表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/357

【第93話】真昼の決闘!

「何を、手伝えばいいんでしょう?」


 地中からの不意打ちは、知っていたから防ぐ事が出来た。だが、まともに戦う中で、自分が役に立てる事などあるのだろうかと、ミリアムは思った。


「氷結の魔法は使えるかい?」


 それは、ワイアットたちを助ける為に使った魔法だった。


「はい」


「そうか、ではそれを連続で維持する事は?」


 つまり、キャスケードウォールのように、発動後も魔力を流し続けるという事だ。


 ミリアムはちょこん、と頷いた。


「出来ると思います、そんなに長くは無理ですけど……」


 魔力回復薬(マジックポーション)で回復できる魔力は、精々3割程度、辛うじて魔法を使えるというレベルでしかない。


「十分だよ、君に無理をさせるつもりは無いからね」


 シリューは人造魔人の左胸を指差す。


「やり方はこう。出来るだけ範囲を絞って、奴の胸、丁度心臓の部分を凍らせてくれ。それで再生の速度が落ちる筈だ。同時に僕が、穴を開けて奥にある魔石を壊す、いい?」


「はい」


 ミリアムが理解したのを確認して、シリューは数歩横に移動する。お互いの射線が交わらないようにする為だ。


「では、いくよっ! ガトリング!!」


「静寂を貫く凛冽たる凍気、清き鈴音の誘いにより、白銀へ連なる扉をひらけ。コンジェラールっ!!」


 呪文を唱えた直後、ミリアムは目の前に突き出した両掌を、上下に向かい合って広げ、その間隔を顔の大きさ程度に閉じる。そうする事で、氷結の魔法の効果範囲を出来るだけ狭くする。


「ん、くっ……」


 ミリアムは眉根を寄せ、喘ぐような声を漏らす。範囲の調整にかなりの集中力を要し、魔力の消費も激しい。思ったより長くは持ちそうになかった。


 弾丸の掃射により、穿たれた穴が再生する前に凍りついてゆく。更に、凍りついた部分を弾丸が破壊する。怪物の再生能力も完全には止まっていないが、徐々に穴は深くなる。


「もう少し!!」


 人造魔人の胸に空いた穴の奥に僅かに魔石が覗き、金属の弾丸を跳ね返した。


 だが、その刹那、


「ご、ごめんなさ、い……私、もう……」


 魔力が枯渇し、魔法を維持できなくなったミリアムが、がっくりと崩れ落ち同時に氷結の魔法が途切れる。


「ありがとう! 後は任せて!!」


 シリューはガトリングを維持したまま剣を構え、ミリアムの視線を遮る位置に入り、人造魔人へと突進する。


「コンジェラール」


 シリューが小さな声で呟く

 ミリアムの魔法を見た事で、たった今覚えた氷結魔法。

 イメージは、凍り付き、ガラスのように砕ける薔薇の花。

 氷を押し破り、瞬く間に半分程再生された穴が、今度は完全に凍りついた。




【氷結魔法コンジェラールが変化しました。凍結魔法アブソリュート・ゼロを発動しました】




 絶対零度によって、完全に凍結した部分を弾丸が抉り魔石が覗く。


「さあ、ハイヌーンだっ!!」


 シリューは空中へジャンプして身体を捻り、翔駆の足場をスターティングブロックに見立て、全力で蹴り出す。激しい爆音を伴い音速近くまで加速、一気に人造魔人へと強襲する。


 人造魔人の踏み込んだ足で地面が爆ぜ、その超高速の拳がシリュー迎え撃つ。


 常人で捉える事の出来る領域を遥かに超えた瞬間の攻防。


 シリューは、人造魔人の拳より僅かに早く、その全速の剣を剥き出しになった魔石へ叩き込んだ。


「ゲェァアアアアアアッッッ……」


 剣に貫かれた魔石が、人造魔人の背を突き破り、そして砕けた。


 シリューは剣を引き抜き、ゆっくりと数歩下がる。


「グシャャャアアア」


 魔石を砕かれた人造魔人は、悲鳴にも似た叫び声をあげ、苦しそうにもがきながら、仰向けに倒れる。

痙攣を繰り返すその異形の躰は、やがて完全に動きを止め、色を失い、まるで燃え残った灰のようにほろほろと崩れ落ち、通り抜ける風に運ばれ無へと帰ってゆく。


 シリューは、日に照らされた石畳の上に、砕けて散った魔石を見つめた。


 遺体さえ残さずこの世から消え去った男の、それはまるで人生の痕跡。


「……お前は、それで満足だったのか……?」


 何故そんな言葉が漏れたのか、シリューは自分でも分からなかった。


 もしかすると、自ら滅びの道を選んだ男への、せめてもの手向けだったのかもしれない。


 それとも、シリュー自身が選ぶ未来への、戒めなのか。


「……さて、と」


 シリューは、砕けた魔石の欠片を集め、ポケットから取り出したハンカチに包む。


 昼間とは思えない程の静寂の中、シリューの靴音だけが響く。


「すまないねお嬢さん、随分無理を押し付けてしまったようだ」


 ミリアムはそっと顔をあげ、声の主を見つめた。


「いえ……そ、そんな」


 マスクとフェイスガードで顔は完全に隠れているものの、一瞬きらきらと涼しげな笑顔が見えた気がして、ミリアムはすぐに顔を背けた。


「ところでこの魔石、いろいろと調べてほしいんだけど、どうすればいいかな?」


「あ、それなら、私が神殿にっ……んっ」


 ミリアムは包みに手を伸ばし立ち上がろうとしたが、足に力が入らずへたり込んでしまった。


「おっと」


 そんなミリアムを、シリューは倒れる前に抱きとめる。


「大丈夫?」


「は、はい……」


 当然ながら、その男がシリューだとは気づかないミリアムは、恥ずかしさに頬を染める。


「あの、お嬢さん? 今からこの魔石を神殿に持って行くけど、一緒に来て説明するのを手伝ってくれるとありがたい。いいかな?」


「……それって、さっきみたいに?」


 シリューはゆっくりと頷いた。


「わ、わかりました」


 暫くはもじもじと逡巡していたミリアムだったが、意を決して顔を上げた。自分では立ち上がる事も出来ない、恥ずかしくても今はそれが一番合理的だろうと思った。


「では、失礼」


 シリューが横抱きに抱き上げると、ミリアムはひゃう、と小さく声をあげ、両手を胸の前で結んだ。


「ゆっくり行くから、怖かったら目を閉じて」


 ミリアムは何も言わず、ぎゅっと目を閉じる。


 少し震えているのは、怖いからだけではなく、見知らぬ男に身を任せている警戒心もあるのだろう。


 シリューが一歩踏み出し、踏み込もうとした時。


「ちょっと、なあ、ちょっと待ってくれ! お前さん一体何者なんだ!?」


 ワイアットが、膝に手をついて立ちあがり叫んだ。


 面倒くさいな、とは思ったが、此処で名乗っておかないと、また中二的な二つ名を付けられるかもしれない。それは勘弁してほしい。


「アリゾナ……アリゾナ・コルト」


 シリューは咄嗟に思いついた偽名を口にした。


「別に、覚えておかなくて結構だよ」


 ワイアットはまだ何か言いたそうだったが、シリューは無視して空へ舞いあがった。


「アリゾナ・コルト? 絶対偽名だろ……」


 飛び去る2人を眺め、ワイアットはぽつりと呟いた。






「さあ、着いたよ」


 神殿の上空で停止したシリューは、中庭らしき場所に何人かの神官が集まっているのを確かめて、少し離れた所にゆっくりと降りた。


「貴方は? おや、ミリアムではありませんか」


 白髪混じりの長い髪を後ろで束ねた初老の神官が、抱えられたミリアムに気付いて声を掛ける。


「ジャンパオロ神殿長……」


 ミリアムは所在無げに俯いた。


「神殿長さん、こんにちは。このお嬢さんが、怪物を倒すのに魔力を使い果たしてしまって、動けないんです」


 ジャンパオロが、傍に立つ神官の1人に何やら小声で指示を与えると、その神官はさっと踵を返し、建物の中へ駆けて行った。


「暫しお待ちを。ところで、貴方は?」


「ええ、っと……」


 言いあぐねているところを見かねて、ミリアムが代わりに応える。


「危ないところを助けて頂きました。この方があの怪物を倒してくれたんです」


「お嬢さんの協力があって、ですが」


 シリューはミリアムを抱いたまま、軽く頭を下げた。


「そうですか、騎士団や官憲隊も苦戦していると聞いていましたが……貴方が……」


 ジャンパオロは穏やかに目を細め、シリューの姿を精察するように眺めた。


「どなたかは存じませんが、この街の人々に代わってお礼を申し上げます」


 そして深くゆっくりと頭を下げる。


「いえ、お礼には及びません。たまたま通り合わせただけですから。それより調べてほしい物が……」


 シリューは魔石を包んだハンカチを、ミリアムに回した左手に取り出し、ジャンパオロへ掲げた。


「それは?」


「怪物の魔石です。人造のものらしく、魔力と瘴気を取り込む事で、人や動物を魔物にする効果があります」


 ジャンパオロはここで初めて驚きの表情を見せ、その細い目を見開いた。


「……まさか……魔族……」


 以前から、魔族が人工的な魔石の研究をしているとの噂はあった。実際に目にするのは、ジャンパオロも初めてだったが。


「ええ。おそらく、これを作ったのは魔族でしょう。ランドルフは魔族と繋がっていたようですから」


 転移魔法陣の事もあり、まず間違いないだろうとシリューは確信していた。


「少し、きな臭くなってきましたね。エルレインで勇者召喚が行われて半年。ソレスでの災害も、魔族が絡んでいるとの噂もあります。大災厄を前に、魔族の活動も活発化しているのかもしれません」


 そう言ってジャンパオロは包みを受け取る。


「まだ、魔力と瘴気が残っていますので、十分お気をつけて」


「分かりました。これは、責任を持って調べさせて頂きます」


 ジャンパオロの言葉にシリューが頷いた時、建物の中から担架を持った神官たちが駆け寄ってきた。


「さあ、ミリアムを治療院へ運んであげて下さい」


 ジャンパオロが指示し、神官たちが担架を地面に置いた。


 シリューはそっと、ミリアムを担架の上に寝かせる。


「じゃあねお嬢さん」


 そう言ってやにわに立上り、すっと背を向ける。


「あ、あのっ。ありがとうございましたっ」


 ミリアムは片肘をつき、半身を起こしてその後ろ姿に向かい、ちょこんと頭を下げた。


 シリューは振り返る事なく右手を振り、そのまま空へ舞い上がった。


 風魔法による飛翔(ソアース)より、遥かに早い速度で空を駆ける姿に皆が驚愕する中、ミリアムだけは、何故か戸惑うような面持ちで見つめていた。

 



 因みに。

 マスクにも特殊効果が見つかった。


【ブライト:陽気になる】


「だから、なにその要らない効果!! それでテンションおかしかったのかっっ!!!」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
こちらもよろしくお願いします。
【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ