第131話、統括長「何故だぁ!?何故なんだぁあああああああ!?」
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
これは数時間前の出来事だった…
「これは沼だ。底なし沼だ……」
「何が沼ですか。そんなゲームに熱中して」
絶望心が宿った声音を吐く少女に、スーツを着た女性は、ミラー越しに冷めた視線を向けていた。
「君には分からないさ。この電子版に映る幼女を見て、財布の紐を緩めてしまう私の気持ちが」
「その気持ちで衣装まで買うのは、イき過ぎていると思いますが」
「そこに愛があれば何も問題ない」
「仮にも組織のトップがそんな事を」
オーストラリア支部に向かう一台の車。
その車内には運転席に座って苦い顔をする調査官と、後部座席でタブレット端末と睨めっこをする統括長がいた。
「もう200連なのに…何故出ないっ!私の幼女!確率1.5%アップは嘘だったのか!こうなったら組織の圧力でっ!」
「冗談抜きで言いますが本当にやめて下さいよ。バレたら洒落になりませんから」
「はは冗談だよ。仮にも組織のトップが、組織を危機に晒す様な真似をする筈ないじゃないか」
「本当に冗談だったら問題ないですよ。『本当に』だったら」
「信用ないんだね。私」
「当たり前です」
調査官の言葉に嘘偽りは無く、背後に座る統括長の人間性を知っている部下としての本音が出る。
「今回の件もです。暇だったからと此処まで来て…。貴女の正体は重要機密なんですから、こんな場所に現れていい人間ではないんですよ」
「だって…アイリちゃんが『さわらないで』って言ってきたんだよ。私の傷ついた硝子の精神は崩壊寸前。何かで気を紛らわせないと私は死んでしまう」
「だったら大人しく部屋に閉じ籠っていてください。そしてアイリちゃんに迷惑をかけた貴女は、大いに反省を知ってください」
「冷たいな〜…」
言葉越しに感じる部下からの冷たい視線。
それを感じながら、統括長は210連目のガチャを回して外に瞳を向けた。
「コッチも冷たいな」
ガチャ220連目開始…
「それでどうするのですか?さすがに支部に素顔を見せる訳にはいかないでしょう」
「まあね」
ガチャ230連目開始…
「では」
「ああ、気分転換さ。オーストラリアには色々と観光スポットがあるからね」
ガチャ250連目開始…
「色々と溜まっているから。本当に」
ガチャ300連目開始…
「前の合同任務の件でしょうか。子供達に頼ってしまった事でしたら…」
「それもあるが」
ガチャ350連目開始…
「そもそもの原因は、過去の大規模合同作戦で失敗し、優秀な人員を根こそぎ『喰われた』事だ。しかも選り好みまでされ、食べ残ったのは戦闘力の低い者達のみ……頭が本当に痛い」
「心中を察します」
「ありがとう。でも…本当に辛いな」
ガチャ400連目開始…
「今出せる大人よりも、序列に位置付けられた子供達の方が能力が高い。人員不足も相まって、本当にギリギリ過ぎる。近いうちに対策を考案しないとね」
「奴の捜索を優先するのはどうでしょうか?予測が正しければ、奴をどうにかすれば、喰われてしまった人員が再起可能になります」
「その件で以前に私の部下がやられたんだ。隠密性が高く、偵察のみで向かった筈の彼でも喰われたとなると、選ぶ人員も限られてくる」
ガチャ450連目開始…
「これ以上に優秀な人材が食われれば……いや、もし序列者の戦闘力まで喰われてしまったら、もう止められなくなるだろう」
「……考えが足りませんでした。確かに、もしその様な結果になれば、もう手がつけられない」
「だから機会を伺うしかないんだ。居場所を突き止められれば、再び大規模作戦を発令し、奴に奇襲をかける。その際には私も出るかもしれないね」
ガチャ500連目開始…
「しかし、それで失敗でもすれば」
「何もかもが終わるだろう。だが、やるしかないんだ」
ガチャ600連目開始…
「やめてしまったら。これまでの行動が全て無駄になってしまう」
ガチャ700連目開始…
「だから私は動くよ。次で終わらせる為に」
ガチャ800連目開始…
「ッッ!……ッ……」
「おいおい、何を泣いているんだい?」
「ッッいえっ、久しぶりにっ、貴女からの、心に響く言葉を聞けてっ」
「そうか……不甲斐ないが、改めて私の決意を聞いてくれないか」
「はいっ」
ガチャ900連目開始…
「これまでの犠牲の為に、私は最後まで止まらないから。だから君達も─」
ガチャ1000連目開始…
「止まるんじゃないぞ」
「はい!」
ガチャ合計1000回……終了
「…………」
「……統括長?…どうしたんですか、いきなり黙って…?」
「…………止まっておけば良かった」
「へ?何か言いましたか?」
「いや何でもない。それよりもそろそろ私は降りた方が良いのかな?」
タブレット端末を鞄にしまい、統括長は何食わぬ顔で調査官に問いを投げた。
「え、ええ、そうですね」
オーストラリア支部までの残りの距離がさほど無い事に気づき、調査官は周囲を確認して速度を緩めた。
「次の信号の先で降りてもらっても宜しいでしょうか」
「ああ、そうしよう」
赤信号で停車し、歩行者が横断歩道を渡っていく。
その最中に統括長は、
「…………ん?」
タブレット端末をしまい、見るモノを失って彷徨わせていた視線。
その瞳が、隣の車線で停車しているタクシーに固定されていた。
──鈴子、せめて行き先くらい教えてくれてもいいんじゃないか?
──まだ駄目
「……んん??」
何処かで見た事がある顔だった。
だが有り得ない。有り得る筈がない。
もしあの二人が本人であるならば、自分が育て上げた教え子を問い詰めなければならないだろう。
「……此処で降ろしてくれ」
「え?」
「そこの屋台のクレープが食べたくなったんだ。いいだろ?」
「は、はい。それなら」
カチャと、調査官の操作によって扉が開く。
「じゃあ、抜かりのない調査を頼んだよ」
「分かりました!」
「うむ」
外に踏み出し、扉を閉める。
そして目の前に止まっているタクシーにさり気なく触れて、歩道に入った。
「最近だと、本部内で葉月ちゃんと鬼ごっこをした時が真新しいかな」
建物の影に入って、脚の関節を軽くストレッチし、筋肉を曲げほぐす。
「本気で逃走する葉月ちゃんのあの表情。あれに勝るロリの顔は滅多に見れないね。あぁ〜また見たい」
軽くジャンプし、最後に小型端末を鞄から手に取り、
「発信機は正常だね。それじゃあ」
赤信号が青に変わり、車が動き出す。
そして知っている二台の車が視界から消えたのを確かめてから、
「面白い事になる場所に行こうかな!」
────。
────。
そして現在…
「これはゲームに登場するヒロインの衣装なんだ。これが証拠だ」
「は、はい、確かに」
スマホに映っているヒロイン。そのワンピースは少女が今着ている物と同じだった。
勘違いだったと謝罪するスタッフに、少女は微笑みを向ける。
「確認を取らせてしまい申し訳ありませんでした。それでは失礼致します」
スタッフが立ち去る。
その姿を見送った少女は、黒いワンピースを揺らして背後に向き直った。
「いや〜、話しかけて早々に声がかかるとは」
広樹のへその高さほどの低身長。
ルビー色の瞳で見上げる少女の言葉は、どこか年長者の風格がある。
「それで隣に並んでも良いだろうか?周りの身長がとても高過ぎてね、圧迫感が辛かったんだ」
「え……ああ…どうぞ」
場違い感がある少女の登場に、思考と返事が出遅れる。
だが出てきた言葉によって、少女は広樹の隣に立ち並んだ。
「ありがとう。いやー今日は暑いね。それに人口密度も高い。身長の低い私が、彼等に取り囲まれたら蒸されて死にそうなくらいだ」
容姿年齢と噛み合わない会話力。
100%外国人に見えるが、流暢に日本語を喋っている。
「そして偶然君達を見つけてね。少しの間だが、親しく話してもいいかい?」
「あ…はい。大丈夫です」
何故か敬語が出てしまった。
少女の表情と声音に感じる謎の違和感が、自然とそうさせてしまった。
「ありがとう」
少女は微笑みながら、小さく頭を下げる。
「それで、え〜と、なんと呼べばいいのかな?」
「あ、荻野広樹です。それと」
「…………」
じ〜〜と、鈴子は広樹を盾にしながら少女を睨んでいた。
「おい鈴子。自己紹介」
「…………内守谷鈴子」
数秒経って、鈴子の口はボソボソと声を発する。
そんな鈴子に少女は笑みを絶やさず、
「荻野広樹と内守谷鈴子か。じゃあ次は私だね。私は…エリスだ。短い間だがよろしく」
────。
────。
「失礼致しますが、その衣装はどこの物語の衣装でしょうか?」
「いえ、友達から借りた普通の私服ですが…」
「それは…申し訳ありません。このイベントではコスプレが必須となっており、私服での参加はご遠慮させて頂いています」
「っ!?…」
「ご協力をよろしくお願いします」
一瞥してスタッフは立ち去る。
そして詩織は榛名から借りた服を握りしめて、メリルが着る服に目を向けた。
「ねぇメリル…」
「そんなに見つめても脱ぎませんカラネ」
メリルが着ているのは、人気アニメに登場するマフィア系黒スーツ。
偶然にもメリルは、イベントに参加する条件を満たして、任務に参加していたのだ。
「ねぇメリル。ちょっとトイレに行ってくるから、並んで待ってて」
「は、はい。分かりマシタ」
メリルに背を向けて、トイレの方向に歩き出す詩織。
何をしに行ったんだろう?と考えながら、メリルは再び小型通信機の電源ボタンに指をかけた。
『どうしてまた通信を切ったの!?』
「バッテリーが勿体無いからです。あの二人が動いていない時だけは、節約した方が良いと考えました」
メリルは正論を唱える。
「追跡中に何が起こるか分かりません。最大限の注意を払って任務を遂行します」
『それなら……ええ、分かったわ』
「じゃあまた電源を」
チョンチョン…
「ん?」
背後から肩を突かれ、もしかしたら詩織だと考えて小型通信機のカメラを手で塞ぐ。
そしてゆっくり背後に振り向くと、
「GLULULULULUッッ…」
「…………Wow」
「GLULULULULU…」
クイクイ……
目の前にいる者は、片耳を指差して何かを伝えていた。
そのジェスチャーにメリルは、自然と小型通信機の電源ボタンに指をかけた。
「…………」
「…………何か言いなさいよ」
「ヴェッ!?し、し、しし詩織デスカ!?」
毛も無く、服も無く、高身長筋肉質な全身タイツの造形。
今の詩織は、黒一色の醜悪なモンスターの姿へと変身していた。
「これで問題ないわね」
「イヤイヤッ!?何デスカソレ!?どこから持ってきたんデスカ!!」
「トイレに落ちていたわ」
読んでくれてありがとうございます!
今回の話では、ちょっとだけストーリーの向かう方向を書いてみました!
宝くじを交換してハッピーエンドか、奴と向き合ってバッドエンドか。
その他のエンドルートもあるかもしれません!どうかよろしくお願いします!
そして詩織が最後に変身した姿ですが、具体的なイメージ像としては、映画『ヴェ○ム』に出てくるヴェ○ムです!スパイ○ーマンに似ていますが、黒くて、大きくて、筋肉質で、伸びたりと、詩織の姿は今、そのイメージです!
どうかよろしくお願いします!