第129話、メリル「なんでいきなり背後から現れるんデスカ!?大変な事になっちゃいましたヨ!!」
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
とある海岸沿いで……
「信じてくれ!俺は見たんだ!海から現れた黒い生物が断崖絶壁を登るのを!」
「酔ってたんだろ。酒の飲み過ぎだ」
「それにあの生物の皮膚だ!何かの残骸を埋め込んだ様な!人工物が混ざった皮膚を持っていたんだ!」
「残骸を埋め込んだ皮膚ね〜、じゃあ海底に沈んだ船を食べたのか、それとも海底基地から脱走してきた何かなのか、まあ結論は後にして帰ろう。酒の飲み過ぎだ」
「信じてくれよぉお!!」
海から這い出た姫路詩織の姿。それを見た一人の青年のコメントだった……
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『メリル!十五分も通信を遮断して何やっていたの!?それにGPSを確認してたけど、アナタ止まっていたでしょ!』
「い、いえ、申し訳ありません。ちょっと色々ありまして……」
さっきまでの軽い空気から一変して、メリルは暗く硬い敬語で謝罪した。
「それと校長……」
そして言い辛そうに、
「私が通過したルート上に……電話ボックスがあったのですが……ちょっとバイクを突っ込ませてしまい……」
『ハァアアアア!?』
「バイクはなんとか大丈夫だったのですが、電話ボックスの方は大破してしまいました。後で修理班を回してください」
『事故ったの!?』
「本当にすみません。とにかく任務を続行します。…………そして運転の邪魔になるので!通信をもう一度切らせて頂きます!」
『ちょっと待ちなさい!謝罪した矢先にまた切る!?何を考えているのよ!!』
「こっちにも訳があるんですよ!とにかく目的地に着いたらもう一度通信を再開します!」
ピッ!と、メリルは戦闘学に繋がる全ての通信を遮断する。
そして背後から己を抱きしめている少女に、
「通信を切りまシタ。もう普通に会話しても大丈夫デスヨ」
「ありがとう。メリル」
茶色の長髪を風になびかせながら、詩織はメリルにお礼を伝える。
「お礼を言う前にまず訳を話してくださいヨ。混乱して判断力がおかしくなりそうデス。いえ、もうおかしくなってマス」
「分かってるわよ。乗せてもらってるんだし、ちゃんと話すわ」
詩織は自分がオーストラリアに訪れた理由を率直に説明した。
ただ一文、簡潔に。
そしてメリルは瞳を震わせて、
「広樹と序列九位を追いかけてキタ!?何なんですかその状況!!WHY!WHY!WHY!」
「何故何故言い過ぎよ」
「だって序列九位ってあの娘デスヨネ!世界トップクラスの『誘導改変』!その娘と広樹をワンセットで海外旅行させるなんて日本支部は何を考えているんデスカ!?」
「知らないわよ。理由なんて私にはどうでもいい」
「はぁ!?WHY!」
運転しながら疑問を背後に打つけるメリルに、詩織は小さく溜息を吐いた。
「もう……何も」
ギュッ
「っ!?…し、詩織…ちょっと痛いデス…」
抱きしめられた腹部に痛みを感じて、メリルは詩織に言葉をかける。
「ねぇメリル。聞いて…」
「詩織…?」
スゥ、と腹部が緩くなる。
詩織は軽い力でメリルの腹部を締め直し、暗く感情のこもらない声音を投げた。
「私は数日前にある生徒から結論づけられたのよ。私が今まで『彼』に執着してきた理由を……」
イベントで起こした激戦。その最中に言われた鈴子の言葉が脳裏に過ぎる。
「私、今まで『彼』にそんな気持ち……抱いていたのかな?」
「彼?気持ち?」
メリルが疑問を漏らす中、詩織は言葉を続けた。
「彼の『凄さ』に魅入られた私がいた。それを独り占めしたい私が確かにいた。…………きっと私にとって、彼はお気に入りの宝物だったのよ……」
空を仰ぎ見ながら、詩織は過去の自分を思い出し、自分の皮肉さを語る。
「誰よりも使って、誰よりも鑑賞して、誰よりも独り占めしたい。……私の抱えていた弱みが、自然と行動させていたのかな……」
自分にとって彼はなんだったのか。
鈴子に言われた言葉によって、改めて自分が彼に抱いていた気持ちの正体がなんだったのかが分からなくなった。
恋じゃない。結婚願望は無い。それは確かに理解していた。
でも変わってしまった。彼に救われる私の映像を見て。
今の私が分からない。今まで感じた事のなかった違和感が胸を抉っている。
「私を動かしているのは『彼にお礼を伝えたい』という言い訳……でも正直言うと、『会いたい』って気持ちが最初にある。あの映像を見てからずっと。無理を押し切ってでも彼に会いたかった」
理由も無く、謎の本能で此処まで来た。
『会いたい』という気持ちだけで此処まで来た。
その気持ちの正体が分からず、此処まで来てしまった。
「今までの私が恨めしい……もう少し別の経験を豊富にしておけば、この気持ちの正体も分かったかもしれないのに……」
ショッピングモールでの会話が思い浮かぶ。
イベント前に海香から貰った言葉がある。
『ずっと戦闘力一筋だった』。
『ずっと鍛えて勉強してた』。
『完全な仕事人間』。
それが姫路詩織だった。
今までを努力に注ぎ込んできた弊害が、今になって自分を襲っていた。
「この気持ちは一体……」
「……詩織、言葉が抜けているので、正しいかは分かりませんケド」
メリルは詩織の足りない言葉から、己が持つ思考に従って、
「『会いたい』=『好き』…じゃないんデスカ?」
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その答えを聞いた詩織は────。
…………ぷっ!
「何を言ってるのよ!そんな訳ないじゃない!ははは!」
走るバイクを揺らして、詩織は大いに笑った。
「あれ!?私の予想外れまシタカ!?」
「大外れよ!好きって性愛対象の意味よね?私は誰かと恋愛したいって気持ちは全くないのよ!」
詩織の言葉にメリルは固まる。
だが、直ぐに思考を再回転させて質問を言い放つ。
「じゃあ、もし…もしも、その『彼』が可愛い女の子とdateしてたら、どう思いマスカ?」
「そんなの決まってるわよ」
詩織は間髪いれずに言う。
「その女をdeadしてやりたいと思うわ」
「アウト!完全に嫉妬シテルじゃないデスカ!?」
「結論を決める前に理由を聞きなさい」
早とちりだと、詩織はメリルに補足を加えた。
「最初に言ったけど、彼は私にとって『お気に入りの宝物』だと例えたわ。自分の宝物を他の女が使ってたら嫉妬くらいするでしょ?」
「いやいや!?それでdeadは無いデスヨ!それとお気に入りという事は好きって事じゃないんデスカ!?」
「はぁ〜…あのねメリル…」
深い溜息を吐いて、詩織は一言で結論を説く。
「宝物に恋できる?」
宝物……人間として見ていない!?
「宝物ってそういう事デスカ!?いやいやおかしいデショ!彼って人間デスヨネ!」
「人間よ。それも私に大きな感動と感激を与えてくれた偉大な人間」
「それを宝物に例えるのは…………アレ?」
詩織は彼を宝物と例えた。
感動と感激を教えてくれた宝物として。
…………どうして『彼』=『宝物』として例えている?
…………もしかして、その他の例え方が見つからないから?……アレ?
「詩織?もう一度聞きマスガ、今まで誰かを好きになった事は?」
「無いわよ一度も」
「『彼』を誰にも渡したくない。『彼』を独占したいんデスヨネ?」
「そうよ」
「…………頭が痛くなってきマシタ」
恐らく、たぶん……だが待て、
「ちなみにdeadについて、何かの冗談デスヨネ?」
「冗談なんかじゃないわ。行動にするかは別にして、心の中で思うのは自由でしょ」
行動にはしないけど、deadしてやりたいとは本気で思っている。
何ですかコレ!?かなり捻じ曲がってませんか!?
「私以外が彼に近づくのは嫌で仕方ないの。だから此処まで来たのよ。一分一秒でも私の知らない所で他の女が彼と一緒にいるのは我慢できないから」
「詩織!気付いてくだサイ!その気持ちの正体は誰でも分かりマス!なんでそんなになるまでその気持ちを放っておいたんデスカ!!」
読んでくれてありがとうございます!
校長との会話や、海香との会話の際に、詩織は広樹に恋心を持っていないと本人が言っていました。今回はその気持ちの正体にちょっと触れてみました!
そろそろ主人公編に詩織達が突入します!ぜひ楽しみにしていてください!
それと今まで投稿してきた話の一部を修正しようと考えています!展開の内容は変えずに、会話文を少し変えるつもりです!
(具体的な設定やストーリーは変えないようにします!)
どうかこれからもよろしくお願いします!