5話 最高からの転落
気が付いたらジャンル別、日間2位になっってました。
嬉しいです。
伊藤さんがいる……
俺は伊藤さんだけをじっと見つめていた。
サラサラの黒髪。
ぱっちりと大きな二重の瞳。
その全てが懐かしくも切ない、そんな感情が俺の中を埋め尽くしていった。
やっぱり好きなんだな……伊藤さんの事…………
3ヶ月もの間、伊藤さんの顔を見ていなかったのにも関わらず、俺の「好き」という感情は薄れていなかった様だ。
むしろ大きくなっている。
今すぐにでも気持ちを伝えたい……
そんな気持ちが強くなっていく。
好き過ぎてどうしようもない。
伊藤さんと付き合う為に修行をした。
伊藤さんに釣り合う様になるために修行をした。
でも、伊藤さんはそんな事を知らない。
あの松田 拓未だとも思わないだろう。
今、俺が言いたい事、伝えたい事を言ってしまえば伊藤さんだけではなく他の皆が引いてしまうと思うし、それでは今までしてきたことが全部無駄になってしまう。
だから今は我慢だ。
友達を作って、以前では考えられなかった位、伊藤さんと仲良くなろう。
告白云々は今じゃない。
その結論に至った瞬間、俺は我に返って伊藤さんをずっと見つめていた事に気が付いた。
キモがられたか?
そう思ったが、伊藤さんは天使の笑みで俺に微笑みかけてくてた。
かわいい……
どうやらキモがられてはいない様だ。
俺は溢れていた涙を、皆にバレない様に袖で拭いた。
回りを見渡しても、不審な目を向けてくる人はいない。
恐らく、泣いていたのはバレていないだろう。
しかし、皆の視線が痛い……
これは早く自分の席に着いた方がいいな。
俺は気持ちを切り替えて、先生の方に振り向く。
「あの……俺の席は何処ですか?」
話しかけた瞬間、先生の肩がびくりと動いた。
先生は禿げていて、おでこに脂汗がビッチリついていた。
先生も努力してるんだな……
俺の勝手な同情を他所に、先生が口を開いた。
「あ、あぁ、松田くんの席は……ほらっそこだ」
先生が指差したのは廊下側の一番奥の席だ。
伊藤さんの隣では無かった。
「あっはい、分かりました」
俺はその席に着くと、次の行動について考える。
それは、隣の人に挨拶するか、伊藤さんをチラ見するかだ。
以前の俺であれば、話しかけた瞬間に暴言を吐かれ、女子をチラ見すれば、急にグループを作成して俺の愚痴を吐いていた。
しかし、今の俺であれば隣の人とちょっと喋る位余裕だろうし、伊藤さんは優しいから、どんなにチラ見しても怒らないだろうけど?…………
よし!
まずは隣の人から仲良くなろう!
まずは、友達を作るって決めたんだ。
だったら、チラ見より先にやることがある。
俺は満面の笑みで、隣の男子に話しかけた。
「俺、松田 拓未……よろしくなっ」
期待と不安に心を踊らせながら、相手の反応を伺う。
すると、ゆっくりと隣の男子は俺と顔を合わせ、口を開く。
「うん、よろしく!俺は、神崎 祥也」
……
えっ?
金髪のイケメンは以前、俺に見せる事の無かった爽やかな表情で自己紹介するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
嫌なほど見てきた金髪イケメンを目の前にした瞬間、金縛りに遭ったかの様に俺の体が凍りつき、過去のトラウマが蘇る。
何で?
なんで此処に神崎がいんだよ???
神崎は未だに固まった俺を凝視し、ニコニコと爽やかに、ん?どした?みたいな顔を浮かべている。
ヤバい、ヤバイ
どうしよ???
バレてるのか‥?
俺は、神崎が俺の正体に気が付いてるかを確かめる為に咄嗟に口を開く。
「なぁ神崎くん、もしかして俺に会った事ある?」
神崎は再び俺を凝視し、んー?と考え込んだ後、ゆっくりと首を横に振った。
「いやー、多分無いと思うよ……同じ名前の人なら見たことあるけど、アイツは…………うんうん、何でもない」
あ〜良かった
取り敢えず、神崎が分からなかったら他に同中の人達が居てもバレる事は無いだろう。
同じ名前の人って俺だろうけどね(笑)
それだけ俺は変わったという事だ、ますます自信が湧いてきた。
神崎に正体がバレていない事を確かめる事が出来た俺は、ホッとして背もたれに寄りかかり、教室中を見渡す。
可愛い子、多いな……
勿論・・伊藤さんが一番ではあるが、このクラスの女子は中学校の時とは比べ物にならない位、可愛い女子が多いと思う。
まぁ、中学の時は殆んど女子なんて見れなかったけど……
悲惨な過去を思い出し、苦笑いを浮かべながら、ふと視線を窓側に向けた。
窓の外には桜の花びらが舞っていた。
ん……あの子も桜を見てるのか……?
俺の視線の先には、窓際の席で先生の話を聞かずにイヤホンを装着して、じっと外を眺めている女子がいた。
その女子は、ブラウンの髪をツインテールに結び、頰杖をついて外を眺めている。
此処からは顔を見る事は出来ないが、多分可愛いんだろうな……
そんな事を考えていた時だった。
彼女の肩がピクッと動き、クルッと顔を半回転させた。
あっ…ヤバイっ見過ぎたか
俺は、必死に目を逸らそうとした……………が、遅かった。
既に、俺とその女子の視線は合わさり、彼女の綺麗な瞳が俺の視界に飛び込んで来た。
かっ可愛い………
俺は、目を逸らすのも忘れて彼女を見つめていた。
小さな顔にパッチリと大きな二重の瞳。
そして、顔の下に存在する圧倒的なブツ。
恐らくそれは伊藤さんを超えているであろう。
そう、彼女は美少女ロリ巨乳だったのだ、いやこれは美少女ロリ爆乳か…?
俺は、再び視線を彼女の瞳に向けた。
彼女も俺に視線を向けていた様で、再び目が合う。
ココで俺は気が付いた。
俺、キモくね…………
そう、たった今気が付いたのだ。
俺は、初対面の女子を凝視し、破廉恥な妄想を繰り広げていた事に。
…………やったな、コレは
俺に今考えられた最優先事項は謝罪だ。
今ので、他の女子達に噂をされれば俺は終わりだ。
再び地獄を見ることになるだろう。
俺は、その女子に向かって手を合わせ、口パクで謝った。
“ごめんなさい”
すると、彼女は顔を真っ赤にさせて、再び超高速で窓側に視線を移してしまった。
あっ……………オワタ…………………
恐らく俺は、彼女を怒らせてしまった様だ。
あんなに顔も赤くしてたし…
後で謝るか……
こうして、短時間の間にとてつもない程、精神的ダメージを受けた俺は、無意識に机に突っ伏していた。