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【第336話】トモダチ

 それからシリューはパティーユたちと合流し、昼食前には直人たちの待つ指揮所へ戻った。


「お疲れ」


 指揮所の天幕に入って声を掛けると、テーブルを入口に向いて座っていた直人がひょいと右手を上げた。


 この天幕は守備隊指揮所の脇に用意された直人たち専用の物で、四人が対面で座れるテーブルが二つ並べてあり、その隣にはパティーユ用の机と椅子も準備されている。


「俺たちも丁度、昨日の戦闘の整理が終わったとこだよ。で、そっちはどうだった?」


「あ、もしかして、もう何か見つけちゃった、とか?」


 背を向けて座っていた有希が椅子から立ち上がり、冗談半分といった表情で首を傾ける。


「ええと、はい。とりあえず目的のモノは見つけました」


 シリューは、何処かに置き忘れたスマホを見つけた程度の軽い口調で答えた。


「え、うそ!?」


「ちょっ、あたし冗談だったんだけど」


 これにはほのかも聞いた本人の有希も本気で驚き、二人揃って大きく目を見開く。


「マジか……」


「その、何というか……」


 直人と恵梨香の引きつった笑顔には、予想以上に高いシリューの能力に対する戸惑いと、数日を費やしても何も得られなかった、自分たちの不甲斐なさへの反省が色濃く浮き出ていた。


 驚きを隠せない直人たちとは対照的に、ミリアムとハーティアとクリスの三人はやや安心した表情を見せる。


「勇者様にとっても、シリューさんってやっぱり普通じゃないんですね」


 ミリアムは少し嬉しそうに目を輝かせた。


「みんな普通の人、と言った意味がわかった気がするわ」


 シリューの言葉を思い出し、噛みしめるようにハーティアが頷く。


 異世界人で勇者で、途方もない力を持っているとしても、その心はこの世界の若者と変わらないようだ。


「召喚者の中でも、シリューくんは規格外みたいだね……」


 シリューの背中を見つめるクリスの脳裏に浮かんだのは、初めて会った時の出来事か、それとも共にブラエタリベルトゥルバーと戦った記憶だろうか。


「皆さまお揃いでしたか。ではお食事の用意を」


 天幕の入口の幕を捲って入って来たエマーシュは、全員が戻って来ている事を確かめるなりくるりと踵を返し出て行った。


「そうだな、詳しい話しは昼飯の後にしようぜ」


「さんせーっ」


「ほらほら、皆さんも席について」


「好きな席にどうぞ」


 直人たちは二人ずつ向かい合って右側のテーブルにつき、ほのかと恵梨香がシリューたちに手招きをした。


 シリューは気兼ねする事もなく、空いている左のテーブルの奥側、有希の隣に腰掛ける。


「あ、あの、私たちもご一緒していいんでしょうか……」


 ごく自然に振舞うシリューに比べて、ミリアムたち三人は未だこの状況に慣れていないらしく、緊張の面持ちを崩せないまま恐る恐る尋ねた。


 当然、いくら勇者や従士とはいえ、直人たち現代日本の高校生に変な選民意識などあるはずもない。


「ね、そういうの、ナシにしない? 堅苦しい敬語とかもいらないし」


 有希はテーブルから身を乗り出して、ぴんっと指を立てる。


「あまり、畏まらないでくださいね」


 何も遠慮はいらない、と恵梨香。


「普通に接してくれると、嬉しいな」


 ほのかが振り向いて、にっこりと微笑む。


「昨日も言ったけどさ、明日見の仲間で年も近いし、トモダチ……は、いきなりはムリか。でも、ま、そんなカンジでいこうよ」


 部活の合同合宿。


 直人のノリは正にそんなところか。


 実際、これまで直人たちが関わってきたのは、相応の地位にある年上の王侯貴族たちか、侍女や使用人など立場上常に畏敬の念を向けてくる者たちばかりだった。


 パティーユにしても、近頃は随分と打ち解けた態度で接してくれているとはいえ、やはり何処か一線を引いた部分はある。


 そんな直人たちだからこそ、今回のような機会は大切にしたいという思いは強い。


 この世界の若者たちが何を思い、何を感じているのか。


 遠慮する事も、気兼ねする事もなく、とりとめのない日常を話せる。


 この世界で、直人たちが本当に欲しいのはそんな相手だった。


「ほら、日向さんたちもこう言ってくれてるし、いつも通りでいいって」


 自分と話す時と同じように、とシリューは笑って付け加える。


「いつも通り……」


 ミリアムとハーティアは眉をハの字にしてお互い向き合うと、


「それって、絶対ダメなやつです」


「さすがに失礼極まりないわ」


 申し合わせたように頷いて、きっぱりと言い放った。


「や、お前ら、どんだけ俺を見下げてた?」


 半開きのジトっとした目を二人に受けるシリューと、苦笑いを浮かべながら宥めるクリス。


 気の置けない和やかなシリューたちのやり取りに、直人は思わずぷっと吹き出してしまう。


「なんか、俺たちと全然変わんないな」


「ホント、仲良くなれそう」


 その後はパティーユとエマーシュも加えた昼食は、打ち解けた雰囲気のちょっとした食事会といった様子で進んだ。



◇◇◇◇◇



 昼食の後しばらくの休憩をはさみ、シリューたちは再度天幕内のテーブルについた。


 ここからは真剣な話、探査結果の報告とシリューの中にある作戦の提案だ。


「で、何を見つけたんだ? 説明してくれるんだよな」


 直人が期待のこもった表情で尋ねた。


「そうですね、順を追って説明します」


 皆の視線がシリューに集まる。


 全員の顔を見渡したシリューは、手始めに自分のスキルについて簡単な解説をした。


「探査や解析というスキルは、聞いた事がありません。鑑定の上位互換でしょうか……」


 パティーユが溜息交じりの声で呟く。


「何か、すっごい便利そう」


 有希はきらきらと目を輝かせる。


「その探査と解析のスキルで、わかった事があるんですね?」


 恵梨香の問いに、シリューはゆっくりと頷いた。


「はい。先ず、イロウシュットの移動方法ですけど、ヤツはザグナとベナルートを結ぶ龍脈の中を移動して、町のすぐ近くで地上に出現します。仕組みについてはまだ不明ですが、ブラエタリベルトゥルバーと似ているようです」


「龍脈の中、ですか……」


 恵梨香が眉をひそめる。


 龍脈の知識があるのなら、その反応も当然だろう。


「けど、龍脈って地下の相当深い所にあるんだよな。どうやって町を見つけてるんだ? いや、人の出す音とか、振動?」


 直人の推測はかなり的を射ている。


 だが、シリューの考えは少し違った。


「日向さん、皆も」


 シリューは直人と有希、それからほのかと恵梨香、最後にパティーユを見渡して続ける。


「エルレインの森で、ポリポッドマンティスと戦った時の事、覚えてますか?」


 直人が頷く。


「ああ、覚えてるさ。俺たちが初めて戦った災害級だからな」


「まだ、あたしたち全然弱い時だったもんね」


「苦労したよね、倒すの」


 有希は肩を竦め、ほのかは懐かしむように目を細める。


「明日見さんの機転のお陰で、勝てたんですよね……あ……」


 恵梨香がはっと表情を変え、答え合わせをするようにシリューを見つめた。


「思い出しました? そう、魔力です」


 ほのかを庇って吹き飛ばされたあの時、ポリポッドマンティスは動けないシリューではなく、傍に落ちていた剣を攻撃した。


 ポリポッドマンティスには、魔力の無いシリューは見えず、魔力が付与された剣だけが見えたのだ。


「イロウシュットも、人の内包する魔力を見ている、という事ですね」


 パティーユは腕を組んでこくこくと頷いた。


 つまりイロウシュットは、町を目指して現れるのではなく、数百の魔力が集まる場所を目指しているのだ。


「龍脈に、人の持つ魔力か……」


 顔を伏せて確かめるように呟いた後、直人はふっと口元に笑みを浮かべる。


「……それで、お前の事だから、もう何か考えてんだろ? 明日見」


「今回は、前もって教えてくれるんだよね、僚くん?」


「はい、もちろんです。ただ、日向さんたちの報告書にも目を通しておきたいんで、明日まで待ってもらっていいですか」


 以前、ほのかと約束した事をシリューは覚えていた。

 



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