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【第71話】シリューさん……鬼です

「ヒスイ……ミリアムも……二人とも、話しが出来るのか?」


 シリューは二人の顔を交互に見比べて尋ねた。


「はい。私っ、ヒスイちゃんの言葉が分かりましたっ!」


 胸の前で手を組み、ミリアムが満面の笑みを浮かべた。よほど嬉しかったのだろう、興奮して声が弾んでいる。


「ヒスイはミリちゃんの言葉がわかるの、です」


 ヒスイも嬉しそうに笑い、ちょこん、と首を傾げる。


「でも、なんで急に……?」


 お喋りが出来れば、理屈などどうでもいいとはしゃぐヒスイとミリアムだったが、シリューとしては是非その理由を知りたかった。



【解析】


“ 種族:エピスタシス・ピクシー ”


 固有名 ヒスイ(翡翠)

 称号(新) 旅人の従者

 年齢 132歳

 魔力 80⇒105

 魔力量 350⇒520

 スキル 幻惑 姿消し 人語(新)

 魔法 精霊の加護 空間  闇(新)

 アビリティ 魔力



「え?」


 種族がピクシーから、エピスタシス・ピクシーに変わっている。



【エピスタシス・ピクシー:人間によって固有名を与えられる事により、主従契約を成したピクシーの進化した姿。外見の変化は無いが、各能力値が上昇するとともに、本人の望む能力を得る】



「これって……ベアトリスさんの言ってた……」


 進化した理由はよく分からないが、魔力と魔力量が増加し、人語スキルと闇系魔法が新たに追加されている。


 称号については、あえて無視した。


「うわぁ……かわいい」


 ヒスイの姿を目にした子供たちから、溜息のような声が漏れる。


「しんかんさま、この子、ピクシー?」


 サリーが好奇心に満ちた顔でミリアムに尋ねた。


「ええ、そうよ。名前はヒスイちゃん。みんなちゃんとご挨拶できるかな?」


「サリーです、ヒスイちゃん、こんにちはっ」


「ぼくダドリー、こんにちは」


「こんにちは、ハンナだよっ」


「ぼ、ぼくケイン、です」


 ミリアムの言葉に、子供たちが順に頭をさげ挨拶をする。


 ヒスイは少し迷ったようにシリューの顔を窺い、シリューが頷いたのを確認すると子供たちに向き直りにっこり笑った。


「はい、こんにちは、なの」


「みんな、ヒスイは小さいけど俺やこのお姉ちゃんよりずっと年上なんだ。だから触ったり追い掛けまわしたりせずに、静かにお話するんだよ」


 シリューはしっかり念を押すように、子供たちに言い聞かせた。


「はいっ」


「よし、いい子だ。それじゃあお腹もすいただろうから、後片付けが終わったら夕飯にしよう」


 子供たちから歓声が上がった。皆、朝に具の殆ど入っていないスープを与えられただけで、泣きそうなほどお腹が減っていたのだ。


「私も、お腹すきました……」


 ミリアムが眉をハの字にして呟いた。


「分かってる、でもちょっと手伝ってくれ。この血の匂いを何とかしないとな」


「それなら、任せてくださいっ」


 ミリアムは目を閉じ、顔の前で手を組む祈りの仕草で、聖魔法の呪文を唱える。


「あまねく聖浄なる福音、清らかな天の鐘を鳴らし、この穢れし大地に安らかな光をもたらし賜え、聖域発現(ピュリフィテュエール)!」


 ミリアムの身体が淡く輝き、洞窟全体に聖なる光が降り注ぐ。


 浄化系上位の『聖域発現(ピュリフィテュエール)』。勇者のみが使える光魔法、セイクリッド・リュミエールを模して創られた聖魔法で、威力や範囲には劣るものの、ほぼ同じ効果を得られる。


 洞窟内に残っていた魔物の血の跡が、みるみるうちに粒子となって消えてゆく。


「は、ぁん……」


 だが、余りにも範囲を広げ過ぎ、大量の魔力量を消費したミリアムは、喘ぐように息を呑みこみ、自分の身体を支えられずによろめいた。


「って、おいっ。大丈夫かっ」


 シリューはミリアムが倒れる寸前に抱きとめた。


「……えへ、ちょっと力を入れ過ぎちゃいました……」


 息を切らして笑うミリアムの額から、汗が一筋流れ落ちる。


「馬鹿だな、無理しすぎだろ。ちょっとずつでいいのに」


「馬鹿じゃ……ないもん」


 ミリアムは少しだけ拗ねた様子で、ぷい、と顔を背けた。


「どうかなぁ……お前が、他人の為に馬鹿みたいに頑張る女の子だって事、分かってるけどな」


「え……」


 抱きとめられた姿勢のまま、急に振り向いたミリアムと、


「う……」


 ミリアムの顔を覗き込むかたちで、僅かに体勢を崩したシリュー。


 言ってみれば、それは出会い頭の事故。


 お互いの唇がぶつかり、重なった。


 そのまま時間が止まったように、無言で固まるシリューとミリアム。


「ん……」


 ミリアムが流れにまかせて目を閉じかけた時。


「ああーっ! おにいちゃんとおねえちゃん、ちゅうしたー!」


 子供の一人が大きな声で叫んだ。


「はわわわっ」


「ああっいや、これはっ」


 はっと我に返り、大慌てで離れるシリューとミリアム。


「じ、事故ですっ。これは事故ですっっっ」


「そ、そう、事故だから、してない、してないからっっっ」


 誰に言うともなく言った二人の言い訳が、果たして子供たちに届いたのかは分からなかった。






「なあ、この略奪品って、どうすればいいの、かなっ?」


 それから後、片づけを終えたシリューが、積上げられた略奪品の山を前にミリアムに尋ねた。


「えっ、えと、確か野盗から取り戻した品は、捕まえた人の物……のはず、ですっ」


 二人とも何となくぎこちない。


「ちょっと、そんな都合のいい事があるのかな?」


「はい、えと、多分。あ、でもちゃんと冒険者ギルドで確かめてください」


 シリューはこの世界の法律や常識に疎かったし、ミリアムにしてもこんな事に関わると思ってもいず、うろ覚えの知識でしかなかった。


「ま、とりあえず持って帰るか」


 山積みされた略奪品を、シリューは全てガイアストレージに収めた。


「ミリアム、こいつら集めるの手伝ってくれ」


 それから、気絶している野盗たち全員を一か所に集め、シリューはロープの束を取り出した。


「これで縛るんですね?」


「ああ、でもちょっと待って」


 ミリアムが早速、転がる野盗の一人を縛ろうとロープを手にしたが、シリューはそれを制した。


「どうする……」


 ミリアムが言い終わる前に、シリューは野盗達の装備をガイアストレージに納めながら剥ぎ取り始めた。いちいち外す必要もない。触れただけで身に着けている装備が収納され消えてゆく。


「し、シリューさんっ? そ、そこまでっ?」


 防具や武器だけでなく、服も装飾品も、勿論下着まで全て剥ぎ取るシリューに、ミリアムは顔を赤らめ尋ねる。


「ああ、こうしとけば逃げ出そうなんて思わないだろ?」


「そ、そうかもですけど……わ、私は、その……」


 ミリアムは下を向いて口ごもる。


「いいよ、縛るのは俺がやるから」


 そう言ってシリューは次々をその作業を続けてゆく。


「え? シリューさん、まさかっ」


 ミリアムは驚いて口元を押さえたが、シリューは何の感情も浮かべずに、最後に残ったクロエの服も一枚残らず剥ぎ取った。


「ああそうだ。こいつと、あの髭と、あと顔に怪我してるヤツさ。顔の怪我だけきれいにしといてくれ」


 シリューはそれぞれを指差しながら、ミリアムに言った。


「え? 顔だけ……ですか?」


 シリューの意図が読めず、ミリアムは眉をひそめる。


「ああ。こいつら全員ロープで繋いで歩かせるんだ。街に入った時、顔がはっきり分かった方が恥かくだろ?」


 シリューはおもいっきり悪い笑顔で振り向いた。


「……シリューさん……鬼です……」


 引きつった笑顔を浮かべたミリアムは、それでもシリューに言われた通り、顔に怪我をした者だけを治療していった。


 全員、身体を隠す事が出来ないよう後ろ手に縛り、その首を数珠つなぎに繋いで転がす。首は頸動脈が絞まらないギリギリで縛っているため、誰か1人でも逃げ出そうとすれば、本人は勿論他の全員の首が絞まる事になる。


 もっとも、魔物が出没する森の中を裸で逃げ出そうとする者がいればの話だったが。


「さてと、ちょっと遅くなったけど、夕飯にしようか。ミリアム、料理頼んでいいか?」


 シリューはグロムレパードの肉を取り出し、ミリアムに渡した。


「はいっ。任せてくださいっ」


 ミリアムは肉を受け取ると、にっこり笑って頷いた。






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