表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/357

【第119話】ミリアムと白き翼

「いかにも、私はエイブラム・オスニエル・カルヴァートだが……君は?」


「冒険者のシリュー・アスカです。あの、ここに囚われている人達を助けに来ました」


 シリューはそう答えながらも、自分の目を疑った。鎖で繋がれた人物は、【解析】の結果確かにカルヴァート本人だと表示された。


「どういう事だ……さっきは……」


 森で会ったカルヴァートとまったく同じ顔。こちらが本人ならば、あちらは何者なのか。


「双子? 兄弟?」


 解析をかける余裕が無かったのが悔やまれる。


「その顔……あの偽物に会ったか?」


「偽物!?」


 その可能性は全く考慮していなかったが、それならいろいろと納得できる。偽物なら、街を破壊しようが、住人が何人犠牲になろうが、まったく気に掛ける必要もないだろう。


「どうやって化けたか……かね? これだよ、この首輪……」


 そう言ってカルヴァートは顎をあげ、首にはめられた魔法具の首輪を見せた。以前ミリアムが付けられていた、封じの首輪によく似ている。


「ああ、詳しい話をする前に、この鎖を解いてくれるとありがたいんだがね」


「わかりました。すぐに」


 鎖はやはり魔法により施錠されていたため、術式を解読し開錠した。


「な、今……何を?」


「説明は後で。それより、その偽物の話しを」


 シリューは、やつれて窪んだ目を見開くカルヴァートに、自分の肩を貸し立ち上がらせた。


「ああ、そうだったな。奴は……」


 カルヴァートの語ったところによると、その金の仮面の男が現れたのは4か月前、夜の闇に乗じていきなり屋敷に侵入してきたらしい。


「拘置所と同じ手口か……」


 そして、なすすべもなく拘束され城の地下牢、つまりはここへ監禁された。魔道具の首輪をつけられたのもその時だった。


「驚いたよ、対になるもう一つの首輪をつけた男が仮面を外したら、私がもう一人いたのだからな」

 対をなす魔道具の首輪。




【擬態の首輪:〈ミミック〉と〈モデル〉の2つが対になった擬態用の首輪。擬態する側が〈ミミック〉を、模倣される側に〈モデル〉を装着する事により、容姿、性格を完全に再現します。なお、どちらかが外すか壊れるかした場合、擬態は解除されます】




「見た目だけじゃなく、性格まで……」


 なるほど4ヶ月の間、誰も気付かなかったはずだ。


「使用人は知ってるんですか?」


 見張りや食事の世話をしていたのだ、使用人たちが知らないという事はないだろう。


「ああ、どうやらここにいた使用人たちを、全員入れ替えたようだな。別宅はわからんがね」


 シリューはその首輪に延ばし掛けた手を止めた。今外してしまうと偽物の顔も本人の物に戻り、その顔を知らないシリューには判別がつかなくなる。


 もちろん、仮面の男がすでに首輪を外していれば意味はないが。


「とにかく、ここを出ましょう」


「ああ、賛成だ」


 シリューとカルヴァートはミリアムの待つ部屋へと向かった。






 シリューに渡されたナイフで皮のベルトを切り、4人を解放したミリアムは、人数分の毛布を見つけて彼女たちに掛けてやった。


 そのうちの1人に声を掛ける。肩甲骨にかかる、ライトゴールドで癖のある髪に鳶色の瞳、痩身で背は163cmのミリアムより少し高い。特徴から行方不明のジャネット聖神官に間違いない。


「ジャネットさんっ、ジャネットさんですよね? 大丈夫ですか?」


 だがジャネットの目は焦点が合わず、聞こえているはずのミリアムの声にも応じる様子が無い。


「まさか……」


 ミリアムは他の3人を順番に見渡す。全員が同じような状態だった。


「勝手な事をされては困るな」


 背後から聞こえた声に、ミリアムは即座に立ち上がり振り向く。


 盾と剣を持った男が一人と、両手にダガーを構えた黒髪と銀髪の女が2人。


「なるほど、ただの使用人ではないという事ですか……」


「その通り。死にたくなければ大人しく投降しろ」


 冷たい殺意の込められた六つの目が、ミリアムへと向けられる。


「それはこっちの台詞です、今投降すれば慈悲が得られるかもしれません。ですが抵抗するなら……」


 ミリアムはくるりと戦鎚を回し、ぐっと腰を落として半身に構えた。


「神の御名において、成敗します!」


 3人がミリアムを取り囲むように、三方にわかれる。


 そう動く事を想定していたミリアムは、迷わず盾を装備した男へと突き進み、戦鎚を右から叩きつける。


 激しい金属音が響き、男が左手の盾で戦鎚を受ける。


「ぐっ」


 予想外の衝撃に男が蹈鞴を踏む。


 2人の女たちは、ミリアムの意外な動きに一瞬戸惑うものの、すぐさま男の支援にまわろうと間合いを詰めて来る。


「はあああああ!!!」


 女たちの動きを横目で確認したミリアムは、左脚を踏み込み、男の盾を狙って振り抜く。


 人造魔人の腕さえも弾き返すその力は、いともたやすく男の盾を砕き、ミリアムはそのまま独楽のように回転し、更に力を乗せた一撃で男を弾き飛ばす。


「ぐばぁっっ」


「な!?」


 右から迫っていた黒髪の女が、飛ばされた男を避ける為足を止める。


 ミリアムはそれを見もせず、左の銀髪の女へと駆ける。ミリアムのパワーを警戒した銀髪の女は、まともに受ける事をせず大きく左に跳んだ。


「その力……お前、人間か……?」


「失礼ですねっ!!」


 ミリアムは一気に間合いを詰め、戦鎚を振り下ろす。銀髪の女は右へ躱す。スピードは盾の男より随分早い。


「だが、当たらなければどうという事もない!」


 銀髪の女が、一瞬の隙をつき右手のダガーを振るう。


 喉を狙ったその一撃を躱し、ミリアムは女の頭を狙い回し蹴りを放つ。


 女は身を屈めそれを避け、左のダガーでミリアムの心臓を狙う。


「もらった!」


 だが、その刃は碧いメタルプレートに阻まれ、ミリアムの肌には届かない。


「ちっ」


「助かりました、シリューさん」


 ミリアムは、コートを着せてくれたシリューに心の中で感謝しつつ、戦鎚を左下から掬い上げる。


 銀髪の女が後ろに跳んでそれを躱し、追いすがるミリアム目掛け、身を伏せるような体勢から、右のダガーを投擲する。


 ミリアムは踏み込んだ足を捻り、咄嗟に右側へ身体を捩ってダガーを躱す。


「背中ががら空きだ」


 若干体勢を崩したミリアムの背後から、黒髪の女が迫る。


「そうでしょうか?」


 ミリアムの背中を狙い、黒髪の女が振り下ろしたダガーはしかし、一振りの剣によってがっしりと受け止められた。


「残念、君たちの目は節穴だ」


白き翼(ブランシェール)!? いつの間にっ」


 2人の女は驚愕の表情で大きく間合いを取る。


「知らないんですか? 白き翼(かれ)は必ずピンチに現れるんですよ?」


 ミリアムは銀髪の女をねめつけ、微笑んだ。


「そう、特に女性のピンチには、ね」


 ミリアムはその言葉に、ちょっとだけ顔をしかめる。


「じゃあ、一気にカタをつけようか。ミリアム、手加減忘れないように」


「え? は、はあ……」


 ミリアムは訝し気にシリューを見た。


「なめるなあああ!!」


 女2人が、ダガーを握りしめ、ほぼ同時に襲ってくる。


 勝負は一瞬。


 シリューは黒髪の女のダガーを左の剣で受け、女の鳩尾に右の正拳を叩きこむ。


 ミリアムは銀髪の女の懐に入り、戦鎚の柄で顎を砕く。


「がはっ」


「ぎゃっ」


 短く呻き、2人の女は崩れ落ちた。


「いつも、じゅんって来ちゃうタイミングです」


 ミリアムが大きく息を吐き、シリューに向き直って笑った。


「よく分からないけど、ありがとう」


 シリューは双剣を鞘に納める。


「でも、なんで性格変わっちゃうんですか?」


 ミリアムは頬に指を添え、ちょこんっと首を傾げる。


「……まあ、この装備のせいで……」


 信じて貰えるかは微妙だが、シリューはとりあえず正直に答えた。


「気障になるのも?」


「はあ……」


「たらしは……元からかぁ」


「え?」


 ミリアムは納得顔でうんうんと頷く。


「えっちになるのも?」


「いや、なってないよね!?」


「冗談です、それも元からですもんね♪」


 くすくすと笑うミリアムに、シリューは反論できなかった。いろいろと否定し難い事実が満載だ。


「取り込み中に悪いんだが、状況を説明してもらえるかね?」


 聞き覚えのある声のトーンに、振り向いたミリアムの顔が一瞬で蒼ざめる。


「ああ……」


 ミリアムはシリューに縋りつき、がたがたと震える。


「落ち着いてミリアム、大丈夫、この人は違うんだ」


 震えながらいやいやと首を振るミリアムの背中を、シリューは子供をあやすように優しく叩いた。


「いったい、何があったんだね?」


 カルヴァートは、自分の姿をみて怯えるミリアムに、困惑の表情を浮かべた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
こちらもよろしくお願いします。
【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ