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第114話、コアラ子「閉会式も無事に終わりました!」

書きあがったので投稿します!

よろしくお願いします!

『き、気を取り直して!これよりプロモーション最後の閉会セレモニーを開始しようと思います!』


天乃はスタジアムの観客席に向けて声を響き渡らせる。


『色々とあったけどこれでラスト!最後の最後に特別な催しものがあるから、最後まで見逃さないでね!』


天乃は汗を流していた。

きっとそれは、先程の気不味い空気を払拭しようとする気持ちの表れなのだろうと思う。


(たぶん、根本的な原因は俺ですよね…ほんとすみません!)


客船で鈴子に一方的に放った説教を思い出す。

それが原因で勘違いが拡散し、結果的に天乃が大恥をかいたのだと分かった。


反省の気持ちを浮かべ、心の中だけでも彼に謝罪を送り、一言一句彼の言葉を見逃さない様にと決める。


『これを最後にプロモーションは終了になるよ!僕と校長だけが知っていた『サプライズ』!では──』


隅から走って来たスタッフから、サッカーボール台の大きさをした透明な球体が渡される。


その中には、色鮮やかな花束を包んだブーケが入っていた。


『最後のサプライズイベント!その名も『ブーケ・トス』!よく結婚式の最後にやる独身女性が愛するイベントだ!』


天乃の高らかな宣言にも関わらず、観客を含めたスタジアム中の人間達がイマイチな反応を見せる。


どうしてブーケ・トスなのだ?

ただブーケを投げて終わるのか?


疑問が支配する中で、天乃は笑顔でその球体を鈴子に渡した。


『最優秀賞に輝いたチームのリーダーである鈴子ちゃんに!これからブーケ・トスをやって頂きます!中央ホールに立っている全員がこのブーケを奪い合う権利があるよ!』


その言葉は上位入賞十チームへのプレゼントなのだと聞こえた。


『あ、当然だけど、壇上に立っている君達も参加出来るからね』


横目で自分にそう伝える天乃。


でも大丈夫です。

そのブーケを欲しいとは思っていないので。


てか、どうしてブーケ?


依然とスタジアム全体に異様な空気が流れ、ほぼ全員が趣旨を分からずにいた。


『じゃあ鈴子ちゃん!ブーケを投げてもらおうかな!もちろん人体強化を使って全力で!』


『全力?』


『そうそう。なるべく高く上げてほしいんだ。じゃないと危ないからね』


『危ない?』


『そう危ない。じゃあカウントを始めるから、ゼロで投げてね』


鈴子の疑問を置き去りに、天乃は鈴子に背中を中央ホールに向けさせる。


背後の真上にブーケを投げるのが、結婚式のブーケ・トスだ。


それを忠実に再現したかの様に、今の鈴子は本当の花嫁のブーケ・トス姿に見えた。


『じゃあ行くよ!…十!・九!・八!』


天乃のカウントに連れて、観客席からも声が上がり始める。

スタジアム全体でカウントコールが始まったのだ。





七!


天乃は満面の笑顔でカウントを奏でた。


六!


鈴子は疑問を感じながら人体強化を行った。


五!


校長は頭を痛くした顔で、事の終わりを見守った。


四!


天草先生は何も分からず、ただ天乃のカウントに声を合わせた。


三!


コアラ子は興味を抱いた瞳で、鈴子が持つ色鮮やかな花束を観察した。


二!


観客はカウントを数え、この先に起こる何かに期待を抱いた。


一!


広樹は思った。はっきりとした予感があった。


校長の気不味きまずそうな顔。

天乃の捻くれた笑み。


その二つが合わさって一つの言葉が思い浮かんだ。


──絶対にロクなことにならない。





『ゼロ!!』


天乃の言葉を引き金に鈴子は球体を真上に投げ放つ。


人体強化によって強化された腕力により、それは遥か天井に届く勢いで上昇した。


『はい!ここから補足説明!まずあの透明な球体は急激な重力と風に晒させると粉々になる材質で作られています!』


宣言通り球体は粉々に崩れ、花束で飾られたブーケが剥き出しとなって宙を飛ぶ。


『あのブーケはただのブーケじゃない!なんとぉお!戦闘学の本部が用意した特別なブーケなんだ!』


その言葉によって、ブーケに真下にいる者達の瞳の色が変わる。


『その名も『超幸運しあわせ花束ブーケ』!本部が『幸運系統』の能力を研究して作り上げたスッゴォイ代物だ!』


幸運系統の能力。

自分の願望を叶える過程に対して、強化影響を与える能力。


それを人工的に発生させる代物が宙高く飛んでいる。


『さて!ここで一人の女性の体験談をご紹介しよう!』


天乃は懐から出した一枚の紙に視線をやって紡いだ。


『数年アラフォーをやってたけど、これを貰って生まれ変われました!彼氏の居ない孤独な生活から逃亡疾走ランナウェイ!順風満帆な新婚生活を送ってます!』


──!!??


一瞬、空間が揺れたのを感じた。


『半年後に出産する予定です!本当に出会えて良かったです!この『超幸運しあわせ花束ブーケ』に!』


瞬間、中央ホールが爆散した。



煙を上げて飛び立つ二人の人影。


それはスーツを着込んだ大人の女性。

生徒に整列を促していた女性誘導員だった。


そして思い出す。

整列を行なっていた誘導員の性別を。


天草先生も含めて中央ホールに並んでいた誘導員は全員────女性だった。


「「「「「「これは私の物よぉおおおお!!!」」」」」」


この人員配置が天乃による策略なのかもしれないと心底思えてしまった。


飛び立った誘導員は叫ぶ。


飛び立った者達に銃口を向ける誘導員も叫ぶ。


切羽詰まった者達の咆哮と血眼に、生徒達は動けずに固まる事しか出来なかった。




幸せに向かって飛び立った独身女性は、戦闘力を持つ数少ない大人の戦闘力者だった。


そして真下で彼女達に銃口を向けているのは、戦闘力を持たない非戦闘力者。


撃ち落とされるのが先か、幸せを先に掴むのが先か、二面の戦いが始まる時だった。


ッ!ッ!ッ──!!


火花を散らした銃口。

そこから放たれた非殺傷ゴム弾は、飛び立った女性達を狙わずに、銃を真上に向けていた女性達に突貫した。


真上に注意を向けていた彼女達は、難なくとひたいを撃たれて膝をつかされる。


それを撃った者は、次に両手首に仕込んでいた装置を飛び立った者達へと構えた。


「くっ!あっ、天草ぁああ!!」


広樹の担任である女教師、天草愛あまくさあいは本気だった。


戦闘力を持たない元戦闘力者でありながら、その洗練された動きと構えに隙は無い。


バシュッ!と、装置からワイヤーが射出され、宙に飛ぶ二人の足首に絡みつく。


「「カァッ!?」」

急速な肉体強化によって、彼女達の脚は大きなダメージを負っていた。


その足首にワイヤーが絡まり、二人は痛みで顔を歪ませたのだ。


真下にいる天草愛に醜悪を宿した視線で睨みつける。

だが天草愛はそれに動じず、ワイヤーをたくみに操った。


ギュイィィーーンっ!と装置がワイヤーを高速で巻き戻す。

女性一人分の体重が彼女達の足首に掛かり、上昇は途中で停止した。


「天草さん!」

「いくら貴女でも!私達に敵う筈がっ」


彼女達は天草愛という存在を知っていた。

最前線で銃を持っていた彼女の本領を知っていた。


だが、それは過去の話だ。

今の彼女は戦闘力を持っていない。


「「ッ!?」」


だが、彼女達は感じ取った。


今の彼女には、自分達を遥かにしのぐ何かを持っている、と。


「後輩の貴女達に遅れを取る程、私は腐っていないわよ」


そう言って地面を蹴って宙に飛んだ。

ワイヤーに引っ張られながら、彼女達に接近する。


そして必然的に彼女達は防衛行動に打って出る。


ッッッッッッ!!と、彼女達による非殺傷ゴム弾の連続射撃が放たれる。


「「ッ!?」」


だが躱される。


両手首のワイヤーを巧みに操り、彼女達の足首に負担を与えて狙いを外らしながら、回避行動を取る。


二本のワイヤーを引っ張る事によって、狙いを絞らせない。


二本のワイヤーを引っ張る事によって、空中での回避を可能とする。


「最前線で激戦を潜り抜けて来た私が!合コン合コン言っていた貴女達に負ける筈が無いのよぉおお!!」


腹に溝撃ちを繰り出し、二人の身体がくの字に曲がる。

ワイヤーを解き、彼女達を足場に渾身の脚力で踏み抜ける。


そして、


「取っ──!!」


欲望の手が幸せを掴む時だった。


それは花束に向かって放たれた。



「──いっけぇええ!!」



若々しい乙女の声が上がる。

咆哮と共に『刺股さすまたの形状をした槍』が投擲された。


「なッ!?」


天草愛の反応を置き去りにし、その槍は花束をさらい去る。


刺股の特徴は槍先の『U字形』にある。


そのUの間にスッポリ収まる形で、槍は花束を捕まえたのだ。


そして、ザキィッ!と天井に槍が刺さり、花束を挟む形で停止した。


「一体っ!?」


天草愛は何が起こったのか理解出来なかった。


真下を見れば、槍を投擲した少女の姿が見える。

その少女は二位入賞した新入生チームのメンバーの一人。


だが分からない。


どうして彼女が都合良く『刺股の形状をした槍』を持っていたのだ。

いや、持っていなかった。そう記憶していた。


入場した際にあれだけ長い槍を持っていれば、誰だって気づく筈だ。


何故、どうしてだ。

でも今は、


「私達の勝利です!」


槍が刺さった場所にどうやって向かうか思考する最中に、投擲した少女が自分達の勝利を宣言した。


槍で花束を捕獲した勝利。

それは誰も認めない。

この手で掴んでこその勝利なのだと誰もが言うだろう。


故に誰も止まらなかった。

次の行動に出る独身女性達モジョたちが現れ始めた。


その原動力は全て、槍に収まった自分の幸せを掴む為のものだった。


だが、もう既に遅い。

その願いは一瞬で壊されるのだから。


「コアラ子ちゃん!ナイスキャッチだよ!」


「「「「「「なッッ!?」」」」」」


その言葉によってポンっと槍は少女へと姿を変えた。

左手で花束を掴み、右手で天井で入り組んでいる鉄パイプを握りしめるコアラ子と呼ばれる少女。


彼女が花束を獲得したのだ。


「いいぞ!此処に落ちて来い!」

「しっかり受け止めてあげるわよ!」


残りのチームメンバーがコアラ子の真下に移動し、彼女を受け止める体制を作った。


それを確認したコアラ子は、鉄パイプを離して落下する。

バシッと受け止められ、立ち上がったコアラ子は涙目で自分を投擲した少女に近寄った。


「痛かったよぉ!?」


「あ、やっぱり?」


「言ったよね!?形状が変わっても痛みがあるって!失敗してたら天井に生身でぶつかってたんだよ!?」


「でも天井には突き刺されたね」


「突き刺されたね─じゃないよ!?天井に刺さらない力で投擲してそのまま自然落下でキャッチする約束だったじゃん!」


「だって〜早くしないと取られそうだったんだもん」


「だもんじゃないよ!」


幼さを持つ少女達の会話の横隅で、膝を床に落とす大人達。

当然その中には天草先生の影もあった。


「じゃあ花束をみんなで分けちゃおっか!一人五本くらいありそうだね!」


彼女達は手を組んでいた。

後で山分けしようと、力を合わせた結果の勝利を手に入れたのだ。


そして大人達の敗因はただ一つ。


争い合っている大人達よりも、力を合わせて戦った少女達の方が強かっただけの事。


「これ結晶だよ!絶対に特別な何かで作られてるよね!」

「幸運か〜、明日良い事あるかな〜」

「彼氏とか?」

「宝くじとか?」

「テストの山が当たるとか?」

「みんなバラバラだね」

「そう言うコアラ子は何を望むの?」


欲望に染まった大人達を置いて、少女達は笑い合いながら先の未来を伝え合った。



そして新入生歓迎イベント『プロモーション』は無事(?)に幕を下ろした。

読んでくれてありがとうございます!


ようやくイベントが終了しました!

長かったです!やっと終幕できました!

まだ危ないフラグが残っていますが、必ず回収に向かいます!


そして新章に突入します!

色々と考えましたので、どうか楽しみにしていてください!頑張って書きます!


そして戦闘力を持っていない天草先生の実力ですが、アクション映画などに出てくるスパイやエージェントっぽい人達くらいの運動能力があると思ってくれると嬉しいです!


例えるなら、ゲーム版のバイ○ハザードに出てくるエ○ダ・○ォンくらいの実力があると考えてくれると嬉しいです!


そして刺股の形をU字型と説明しましたが、分かりづらかったら雪○だいふくに入っているフォークの先端と同じ形と考えてくれると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
しかも、改めて読み返してみると甘草先生、立体機動装置使いこなしてますね……マジですげぇ
ブーケトス一つで阿鼻叫喚
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