第107話、鈴子「どうしてウェディングドレス?」
書きあがりましたので投稿します!
これからもよろしくお願いします!
スタジアム中のモニターに、その可憐な容姿とドレスが映し出されていた。
そよ風を感じさせる鮮やかな薄緑と白を主張しながら、細さと若さを自然と見せる流れた姿。
薄く地味な装飾が、本人が持つ天然の美しさを更に引き立てる。
贅沢ではない。豪華でもない。
だが、可愛さは抜群に輝いている。
そんな愛愛しく幼い新婦の横には、少女と同じ髪色をした黒いスーツの男性が泣いている。
「嗚呼ぁ、鈴子ぉぉ。っ、お前も遂に、っ、お嫁に行ってしまうんだね。っっ、お父さんは嬉しいよっ、ひっぐ」
白いハンカチで顔を隠す父は、娘の新たな旅立ちに泣いているのだ。
「行こうっ、鈴子ぉ。君の大切な人が──」
そして喝采溢れる舞台へ……踏み出す事なく、扉は強制的に閉められた。
主に鈴子の腕力によって…
『ぎゃァアアアア!?痛い痛い痛い!!』
ポキポキッ!と、鉛筆の束を落とした様な音が響き渡った。
あれ?何か悲鳴が聞こえたぞ。
扉の内側で何が起こってるんだ?
…………。
そして一分。
ドゴーン!!と扉がぶち開く。
『う、内守谷鈴子さんの、入場です』
司会を続ける少女は震えながら仕事を続行する。
そのレッドカーペット歩くのは、ウェディングドレス姿の鈴子ただ一人。
何故か父の姿は跡形もなく消えていた。
(もしかして…)
さっきの悲鳴の正体が分かった。
鈴子と灯花が馬鹿だと蔑んでいた序列二位の思考。
それがこの姿なのだと今になって気づいた。
「何か色々あったみたいだな」
「やっぱり無理だった」
「何がだ?」
「前回の一位入賞者も、同じ事をしてたって…だから」
「扉までは良かったけど、最後に爆発して仕返しをしたと。でも何でウェディングドレスなんだ?」
「分からない。でも前回は王子様の格好だったらしいよ。着たのは詩織だったけど」
「……男装……似合いそうだな」
「女子にモテモテだったみたい」
転校初日の光景を思い出して納得する。
すれ違う女子達に熱い視線できゃーきゃー言われてた。
それは詩織が女性も惚れさせる人気を持っていた証明。
(やばい。ちょっと百合を想像してしまう…)
改めて思う。
詩織は男らしい部分が大きかったと。
『それでは入賞チームが揃いましたので、これより表彰式を執り行わせて頂こうと思います!ではまず、今回のイベント中のPVを流させて頂きます!』
司会進行役の言葉に合わせて、スタジアム中のモニター映像が一斉に切り替わった。
『約二十分の熱き映像!ぜひご覧下さい!』
様々な編集が施され、燃える様なBGMを付け加えられた戦闘シーン。
それが今流された。
戦う者。逃げる者。立ち向かう者。
仲間と共にチームワークを発揮する者。
友達を守る者。
汗、涙、嗚咽、歓喜、悲鳴、怒号、咆哮。
その戦いの連続にスタジアムが喝采に包まれる。
そして遂にその場面がやって来る。
そこには誰もが目を見開いて心に焼き付けた。
船内に潜んでいた小型機械撮影要員が捉えた映像。
序列十位と序列九位の激戦。
銃撃戦、格闘戦、銃撃格闘戦。
一瞬の隙も許されない最中の駆け引き。
銃口を弾き合い、銃弾が何発も跳弾する廊下の光景。
船の一部を剥ぎ取って振るう、序列者の熱き姿。
(俺の見えない所で……怖ッ!)
アニメや映画でしか見れない戦闘。
常人には絶対に不可能な技術と行動。
それを詩織と鈴子は自分の見えない所で難なくやりこなしていた。
「鈴子…さん」
「なんで『さん』付けたの?」
「何となく…」
怖いからとか言えない。
「お前って凄かったんだな。今までの印象が覆させられた気分だ」
「私が凄いなら…広樹も」
「え?」
「あれ」
鈴子の瞳から視線を外して、指の向けられた方向を見た。
そこには少女を抱いて全力疾走をする少年の姿が見える。
汗に溢れ、嗚咽を吐いて、血管を浮かばせる限界必死の激走。
その余裕の無い表情には、抱いている少女を何としてでも助けると言う言葉が浮かんだ。
そう、まるでアニメの主人公の様な…
あ、俺だ…
「ねぇ、広樹」
あれ?何か声のトーンがおかしくない?
鈴子の声って、こんなに重かったかな?
「どう言う事?」
「ど、どう言う事とは?」
「しらばっくれるの?」
「い、いやいやいや、だから何を?」
「…………じゃあ聞くよ。嘘をつかずに答えてね」
はい、絶対に答えよう。
じゃないと恐ろしい事になる予感がある。
「巨人に食べられた後、体内で何をしたの?」
「へ?」
体内で?食べられた後に何が起こったか?
そんなの決まってる。
そこにあったのは、触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手触手…
「ッッオェェ!」
「ひ、広樹っ!?」
ヤバイ、ガチで倒れかけた。
それに口から何か嘔吐しそうだった。
「大丈夫っ!?」
「鈴子ぉ…」
余裕のない声音で紡ぎ出す。
「体内で起こった事は……ほんと聞かないで……思い出すのも辛い……」
吐き気を必死に我慢しながら、乱れた息で本心を伝える。
あの地獄はもう思い出したくないと。
「あれは、もう嫌なんだ。あんな事、もう絶対にしたくない」
お尻が痛い。口内が気持ち悪い。身体中が今も覚えている触手パラダイスの悪夢。
もうアレを思い出させないでくれと伝えた。
「わ、分かったっ。本当に、聞いてごめん」
鈴子も慌てながら理解してくれたらしい。
今の俺の顔は果たしてどうなってるのか。
いや、それよりも鈴子に背中を優しく摩られてる時点で恥ずかしさが思い浮かぶ。
新婦にお世話されるこの姿は、誰にも見られたく……あっ。
「鈴子、もう大丈夫だ。背中をありがとうな」
「本当に?」
「大丈夫だ」
「無理しなくても」
空気を読んで!
そして周りを見て!
すっごい見られてるよ!今の俺達!
──やっぱり
──そうなのね
──前代未聞ね
──未成年者は駄目よ
──後で生活指導室だな
──引きこもり少女と転校生の運命的な出会い
──あの人の両手で粗相を……ぅぅ
あれ?聞き違いか?幻聴か?何かおかしな単語も聞こえたぞ。
ただ背中を摩られただけで、どうしてこんなにも注目性があるの?
「もう少し撫でようか?私は大丈夫だよ」
「鈴子、本当に頼む。もう大丈夫だから」
やっと摩る手を退かしてくれた。
周囲からの熱い視線がとんでもない事になってるが、時期に止むことを祈るしかない。
そしてPVも終わりそうだ。
BGMが終盤に入り、最後は一人の少女の自決場面が映った。
うん。こっちの方も思い出したくなかった。
それは隣に十歩。
六人の新入生の中にいる一人の少女。
その娘に自分がやってしまった過ちがある。
(なんで俺はあんな変態的思考を!)
本当にヤバイ。
中等部一年を相手に犯した事実。
それは当然、あの娘の記憶に刻まれているだろう。
(変な噂とか……ァァァァ)
(私は…ぅぅ)
「どうしたのコアラ子ちゃん。顔がすっごく暗いよ」
「なんでもないよ」
「これは嘘を吐いている顔だね!こう見えて私は嘘には敏感なんだよ!」
この明るい娘は意外と鋭い時がある。
でも言えない。言える筈がない。
(言ったら、変な噂が立っちゃうよ)
『お父さんは空の上から鈴子を見守ってるぞ』
残された血文字のダイイングメッセージには、お父さんとしての素直な気持ちが並んでいる。
そこにはカツラが外れ、ズタボロになった序列二位が倒れていた。
「これは……ふむ、生ゴミの日はいつでしたか」
「まだ死んでないよ!!」
「なんだ、生きてたんですか」
どうやら息を吹き返したらしい。
惜しかった。後ちょっとで私の役目を終われたのに。
「で、少女の心を弄んだご感想は?準備していた本来の衣類を破棄して、ウェディングドレスを着させた序列二位様」
「ピンク色の噂がある二人の為に用意したんだけど、駄目だったかな?」
ふざけた主人をぶっ叩きたい。
反省を促す言葉は逆効果だったみたいだ。
だったら本題に入ってしまおう。
「これを渡すようにと」
「ん、これは?」
差し出された封筒に疑問を浮かべる天乃。
「私は手伝いませんからね」
「え?」
「では、私はまだ予定があるので、失礼します」
「ちょっと」
後ろで何かを喚いていますが、もう無視です。
それは校長から渡すように頼まれた重要書類の束。
馬鹿でも仕事が出来る序列二位。私なんて必要ありません。
壊したシステムの修理と、滅茶苦茶に狂わせた計画の数々の再調整と情報整理、それらを含めた反省文の提出。こんなの彼の手にかかれば簡単に解決出来るだろう。
簡単だが、きっと長い作業になる。
その間に私はお暇して、久しぶりにスイーツバイキングでも行きましょうか。
読んでくれてありがとうございます!
それと報告です!
前々から考えていたことですが、新しい読者に読んでもらうために『コメディー』にジャンル変更しようと思います!
ちょっとの間、『アクション』から離れますが、また帰って来るつもりです!
どうかよろしくお願いします!