第12話、詩織「学園長室のソファーって、柔らかすぎて沈むことが多いのよね」
今回もできました!!
楽しく読んでほしいです!!╰(*´︶`*)╯
確認もしていますが、もし訂正、間違いがあれば教えて欲しいです!
いきなりでした、ごめんなさい!!6月9日に助言をいただき、間違いを訂正しました!!
(これは?)
広樹は、手元にある資料に疑問を抱いた。
テーブルに広げたのは戦闘学の転入届書類。
(なんで俺の家のポストにこんなものが…)
最初は宛先違いだと思っていたが、宛先が『荻野広樹様』と書いてあり、間違いなく自分宛に届いたのだと理解した。
(いやいや、俺に戦闘力なんて……)
戦闘学に転校した山本を思い出す。
彼には生活上からの能力保持の疑いで、再検査をした結果、戦闘力ありと判断されて、転校が決定していた。
(検査された覚えがない)
広樹は再検査されていないのだ。
それにも関わらず書類が届いた。
(でもこれはチャンスじゃないか?)
戦闘学に在籍することで得られる生活を思い出した。
戦闘学に在籍していれば、国のお金で保障された生活が出来るという話だ。
(いや、これはチャンスだ)
広樹は戦闘学生徒の『仕事』の存在を忘れていた。
彼の頭には、『国の金』と『保障された生活』の文字しか残っていなかったからだ。
そして、『姫路詩織との取引』も、記憶の彼方に消えていた。
(間違いで届けてしまった?それは向こうの責任だ!ならば、この書類を提出しても問題ないはず!)
あくまで広樹宛に届いたことを、戦闘学の責任にして、罪の一切を被らない考えを作り出した。
そして、広樹は転入手続き書類にインクを走らせる。
広樹は文字が細かく並んだ書類が苦手だった。
よって彼は名前を書く箇所に対して、説明書きを読まずに記入した。
国が管理している学園でもあることから、安全な書類内容だと判断してしまった結果だった。
そして広樹は確認しなかった。
一般規約
・任務中、生徒本人が負傷した場合、最大限の治療・ケアを戦闘学は行いますが、死亡する場合もありますので留意してください。
特別規約
・戦闘学は『荻野広樹』の危険行為の疑い・確認がされない限り危害を加えない。しかし『荻野広樹』に嫌疑が発生した場合、戦闘学は詮議の後、必要な処分(捕縛・殺害)を下すものとす。
この二つの内容に目を通していれば、広樹の考えは変わっていただろう。
『そうか、じゃあ頑張れよ!一生の別れでもないんだ!またゲーセンにでも行こうぜ!メールするから!』
広樹はスマホに届いたメールを見ていた。
姫路詩織に追いかけられた日から、学校で斉木の姿を見なくなってしまったのだ。
あっという間に転校の手続きが進み、最後まで斉木の顔を見ることはなかった。
(メールが届いて良かった)
彼と唯一連絡を取れたのはメールだった。
広樹は転校初日、戦闘学日本支部に向かう最中にダメ元で斉木にメールを送ったのだ。
そして、届いた返信メールの内容に、心のどこかでホッとした広樹がいた。
広樹はスマホを胸ポケットにしまう。
長く舗装されたコンクリートの道を歩き続けること20分、やがてある建物が見えてくる。
目の前に見えるのは大きな門。
その両端には赤みがくすんだレンガの壁が広がっている。
そして、門の先に見えたのは巨大な建物、戦闘学の建物だった。
門には受付用の建物があり、広樹はそこに足を向けた。
「あのーすいません……」
「はいは〜い!」
受付窓口から顔を出したのは金髪グラサンの若い男だった。
ありえないものを見る目で、広樹は戦闘学に来た理由を伝えた。
「おう!りょーかいっ、じゃあ門を通ったらそのまま待ってて。すぐに案内役を呼ぶから〜!」
「はい。ありがとうございます」
目の前にいるチャラチャラした存在から視界を外した広樹。
(国が管理する学園の受付がこれでいいのか…)
それが受付への評価だった。
「ごめんね〜」
金髪グラサンの男は、床に寝かされたスーツの男に謝罪を漏らした。
「案内役も呼んだから、まあ、大丈夫だよね〜」
金髪グラサン男はスーツの男を椅子に移動させ、バランスを崩さないように座らせる。
「これでよし。じゃあサンキューな。早く起きないと上司に叱られるぞ〜」
呑気なことを言う男は、グラサンをしまい、鋭い眼差しで通り過ぎて行った広樹を見た。
「要注意人物の様子を確認しに来たけど、何もわからなかったな〜」
彼はそう言い残して、受付の扉から出ていった。
「転入生の方ですね」
「はいそうです」
(良かった、案内役は普通だった)
門をくぐり、すぐに案内役と思われる男性がやってきた。
受付を見た後であり、案内役に対して不安な妄想をしていた広樹。
「校長がお待ちですので、ご案内いたします」
「はい」
案内人の付き添いのもと、広樹は巨大な建物内に足を踏み入れた。
建物の中はとても広く、清潔感があり、陽の光がガラス天井から刺す作りになっていた。
玄関ホールは最上階にまで続く吹き抜けの構造。
大理石を使った床と観葉植物が飾ってある空間は、別世界を意識させた。
「こちらです」
環境の変化に固まっていた広樹だったが、案内役の言葉に目を覚まし、エレベーターに乗り込んだ。
「学園長室は二十階です。エレベーターを出たら入り口が目の前にあるので、そこから入室してください」
「分かりました」
ピンポーン
エレベーターが二十階に到着したことを知らせる。
開いた扉から見えたのは一つの豪華な赤い扉。
ワンフロアが学園長室となっていたのだ。
広樹が廊下に足を踏み入れると、エレベーターの扉は閉まり、広樹一人が取り残された。
(えっ、俺一人なの?)
広樹は緊張していた。案内役が最後まで付き添うと思っていたからだ。
(こんな豪華な扉を前に俺一人だけって…)
大きな緊張を胸に、広樹は扉の横に設置してあるインターホンらしきボタンを押した。
『おお、開いているから、入って来なさい』
上に取り付けられている音声機から、男の声が飛び出す。その声は軽いイメージを思わせ、広樹の緊張は和らいだ。
「失礼します」
広樹が扉を開けると、二つの人影が出迎えた。一人は白髪が見え隠れするおっさん、そしてもう一人が……
(どうしてお前がそこにいるのぉおお!?)
制服姿の姫路詩織がそこにいた。
大理石で作られたテーブルを挟み、柔らかいソファーに身を預ける広樹は、向かい側のソファーにいる一人の女に敵意を向けていた。
「すまないね、歩かせてしまって。疲れなかったかい?」
「いえ、そんなに疲れませんでした」
(そんなことはどうでもいい!どうしてその女がここにいるんだ!)
詩織の隣に座るおっさんは校長だった。長く歩かせたことに労いの言葉をかけるが、広樹の中ではどうでもいいことだった。
なぜなら、目の前に会いたくない人物がいたのだから。
「……ッ!」
広樹と詩織の視線が交わった瞬間、詩織の頬は赤く染まった。
(何をどうしたら赤く染まるんじゃぁあ!)
心の広樹は目の前の女に叫び散らした。
「そうか。いやー、若い身体はいいねー」
私は目の前にいる少年に言葉を続けるが。
(今回の対面、念のために詩織くんを付き合わせたが、何か不興を買ったか?)
少年から感じるのは敵視に近い視線。それを詩織に注ぎ続けているのだ。
「……ッ!」
(…大丈夫そうだね)
詩織が広樹と目を合わせた瞬間、詩織の頬が赤く染まったのが見えた。
それを見た校長は、詩織への配慮はいらないと判断した。
(そろそろ本題に入るか)
「戦闘学への転入、私たちは君を歓迎するよ」
「いえ、こちらこそ転入の話を頂けて嬉しいです」
ありえない。校長はそう思った。
詩織くんの話によれば、彼は脅しに近い言葉で誘導して転入させたと言っていた。
だが、彼の言葉からは憎悪を思わせる感情どころか、感謝を伝える気持ちが伝わって来た。
(彼は戦闘学に入ることを望んでいたのか?)
今までの流れをみたら、それは矛盾でしかなかった。
(校長、アンタには感謝をしている)
広樹は校長に感謝をしていた。なぜなら、これで自分が望む生活を味わえるのだから。
(だがな…)
しかし、彼の目の前には唯一、憎悪を抱かせるものがあるのだ。
(その女はなんだぁあああ!)
そう。自分の天敵が目の前にいることに憎悪が蘇る。
(確かに!その女が戦闘学の生徒だっての知ってたよ!でもな!校内に入って五分もしないうちに会うなんて想像もつかんわぁああ!)
姫路詩織が戦闘学の生徒だというのは知っていた。
だが、パンフレットには、日本中の戦闘力保持者を集めた学園でもあって、生徒数が膨大だと記載されていた。
その上、敷地面積も大きく、小さな都市ができるまであったのだ。
そんな広すぎる空間で一人の少女と会う事は皆無だと思っていた矢先の再開だ。
(会うわけないと思ってたのにぃいい!)
早すぎる再開に、絶望と憎悪を燃やし続ける広樹。
だが、そんな広樹の頭に一つの考えが生まれた。
(いや……ここにこの女がいるということは……)
校長が何かを話しているが、それどころではないと、適当に返事を返し続ける広樹。
そうなのだ。広樹が来たタイミングに彼女がいた。心の中で、ホームズキャップを被った広樹が状況整理と推理を始めた。
・女
・校長
・謎の転入
・学園の受付
……
そして多くの文字の羅列が広樹を支配し、結論を導いた。
「用意した君の部屋に、必要な物を揃えさせたから、確認してみるといい」
「はい」
学園生活に必要な注意事項を説明している校長。
その言葉に受け答えをする広樹。
(ふむ、何事もなく終われそうだな)
「そうか。では、私の話は終わったということだ」
私の話は終わりだと言葉にし、隣にいる少女に視線を合わせる。
「最後に詩織くんからも、何かないかね?」
「えっ、私ですか!?」
長い茶髪を揺らして、戸惑いを見せる少女。
そんな彼女へと視線を合わせようとする少年の動きを見て、校長は自分が持つ能力を発動した。
『能力鑑定』
それが戦闘学の校長が持つ能力。
観察した相手の能力を読み取る鑑定系能力。
そう。校長は広樹の能力の正体を見抜こうとしたのだ。
だが……
(見えない!?)
彼から何も読み取ることができなかったのだ。
そして、鑑定をしている校長の瞳に、広樹は顔を戻し、鋭い瞳を向けて口を開いた。
「分かりましたよ。目的も、何もかも」
「っ!?」
広樹の言葉に校長は緊張を走らせた。今までに鑑定で見抜けなかった能力もなければ、鑑定されたことに気づけた者もいなかった。
(私の方が見抜かれてしまったのか……)
校長は感じたことのない畏敬の念に支配されていた。
「もう一度言いますよ。貴方の目的が(俺の大金目当てだと)分かったんですよ」
「そうか(私の能力を見破った上に隠蔽までしたのか)」
「まさかとは思っていましたが、こんなことをするとは……」
「すまないと思っている。だが校長として、学園(の安全)の為にはやらなければならなかったのだ」
「(あの受付の態度を見ても、学園が財政難なのは、)理解できました。だけど、(俺に気付かれたからには、)もうお終いですよ」
「待ってくれ、謝罪する。もう私たちは(君を調べることから)手を引く。だから、せめてこの学園に転入してくれないか」
「……」
「頼む、転入してもらうこと以外は何も望まない。戦闘学の生徒として生活してもらえるだけでいいんだ」
校長が頭を下げる。
彼の転入が白紙になって仕舞えば、核爆弾を街に設置するようなものだった。
彼自身が悪に落ちなかったとしても、彼の力を悪用する組織が現れるかもしれない。
校長は最悪の未来を回避するために、立場を捨てて謝罪をしたのだ。
今までにない校長の姿に、驚愕を隠せない詩織は、目を白黒させる。
そして、反応を返す広樹。
「……俺は戦闘学の生徒として生活します。それ以外の要求は受け付けませんよ」
「ああ、本当に感謝する」
校長の薄く潤す瞳を見た広樹は、その強くも悲しい謝罪と願いに胸を動かされたのだ。
(約束したからな。もしも、また何かを企んだら、すぐに辞めてやるからなこの学園)
広樹の気持ちはさらに強く固まった。
これからも頑張っていきまーす!!