第10話、店長(この嬢ちゃんやべぇ)
お久しぶりです!( ^ω^ )
なんとか書きあがりました!
感想、アドバイス、コメント待ってます!
間違いがあり、訂正しました!
(何故だっ、何故ここにいるとわかった!)
広樹は恐怖と驚愕に襲われていた。
そう。彼が最も会いたくない女がドアを開け、入ってきたのだ。
(どうする!どうすればいい!)
箸を器に置き、思考を限界まで回す。
だが、解決に繋がるヒントは思い浮かばない。
そうこうしている間に彼女は広樹の隣に座った。
(きっ…来たぁあ!?)
完全に間合いを詰められた。
ここから始まるのは脅しと取引だ。
そう感じ取った広樹は、彼女が最初に何を言うのか気になった。
(メニュー端末を持った!?)
彼女はカウンター席の上に立て掛けてあった、メニュー端末を掴む。
この店の注文は、備え付けの端末で行う。
端末の大きさは勉強に使う下敷きと同じ大きさだが、厚さは五センチもある。
つまり、それは立派な凶器になるものだった。
(どうして手に持って、まじまじと端末を睨む!)
「うぅぅ」
手に持った凶器に顔を近づけ、何かを呟いている彼女の姿を見て、広樹は答えを導き出した。
(まさか、その凶器で俺を!?)
『言葉よりも痛みから知ってもらおうか。』
広樹の中で、その言葉が再生された。
いや、隣にいる女は確かにそう呟いていたと広樹は判断した。
(俺を逃がさないつもりかっ!?)
逃げる広樹に嫌気がさし、実力行使で身体を壊し、ここから逃がさないようにする。
広樹の中で、彼女の考えていることを想像した。
(このままでは殺られるっ…)
広樹は考えた。この場を打開する作戦を。
今一番に考えなければいけないのは、身の安全。
そのためには、彼女の手にある端末をどうにかしなければならない。
広樹の取る手段は一つしかなかった。
「よければ、俺が代わりに頼みましょうか?」
広樹は自然な形でアクリル板を取り上げ、彼女の代わりに注文する流れを作ることだった。
(よっしゃー!凶器回収!)
(あぁぁ…)
詩織は歓喜に満ち溢れていた。
まるで、迷子になっていた我が子が帰ってきた気持ちになっていた。
(やっと見つかった…)
今にも飛びつきそうになっていた。
それほどにまで、涙を流し、必死になって探していたのだから。
(いや…まだ駄目…)
詩織は自分を押さえ込んだ。
感情に流されてしまったら、彼は私の敵になってしまう。
詩織は彼に敵対する意思は無いと行動で示さなければならないのだ。
「では、あなたのオススメを」
詩織が言った言葉に広樹は目を丸くする。
意表を突いた。詩織は広樹のセンスに任せると言ったのだ。
それを食べきり、美味しかったと伝えることで、自分の印象を良くする作戦。
詩織がとっさに考えたアプローチ。
(さあ!早く注文を!)
「では、あなたのオススメを頼みます。」
(は?)
何を言ってんだこの女は…
広樹は真っ先に思った。
広樹と詩織の関係は深く無い。そんな相手のオススメを聞く奴なんていない。
目的がない限りは。
(俺に媚を売りに来たか…)
凶器を奪われた彼女は、俺に媚を売り、大金の恩恵にあずかろうとしているのだ。
広樹はそう判断し、彼女に挑戦状を叩きつけることにした。
(凶器は回収した。あとはこの女を追い出すだけだ)
彼女を追い出すラーメンという名の挑戦状を。
広樹は顔見知りの店主に声をかけた。
「おじさん、この子に『アレ』をお願い。代金は俺が出すから。」
「『アレ』って、お前な。こんな嬢ちゃんに食べさせるのか?」
顧客の広樹が『アレ』と言って、店主は何を言っているのか理解できた。
「俺のオススメと言ったら、『アレ』しかねーよ。俺もたまに食べてるし。」
「でも、お前が食べきれるようになっ」「いいから!俺の奢りだし!」
広樹は無理にでも注文を通した。
隣にいる女を追い出すためには『アレ』しかないからだ。
(俺に媚を売りに来た時点で、条件は揃ってる)
彼女が媚を売るということは、広樹からの好印象を手に入れることが目的だ。
媚を売りに来たこと。
オススメを聞いてきたということ。
広樹が代金を払うこと。
この条件下では、彼女は必ず完食しなければならない。でないと、広樹の気持ちを踏みにじる事になるからだ。
だから、広樹は完食できないラーメンを頼んだのだ。
「はいお待ち!『超・昇天激死辛ラーメン』!」
店主が出したのは、赤と黒を混ぜ合わせたスープを主張とした辛さ満点のラーメン。
トッピングはチャーシュー・海苔・メンマ・ネギのみであり、辛さを加減できるトッピングはない。
(俺が四年かけて攻略したラーメン!一口で終わりだ!)
広樹は勝ち誇りながら、彼女を一瞥。
彼女はおずおずと箸を手に持った。
(これはっ…ラーメンなの?)
広樹が出した難題に、詩織は汗を薄く流していた。
(ここまでドス黒いラーメンがおすすめ?)
赤と黒が混ざったそれは、人の血を連想させられるラーメンだった。
詩織はゆっくりと箸で麺をつまむ。
(麺がドロドロスープと絡んでいる!匂いも強烈!)
完全に女の子が食べるものではない。
だが、詩織は食べなければならない。彼と話しをするために。
ズルゥ
「ゔぅっ!!」
一口含んだ瞬間、詩織は顔を歪めた。
襲ってきたのは辛さではない。痛みだった。
(舌がぁっ喉ぉぉお)
このラーメンは辛さを感じさせない。
感じさせるのは、針で口の中を串刺しにする痛みだ。
ゴクっ
最初の一口をどうにか飲み込んだ詩織。
その顔には今までないくらいの汗を流していた。
(オエェ、ヴォォッオオエェ…)
顔と口には出さないように堪えているが、詩織の精神はたった一口で限界を迎えていた。
(こんなものっ、食べられるわけがっ)
白旗を上げようとする詩織。
その顔に影がさした。
「ごめんな。俺のオススメだったんだが、無理に食べる必要はないぞ」
「残りは俺が食べるから」と言って、広樹は詩織の器を横から取ろうと手を伸ばした。
だが、器はピクリとも動かない。
詩織が器を強く掴んでいたからだ。
「いえ、初めての味で驚いただけです。美味しくいただきますよ」
詩織は言った言葉に、広樹は驚愕を受けた。
(まだ終わってない!死ぬわけじゃない!このラーメンを食べきればいいだけなのよ!)
詩織の目に炎が灯る。
ここで終わったら、もうチャンスはない。
詩織は箸を強く握りしめ、器に差し込む。
(ええ!食べちゃってるよこの女!ありえねぇえ!)
一口、また一口と、口に吸い込まれていく麺たち。
汗を流し、鼻水を滲ませ、目を潤し、顔を赤く燃やす彼女の顔は、とてもは言えないが、女子高生が見せる顔ではなかった。
(そんなにもっ、そんなにも俺の大金が欲しいのか!)
彼女の金への執着心を見て、広樹は戸惑いを隠せなかった。
五分もかからない内に麺とトッピングを食べきった。残るのは禍々しいオーラを放つスープのみである。
(いくのか!?いけるはずがない!)
広樹の目の前で、詩織は器を両手で持ち、口に添えた。
ゴク…ゴク…ゴク…ゴク…〜
彼女の意思は本物だと感じた。
金のためには何でもするのか。
広樹の中で詩織の評価が、金のためには何でもするヤバイ女だと決定した。
「ご馳走さま。あなたがオススメしてくれたラーメンですが、とても美味しかったです」
「そうか、それは何よりだ…」
頑張って作った笑顔。
詩織は広樹の出した難題に答えてみせたのだ。
これで話す機会を得ることができた。
ここからが本番だと覚悟を再び決める詩織。
広樹は詩織の食べきった器を見て、まだ受け入れるつもりはないが、話を聞く姿勢を見せることにした。
「実は、あなたに話したいことが」
「もうわかっているよ」
広樹が詩織の言葉に被せるように言い放った。
「もう一度言うぞ。お前の狙い(が、宝くじなの)はわかっている」
「そうですか(すでに戦闘学の判断を知っているのですね)」
互いが目を合わせる。
広樹は肘をテーブルにつき、詩織に質問をした。
「知った上で聞くぞ。それで俺に何のメリットがあるんだ」
詩織は驚き、精神を不安定にさせていた。
初めてに近い、目を合わせた会話。だが、それは何よりも重いとされる内容が含まれているものだ。
「………………」
詩織は無言だった。彼への返答を導こうと思考を回していたからだ。そんな詩織に広樹は再び質問をする。
「聞こえなかったか?俺がお前の提案を受け入れて(大金を渡すことによって)、どんなメリットがあるんだ」
広樹は詩織を追い込むことにした。
大金をかすめ取ろうとする、目の前の女は完全な敵なのだ。
詩織の答えられない質問をすることによって、自分の意思の硬さを主張し、彼女に諦めさせる。これが今の広樹がしようとしていることだ。
(何もないだろ。早く帰れ!)
広樹がそう思っていた。
そして詩織は考えがまとまり口を開いた。
「メリットはありません」
「じゃあ、話を聞くまでも」
「けれど、私がこのまま消えたら、あなたにデメリットが発生するんじゃないですか?(あなたはすでに戦闘学から目をつけられているんですよ)」
「ッ!?(バラすつもりか!?)」
次は詩織が広樹を追い組む側に回ったのだ。
広樹の力が未知数な分、危険が大きすぎる。だが、これしか詩織に残された返答はなかったのだ。
「お前は自分の言っていることがわかっているのか?(警察を呼べばお前は終わるんだぞ!)」
「ええ、わかっています(あなたの力で、私をどうにでもすることができると)」
「そこまでして(大金が)ほしいのか」
「はい、私はそのためにここまで来ました。(私と戦闘学は、広樹の存在が欲しいんです!)」
覚悟を決めた詩織の目。
広樹は今までに感じたことのない意思の強さを感じた。
詩織は死を覚悟していた。
一秒後にも殺されるかもしれない状況下で、自分の気持ちを伝えたのだから。
二人の間に沈黙が流れる。
そして、広樹は汗を滲ませながら、口を開く。
「分かった。(大金の一部を渡す。)だが、信じられる証が欲しい。(これ以上、お前が要求をしてこない証がな。)裏切られたらたまらない」
広樹の言葉に詩織は目を潤ませ、輝かせた。
「分かりました。後日、(転校手続き書類と、戦闘学があなたに危害を加えないと約束させる)書類をあなたに届けます」
「分かった」
広樹は席を立ちあがる。
財布を開け、代金をカウンター置いて、最後に詩織を一瞥する。
「じゃあな。書類、待ってるぞ」
「はい。それと、ごちそうさまでした」
広樹はドアを開け、外に消えていった。
詩織はドアが閉まるのを最後まで見届けた。
そして、詩織が慌てて厠に走り込んだ姿を、広樹が目にすることはなかった。
「〜〜〜!?」
これからもぜひ読みに来てください!
よろしくお願いします!( ^ω^ )