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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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96/123

13-10

 主人公様がマツウラ1号を引きずりながらゆらゆらと歩いて来る間に取るべき選択を考える。

 マツウラ1号を見て、ヒロインを見捨てて飛びかかるような御仁だ。選択を間違えれば俺の四肢も危うい。


 ここは友人Aポジションを生かして主人公様に現実を分からせるような大人な言動をとってみるか。

 いや、虫の息だったから介錯をしたと言っても納得してくれるような物わかりの良さは期待できないか。それが出来るならキャロルに介錯を求められた時点でしているはずだろうし。


 ならばいっそ逃げてしまうか。

 この場だけを考えればそれが手っ取り早い。けれど今逃げれば弁明の機会がなくなる。キャロルに手をかけたことに言い訳をするつもりは無いが一方的に悪だと断じられるのも気に食わない。

 いや、誰になんと思われようと大して意味は無いか。それが主人公様なら尚更。

 だが勘違いと思い込みでまとわりつかれても面倒だ。下手に恨みを一身に受ける必要はない。


 となると多少の戦闘は覚悟すべきか。

 多少血を抜けばまともな思考をしてくれるだろう。きっと。たぶん。

 雰囲気から察するに主人公様と戦った場合それ程分が悪いわけではなさそうだ。

 問題があるとすれば俺の方。キャロルの力を奪ったとは言え巧く運用できていない。総量で言えば主人公様に一方的に負かされるということは無いのだが技術面で不安が残る。

 未だキャロルの力を上手く消化しきれていないというか混ぜ合わせも隔離も出来ていないかなり気持ち悪い。

 今の状況で真正面から戦えば俺もマツウラ1号の様になりかねない。


 どの選択肢も最善ではない。

 どうするべきか。そう悩んでいるうちに主人公様が来てしまった。

 神崎やその組織が介入してくる気配はない。ヒロインたちの復帰も見込めない。勿論伊勢谷も傍観を決め込んでいる。

 つまり窮地だ。



「やあ、レオちゃ……」

「そんな、うそだ、うそだ、ちがう、ちがう」



 一先ずいつものように軽口をたたこうとして、違和感を覚え言葉を詰まらせた。


 今日の、今の、目の前の主人公様、龍泉寺零王は何処か可笑しい。


 では何処が可笑しいのか。

 見た目では取り立てて何かが違うとは思えない。マツウラ1号を虐め抜いたため返り血を浴びているけれどそれくらいは許容範囲内。

 いつものように悲劇に巻き込まれる主人公然としている。

 いつものように(・・・・・・・)


 そこでようやく主人公様の、龍泉寺零王に対する強烈な違和感を理解した。


 龍泉寺零王は今この状況でもいつものように主人公の様な態度をとっているのだ。


 今ここに至っても主人公の様な(・・・・・・)態度なのだ。


 龍泉寺零王という個人の言動ではなく、主人公というモノの素振りを踏襲しているだけでしかない。

 だから目の前の悲劇に対する悲しみしかない。ヒロインを救えなかったことに対する怒りしかない。自分の力の無さに対する後悔しかない。


 そこにはヒロインではなく、ローズマリー・キャロルという個人に対する懺悔や悲しみがない。

 当然、そうなればローズマリー・キャロルの遺体の傍にいる俺に対する注意なんてものは無い。あれの視覚には映っているだろうけれど気にされていない。



「ちがう、ちがう、こんなの、じゃない、そうじゃない、ありえない」



 そう理解して今の龍泉寺零王を見るとかなり滑稽だ。

 自分は十全な主人公であり全ての事を上手く運ぶことが出来ると思っていたのだろう。それが想像していなかった、あるいは想像の中で最悪の結末になってしまい駄々をこねているようにしか見えない。

 いや、滑稽を通り越して哀れにさえも思えて来る。


 龍泉寺零王という人物の愚かさは置いておくとして、この状況は俺にとっては好都合だ。


 龍泉寺零王が自分の力に酔っているのであれば難しく考える必要はない。現実を見ず妄想の世界に生きるような相手ならば怯える必要も注意を払う必要もない。

 あれが怖いのは理屈も理由もなく誰かの為に全てを投げ出せるからだ。現実を見ず大望を抱いてもそこに浸るのではなくそれの為に必死に本気になれるから恐ろしいのだ。

 格好ばかり、見た目ばかり、型ばかりを気にしているようなモノに怖さはない。


 ならば俺は逃げ出せればいい。無理にかかわる必要はない。

 この場から逃げるだけで良いならやりようはいくらでもある。

 問題はタイミング。狂乱の入っている龍泉寺零王は感情として必要と思えばマツウラ1号に対する様な事を平気でする。考え無しで逃げ出せばその背中を刺される可能性もある。下手に動いただけで殴殺される可能性さえもある。


 動きだせる隙を見逃さない様に龍泉寺零王を油断なく観察する。

 龍泉寺零王は遺体の元までやってくると瀕死のマツウラ1号を無造作に放り投げた。投げたモノに既に感情は無くそれがどうなろうと興味は無いようだった。

 やはり目の前のこれは何処か可笑しいのだろう。


 龍泉寺零王は遺体の前で膝をついた。

 近くにいる俺に注意は払っていない。俺の手についた血も気にした素振りは無い。

 というよりは俺の存在なんて端から気にしていない様子。いてもいなくてもどちらでもいい。俺が起こした行動などに興味がない。全てが自分の中で完結している。



 その主人公様は何を思ったのか血に濡れた右手を振り上げた。

 そしてその手を凄まじい勢いて下ろした。



「は?」



 遺体の上に。

 彼女の顔の上に。

 手を振り下ろした?


 余りにも突拍子な行動に何も反応することが出来ない。辛うじて間抜けな声が漏れるだけ。

 顔にナニカがかかるけれど無抵抗に浴び続ける。


 反応出来なくても状況だけは理解出来てしまう。やけに冷静な思考が恨めしい。

 主人公様は癇癪を起したのだ。現実を受け止められず八つ当たりをした。それだけの事。

 それだけの事なのだが、それだけに理解し難い。

 知人の遺体に八つ当たりするなんて理解出来るはずもない。


 俺は何もすることが出来ず唯黙るのみ。

 鼻につく鉄分の臭いがやけに苦い。



 黙って目の前の異質なモノを見ていると雑音が聞こえる。

 ガサガサと。

 ゴソゴソと。


 その小さな音が次第に大きくなっていく。


 そしてその音がしっかりと聞こえるくらいになってようやくその音が龍泉寺零王の吐き出している声だと気づいた。



「ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。ちがう。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。だって。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。みとめない。認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない!」



 ゾッとした。というレベルの話ではない。


 気持ち悪い。

 気色悪い。

 吐き気がする。


 いっそ念仏にさえ聞こえてしまう呪詛が永遠と続く。

 龍泉寺零王の呪詛に対して何かを思う前に変化が訪れる。



「認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない!認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めないぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」



 龍泉寺零王が白く光りだし、その光が爆発的に広がっていった。

 その光の中は真っ白で……




















 光が収まると目の前にはマツウラ1号がいた。



「俺はあんたについていく。ここで死ねというのなら正しく死んでみせる。だから、だから! 妹だけは救ってほしい!」



 マツウラ1号は何故か元気だ。



「俺には14になる妹がいる。そう、14だ。既に呪いが発現している」



 もげたはずの四肢も戻っている。



「その妹を救ってくれるなら、あんたの伴侶に、いやそこまで贅沢は言わない。愛人でも愛妾でも都合のいい女でもいい。なんならペットでも構わない。何をしてもいいどんな扱いでもいい。ただ、1人の普通の女性としての人生を与えてやってほしい」



 マツウラ1号は熱く妹について語っている。既に終えたはずの話を繰り返している。

 傍では綾香大明神がジト目でこちらを睨んでいる。何故かヤンデレ化したヒロインの様な仕草をしている。ババアのヤンデレ化は手に負えないと言わなかったか。


 どうしてこいつらは同じ事を繰り返しているんだ。


 いや、理解している。何が起きているのかは大体把握している。

 何故なら俺たちの周りはいつもの様な普通の街並みが広がっているから。

 そして面倒なテンガロンに言われたことだ。時間を気にしろと。

 

 そこまでそろえば何が起きているのか理解するのは簡単だ。


 面倒ではあるが仕方がない。これが現実だ。実に理解したくないが現実なのだ。

 自分でも呑み込みが早すぎるとは思うが今更だ。


 こんな現実は嫌なのだが仕方がない。

 現実を正しく理解するために時計を確認する。



「ふぇ?」



 つい素っ頓狂な声が漏れる。


 いやいやだって可笑しいだろう。

 あり得ない。


 これはタイムリープ、やり直しではないのか?



 面倒なテンガロンに言われて時間を確認したのが1時53分。

 マツウラ1号を送り出して爆発が起きたのが2時7分。

 キャロルに手をかけて龍泉寺零王と相対したのが2時28分。


 タイムリープなら今は1時50分前後のはず。

 その時間なら街並みもいつも通りであることもマツウラ1号が元気なのは納得できる。

 だが、今の時刻は違う。

 俺の時計は別の時間を示している。


 では今は何時何分なのか。


 今は2時46分。


 そう2時なのだ。1時ではない。



 それが意味することに考えを巡らせ、理解と共に視線が伊勢谷の方に自然と向かった。


 三日月を張り付けたような笑顔の伊勢谷は、とても嬉しそうに呟いた。



「ウェルカム」



 その言葉が耳に届くのと同時に目の前のマツウラ1号の四肢が飛散した。


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