第102話、鈴子「やめて…やめてぇええええ!!」
書きあがりましたので投稿します!
ぜひ読んでほしいです!
昨日も投稿していますので、確認をよろしくお願いします!
(水中での再生は可能か……まずはそこから)
手を掲げたそこには、線と線が高速に荒れ狂う球体が造られた。
そしてボールを投げるかの様に、ふり投げた。
──ッッ!!グチャッ!!
ミキサーで肉塊を混ぜた様な外傷を生み出し、黒い液体が水中に蔓延する。
攻撃は確かに通る。だが、
(やっぱり再生する……)
歩んでいた脚の速度が鈍つくも、それはすぐに修復され、変わらない歩行を再開した。
その先にあるものに、首を回して見る。
(救命ボート?……でも、もう広樹はいない筈……)
広樹には、この場に留まる理由は無い筈だ。
既に逃げているだろうと自己完結して、即座に浮上を開始する。
(次は胴体に接近して放つ?……それとも船自体を破壊して、脳を攻撃して……)
考えを巡らせながら、鈴子は能力を使っての高速水中浮上をやり遂げる。
胸から下を水に浸けて、鈴子がまず目にしたのは、
(まずはどうやって胴体に──え?)
「あっ、ひ、広樹!逃げてぇえ!」
「さて、現状はどうなってるのかな?」
広大な湖を前にしながら、天乃は一際高い建物の屋上で、人体強化で視野を鮮明に広げて見回した。
「鈴子ちゃんがいない?……水中から仕掛けてるのかな?」
その予想は正しく、潜っている鈴子は今、巨人の片脚に能力を放っていた。
「歩行が乱れた……だが、効果は無いみたいだね」
身体が傾いたそぶりを見せる巨人だったが、すぐに体勢を立て直し、再び歩み出す。
そしてその先にいるのは、
「さて、お手並み拝見と行こうかな。多重能力者」
天乃の狙いが其処にはあった。
詩織の暴走は予測の範疇を超えていたが、結果的に観測したかった光景を見られる機会が得られるかもしれない状況となった。
「やっぱり鈴子ちゃんと組んだ時点で、イベントは余裕そのものだったからね」
序列者に敵うのは、序列者のみ。
広樹の隣に鈴子がいれば、詩織の相手は彼女に向く可能性は確かにあった。
それは広樹が実力を隠せる序列者と言う名の盾。それが鈴子の存在になっていた。
だが、少しの可能性。
広樹が能力を使用して、戦いに干渉する光景を見る事に賭けて、イベントの参加を促した。
経過的には鈴子と詩織のみの戦いになったが、結果的には広樹が能力を使わずにはいられない状況を作り出せた。
だが、その代償は大き過ぎた。
「詩織ちゃんは……本当にマズイな……」
改めて確認すると、もはや人間を思わせる要素を完全に失っている。
広樹が能力を使用する光景は望んでいたが、詩織が化け物になる光景は望んでいなかった。
だが、結果的にそれは起こり、視線を逸らしたくなる詩織がそこにいる。
「何故暴走した?……何が詩織ちゃんを今に至らしめた?」
仕組んでいなかった予想外の事実。
広樹の能力も気になるが、詩織の暴走原因にも心に来るものがあった。
「…………まぁ、今考えてもしかたないか」
思考を打ち切り、天乃は広樹の後ろ姿を瞳に写した。
そこには依然と構えも見せず、何も変化を見せない広樹がただ立っている。
「何をしているんだい?このままじゃあ」
思考を巡らせる最中、広樹に近づく巨人は徐々に両手を持ち上げて、頭部を覆う大きな船体を掴む。
「これは……」
『GAAAAAAA!!』
客船は両手の握力によって崩壊し、隠れていた頭部があらわになった。
「…………詩織ちゃん」
天乃は確かな罪悪感を心に思い浮かべた。
顔には皮膚らしきものが無い。
瞼の無い瞳には、金色の眼球を剥き出しにギョロつかせ、頬には紅色に染まった奥歯が綺麗に並んで見えていた。
半皮膚半骸骨。
今の詩織の顔は、この世の醜悪を体現したかの様に醜く、恐怖するものだった。
そんな巨人を前にして、救命ボートの上でジッと佇む彼は、
「アレを前にして、微動だにしない?」
広樹の無反応に強い疑問を浮かべる天乃。
広樹はただ巨人に視線を伸ばすだけで、動こうとしなかった。
そして巨人は動く。
身体を前方に折り曲げて、身体の音を大きく響かせる。
「来たよ広樹くん。君はこの場をどうやって凌ぐ?」
ほんと誰か助けて…
身体が動かないよ…
これは何処の特撮映画なの?
完全にアウトな存在が目の前にいるんだけど…
そしてヤバイ…頭が近づいて来てるよ…
…………本当にヤバイ!
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
動け俺の身体!これは本当に人生詰む!
なんで動かないの!?蛇に睨まれた蛙の気持ちって、こういう事!?
いやぁああああ!!誰か助けてぇえ!
「広樹!逃げてぇえ!」
「君は何を見せてくれるんだい?」
誰かがそう言っている気がするが、どうする事も出来ない。
だって動かないですよ。もう金縛りと同じ様な感覚ですよ!
え、ちょっ、まっ!?
口を開いて顔を近づけないで!!
え?喰われるの?
いやぁああああ!俺を食べても美味しくないですよぉおお!
バクリ
「ぁ、ぁ…いや…広樹ぃいいいいいいい!?」
鈴子はその光景に悲鳴をあげた。
読んでくれてありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!