第133話、エリス「私の容姿は危ない者を引き寄せてしまうんだ」
書きあがりましたので投稿します!
前回の投稿から早い更新なので、確認をよろしくお願いします!
ドーム内は批判と罵声のオンパレード。
「俺達はゲーマーだぞ!」
「そうだ!俺達が身体を動かすなんて馬鹿げてる!」
「ゲーム会社が出資したイベントなんだろ!どうしてゲームに関係ない事をやらせるんだ!」
スポーツとは無縁な身体をした彼等からの数々の批判に対し、金髪サングラスの司会者は無感情な声音で淡々と言い放つ。
『君達に動いてもらう為だよ。太ったのも、痩せ細ったのも、筋肉が足りないのも、そういった人種を矯正する為に、このイベントは開催されたんだ』
その答えにドーム内がどよめいた。
『○○撲滅フェスタ。その○○とは、『今の君達』の事なんだ』
ずっと隠れていた○○の意味。それがようやく司会者の口から伝えられた。
『今の君達が原因で、世界はゲームに関わる社会問題に瀕している。それが何か分かるかい?』
ゲームに関わる社会問題。
色々ありそうだが、ゲーマーである彼等の口から伝えられる事はない。
それを見越して、司会者はすぐに答えを言い放った。
『引きこもり』
「っ!?」
鈴子の肩がビクッと揺れた。
『ゲーム依存、不登校、すねかじり、運動不足による肥満、社会不適合者、人格破綻者。これらの増加によって社会はゲームが悪いと印象付けられている』
そして司会者は、過去のニュースに触れ始めた。
『数年前のニュースで、ゲームに夢中になり過ぎた息子が引きこもりになり、その親がゲーム会社に責任があると訴えて裁判を起こしたんだ。他にも─』
仮想と現実の区別がつかず殺傷。
欲しかったゲームが買えず、購入者を殺して強奪。
課金を繰り返して莫大な借金。
ゲームの世界が本当あると思い込み、命を絶てば行けると妄想して自殺。
『どうしてゲームが責められる?悪いのはゲームなのか?いいや、ゲームは何も悪くない』
そう、悪いのはゲームではなく、ゲーム中毒に成り果てた者達である。
『ゲームを汚す輩は徹底的に予防治療させる。運動によってね。このイベントの趣旨がそれなんだ』
切実正当な理由と表明。
だったが、それを受け入れられる気愛を持つ者は、この場には少なかった。
「ふざけるなぁあ!だったらやめてやる!ゲームをやめたら困るのはお前達なんだろ!」
「そうだ!ゲーム会社がこんなイベントに出資しているなんて馬鹿げてる!その会社のゲームには一切触れてやるもんか!」
ワーワーと文句を喚く参加者。
だが司会者は動じずに冷静だった。
『ああ、やめてもらっても構わないよ。出資者の方々も、裁判沙汰になるよりは、やめてもらった方が良いと言っていたからね』
「「「「「「なっ!?」」」」」」
『ゲームが理由で事件を起こされたら、会社の悪い影響に繋がりかねない。彼等は快く賛同してくれたよ。悪い子にはゲームをやらせるな!ってね』
その事実に参加者のほとんどが沈黙する。そして顔には絶望を宿した形相が浮かんでいた。
『景品が欲しいなら勝ち取れ。勝ち取れなかったら今までの自分の生活を思い出せ。このイベントに勝ち残れるのは、堕落に溺れず、ゲームと社会を両立してきた人間だけなんだ。それをよーく知ってほしい』
ゲームと社会を両立してきた者だけが、出資会社に受け入れてもらえる。
司会者は会社側を代弁して、その事を伝えた。
『脱落者はすぐに退散。四回目が控えているからね』
第一回なのに三回目。
司会者が最初に言っていた説明の意味がようやく分かった。
脱落者が退散し、参加者を補充。
それを繰り返して、今が三回目なのだと言う。
『では健闘を祈る!詳しいルールは近くの係員に聞いてくれ!』
────。
────。
「何故三人で多目的トイレに?」
「いや〜周囲の視線がギラギラしていたからね。たぶん、参加条件がペアを組む事を必須にしたからだと思うけど──」
エリスが言うのは、係員から知らされた参加ルール。
実技は選択自由だったが、ペア参加が必須となっていた。
たぶんその条件は、ここに集まった人種に理由がある。
「コミュニケーション能力を試されてるね。友達と訪れた者はいいが、孤独な者には地獄だろう」
根暗人間に対する試練。
コミュ力で篩にかけ、脱落者を増やす運営側の策略が既に始まっていると予想できる。
「それに周囲のギラついた視線を見ると、広樹くんが狙われていたね」
「あ〜やっぱあの気持ち悪い視線は…」
「君の身体を狙っていたんだろうね」
キモい言い方をされるが、確かにその通りだ。
あの視線は自分に誘いをかける瞳だった。
それは周囲の見た目から判断して、自分が一番スポーツができると思ったからだろう。
「そして鈴子ちゃんと私も危なかった。まぁ具体的な理由が……」
「ぅ……」
「よく耐えたね〜鈴子ちゃん。私達は未成年で小さかったりするから、この機会に下心丸出しで狙われてしまう。とくに鈴子ちゃんは視線に敏感だったみたいだね」
「みんなが…私を…」
「あ〜よしよし。辛かったね〜」
気分を悪くした鈴子の背中を、エリスが優しく撫でる。
それを見て、一つ思いついた。
「エリスは、スポーツが得意なのか?」
「ん、どうしてだい?」
「いや、得意だったらさ。鈴子を頼もうと思って」
「っ!?」
「ほぉ、その理由を聞いても?」
「いや、もしエリスを一人残したらちょっと危ないだろ。だったら女子二人で組んでもらった方が心配ないと思ってな」
「広樹っ…それはっ…」
鈴子が横槍を入れようとするが、エリスを一人にするのは、かなり引けた。
そして鈴子の身をエリスに任せても問題ないと感じてしまう。
「それにエリスは、こう、雰囲気が」
「雰囲気?」
「かなり直感だけど……たぶんできるだろ?」
だって見た目と雰囲気が一致していない。
葉月くらいの容姿なのに、慣れたコミュ力で自分達に話しかけてきた。
たぶん、ちょっと触れちゃいけない経歴を持っていると思う。
お忍びエリートお嬢様みたいな何かを…
「ほほぉ〜言うね」
少し間があったが、不敵な笑みを浮かべ、エリスは機嫌よく胸を張った。
「ああ問題ない。その直感に叶った働きをしよう。そこそこ自信はあるよ」
その言葉を聞けて安心した。
「じゃあ鈴子、そっちはそっちで任せたぞ」
「…………ねぇ、広樹」
「ん?」
トイレのドアに触れたとき、鈴子の暗い声に呼び止められる。
「逃ゲナイヨネ?」
あれ、ちょっと怖い。
「ああ逃げないよ。最初は逃げようと思ったけど、今は違う」
純粋に楽しもうとする鈴子に変な疑いをかけたんだ。ここで逃げたら罪悪感に追われてしまう。
「だから心配するな」
「本当に?」
心配性だな。
「プロ選手が参加しているわけじゃないんだ。すぐに片付けてくる」
プロ選手がコスプレして、ゲームイベントに参加する筈もない。
運営側が呼ばない限りは…
読んでくれてありがとうございます!