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【第346話】集中砲火

 イロウシュットは現在、魔素により三つの幻体を作り出し、その三つの幻体を不規則に入れ替わる事で、存在自体を確率によって確定している。


 しかも、A、B、C、三つの存在だけでなく、存在しないという四つ目の現象も含んでいるはず。


 一体のみ出現した場合でも攻撃がすり抜けたのは、存在と非存在を確率により繰り返していたからだ。


 正確には非存在という量子力学的な現象ではなく、地下の龍脈にもう一か所、幻体と同等の魔素溜まりが存在しているはず。


 ただし、それが分かったからと言って、効果的な戦い方が分かったわけではない。


 もちろん、一体のみに攻撃を集中し続ける方法も無意味ではない。


 現在までを考慮すると、確立で存在するイロウシュットはその特性のためか、


 自身の意志で存在位置を変えられるとしても、一体の幻体だけに存在し続けたり、その逆に一体だけを非存在にし続ける事はできないようだ。


 ただ、この方法でイロウシュットを倒し切るのは難しいだろう。


 また、三体を全く同時に攻撃しても、非存在を選ばれた場合は無駄になってしまうし、三体の同時攻撃を続けるのは消耗が激しすぎるため現実的ではない。


「何か、方法は……」


 正体が分かっても対処法を見つけなければ、いずれは逃げられるか力尽きて全滅かのどちらかになってしまう。


「思考加……っ」


 もう一度思考加速を使おうとしたその時。


 三体のイロウシュットから、ほぼ同時に発射された火球がシリューに迫る。


 数は6、しかも飛翔速度がそれまでの数倍は速い。


「無駄だよっ」


 不意をつかれたせいで反応が遅れたが、油断さえしなければ躱せなくはない。


 一発、二発、三発と躱し、迎撃のため大きく距離を取ろうと方向を変えるものの、まるでその進路を遮るように翼竜が群がる。


「ガトリング!」


 正面の翼竜を撃ち落とし、できたスペースに飛び込もうとした寸前、いきなり現れた火球が眼前に迫った。


「ユニヴェールリフレクション!」


 ドオォォン!!


 展開した理力の盾が火球を受け止め、爆発と同時に相殺して消える。


 スピードだけでなく破壊力も上昇しているのは明らかで、直撃を受ければかなりのダメージになりそうだ。


「くっ」


 真下から飛んでくる火球を右に躱す。


 だがそこに、もう一発の火球が。


「アンチマテリエルキャノン!」


 ドオォン!


 爆発の衝撃が身体を揺さぶる。


 残り四発。


 背後からの風切り音に、振り向かず左へ。


 が、躱したその火球は急角度に折れ、追尾してくる。


 更に前方から、そして右からも。


 上空に逃れようと勢いよく踏み切った先に、最初に躱した一発が旋回して迫る。


 躱せない!


「ユニヴェールリフレクション!!」


 激突し大爆発。


 爆炎を突き抜け、一気に上空へ。


 残りの三発もスピードを上げて追ってくる。


 上昇を続けながら一瞬下を振り向く。


 追尾してくる火球を振り切れない。


 しかも、イロウシュットは更に六発の火球を発射。


「やばっ」


 これは……。


 イロウシュットの攻撃は、今やシリュー1人に集中していた。


 まるで、シリューを最も危険な存在だと認識し、最優先で排除するべき目標と定めたかのように。


「コイツ、そんな知能があったとはね」


 それとも、生存本能のなせる業なのか。


 どちらにしても、このままではいずれ追い付かれてしまう。


「くそ、速過ぎるっ……」


 何とかシリューを援護しようと試みるものの、あまりのスピードに直人ですら対処できずにいた。


 鉄壁を誇るほのかの【バリア】も、動く対象に展開する事はできない。


「でも、このスピードじゃあ……」


 止まってしまえば、バリアを張る間もなく火球に撃たれてしまうだろう。


 右に左に、不規則な軌跡を描きながら、火球を躱し飛び続けるシリューを支援する方法はなく、ミリアムたちはただ見守るだけだった。


「み……なっ! 攻……を続け……!!」


 シリューの叫びは、爆発と風の音とにかき消され、ミリアムたちの耳に届かない。


 それでもただ一人、精霊の力を使えるヒスイだけは、風の中にシリューの声を捉えた。


「ミリちゃん、攻撃を続けるの! ご主人様は、何か考えがあるの!」


 ミリアムのポケットの中からヒスイが叫ぶ。


「うん、分かった。任せて!」


 それはヒスイに答えたのか、それとも離れて戦うシリューに答えたのか。


 ミリアムが全員にシリューの指示を伝え、直人たちはイロウシュットCへの集中攻撃を再開した。


 その様子を確認して、シリューはイロウシュットAに向け急降下を開始。


「古典的だけど……」


 思ったとおり、複数の火球が追ってくる。


 タイミングが重要だ。


 追い付かれないように、引き離し過ぎないように、絶妙な距離を保って飛ぶ。


 そして、イロウシュットAに激突する直前。


「メビウス・ディストラクション!」


 イロウシュットBを狙って剣技を放ち、同時に急上昇した。


 ド、ドオォン!!


 二発の火球はイロウシュットAをすり抜け地面を抉る。


 Bを狙った剣技も同様に空を斬る。


 ドオォォン!


 だが、三発目の火球が直撃。


 イロウシュットAの頭頂部を吹き飛ばした。


「ギイイイイイーッ!!」


 耳障りな咆哮を上げ身体を揺するイロウシュット。


 全身の外殻の隙間発光させ、僅かな間に再生を完了させる。


 その光景を、直人たちは見逃さなかった。


「何か今……?」


「壊れてた……よね?」


 直人たちが対峙しているイロウシュットCだけではない。


「あっちも、ですよね……」


「ええ確かに……一瞬だったけれど、頭の部分が損壊していたわ」


 ミリアムとハーティアの目にもイロウシュットBがほんの数秒だけ、他の二体と同じ傷を負っているのが見えたのだ。


「交互に、入れ替わっているのでしょうか?」


 パティーユが眉をひそめる。


 彼らも、その真実に近づきつつあった。


「これで、はっきりしたな」


 シリューは改めて眼下のイロウシュットを見下ろす。


 狙い通り初めてイロウシュットにダメージを与える事ができたうえ、更に推理の確証を得られたのはありがたい。


 後はその対処法だが、今はこの状況を切り抜けるのが先決だ。


 三発の火球は誘導を外しても、まだ残り六発が四方から執拗に追ってきていた。


 追加の攻撃がないのは、ダメージ箇所の再生にリソースを割いたためだろうか。


「もう一度だっ」


 僅かにスピードを落とし、あえて火球との距離を詰める。


 これ以上ないタイミングで方向を変えた。


 だが。


 その動きを読まれたのか、それとも知らないうちに誘導されていたのか。


 翼竜の群れに囲まれ、動くスペースを完全に塞がれてしまう。


「ちっ」


 魔法で目の前の翼竜を撃ち落とすものの、スピードがかなり落ちてしまった。


 もう間に合わない!


 火球は背後から三発、左右の周囲から三発。


「ユニヴェールリフレクション! 障壁放電(エレクトロファレーズ)!!」


 耐えきる事ができるか。


 背後に理力の盾、全方位に電撃の幕を張る。



 ドドドオォォォォン!!!



 六発の火球が、ほぼ同時に着弾し凄まじい爆発を起こした。


「僚!」


 パティーユは事前の申し合わせも忘れ、思わずシリューの本名を叫んだ。


 上空でシリューの呑み込んだ大爆発は、とても人が耐えきれるようなものではない。


「シリューさんっ」


 危機的な状況に陥ったシリューが、その機転と能力で乗り切る様を幾度となく目にしてきたミリアムでさえ、心臓が凍り付くような恐怖心を覚えるほど凄絶過ぎるものだった。


 イロウシュットの無慈悲な攻撃は続く。


 爆発の起こったその場所を狙い、青い一つ目のレンズから放たれる、死をもたらす光。


「明日見っ!」「僚君っ」


「僚くん!」「明日見さん」


「シリュー!」「シリューくん!!」


 仲間たちが見守る中、未だ立ち昇る爆炎を薙ぎ、神々しく輝くメビウスリングが死の光球を斬り裂いた。


 炎と煙が晴れた空中に、白い影が揺れる。


「もう……心配させないでください」


 まるで申し合わせたかのように、パティーユとミリアムは同じ言葉を呟いた。




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