第108話、コアラ子(いちゃいちゃ?別れ話?どっちなの?)
書きあがりましたので投稿します!
これからもよろしくお願いします!
「二位入賞おめでとう。新入生で入賞チームが出るのはいつ以来だろうね。これからの勉学と活躍に期待しているよ」
「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」
初々しい少女達のお礼の言葉。
それに校長は満足しながら、首を縦に振る。
少女達は手に賞状を携えて、舞台からゆっくり降りる。
そして次に待っているのは、
『次は一位入賞チームの受賞です!では、内守谷鈴子さん、荻野広樹さん!壇上へどうぞ!』
司会者の言葉に従って、一歩前に……出ない。
「鈴子、序列者が先頭だよな」
顔を動かさず、コソコソと聞くが、
「何を言ってるの?私が前を歩けると思う?」
「一番目立つ格好をしてながら何を言う」
「好きで目立つ格好をしてる訳じゃない……とにかく嫌だ」
鈴子は全面的に拒否する意向だ。
だが、ウェディングドレスの前を歩くのは絶対におかしい筈。
衣装メイクを施した序列者の前を、転校したての素人が歩く……きっと空気を読まなかった事で、教職員から何かを言われるだろう。
「一番の活躍を見せた序列者の前を歩けと?普通に駄目だろ」
「広樹も活躍してたよ。誰にもマネ出来ないよあんなの」
「お前ら二人と比べたら雲泥の差だ」
いや、月とスッポンか。
あの戦いは未来永劫マネ出来ない。
「俺はただ詩織をお姫様抱っこして、全力疾走しただけだ」
────────お姫様…
鈴子がボソリと何か言った。
だが、今はコソコソ言い合っている暇がない事に意識が回る。
もうすでにザワザワし始めているのだ。
司会者の言葉から三十秒弱。
そろそろ出て行かないとマズイ。
「お姫様。そろそろ我儘言わずに行きましょう」
ちょっと紳士風にお願いする。
それに鈴子は、何かを決心したかの様な瞳で、
「分かったよ……じゃあ」
頬に熱を浮かばせて言い放つ。
「お姫様抱っこで……行こう……」
……………………は?
おい待て、何があった?
「二人でなら……恥ずかしくないよ……この格好だもん……」
そりゃあ今更恥ずかしくないでしょうね。
これだけ可愛らしいウェディングドレスを、公衆の面前で着てるのですから。
そして俺は?
俺にお姫様抱っこをしろと?
「鈴子……まさかお前……」
俺を辱めるつもりだ。
自分ばかりが恥ずかしい目に遭っているから、仲間の俺にも同じ目に遭わせる気なのだ。
入場時の俺が考えていた様に。
「俺を辱めるつもりか……恨む相手は序列二位だろ」
「今は『恨んでた』になるよ」
「恨んでた?どういう──」
『内守谷鈴子さん!荻野広樹さん!壇上にお願いします!』
俺の言葉に被せて、司会者が再度の指示を仰いだ。
「ほ、ほら広樹……もう待ってくれないよ」
コイツ、顔を真っ赤にして滅茶苦茶恥ずかしがってるよ!
どんだけ巻き込ませたいのこの娘!
「くっ……………………壇上までか?」
「う……うん」
冷静な判断が出来ない。
落ち着いていれば、もっとマシな手段が思いついたかもしれない。
だが、大勢と一人に追い詰められて、まともな考えが浮かばなかった。
「……両手を首に」
「……分かった」
なんの罰ゲームこれ?
「じゃ、じゃあ…触るよ」
向かい合って差し伸ばされる白いウェディンググローブ。
鈴子は顔を赤らめながら、その両手を震えながら近づける。
ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!
そして荒波の如く広がる騒めき。
そりゃそうだ。
向かい合ったウェディングドレスの序列者から、首に両手を回されてるんだからな。
「じゃあ、膝の下と背中に手を入れるぞ」
「……ん」
ブルブルしてますよこの娘。
自分で頼んでおいて何で怖気付いてるの!
ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!
そしてうるさい!
分かってるから!
自分がどれだけヤバイ事をしようとしてるのか知ってるから!
だから静かに暖かい瞳で見守っててくれよ!
もうサプライズでいいじゃないか!
「いくぞ……よっこらっっせっ」
「んん!」
ほら持ち上げたぞ!これで文句──!?
「っ!?……鈴子っ……すまん」
あ、ヤバイこれ。
「ど…どうしたの?」
本当にヤバイ。
「ちょっと降ろすぞ」
そしてゆっくり、鈴子の両足を床につけた。
「ちょっと両腕がヤバイ」
「え?」
「アイツ、見た目に似合わず重かったんだよ。それを抱えて全力疾走して、俺の身体が無傷でいられると思うか?」
「アイツって?…………っ!」
鈴子もようやく気づいてくれたみたいだ。
「火事場の馬鹿力だったんだ……」
そして歩き出す。
「いや、本当に無理したな……」
歩き続ける。
よし、このまま、
「ねぇ広樹。そんなの自然治癒強化で…」
即早歩き!
「ひ、広樹!?」
ヤバかったのは、お前を抱えた時の感覚だ。
詩織の時は切羽詰まってたから大丈夫だったが、思春期には厳しいんだよ。
そして気づいた。
お姫様抱っこよりも、壇上に早歩きで向かった方がマシだ。
「ま、待って広樹!」
待たない。
とにかく距離を開ける。
「広樹ぃ!!」
「グヘェッ!?」
背中に重たい一撃をもらった。
ちょっと痛いんだけど鈴子さん!?
そして追いかけて来ないで!
「お互い離れた方がいいだろ!その方がお前は輝ける!俺が保証する!」
ウェディングドレスの近くに一般人は邪魔だ。それなら俺は一人で進む。
だから鈴子!ウェディングドレスで近づかないでくれ!
「保証なんて要らない!広樹の近くに私はいる!」
「笑えない冗談だな!俺の近くにいても良い事なんて一つも無いぞ!」
「良い事なんて無くていい!私は広樹の側にいられれば、他は何も要らない!」
コイツどんだけ俺を辱めたいんだ!
俺を辱められれば何も要らないと言ったぞ!
「だから置いて行かないで!」
「俺なんて捨てろ!じゃないと先に行けないぞ!──」
「先に行けないじゃなくて、もう到着してるよ。二人とも」
「「あっ…」」
気づけば壇上を登り切り、目の前には苦笑いをする校長の顔があった。
「それと、ちょっと質問をさせてくれ」
校長は眉間を摘んで、
「二人はどんな関係なんだい?」
読んでくれてありがとうございます!