第104話、鈴子「ずっとソコにいたの?私と詩織が戦ってる間も?湖の中に沈めとけば良かった?ねぇねぇねぇ?広樹から預かった時点で○○しとけば良かった?」
書きあがりましたので投稿します!
これからもよろしくお願いします!
「空が青い…」
今は何もする気が起きない。
数十年分の体力を使い果たした気分だ。
もうイベントを降りてもいいんじゃないか?
「もう敗退しても──」
「あ、あの!?」
「お?」
突然と声がかかり、上半身を起こして首を回す。
「…………えっと」
「あの!私達は詩織さんと同じチームの」
「あ、あ〜、じゃあ敵か?」
「ちっ、違います!私達はもう自分で敗退してます!もう戦う権利はありません!」
気付けば、二人の首輪が赤く点滅していた。
更に衣類も赤色が滲んでいる。
敗退している証拠は確かにあった。
「いや、もう戦う権利とか関係ないんだけど」
「え、…もしかして」
「後ずさってるけど、もう戦う気は無いぞほんと」
敵が来たら自分で敗退するつもりだった。
だが、敵が既に敗退しているのなら、その意味もない。
「で、なんで此処に」
「あ、はい!詩織さんは!詩織さんは無事なんですか!?」
「此処でのんびり寝てるよ」
その言葉に二人は近づいてくる。
そして膝の上に乗せている詩織の顔色を見て、安心感に浸っていた。
「あの、詩織さんは一体、だってアレは…」
「ああ〜、何も聞かないでくれないか」
「え…」
「もう思い出したくない」
あの触手地獄…
「……そうですか」
少女は理解を返し、詩織の額に手を置いた。
「詩織さん、無事で良かったです」
詩織の無事に二人は涙を光らせる。
それを見て、とても気まずくなった。
「此処で詩織を渡した方が良さそうだな」
そう言って、詩織の首の下に手を差し込み、座り込んでいる少女の膝に移動させた。
「さて、俺はこれから…」
敗退したい。
鈴子に後から文句を言われそうだが、もう十分だろ。
詩織をお姫様抱っこして全力疾走したんだから。
「頃合いだろう…っ痛!」
尻元を尖った何かが突いた。
最後までお尻に不運が続く。
そしてそこに視線を向けると、
「なんだこれ?黒いガラス?──」
「広樹」
「「「!?」」」
バッと、三人の首が一斉に振り向いた。
その声の主は顔色を悪くしながら、倒れかけた歩行で近づいてくる。
「鈴子…て、おいおい!?」
今にも倒れそうな鈴子を見て、咄嗟に立ち上がって身体を支える。
ポトっと、ポーチベルトに括り付けてあった縫いぐるみが落ちる中、その身体が異常なまでに震えていた。
「凄く震えてるけど、大丈夫か?」
「ぁ…本物だ」
「お、おい?」
鈴子は涙目になりながら、
「良かったっ、本当にっ」
「あ、あ〜…そうか。そうだよな」
ようやく気づいた。
鈴子から見たら、自分が生きてる事は奇跡だった事に。
鈴子の目の前で、抵抗も出来ず喰われたんだった。
「すまん、心配かけたな」
「っ、っ」
ろれつが回ってない。
今の鈴子からは、詩織と死闘を繰り広げていた面影は無く、ただの弱い少女に見えた。
だから普通に慰め、普通に触れた。
そして、自分の身体が疲労で限界である事に改めて気付き、そっと鈴子に声をかける。
「鈴子、俺の頼み……じゃなくて提案なんだけど」
「っ、っ、ぅぅ、ん、何?」
「詩織の件で、俺も色々と限界なんだ。後はお前だけでも生き残れるだろ」
鈴子に優しい瞳で語りかけながら、足元に落ちている縫いぐるみを拾い上げる。
「ごめんな。鈴子」
「それって…」
「俺は敗退す──」
「はい!その宣言ちょっっと待った!」
「「「「っ!?」」」」
突然と響いた声に首を回す。
そこには笑顔で待ったのポーズをとっている黒髪の好青年がいた。
「っ」
その青年を見た鈴子の表情が、嫌々と言わんばかりに皺を生む。
「なんだい鈴子ちゃん?何か嫌いなものを目の前にした様な顔をしちゃって〜」
「話しかけないで」
「厳しいな〜。過去に僕は君に何かしたかい?」
「してない。されそうだから、近づきたくないだけ」
「病原菌みたいな扱いだね。少し傷つくよ」
「ちっとも思ってないくせに……で、何しに来たの?」
鈴子が本題に入り、天乃はある事実を口にした。
「イベントの参加チーム、その残りなんだけどね」
苦笑いをする天乃は、広樹に一度視線を向けてから鈴子に言う。
「残りチームが二組なんだ。鈴子ちゃんのチームと合わせてね」
「っ?…どういう事?なんでそんなに消えてるの?」
「主な原因は、詩織ちゃんの暴走でね」
言うところ、詩織が巨人化した姿を、戦場に設置してある全てのモニターに映し出して、それを見た参加者が恐怖に負けて棄権した。
その説明に鈴子は、天乃に疑う瞳で睨みつけた。
「なんでこんな事をしたの?」
「こんな事って?」
「……やっぱり、アナタには近づきたくない」
「ハハハ、僕が考えていたのは、ある新入生達の一掃だけだよ。詩織ちゃんの暴走までは計算外だ」
「嘘ばっか」
「今回ばかりは本当に偶然なんだけどね」
軽いノリで語る天乃に対し、鈴子は益々と機嫌を悪くした。
「新入生の軍勢……私達の船に襲撃をかけて来たアレは?」
「…………」
「情報を流した?彼らの思考や態度に問題があったから、私の方に誘導した?殲滅され、恐怖を植え付ける為に…」
「…………てへぇ」
ッッッッ!!
天乃の舌出し顔に爆発し、鈴子は引き抜いた拳銃に火花を散らした。
だが、
「危ないよ。僕は擬似塊を防ぐ粒子物質を付けてないんだから」
「どうせ当たらないんでしょ」
「ハハ、そうだね」
天乃は何もせず、ただ銃弾を受けたかの様に見えた。
だが、銃弾が命中した痕跡は無い。
まるでそれは、銃弾が擦り抜けた様な結果となった。
「でも、早めに問題児のは処理した方がいいんだ。じゃないと後悔しちゃうからね」
「…………」
「詩織ちゃんの暴走を映したのも、アレを隣り合わせにする事を伝えたかったんだ」
「…………やっぱり嫌い。裏でコソコソして、何を考えてるか分からない」
鈴子の機嫌の悪さと反比例して、天乃の顔には機嫌の良さが現れる。
そして最後の本題だと、天乃は鈴子だけではなく、全体を見回して言う。
「現時点で参加チームは残り二組。本来なら、お互いの位置情報のヒントを知らせるんだけど…………」
「なんで黙るの?ヒントは」
「ああ〜うん。なんて言えばいいのかな?…………君は気づいてるよね」
その言葉は誰に言ったのか。
それは詩織を救った彼にだった。
「今しかないよ〜。万分の一の勝機があったとして、残りの九千九百九十九で恐ろしい事になる…きっとね」
天乃は彼から、縫いぐるみに視線を向けて言い放った。
その事に周囲がその縫いぐるみに視線を集中する。
「最後まで君は隠れ続けた。あの恐怖を間近にしながら、能力を緩めずに隠れきった。僕はそんな君を高く賞賛するよ」
────モコッ
「「「「っ!?」」」」
────モコモコ
縫いぐるみから白い綿毛が浮かび上がる。
それはタンポポの綿毛に似た柔らかさを持ちながら、確かな重みが生まれていた。
そして人間大までに膨らんだ後、白い綿毛は煙の如く吹き散って、その正体を晒した。
「……………………」
全員が目を見開く。
何故ならそこには、広樹に抱っこされた少女がいたのだから。
縫いぐるみが少女へと変わった事実、これで天乃の言っていた謎の意味が繋がった。
「ん……」
少女は広樹に腹部を固定されながら、両手で自分の首輪に触れる。
そしてブシャッと赤い液体が首輪から漏れ、赤い光の点滅が現れた。
「…………」
「「「「…………」」」」
その結果に沈黙する他ない。
気まずい顔をする少女。
黒い何か宿す少女。
戸惑う男女。
微笑む青年。
そして彼が一番酷かった。
数分前に自分が縫いぐるみを相手にした一人芝居。
それを思い出し、顔に感情が出る前に、精神の崩壊が先に起こった。
「コアラ子ちゃん!二位入賞おめでとう!」
「…………そのあだ名は……私の本当の名前は──」
「はい撤収撤収!詩織ちゃんも早く医療施設に運ばなきゃいけないし!やる事はたくさんあるよ!」
コアラ子の本名を跳ね除けて、天乃は両手を叩いて指示を出す。
気づけば周囲にはイベントスタッフが集まっており、騒がしくなっていた。
船を運転する者。
ヘリからロープで降下する者。
詩織を救護する者。
参加者の身体状況を確認する者。
周囲の安全を確保する者。
まるで一つの大事件が終幕したかの様な光景が広がり、消え切らなかった緊張が、ようやく此処で消えていった。
『プロモーション』イベント
一位入賞『内守谷鈴子・荻野広樹』
二位入賞『──
読んでくれてありがとうございます!
長くなりましたが、これでやっとイベントが終幕です!
何ヶ月かかったか分かりませんが、ようやく終わりました!
次は後日談と、新章突入かもです!
ぜひ期待していてください!
これからも頑張って書いていきます!