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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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95/123

13-9

 爆発は予想を大きく裏切り、かなり小規模になった。

 小規模といっても半径500メートルくらいの範囲で全ての建物は倒壊している。だが火災すら起きておらず衝撃か爆風で建物が倒壊しただけのようだ。

 数キロの範囲で爆炎が広がり生物も物質も関係なく溶かすことを予想されたことを考えれば小規模といえるだろう。


 その中で被害が大きかったのは爆心地となったキャロルのいた場所。

 幅3メートル深さ5メートルほどの窪みが出来上がっている。よく見ると削り取られた地面の一部はマグマの様に高熱をおびて溶け出している。

 推測でしかないが本来起きるはずの爆発をキャロルが押しとどめたのだろう。自身の所為で被害を出すことを拒み介錯を頼むくらいだ。それくらいの偶然は起こせるのだろう。


 その代償としてキャロルは悲惨なことになっている。当然のこととして皮膚や骨は熱でドロドロに溶け下半身と両腕先は消滅してしまっている。

 それでも生き延びられてしまうのは寧ろ悲惨。

 これでもずいぶんマシだと思えてしまうのは本当に悲劇としか言いようがない。



 そしてこれは予想通りだがキャロルの暴走はまだ終わっていない。

 暴発によって体内がぐちゃぐちゃになっているだけで暫くすれば再び膨らみ始めるだろう。寧ろ刺激を受けたことでこれまで以上に加速度的に膨らむことが予想される。

 唯一都合のよい点として言えば今の状況なら簡単にキャロルを殺せるということ。今なら爆発もそれほど大きなものは起きないだろう。


 問題はタイミングか。

 少し状況を確認してみよう。


 まずはマツウラ1号。

 爆風を受け吹き飛ばされて瓦礫に埋もれている。ただ熱風はまともに受けていたようで顔などはどろりと溶け出している。至近距離で爆発を受けたはずだがこちらも偶然生きていたらしい。


 次に主人公とヒロイン。

 こちらも爆風は避けられず吹き飛ばされ瓦礫に埋もれている。ただマツウラ1号とそれほど距離は変わらないはずだが何故かこちらは基本的に無傷。かなりの速さでコンクリートに打ち付けられたはずなのだが目立った外傷はない。かすり傷と打撲といった具合。

 流石は主人公様とヒロインといったところか。



 最初に動き出したのは主人公様。これは当然というべきか。

 よろよろと立ち上がり目の前の状況を確認すると茫然とする。

 悲劇を前にする主人公の様な佇まいをする主人公様。

 何やらぶつぶつと呟きながら爆心地へと向かっていく。


 次に動いたのは意外にもマツウラ1号。

 ヒロインたちは未だに呻いて動けないでいるのだが彼女らより重傷なはずのマツウラ1号は普通に起き上がる。そして演出された様にマツウラ1号に爆心地に向かい主人公様と対面する。

 そして、



「お前があああ!!!!!」



 主人公様は何故かマツウラ1号を見るとすごい勢いで飛びかかった。


 そう何故かである。


 別にマツウラ1号が襲われることに驚いているわけではない。

 主人公様が怒り狂うであろうからこそのマツウラ(捨て駒)

 マツウラ(捨て駒)1号がどうなろうと構わない。


 問題は主人公様が真っ先に敵の排除を行ったということ。

 主人公様がキャロルに、悲惨な状況にあるヒロインに寄り添うのではなく、真っ先に敵であるマツウラ1号に襲い掛かったのだ。

 これが普通であるものか。


 いや、所詮はあれが主人公様ということか。

 本物の物語に出てくる主人公や英雄ヒーローではないということだ。

 まあ、そんなモノがいても困るのだが。


 いずれにしてもこの展開はこちらにとっては好都合といえる。主人公様が移動してくれればこちらは動きやすくなる。ヒロインや神崎たちは万全ではないようで動く気配はない。



 主人公様がマツウラ1号で遊んでいる間にキャロルのもとに忍び寄る。

 そこは近寄るだけで一般人にダメージを与えるような異世界だった。平凡で凡庸な俺は逃げ出したくなる気持ちを圧しとどめて現実と向き合う。


 足音を立てたつもりもなく気配は断っていたはずだが、こちらから声を掛けるより先にキャロルが口を開いた。



「この状況下で最初にやって来るのは貴方なのですね。意外、というわけではないですが……」

「意外ではないけれど、納得出来ないわけですか。まあ、最期に主人公様が不在で凡人な自分が相手では納得できないのも同情できますが」

「そうですわね。貴方では不十分です。出直してきなさい。……それにしても貴方のその口調なんですの? とても気味が悪いですわよ」

「生憎これが素なんですよ」



 普通に、学校で、教室で会話するように語り掛けて来るキャロル。

 けれど彼女は身じろぎをすることも出来なければ光も感じ取れない。そんな状態でごく普通に会話の出来るキャロルの精神には敬意しかない。


 そんな相手の為にはふざけるでもなく手っ取り早く用件を済ますことが最大の誠意だろう。



「さて、自分がここに来たわけですが介錯でもしようかと思いましてね。その代り自分に少し協力してほしいんですが」

「あら、随分ですわね。か弱い女の子をを殺すというのに更に働かせようというのですか? 日本男児は紳士ではありませんのね」

「日本人は基本的にマザコンで妻には尻に敷かれる人が多いらしいですからね。基本なよなよしいんですよ」

「なんですの? それは」



 会話するだけでも激痛が走っているだろうキャロルは普通に笑ってみせる。

 そんなキャロルに俺の思い描く妄想を垂れ流す。



 キャロルの体内の暴走はどうにもできない。そしてこの暴走は周囲を巻き込む。何千何万という単位で人に被害を及ぼす。

 この事実を覆しキャロルを救うには神か、それこそ物語に出てくる英雄にでもならなければ不可能だ。そして現状ここには神も英雄もいない。

 つまりキャロルを救うことは出来ない。


 ならば、だ。その命は有効活用すべきだ。


 弱った今なら周囲を巻き込むことなくキャロルの命を終わらせることが出来る。一人の命と何千何万という命は比べられないが、天秤に乗せてしまえばどちらに傾くかなんてのは言わなくていい。


 更に言えばキャロルの身体は暴走しているとはいえかなりの力を蓄えている。

 人外の身からすればこれを消滅させてしまうなんて勿体ない。資源は有効活用すべきである。

 まあ、勝手な話だが。


 問題は俺の使う妖気とやらとキャロルの力では在り方が違う。根本的には同じだけれど使い方やちょっとしたところで違いがある。英語とフランス語とイタリア語みたいなものだ。


 恐らくこのままキャロルの力を取り込むと俺には制御しきれない。下手をすれば自壊しかねない。凡人たる俺がそんなにうまく力を使えるとは思えない。

 ならばどうするか。

 使えないのなら吸収しないという手もあるのだがそれは少々勿体ない。

 次作として、混ぜるな危険というのなら別々で運用すればいい。

 問題は別にした場合にキャロルの力の使い方を俺が知らないということ。だが、知らないならば無理に知らなくてもいい。知ってる人に使ってもらうだけ。

 そこで登場するのがキャロル本人。本人というよりは知識や意識。キャロル自身のそれに頼れば何ら難しくない。


 つまりは、だ。


 俺はキャロルを殺しキャロルの力を譲り受ける。

 その力を制御するためにキャロルの知識と意識を使いたい。


 という事だ。

 問題があるとすれば、だ。



「力の制御で必要な意識は今のあなたの劣化コピーであってあなた自身ではありません。あなたが、今のローズマリー・キャロルが死ぬということが覆ることはありません。あくまであなたの知識と意識を引き継いだ別個体を使う事になります」



 暴走の停止もキャロルの死が無ければあり得ない。

 勿論一部の力だけ抜き取ることは出来るがそれでは暴走は止められない。寧ろ変な横槍で突然変異が起きる可能性もある。それでキャロルが生きていられるようになるのは可能性としては切り捨てられないという程度だ。


 だからキャロルには死んでもらう必要がある。

 これは絶対だ。


 そんな俺の妄想をキャロルは落ち着いて聞いていた。

 特に喚くことも罵倒することも無く極々普通に聞いていた。元々介錯を求めていたのだから冷静にいられるということもあるだろう。

 ただ自分で決めることと他人に決められるでは大きな違いがあるはずなのだが、キャロルは思ったよりできた人間らしい。


 キャロルはひとつ大きく息を吐くと見えないはずの視線をこちらに向けて口を開いた。



「介錯については問題ないですわ。私自身、自分が助からないことは理解しております。これ以上被害を出すのは美しくない。問題は貴方に協力すること。何故私に期待させるのではなく現実を突きつけるのでしょうか? 貴方の心内があまり理解できませんわね」



 毅然とした言葉。

 意味もなく重たい声色。

 目の前に横たわるのは灯が消えかけているとはいえ普通ではない裏の世界で生きてきた人のもの。軽く平凡な俺とは蓄積が違う。そんなことを思わせる声だった。


 けれどそんなものにうろたえている場合ではない。うろたえていい場合ではない。

 そしてしれに張り合う場面でもない。張り合っていい場面ではなない。


 俺は俺なりに普通に答えた。



「それは、まあ、自分が平凡凡庸だからですよ。恐らく、というか絶対ですが、自分の立場で立ち位置でもっと上手くやれることはたくさんある。ただ生憎自分にはそういう向上心は無いんですよ。出来るのであればそれに越したことは無いけれど出来ないのならそれはそれで仕方がない。本当は今にでも全てを投げ出して無関心を決め込みたいけれど、それが出来ないからなあなあで過ごしているしかない。その程度ですよ。それに、あなた方の場合こうして素直に話せばそれを誠意と取ってくれるかもしれませんしね」



 あくまで俺は巻き込まれているだけで主体性はない。

 キャロルの様に目的や気概は無い。



「……ふふっ。何それ、変なの」



 俺の適当な、意味のない返答にキャロルは笑みをこぼす。

 フッと力を抜いたキャロルは普通の女の子に戻ったようだった。魔法や妖気や超能力。そういった不可思議で超常的なものに関わりのない普通の女の子。


 いやまあ、キャロルは普通の女の子なのだが。


 暗に許可が出たので俺は横たわるキャロルのもとに近寄りその胸に手をかざす。流石にこんな状況で変な気は湧いてこない。

 元々俺にはあまりグロ耐性は無いのだ。



 キャロルに振れた手に意識を集中する。基本は呪術に似た人と人との繋がり。後は肉体などの実態を捉えるのではなく抽象的で概念的なナニか。それが何なのかは分からない。分からないけれど捉えることくらいは出来る。それを捉えると後は感覚と雰囲気で自身に備わる力に委ねて処理を施す。


 能力的な準備を終えると後は肉体的な準備。

 キャロルを殺すだけである。


 キャロルを殺すだけ、とは言ったものの凡庸な俺にはこれが大きな障害でもある。

 大勢の、それも何千何万もの人間の為とは言えひと一人を殺すのだ。

 いや、理由なんて意味は無いな。単純に純粋に人を、自分以外の何かの命を自らの手で奪うということに慣れていないのだ。


 これを蚊を潰すように蟻を踏みつぶすように出来ればいいのだが、そうはなりたくはないという凡庸な俺もいる。所詮俺は凡庸で平凡な友人Aだ。人の命を奪うことに慣れてしまえば自分が自分ではなくなってしまうだろう。


 あれこれ考えていても答えは出ないのだろう。

 出来ることやるべきことを、優先すべきことをやってしまおう。



「こちらの準備は出来ました。キャロル、心の準備は良いですか?」

「良くはないですわよ。私だって死にたくないですもの。でも仕方がないじゃない。だから我慢しているだけ。平凡な貴方なら理解できるでしょう?」

「ああ、そうですね。自分が悪かった。済まない」

「ええ、懺悔なさい」



 そういうとキャロルが力を抜くのが分かった。

 決めたということだろう。


 そんな立派な少女の前で躊躇するわけにはいかない。正直今にも吐瀉物をまき散らして逃げ出したいところだけれどそうも言ってはいられない。

 平凡で凡庸だからこそ目の前の、ひとつの命にくらい真面目に向き合うべきだろう。


 右手に力を込めて、超常的に硬化せてそれをキャロルの心臓に突き立てる。硬化した手にはさして抵抗感はなく簡単に小さな少女の身体に穴を穿つ。

 ただそれだけ。

 たったそれだけの行為でひと一人の命が消える。

 手には感覚は無い。

 超常的なもので強化硬化した手では人の肉や骨は簡単に切断貫通できる。

 それでも嫌なものが残る。感じたはずのない何かをぶちぶちと引きちぎりるような、あるいは無理矢理肉を突き破るような抵抗感が手に残る。


 自分の行為と共に、行為の所為で目の前の小さな子の力が活力が生命力が急激に低下していくことが俺を追い込んでいく。

 胃が急激に悲鳴をあげて食道を液が遡ってくる。それでも今だけはみっともなくしていられないので必死に口の中で抑え込む。嫌にすっぱいものが鼻の奥いっぱいに広がる。


 だが結局、必死に抑え込んでみたものの堪え切れず吐き出してしまう。

 少女の最期を無様に汚してしまう。本当に無様だ。



 醜態をさらしている間にも少女の力は小さくなっていく。

 少女の活動が停止して力が移行してくる瞬間、声が聞こえた。

 気がした。



『どうしてこんなことになってしまったのでしょうか』



『本当は彼を、龍泉寺零王を殺すために日本へ来たというのに。すっかり牙を抜かれ平凡に浸ってしまった。私にはすべきことがまだまだあったのに。お父様、お母様、申し訳ありません。ロジィは親不孝者です。お許しください』



『ああ、どうしてこんなところへ来てしまったのでしょうか。何がいけなかったのでしょうか。どうして』



 ああ、そうだな。

 本当にどうしてだ。



 その声は本当にキャロルの、ロジィのモノだったかもしれないし唯の空耳だったかもしれない。

 残った事実は一人の少女の死のみ。

 こうしてローズマリー・キャロルは短い生涯を終えた。


 そして、そうなってようやく龍泉寺零王はやってきた。

 手には四肢をもがれたマツウラ1号。

 一応は息をしているらしい。



 現在は2時28分。

 俺の厄介な現実はまだまだ続きそうだ。


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