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【第69話】作戦は……

「……ミリアム、これで子供たちの縄を解いてやってくれ」


 身体がぼおっと熱を帯びるのを感じ、まともにミリアムの顔を見る事が出来ず、シリューはナイフを渡しくるりと背を向ける。


「はい。あのシリューさん?」


 何も知らないミリアムは、素っ気ないシリューの態度に首を捻った。


「ああ、俺はあいつに用がある」


 壁際で倒れているランドルフを指さし、シリューは逃げる様にその場を離れた。


 ランドルフ本人にさほど興味は無かったが、魔物を操る際に吹いたオレンジゴールドの笛には大いに興味があった。




【解析を実行します】


品名 モンストルムフラウト

制作者 不明

種別 神話級アーティファクト

材質 不明

 効果 意志をこめて吹き鳴らすだけで、D級以下の魔物を自在に操る事が出来る。任意の人物にその支配権を付与する事が可能。




「こんな物……どうやって手に入れたんだ……」


 シリューはランドルフの首に掛けられていた、オカリナに似た笛の解析結果に溜息をついた。


 この世界にはさまざまなアーティファクトが存在しているが、神話級はその最高峰にあたる。元Cランク冒険者とは言え、ただの野盗が手に出来るような物ではない。


「おい、起きろよ」


 シリューは、壁にもたれて気を失っているランドルフの顔に、軽く蹴りを入れた。


「ぐっ……お、お前……」


「寝起きのところ悪いんだけど、お前、これを何処で手に入れた?」


 ランドルフは自分の胸元から、モンストルムフラウトが消えている事に気付き、ニヤリと笑った。


「話すとでも思った……ぶっ」


 さっきよりも少しだけ力を込めて、シリューはランドルフの顔を蹴り上げる。


「聞かれた事だけに答えろ」


 だが、切れた唇から血を流しながらも、ランドルフは不敵な笑みを崩さなかった。


「無駄だな……死んでも話すかよ」


 シリューは肩を竦める。


 脅しや拷問で口を割るようには見えないし、また、そうでなければこれだけの規模の野盗団を仕切る事は出来ないだろう。


「まあ、そうだよな。でもこれならどうかな? ヒスイっ」


「はい、任せてなの、です」


 ポケットから飛び出し、ランドルフの顔の前で空中停止したヒスイの羽から、光の粒子が振りまかれる。


「なっ、ピクシーだと? お前何者……」


「あんまり抵抗すると、廃人なるらしいから気をつけなよ。ま、どうでもいいけど」


 ランドルフの目は瞳孔が開き、焦点も定まらなくなってゆく。


 ヒスイが魅惑の笑みで振り向き、こくりと頷いた。


「じゃあ、答えてもらおうか。これを何処で手に入れた?」


「……し、知らねえ……う、ぐ……」


 ランドルフは顔を歪めながらも、抵抗の意志を見せる。


「ご主人様、このニンゲンはとても抵抗力が強いの、です」


 ヒスイが放つ粒子の光が、一段と輝きを増し明滅を始める。


「ぐ、ぶっ……フード……白、い、フードの、お、男……貰っ、た」


「白いフードの男? そいつに貰ったのか?」


 シリューに一つの疑念が浮かぶ。これ程のアーティファクトを、その男は何の目的で野盗などに渡したのか。いや、その時はまだ冒険者だったのかもしれない。


「3年、前……好きに、つ、使え……と……ぶ、ぶぶ」


 益々その男の意図が分からない。


「ご主人様、そろそろ」


「ああ。もう一つ、お前たちが攫った神官はどうした?」


 ランドルフの身体が震えはじめる。そろそろ限界が近い。


「売っ、た……」


「売った? 誰に? その白いフードの男にか?」


「ぐ、ぶぶ、ぶ、そう……ぶ、が、がが……」


 ランドルフは鼻血を流し、白目をむいて激しく痙攣する。


「ご主人様、もう限界なのっ」


「分かった、もういいよヒスイ」


 ヒスイの周りから光の粒子が消え、どさりと横に崩れたランドルフは、意味不明のうわ言を繰り返している。


「なんか、うざいな……これで大人しくなるか」


 シリューは2、3発蹴りを入れランドルフを気絶させてから、ミリアムと子供たちの所へ戻った。


「シリューにいちゃんっ、かっけー!」


「おにいちゃん! すごいっ! ゆうしゃさまみたいっ」


 ダドリーとハンナが大喜びで、目をキラキラと輝かせる。


 あとの2人も嬉しそうな顔でシリューを見つめている。


「サリーと、君はケイン? 2人とももう大丈夫、お家に帰れるからね」


「はい、ありがとうございますっ」


 サリーは少し大人びた言葉でちょこんとお辞儀をし、それに倣ってケインも頭を下げた。


「シリューさん……」


 立ち上がったミリアムが胸の前で手を組み、腫れあがった目を潤ませ何か言いたげにシリューを見つめた。だがさっきの光景が頭をちらつき、シリューはミリアムの顔をまともに見る事が出来ずに背を向ける。


 いまだに頭がボーっとして身体が熱い。


「シリューさん、どうしたんですか?」


 この状況で本当の事を言える訳がない。いや、どの状況でもだが。


「べ、別にっ……何考えてんだっ、こんな時にっ……」


 後の呟きはミリアムには聞こえなかった。


 それでもミリアムは自分が酷い状態であるにもかかわらず、シリューを気遣い心配そうに眉をひそめた。


「あっ、もしかしてっ、怪我したんですかっ?」


自分の事より他人の為に一生懸命な、そんなミリアムの姿にシリューは自分が恥ずかしくなり、同時に身体の熱が冷め冷静さを取り戻した。


「俺は大丈夫。それより、お前……」


 シリューは振り向いてミリアムの頬にそっと手を添えた。


「シリュー、さん」


 頬に触れるシリューの手に、ミリアムは自分の手を重ねた。


 静寂の中、見つめ合う2人。


「あああっ、やだっ私、こんな顔っ」


 ミリアムは思い出したように声をあげ、慌ててシリューに背を向ける。


「み、見ないでくださいっ、恥ずかしいですぅ」


「え? 別に、怪我してたってお前が変わる訳じゃないし……気にする事ないだろ?」


 シリューにはミリアムの恥ずかしさの基準がいまいち把握出来なかった。


「シリューさん、それは嬉しいですけどぉ……シリューさんは女心を分かってないですぅ」


 まったく、ミリアムの言う通りだった。


「治癒魔法を掛けますから……あの、向こうを向いてて……」


 治癒魔法を掛けるのに、何故そんなに恥ずかしそうになるのか、益々意味が分からなかったが、シリューはミリアムの言葉に従って背を向ける。


 囁くような詠唱の声が聞こえ、やわらかな光が輝くのを感じた。


「よかったぁ、ミリアムねえちゃんっ」


 嬉しそうに叫んだのはダドリーだろう。子供には見られても平気なのか、とシリューは疑問に思ったが、あえて口にはしなかった。


「……もう、いいですよ……」


 なんとなく違うシチュエーションを想像しながら、シリューの振り向いた先には、すっかり傷も癒え元通りの美少女に戻ったミリアムが、菜の花のような笑顔で立っていた。


「うん、なんかさっきの方が良かったかも?」


 シリューはいたずらっぽく笑う。


「ど、どういう意味ですか……」


 ミリアムの眉がピクリと震える。


「いやあ、なんかすっかりアホの子に戻ったなぁって……」


「あ、アホの子じゃないですっ、もうっ、何でそんないじわるなんですかっ」


 そう口を尖らせながらも、ミリアムはぷっ、とふきだした。


「あはははは……」


「ぷっ、なに、笑ってるんだよ……はははは」


 シリューもつられて笑う。


「いえ、なんだか、可笑しくて……」


 なんだかほんわかした雰囲気に、シリューはピンっときた。


“ 今がチャンス! ”


「これ、落ちてたぞ」


 シリューはあくまでもさりげなく、極力自然な流れに見えるよう、ハンカチに包んだアレを差し出した。


「あ、やっぱり見つけてくれたんですね。ありがとうござ……」


 ミリアムもさりげなく受け取った。そこまではシリューの思惑通りだった。そのままポケットにしまってくれれば完璧だったのだ。


 ……が。


 畳んだだけのハンカチにしては少しかさばっている事に、ミリアムは気付いた。


「……?」


 そして事もあろうか、不用意にもハンカチを広げてしまった。


 ハラリ、と舞い落ちる紫のソレ。


 シリューの顔が青くなる。


 ミリアムは目を見開いて固まる。


 そして静寂。


「ふみゃぁぁぁぁ!!!」


 ミリアムは間延びした叫び声をあげ、足元に落ちた紫のパンツを掴んだ。



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