第128話、メリル「さて走りますか!映画のワンシーンみたいなレーシングテクニックで駆け抜けます!」
遅くなってすみません!
書きあがりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
(どうするっ!)
ジェシカ・ウィリアムスは迷っていた。
その原因は今訪れた報告にある『内守谷鈴子と荻野広樹の来訪』にあった。
(ただでさえ事件を起こしたばかりだというのにっ!)
戦闘力の強要。それを実行していたのは丸々全て、欲望に駆られた研究員達によるものだった。
それが最近判明し、ジェシカが頭を下げている状況である。
(あああ!考えては駄目だと思うけど、子供達からの告発がもう少し後だったらぁぁあっっ!)
判明したきっかけは、勇気ある生徒からの告発だった。
強要されていた生徒の一人が、ジェシカに自分の意思を伝え、研究者達の実態が明るみになったのだ。
だが今思うのは、その告発が数週間先だったら良かったと思う願望である。
(日本支部の目的は何?あの二人を海外に出すなんて、剥き出しの金塊が散歩している様なものじゃない!いいえっ、肉食絶滅危惧種を放し飼いにしている様なもの!)
彼等は戦闘学の教養をまだ終えていない子供達。そこまでなら許容範囲ギリギリだったが、二人は『序列者相当の力』を持った子供達だ。
多少の判断能力があるとしても、まだ一時の感情によって暴走する可能性のある未成熟者。
そして何より、彼等の価値を知る研究者がこの国に大勢いる。
大きな研究成果を成したいと抱く、欲望に支配された大人達。
彼等に二人の存在が知られれば、何かしらの接触を図る可能性が大いにある。
(もう頭を下げるのは嫌なのよ!今回は一部の研究員達だけだったけど、あの二人の存在を知ったらどうなるか!頭の下げ過ぎで首が取れてしまうわ!!)
ジェシカの精神はボロクソに殴られていた。
自分が犯した罪でもないのに、責任は頂点にいる自分に全て行くのだ。
ボロボロにされたばかりの上に、また新たな悪種が飛び込んで来た。
それは最悪の一言でしかない。
(今は調査官がいるっ。二人に追跡者を放つとしても悪い意味で疑われてしまう!あああ!どうすればいいのぉおお!)
もし彼等に欲心を抱く大人達が近づいたらどうなる。
当たり屋まがいな事をして、責任として我が研究材料にしようと要求してくるかもしれない。
彼等の価値を手にする為ならば、研究者達は汚い手段を用いてもやる筈だ。
(存在がバレて近づかれるのは時間の問題!どうする!どうする!どうする!────ああもうぅう!!)
ジェシカは決心する。
「調査官様。申し訳ありませんが、緊急的に実行しなければいけない任務が出来ました」
「聞きましょうか」
「はい。今の報告にあった内容は、支部が無視できるものではありません。なので少しばかりこの件に時間を割いてもよろしいでしょうか?」
「しかしそれは─」
「私が直接指示を出します。今回の件が終了するまでは私が統括し、その姿を調査官様に全て見てもらえたらと考えております」
「っ!?」
「私の行動の全てを貴女に見せます。どうか…」
「…………分かりました」
迷った末に出された調査官からの許可。
それによってジェシカの恐怖心は一時晴れた。
「では、司令部に移動しましょう」
────。
────。
「もしもし、何ですか校長?」
……。
「はぁ、緊急任務?でも私は今趣味が、え?時間が無い?でも準備に時間が掛かりますよ」
……。
「とにかく外に行け?任務の内容は何ですか?え?後で説明する?う〜ん、分かりましたけど、急いで出るので文句は言わないで下さいよ」
……。
「じゃあ切りますね。バイ」
ピ!
メリルは端末を懐にしまい、必要最低限の物資が詰まった小バッグを手に取る。
「さて、行きましょうカ!漆黒の闇翼の降臨デス!」
メリルはカタコトの日本語で高らかに宣言する。
顔と片手に巻かれた包帯。
垂れ流しになった赤いマフラー。
その他中二病を擽る諸々。
メリルはコスプレ全開で、自室の扉を開け放った。
────。
────。
「カメラ付き小型端末の常備と、始終態勢の常時連絡……校長〜、ちょっと力を入れ過ぎてませんか〜?」
『何も言わずに、とにかく走りなさい!』
「今は赤信号ですよ」
『じゃあサイレンよ!緊急事態なんだから許可するわ!』
「ら、ラジャー」
グリップの下にあるスイッチを押すと、バイクの後部から点滅灯が現れ、眩い発光と高い音が鳴り響いた。
「失礼しますよ〜〜」
サイレンによって停止した車両に一瞥して、メリルは交差点を通過した。
『とにかく急ぎなさい!情報によれば、対象はC地区のホワイトドームにいるわ!』
「ホワイトドームですか?それに対象って?犯罪者でも発見されたんですか?」
『いいえ!これから犯罪者が大量生産される瀬戸際なのよ!』
「何を言ってるんですか?」
『とにかく急いで!そして対象をカメラに写して見せなさい!彼等の今の状況を!』
「はぁ〜ラジャ〜」
校長の慌て様に、メリルは追求をしなかった。
だが、彼女が言葉を荒げるほどの案件が、目的地で起きているのだと感じ取れる。
やや気持ちを引き締め直して、グリップを大きく回す。
ピピピ!ピピピ!
「ん?」
胸ポケットにあるスマホから音が鳴った。
「校長。運転に集中したいので、一度通信を切りますよ」
『電話は無視しておきなさい!』
「何かの勘違いですよ」
『ちょッ─』
ピ!
スマホの音を拾った校長が止めろと指示を出したが、その言葉を無視して小型端末の方の電源をオフにした。
「ん〜〜、ん!?詩織!ハァイーモシモシ!」
端末に表示された名前を見て興奮する。
ヘルメットに付いたマイクスピーカーに、スマホを接続。
カタコトの日本語で、自分が好意を抱いている少女に言葉を送った。
「どうしたんデスカ詩織!いつもはメールで連絡スルノニ!」
『…………メリル』
「ん、何デスカ?それと声が少し暗い様ナ…」
『ゴメンね…少し疲れているのよ』
「ワッツ?でも、どうして今連絡ヲ?」
『ちょっとメリルに聞きたい事があったのよ。今アナタの支部で、緊急的な任務が発令されてない?』
「ワオ!よく知ってますネ!今私はその任務を請け負ってマス!準備に時間が足りなくて、暇に思われてイタ私が担当にされまシタ!」
『……へぇ〜、それは好都合ね』
「ん?好都合?」
それはどういう意味なんですか詩織。
でも、少し声が明るくなって嬉しいです。
『ねぇメリル。今何処に向かって……いえ、端末のGPS情報を私に送ってくれないかしら?』
「何でデスカ?これ以上の情報を他者に伝えるのはチョット…」
『大丈夫よ。私は日本支部の序列十位、姫路詩織だもの。そんな私がアナタから貰った情報を悪用すると思う?』
「そう言われてモ〜」
『ねぇメリル、私達、友達よね』
「その言い方は反則デスヨ!!」
詩織が甘えた声で、反則めいた台詞を言い放ちました。
私にはこの言葉は重過ぎます。特に詩織から言われてしまったら、心が大きく揺らぎます。
「で、でも、今私と会話シテイル詩織が本物か分かりまセン!確認させてクダサイ!質問デス」
『端末に表示された名前で判別できると思うのだけど……分かったわ。でも一度だけにして』
「ハァイ!では──」
詩織との過去を思い出し、私と詩織しか知らない問題を掘り起こした。
「私が詩織に初めて聞いた質問は何でしょうか!」
『日本に侍はいるの?じゃなかったかしら』
「オウ!正解デス!」
覚えていてくれた事が嬉しいです。
大切な思い出の一つを胸にしまって、私は詩織に自分の端末のGPS情報を送る。
「でも、日本にいる詩織がドウシテGPS情報ヲ?意味がないと思いマスガ?」
『それは─『ファンファン!』─ああ、やっぱり…音を辿って良かったわ』
「んー?ちょっと今ノイズが…サイレン?……詩織の近くでサイレンが鳴ってまセンカ?」
『GPS情報もピッタリ。本当に手間が省けたわ』
「詩織?」
何やら嫌な予感が胸を過ぎる。
詩織の声と重なって聞こえるサイレンの音が、私の何かを大きく震わせている。
この寒気は一体……
『ねぇメリル……メリーさんって、知ってる?』
「メリーさん?知り合いにはいませんケド」
『…そう。じゃあ……アナタに一つ言ってみたい台詞があるの』
「ん、何デスカ?」
『うん、メリル────私いま』
「アナタのうしろにいるのよ」
読んでくれてありがとうございます!
メリーさんの電話は都市伝説なので、著作権はセーフと調べたら分かりました!
ぜひ次話も読みに来てください!