第134話、鈴子「こんなっ…苦しいっ…スポーツだったなんてっ」エリス「どれを選んでも苦しかったさ」
書きあがりましたので投稿します!
よろしくお願いします!
天草愛は校長に問うた。
「校長、以前に統括長の事について教えてくれると言ってくださいましたが」
「ああ、そうだったね。じゃあ規則に抵触しない範囲で教えようか」
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「くっ!」
緑色玉が飛び交うフィールドで、
「んッゥ!?」
少女は嗚咽を吐きながら、
「ぁぁ!」
白線に膝をついていた。
「鈴子ちゃん、大丈夫かい?」
「はぁはぁっ……んっ……うん」
顔一杯の汗を流す鈴子。
片手に白いラケットを強く握りしめ、かすり傷ができた脚に力を込める。
「広樹くんには任せろと言ったが、少し舐めていたね」
エリスは下げた声で独り言を呟き、立ち上がったばかりの鈴子に声をかける。
「鈴子ちゃん、まだやれそうかい?」
「う…ん……まだいけるっ……」
「死ぬ寸前みたいな顔で言われても……」
戦力外の少女と、そこそこ上手い幼女。
シングルスであれば分からなかったが、戦力外を抱えながらタブルスコートで走り回るのは、身体が短いエリスには大きな不利があった。
そんな状況が続き、あっという間に3ゲーム先取勝負のテニスで既に2ゲームを奪われて負けていた。
「プレイの再開は出来そうですか?」
審判の言葉を聞いて、鈴子は焦りを見せながら首を縦に降る。
そして汗まみれの手に蛍光色のボールが握られた。
「私の、サーブ……」
ボールを握った左手が震える。
次のゲームを取られれば試合は終わる。
そのプレッシャーが鈴子の精神に重くのしかかっていた。
「私は……」
「鈴子ちゃん。一つ聞いてくれ」
そのボールに手を添えて、エリスは鈴子に語りかけた。
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「あの人は他者の心を操るのに長けているんだ。持っている情報を全て活用して、最適解の言葉で人間の思考を歪ませる」
「説得技術が高いという事ですか?」
「いや、そんな生半可な言葉では片付けられないよ。あの道化は」
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「諦めていないか?」
「っ」
エリスの一言に、鈴子は呼吸を止める。
「既に闘争心が見えない。今の君からは、全てを出し切ってやろうとする気概が感じられないんだ」
「……」
「私は全てを出し切る。彼と約束をしたからね。君を預かると、良い働きをしてみせると……だが、私は結果を出せなかったようだ」
「っ!違う…私が…」
「時間がない。サーブをしてからは、私が何とか試合を支えよう。時間も稼ぐ。その間に鈴子ちゃんは少しでも体力を回復してくれ……そして願わくば、後悔しない最後で終わらせよう」
そう言って、エリスは鈴子に背を向けて、前衛につく。
「君達はテニスが上手いんだね」
エリスが言葉をかけたのは、戦っている相手にだった。
「こんなイベントにまさか、君達みたいな」
脂肪ではなく筋肉。
横幅よりも縦幅が大きい。
そして相手を翻弄するコンビプレイの数々。
「プロみたいな人間が参加しているとは」
彼等が素人ではないと見破って、エリスは相手を揺さぶる行動に出た。
「偶然だ。俺達はゲームが好きでね。試合や練習が終わった後はゲーセンに通う毎日さ」
「ほほぉ〜ちなみに好きなゲームは?教えてくれないと(暗い場所で君達に『ピーー』されたと泣きながら──)」
「なっ!?」
微かに聞こえる声で、エリスは幼い顔を強調して脅す。
「(幼女愛好家テニスプレイヤーとは呼ばれたくないだろう?なぁに負けてくれとは言っていないんだ。ただゲーセンでどんなゲームをやっているのか、それを教えてくれさえすれば、私はこれ以上言わないよ)」
「太鼓を叩くゲームだよぉお!ほら!ドンドンするアレ!日本から導入されたゲーム!」
「確かにあるね。でも、好きだったら名前くらい忘れないだろう?」
「と、当然さ!忘れるわけないだろ!」
「じゃあ名前は何なんだい?」
「そ、それは……た、た、太鼓の……」
「太鼓の?」
「太鼓の……太鼓の……っっ」
「コラっ!無駄話をしてないで試合を開始しなさい!」
「チっ」
審判の注意に、エリスは小さく舌打ちをした。
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「能力ではなく身で翻弄する。姿、声音、雰囲気を使ってね。まるで子供を騙す親の様に……いや」
「?」
「現代に生きる人類は皆、あの人にとって赤子同然だったか」
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「あの幼女、かなり根強いぞ」
「ああ、だがもう限界みたいだな」
エリスが上げたチャンスボールを、自慢の筋肉が豪速球にして放ち返す。
「0-40!」
そして遂に崖っぷちに追い詰められた。
「エリス…っ」
「ああ、すまないな。そろそろ決断してくれ…」
汗を大量にかくエリスを見て、鈴子は心臓を苦しくさせた。
もう時間がない。
活路はある。逆転の手段がある。でも使っては駄目だ。
バレたらとんでもないことになると、心の底から警告音を鳴らしている。
そんなとき、
「何か迷いが見えるね鈴子ちゃん。そんな君には一つ、スポーツに関する知識を授けてあげるよ」
「?」
「これは日本少年テニス委員会の常識だ」
汗を拭い、エリスは年下を感じさせる幼い声で鈴子に言った。
「テニスってね。とにかく異常現象が起こるスポーツなんだ。爆発や壁割れなんて当たり前にね」
「──へ?」
「知らなかったのかい?もしかしてテレビを見ないのかな?ははははっ」
エリスは笑いながら、「少しはテレビを見よう」と言い残して、前衛位置に戻る。
そしてエリスの不敵な笑みの先には、何かを恐れる表情をする相手プレイヤーがいた。
「一つ聞いてくれないか?」
「な、なんだっ。また脅しか?」
「いや違う。ちょっと知らせたい事があってね」
ラケットを揺らし、下を向く鈴子を横目で見ながら言う。
「時間が長くなったが、あの娘はようやく本気を出す」
「ん?全て演技だったという事か?」
「ああそうだ。少し迷い事があってね。本来の力を出せなかったんだ」
「ほーそりゃあ楽しみだ。じゃあ本来の力を見せてもらおうか?」
「見せるとも。崖っぷちまで追い込まれ、冷静な思考が出来なくなったあの娘は強い。君達を遥かに超えてね。」
エリスが笑う背後で、鈴子はボールを高く上げた。
そして精一杯の握力でグリップを握りしめ、
「恵まれた奇才。それを彼女は持っている」
バンっと、今まで一番大きな波動音が鳴り響いた。
プロに匹敵するほどの音ではないが、躊躇のない力のこもったサーブ。
「「っっ!?」」
「スピードはそれ程じゃないが、的確に入ったね」
「15-40!」
鈴子の手による初点数。
その顔には、先ほどまでの弱々しい面影はもうなかった。
「ここからは、一点もあげない」
──後日談…ではなく、後事談。
「なんだよアレ!滅茶苦茶なフォームで打ってるのに、ちゃんと入ってるぞ!」
「返したボールがカーブして少女に向かっていく!?何してるんだ!ワザとか!走らせるプレイで攻めないのか!」
「いや焦ってるぞ!何が起こっているのか理解していない顔だ!それに形勢が逆転し始めている!」
「まさか覚醒っ……ゾーンだ!」
「ゾーンだ」「ゾーンなのか?」「ゾーンだろ」「ゾーンだな」「ゾーンしかない」
滅茶苦茶なフォームが故に、普通の回転がかかっていないと考えてしまう。
大きな変化ではなく常人でも頑張れば可能であるプレイが故に、特殊過ぎる何かとは誰も口にしなかった。
結論、
内守谷鈴子は誘導改変を使って、さり気ない達人プレイを編み出した。
ボールの軽い質量であれば、更にスゴイ技もできる。
だがしなかったのは、鈴子の羞恥心が強過ぎたからだ。
だが、本人は勘違いをしている。
エリスが語った常識を考えて、地味な操作であれば目立たないと勘ぐっていた。
それが『軌道操作テニス』。
とにかく全力で打ち抜いて、良い場所に誘導。
相手が返したボールを、差し障りのないカーブボールにして自分の下に誘導。
そんな鈴子のテニススタイルは、完璧に目立っていた。
だがそれで良かった。
まだ常人でも頑張れば可能であるテニスで本当に良かった。
それ故に、誰も戦闘力の力とは疑わなかったのだから。
読んでくれてありがとうございます!
ちょっと危ないワードを使いました。もしかしたら一部修正をするかもしれません。よろしくお願いします。
なんとな、鈴子エリス編を1話完結で終わらせられました!どんどん進行できたらと思います!
次話もぜひ読みにきてください!