第119話、鈴子(だってそれは、序列者だけが持てる──)
久しぶりです!投稿が遅れてすみません!
書きあがりましたので投稿します!
それと今日の夜にもう1話投稿する予定です!
どうかよろしくお願いします!
摩天楼に包まれた高速道路を走る一台の車。
「…………」
「「…………」」
一人の運転する女性を目の前に、俺と鈴子は何とも言えない空気を吐き出していた。
数日前に見せられた彼女の咆哮と技の数々。
その必死さは強い願望が故のものだったと思える。
それを俺達は間近で見た。
当然、その先に見た嗚咽を聞いたのだ。
つまり、会話がしづら過ぎる……
「…………広樹くん」
気不味いと思っていた矢先に、彼女から声がかけられる。
俺の担任、天草愛先生に。
「はい…」
「黒い学生証は受け取ったわよね?」
「は、はい貰いました。校長から」
「その学生証は空港での手荷物検査で使うから、後で提示してね」
非殺傷用でも武器は武器。
それらを持ちながら検査を通るには、戦闘学の『特別な黒い学生証』が必要らしい。
「それにしても気になるわね……広樹くんのカード」
「ッ!ッ!ッ!」
天草先生の漏らし声に鈴子が激しくコクコクと同意を示した。
え?このカードに何かあるの?
「広樹、見せて」
「なんか嫌だ」
「ッ!ッ!ッ!」
「実力行使禁止!そして狭いから暴れるな!」
本日二度目の格闘戦。
だが鈴子は人体強化をしておらず、俺の腕力でも簡単に抵抗できた。
「なんで見せてくれないの?」
「ん?焦らしたいから」
「ッ!ッ!ッ!」
少し力が上がって痛い。
でも鈴子の頼みを聞くのには抵抗がある。
今回のイベントに纏わる一連の苦労は、元はと言えば鈴子の勝手な参加登録が原因だった。
それを思い出すと、鈴子の頼みを断りたい気持ちが生まれてくる。
「あ、そういえば先生」
「ん、何かしら?」
「校長が気になる事をいくつか言っていたんですが……」
俺は疑問を口にした。
まずは、俺と鈴子を海外に出すのが難しいという事について。
聞いた時は流したが、今になって気になった。
「それは鈴子ちゃんが一番よく知ってるんじゃないかしら?ねぇ鈴子ちゃん」
「…………私の能力『誘導改変』は……様々な研究実験に転用できる」
「誘導改変?」
なにそのカッコイイ技っぽい名前。
鈴子の能力ってそんなカッコイイ名前だったの?
「私は日本の研究機関に協力してる……だから、国外には出したくない……それが大人達の本音」
つまり、凄い能力を持つ鈴子を日本の外に出したくないらしい。
そして俺も鈴子と一緒にいたから校長に難しいと言われた、と?
そういう事か。
「ちなみにその誘導改変は、どんな事ができるんだ」
「…………ん」
「ん?」
なんだこの手は?
まぁ、言いたい事は何となく分かった。
「コンビニで買える、ゲームをより楽しくできる魔法のカードでも欲しいのか?」
「私は無課金派」
「『無駄の無い課金』?」
「見せて広樹」
「嫌だ」
「ッ!ッ!ッ!」
さっきよりも強い力で奪いにきたが、まだ抵抗が敵う範囲だ。
俺は学生証を見せないと、懐深くにしまい込み、鈴子を片手で制する。
「天草先生、後どれくらいで着きそうですか?」
「ん〜、あと一時間くらいだけど、道が空いてたからもっと早く着きそうだわ。パーキングエリアに寄りましょうか」
まだ残る質問はあったが、今は保留でいいか。
そう思いながら、俺はパーキングの看板を見た。
「ん〜、こんなところでしょうかね〜」
「順調そうだねぇ」
私は博士と共にシミュレーターを使って『詩織の覚醒プロセス』を組んでいた。
現在、詩織は原因不明の昏睡状態という事になっている。それをどのようにして『怪しまれずに起こす』のかが、私個人の難解になっていた。
「それにしてもねぇ榛名くん。いくら君が天才でも順調過ぎないかなぁ?」
「……天才ですからね」
唾を飲み込みそうになった。
私の『黒燐』が今回の案件に関与している事は、私のみが知る事実。
「詩織は私の大切な友達であり顧客です。なので詩織の研究資料も前々から熟知し、もしもの時の事も考えていましたから」
真実と適当を混ぜ込んだ。
黒燐を製作する際に博士から一部資料を提供してもらったが、それとは別の資料も独自に集めていた。
今回の治療計画書も、その研究資料から答えを得たと説明。
とにかく本筋を隠す事に徹した。
「プランは組み上がりました。これで目覚めると思います!」
「う〜ん…………やはり順調過ぎるねぇ」
「もう言わないでくださいよ!現在の詩織の身体サンプルデータとこの治療プロセス!その結果予測として成功確率が大幅に高いです!もうこれで良いでしょう!」
「う〜〜ん…」
凄く疑われています。
こうなるんだったら、もう少し時間を使ってプロセスを作っていれば良かったですね。
でも、一秒でも早く詩織を起こしたい私がいたのも事実。
黒燐を提供してしまった責任として、なんらかの方法でお詫びがしたいのも事実。
早期回復。
その手伝いが今の私が詩織に出来る唯一のお詫びだと考えた。
「そういえば、詩織が眠っている研究施設との交渉はどうでした?」
「なんとか許可証が貰えたよ。だが一日だけだ。その短い時間で可能かい?」
「詩織の覚醒に繋がる成果が現れれば文句ないんですよね」
「あぁ」
「じゃあ大丈夫です。もう既に準備は終わってますから」
モニターを見せながら言うが、本来の『既に』とは違う。
詩織が眠っている部屋に侵入し、前段階に必要な準備を『既に』終えたのだ。
「良い結果を出しますよ」
故に曇りのない気持ちで、私はそう言い切れた。
読んでくれてありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!