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終戦

昭和二十年八月十五日


 五体より力の抜くる心地して

  その大詔に耳をかたむく


 敗戦!!無条件降伏!ああ信じられない。皇統連綿として続いた皇室の今後はどうなるのであろうか。日本国民は?そして外地にいる日本軍は、また多くの日本人はどうなるのであろうか。暗然とし誰も口を開くものがない。

 七月十三日動員により、満州国東安省悲徳から、ここ南朝鮮忠清北道まで南下し、太田を中心に各中隊毎に分散して、私達第二中隊は、沃川国民学校へ駐屯以来僅か一ヶ月、思いもよらぬ陛下の放送を聞いた。

 校長から敗戦と聞き、みんな眼を真赤にして泣いている少国民のいじらしさ。



昭和二十年八月一六日


 数日後に行う予定であった。《兵隊さん慰問学芸会》を今夜《送別学芸会》と変更して午後六時から始めることになった。

 久しぶりに見る少国民の姿は、一回二回と進行するにつれ、増々私の胸を突く。

 幼い彼らが最後に歌った「勝利の日まで」また、毎朝夕学校の往復に歌った、あの元気のよい「若獅子の歌」等は、いつまでもいつまでも耳底に残った。


 「若獅子の歌」


 勇に勇む若獅子を

 富士が見守る日本晴だ

 裾野千里は野菊の花も

 露に輝く希望にみちて

(以下略)


 学芸会を終わり児童を各家庭に送り届けて帰ると、全員整列し、隊長命令だ。

「中隊は明早朝”日本人救出のため”平壌へ向かい出発する。早急に出発準備を完了せよ。」

 ガソリン等燃料は分散して山腹に埋めてあるため、これを掘り返す兵隊、糧秣を積載する兵隊、書類を焼却する兵隊等、全員大わらわである。

 全員の兵隊手帳始め重要書類、演習用具等を焼く火は赤々と徹夜宵校舎を照らしていた。



昭和二十年八月十七日


 四時三十分、出発準備完了。五時、内地人と涙で別れて出発”太田駅”へ向かう。駅では全車両を貨車へ積載した。

 朝鮮軍参謀本部から出た「日本人救出命令」を、第四中隊長が終戦後であるとの理由で拒否したために、第二中隊の私等が平壌へ行くことになったと聞く。

 京城駅にて某見習士官の話。

「避難民救出に行くのですか、ご苦労さまです、京城市内へもソ連軍が進駐して来ました。これを迎へる朝鮮人の馬鹿さわぎを見た日本人将校が、日本刀で二、三人叩き切った事件も起きています。北鮮方面は注意してください。」



昭和二十年八月十八日


 平壌駅前の女学校を中隊本部として集結する。既に満州からの避難民で一杯である。糧秣に困っていると聞き、直ちに中和付近の糧秣廟から米と缶詰を、また被服廟から軍用の被服を運搬し、難民に分配した。



昭和二十年八月二十日


 藤宮中尉の伝令となり初年兵三名連れ安岳へ向かう。途中重機関銃三基を有する教育隊の下士官多数を乗せ貨車五輌で行く。



昭和二十年八月二十一日


 午前二時頃、安岳中学校着。朝鮮人暴動の様子を聞く。


一、各神社および奉安殿の焼却、破壊。

一、農場主を殺害、農場を横領。

一、小学校長を袋叩き、他の教員は暴行を避け山中に避難、行方不明。

一、内地人宅の家具、衣類等略奪。



昭和二十年八月二十三日


 教育隊の下士官を安岳に残して、私達は救出した内地人を自動車に乗せて平壌へ帰った。留守中に本部は女学校から二五〇部隊跡の兵舎へ移動していた。



昭和二十年八月二十六日


 来た!ソ連兵二名、初めて見たソ連兵。糧秣倉庫の中から砂糖を見つけ、百キロも目方のある袋を一人で持ち上げ自動車へ積んで帰っていった。あの馬鹿力に驚く。

「明日武装解除される」と班長から聞いた。

 午後自決寸前、渡辺班長に見つかり、軍隊生活最後のビンタを取られ強く意見された。


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