表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/357

【第114話】ミリアムの受難part1

本日3連投、第一弾です。

 ワイバーンの死体をガイアストレージに収納した後、シリューは混乱する神殿に入り、西棟2階の一番奥を目指した。


「なっ……」


 向かった先の光景に思わず息をのむ。


 入口は破壊され両開きのドアは2枚とも吹き飛んでいる。入口の前には血だまりができ、倒れた2人の神官をもう一人の神官が治療にあたっていた。


「君は……『断罪の白き翼』……」


 しゃがみ込み、怪我人に治癒魔法を施していたデリルが、シリューに気付き振り返る。


「何があったんですか……」


 シリューは倒れた2人と吹き飛ばされたドアとを、交互に見渡した。この状況をみれば見当はつく、手遅れだったという事だろう。


「襲われて、魔石を奪われた……金の仮面の男だ」


「なるほど、ドアを壊して入ったんですか……随分せっかちで乱暴な奴みたいだ」


 ドアを破壊したのはミリアムだったが、デリルはあえて口にしなかった。


「ミリアムを探しているんですが……」


 シリューはミリアムがこの場にいない事に、妙な胸騒ぎを覚えた。


「ああ、君は彼女の知り合いだったな……ミリアムは魔石を奪った金の仮面の男を追って行った」


 そう言ってデリルは窓を指差した。


「また、無茶をっ……」


 シリューはチェイサーモードを起動し、ミリアムを表す紫のラインが、部屋から窓の外に続いているのを確認した。


「すまない、私はその時目をやられて動けなかったんだ……」


 シリューが銀の仮面越しにねめつけると、デリルは申し訳なさそうに頭を下げた。


 勇神官である以上、有事の際に動ける方が動くのは当然の事で、デリルが悪い訳ではないし、ミリアムが無謀であるわけでもない。それぞれが最善の行動をとったまでで、危険は常に付きまとうのだ。


 だからデリルが謝ったのは、そんな勇神官の義務に対してのものでは無いのだろう。


「いえ、別にあなたを責めている訳じゃ……ミリアムを追います、僕はこれで」


 シリューは紫のラインを追い、窓から飛び出した。






「実に素晴らしい。理にかなった戦闘と卓越した身のこなし、訓練を十分積んだうえ、既に実戦経験もあるのでしょう、流石、天才と呼ばれるだけのことはありますね」


 剣を正眼に構えた男の気質が変化し、息苦しいほどの圧迫感が辺りを包み込む。


「貴方に褒められても、ちっとも嬉しくありませんよ?」


 ミリアムは精一杯強がってみせたが、背筋に冷たい汗がつたうのを抑えられなかった。


「では、ここからは少し本気でお相手しましょうか……」


 男が踏み込み、僅か一歩でミリアムとの間合いを詰める。


「くっ」


 今までより数段早い。


 男が剣を左、地面と水平に構える。


 ミリアムは鎚頭をくるりと下に向け、相手の剣を垂直に受ける。


「ほう、よく受けましたね」


 男の声音にはまだまだ余裕が感じられた。


 男の剣戟を躱し、逸らし、時に受け、ミリアムは巧に戦鎚を操る。だが、完全に躱しきれない剣の切っ先が皮膚を裂き、服を切る。


「そろそろ終わりにしましょう」


 冷たく言い放った男の言葉は、ミリアムにとって悪夢の始まりを意味する、絶望への布石だった。


 何度か目に振るった戦鎚が両手を離れ、あらぬ方向に飛んでいった。


 いや、手を離れた訳ではない。


 どうやったのか、相手の太刀筋はまったく見えなかった。


 男はそれまで本気ではなかった。そして男が実力の片鱗を見せた瞬間、全てが終わっていたのだ。


 ミリアムは自分の両手に目を向け息をのむ。


 手首から先が、無くなっていた。


「ひぃっ」


 切断された手首の先から、血が飛び散る。


「これはもう必要ありませんね」


 金の仮面の男が炎の魔法で、戦鎚を握りしめたままの両手を燃やし尽くす。


「あっああ……」


 ミリアムの胸の中で、心臓が激しく跳ねる。欠損部位が残っていなければ、もう元には戻せない。つまり一生両手の無い生活を余儀なくされるのだ。


「な、なぜ……」


 殺そうと思えば簡単に殺せたはずだ、実力の差は、今の一瞬の攻防ではっきりと分かった。なのに何故あっさり殺さず、こんないたぶるようなまねをするのか。


 ミリアムは、過酷な現実に脚の力が抜け地面に腰を落とし、半ば茫然となりながら治癒魔法で傷口を塞ぐ。


「君には、私のすばらしい研究の実験台になってもらいます。それこそ、もう一生手を使う必要などありませんよ。ああ、それから、逃げられないように、足も切断しておきましょうね」


 男は、戦意を失ったミリアムの顔が、恐怖と絶望で歪むのを楽しむかのように、ゆっくりゆっくりと近づいてゆく。


「や……やああっ、やめてっ、こないでぇぇ……」


 完全に心を折られたミリアムは、もはや抵抗する気力も無くただ地面をはって逃げ惑う。


「鬼ごっこは楽しいですか?」


 男は、這いつくばるミリアムの横に追いつき、その横腹を軽く蹴り上げる。


「むぐぅっ」


 仰向けに転がされたミリアムは、何とかその場から逃れようと足掻くが、手首から先の無い腕では上手く姿勢を保てず、その事が一層の焦りを生み、駄々をこねる子供のように脚をばたつかせるだけだった。


「もう、いいでしょう?」


「いや、いやっ、やめて、ゆるしてぇ……」


 心の底まで凍てつくような男の声に、ミリアムは顔を歪ませ、受け入れ難い現実を遠ざけるかのように首を振った。


「さて、次はどんな鳴き声をあげますか?」


 男がミリアムの恐怖を煽るように、ゆっくりと剣を振り上げる。


「いやあああああ」


 ミリアムの悲痛な叫び声が森に響く。


「なかなか、いいですねぇ」


 愉悦に浸る男の剣が振り下ろされるかに見えた瞬間。


 遥か上空から降り注ぐ流星のように、音よりも速く魔法の鏃が飛来した。


「くっ、何だ!?」


 男は空の蒼から次々と迫る鏃を、後ろに飛び去り辛うじて躱してゆく。勿論、それは男を直接狙ったものではなく、ミリアムから男を引き離す為に放たれたものだ。


「あ、ああ……」


 土煙の舞う中を空から舞い降り、絶望と希望とを分かつ翼。


「お嬢さん、無理はしないようにと、言ったはずだけど?」


「ご、ごめ……」


 瞳を潤ませ震えるミリアムに、白き翼は指をたて頷く。


「話は後で。まずはあの悪趣味な仮面の男を掃除しようか」


 ミリアムを庇うように立ち塞がったシリューは、ゆっくりと双剣を抜き、逆手に構えた。



この後、part2更新です。

暫くお待ちください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
こちらもよろしくお願いします。
【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ