」
キーパーが、
「まだだ」
震えた足で立ち上がる。
焦げついた側頭部に手を当てながら、彼は男顔で正面を向いた。
「良いシュートだったぜ……だが、まだだ!」
────。
50ターン目が経過。
「もうやめてくれぇえ!!なんで!どうして!」
「邪魔をする…な……相棒……俺はまだヤレる……カハッ!」
「もう顔面がボロ雑巾じゃないか!そんな顔になっても続けるのか!」
「…ああ、続ける……キーパーがゴールを譲ったら……俺はキーパー失格だ……だから、逃げる訳にはいかないんだ……」
脱皮に失敗した蛇みたいな顔になりながらも、彼は信念を貫いていた。
幾度となくメリルの達人シュートを受けて、側頭部を焼かれたというのに、彼は立ち上がり続けている。
そんなになってでも彼を動かし続けているモノとはなんだ?何が彼をそうさせている?
きっとそれは、サッカーを愛する熱い─
「だって、女の子が蹴ったボールなんだぜ…」
仲間の予想を裏切る言葉が出てきた。
「もう天国なんだ。快感なんだ。止まらないんだ」
頬を赤く染めながら、甘息を蒸気させる。
その瞳には少女の生足しか映っていなかった。
「こんな機会は…もう…こない……だから!」
「…………あ、ああ…」
頭を打ち抜かれておかしくなったのか?
そんな疑問が過ぎる中、傷だらけになった彼は少女の方に向いた。
「俺は……止まらねぇからよ」
一歩踏み出して言う。
頬に血を流しながら、
逝く一歩手前の顔で、
真っ直ぐな決意を込めて、
彼は夢を見る瞳で少女を見た。
「お前がボールを蹴り続ける限り……その先の快感を俺は求めるぞ!」
「ひっ!?」
金髪のあの娘が怖気つく。
瞳孔が開き、一方後ろに下がって、不気味なモノを見る瞳で口を覆う。
そして、バサッと、彼は地面に沈んだ。
「だからよ……止まるん……じゃ……ねぇ……ぞ……カハッ──」
────。
こうして、相手選手の気絶によって、戦いは終幕した。
読んでくれてありがとうございます!
今回はかなり危ないシーン(相手選手の気絶する前の言葉)を書きました!ギリギリだと思いますが修正する可能性があります!よろしくお願いします!
それと明日、次話を投稿しようと考えています!
どうかよろしくお願いします!