第106話、天乃「さぁ鈴子ちゃん!勇気を振り絞って表彰式に出よう!」
ごめんなさい!投稿する予定だった時間に眠ってしまいました!投稿が遅くなってすいません!
書きあがりましたので投稿します!
読んでもらえると嬉しいです!
「え?一人で入場?」
「……すいません……いえ、本当に申し訳ありません」
灯花に頭を下げられ、深く謝罪される。
何故かと言うと、そこに鈴子がいない事が根本的な理由だ。
「時間がおしていますので、チームメンバーの一人だけでも、先にでてもらう事に…」
「いや、まあしょうがない……よな。だって鈴子が」
逃げ出した。
序列二位の腕の中で、上着を脱皮したかの様に脱いで、スポンと脱出、即ダッシュ。
それを序列二位が追いかけて行ったのだ。
「しょうがない?……いえ、天乃がこんなミスをする筈……」
「ミス?」
「天乃は馬鹿でも序列二位です……なので少し不可解で……」
「鈴子を取り逃がした事がか?」
「はい……」
天乃が一度拘束した少女を易々と逃す筈がない。
それが彼を知っている灯花の考えだった。
「それに、天乃なら能力で即座に捕まえる事も……」
「能力?ハッキングでか?」
「それも天乃の能力ですが、本領が異なります」
天乃の能力の真髄。
灯花はそれを伝えようとする。
「天乃が持つ能力は──」
──そろそろ入場準備をお願いします。
だが、小型無線機に流れた指示によって、それは中断された。
「すいません。この話は後日、機会があれば」
「いや、気にしなくても……雰囲気で凄いのは分かった」
「ありがとうございます。それではそろそろ扉が開きます。前方にゆっくり進んで、奥にいる誘導員の合図に従ってください」
「分かった」
灯花の簡単な説明を頭に入れて、心を引き締める。
だが、改めて思うと緊張する。
大勢の前を歩くのだ。しかもイベントの入賞者、それも一位としてだ。
それを一人で歩くのは、緊張と恥ずかしさを通り越して、恐怖に感じた。
(俺、本当に何もしてないんだけどな…)
ただ詩織を抱っこして、とにかく全力疾走を尽くした。
それよりも、鈴子と詩織による戦闘の方が、どう見ても評価されている筈だ。
そして、序列者を差し置いて、自分だけが入場するのも重く感じた。
(鈴子、後で覚えてろよ…)
鈴子の悪い部分。
それを少しでも改善しないと、これからあるオーストラリア旅行でも苦労しそうだ。
今回の件を盾にすれば、校長に相談してカウンセラーを予約しても、文句は言われないだろう。
(一人で表彰式か……一人はなかったな……)
戦闘学に転校する前にも、入賞者として立った機会があったが、それはチーム全員で。
一人がこんなにも胸が締め付けられるとは思わなかった。
(仲間は今頃、どうして──)
──扉が開きます。入場をお願いします。
懐かしさに浸る最中、天井の隅に付いたスピーカーから指示が流れた。
鈴子がいない状態での入場。
心臓の鼓動がありえないほど早いが、今は無心で進もう。
それが一番だ。
『では!最後の入賞者の登場です!大きな拍手でお迎えしましょう!』
司会進行役の少女の声に、スタジアムが揺れる。
巨大な扉が開き、そこから一人の男が姿を見せる。
『荻野広樹さんの入場です!』
────!!
そして巨大な喝采に包まれる。
(やばい、鈴子が出たくない気持ちが分かった)
とにかくデカイ。
過去に出た表彰式とは規模が違う。
例えるなら、フリーマーケットとオリンピックくらいの差がある。
(無心で歩け。感情を顔に出すな)
視覚をボヤけさせて、聴覚の感覚も鈍らせる。
ぎりぎりまで五感から意識を離し、ただ普通に歩く事に集中した。
そして真っ直ぐ向かう先には、黒スーツを着た女性がボヤけて見える。
きっとそこが終点地点なのだと、感覚で分かった。
『内守谷鈴子さんは、もうじき準備が整うとの事です。もうしばらくお待ちください』
無心でも、司会進行役のその声だけは耳に入った。
(捕獲されたな鈴子。お前もこの恥ずかしいレッドカーペットの上を一人で歩いて来い。俺はその先で待ってるぞ)
自分の苦しみを仲間に与える。この喝采を同じ様に浴びる。
同じチームとして至極当然の分け合い。
あの対人恐怖症には良い薬になるかもしれない。
だったら、俺はその光景を静かに傍観しよう。
「広樹くん。お疲れ様」
聞き覚えのある声が聞こえた。
それは目の前に立っている女性の声。
ボヤけさせていた視覚を取り戻して、ようやくそれに気づいた。
「天草先生。お久しぶりです」
「うん久しぶり。今は誘導員として此処にいるから、何か体調が悪くなったら言ってね」
「はい」
自分の担任である天草先生。
その姿と声に、この場の苦しさが少し和らいだ。
(さて、次は何を)
「ねぇ広樹くん」
それは突然と響いた暗い声音。
あれ、今近くにいるのって、一人しか…
「しっかり白状してね…」
「な、何をですか?」
怖い!なんかとても怖い!
ポジティブだった天草先生が消えて、そこにいるのは禍々しい雰囲気を持つ天草先生だ。
今の天草先生を隣にしたら、スタジアムの喝采が霞んで感じられる。
それに何を白状させるんだ。
此処まで声音が変わると、余程の事ではないと直感に鳴り響いた。
「私はね…まだ早過ぎると思うのよ…」
「だ、だから、何がですか?天草先生」
「出会って一ヶ月も経ってないでしょ…それなのに…」
「い、一ヶ月?」
「私は教師。だから、否定する側の人間なのよ。本人達の気持ちを無視してでもね」
「本人達の気持ち?」
何を言っているのか分からない。
そしてとにかく怖い。
今までの天草先生からでは、考えられない恐ろしい雰囲気がそこにあった。
『内守谷鈴子さんが御到着しました!では!入場してもらいます!』
「あ、天草先生。鈴子が来たみたいですよ」
少しでも気を反らせたい為に言い放った一言。
だが、天草先生は、
「あの娘にも、しっかり白状させないとね…」
そう呟いて、これから開かれる扉に視線を伸ばした。
(え?鈴子も何かしたの?)
自分だけではなく、鈴子も何かやったらしい。
でも引きこもりでゴミ部屋を作る少女だ。
きっと何かあるのだろう。
(鈴子……でも今は)
それも気になるが、今は鈴子の姿を見ようと気持ちが優先した。
(さぁて鈴子さん?俺を一人で歩かせた罰として、俺と同じ様に一人で歩いてもらおうか)
ちょっと『ムフフフ』な気持ちになってしまう。
詩織と激闘を繰り広げた鈴子でも、その内面は引きこもり。
つまり、恥ずかしさのあまりに失神する可能性も……
え?なんか見たい…
顔を赤くして倒れる鈴子って、……あれ、可愛くない?
『暖かい拍手でお迎えください!では!入場ぉお!』
拍手喝采の中で、大きな扉が徐々に開かれていく。
そして自分の時には流れなかった入場音楽が響き渡った。
パパパパ〜ン、パパパパ〜ン
パパパパン、パパパパン
パパパパン、パパパパン
パッパ〜パ〜パパ〜
そう、その音楽は誰もが人生で必ず聴いた事がありそうな──
まるで白い教会で流れる感銘な──
フェリックス・メンデルスゾーンの『結婚行進曲』の様な曲に聞こえた──
ちょっとまて
え?何あれ?
なんでウェディングドレス?
(わぁぁ、凄く綺麗)
広樹から少し隣にいるコアラ子は、その姿に瞳を輝かせていた。
読んでくれてありがとうございます!
シリアスが終わって久しぶりにコメディーに突入かもです!
次話もぜひ読みに来てください!
今話では、フェリックス・メンデルスゾーンの『結婚行進曲』を書きました。