13-8
目的を決めれば後はこなすだけ。それも今回は自分で行動しなくてもいい。
「では捨て駒さん。行ってらっしゃい」
不謹慎ではあるが危険なことに他人を送り出して自分は傍観しているというのは実に心地いい。
いつもはなし崩しで物語に組み込まれて自ら首を突っ込む形になっているのでこれほど気楽なことは無い。なし崩しで物語に組み込まれているのは変わっていないのだがそこは気にしないでおこう。
いつもよりは気楽でなによりだ。
「……一人でいいのよね」
「今のところは、そうですね。その一人が巧くこなせなければもう一人となるかもしれませんが。捨て駒なんてそんなものでしょう?」
「わかったわ」
文句を言わないあたり流石は捨て駒さんだ。俺なんかより色々と現実を知っている。
そんなことを考えていると一応俺なんかより大人なはずの綾香大明神が俺の袖を引っ張った。
「……あの、潤。さっきから気になっていたけれど『捨て駒さん』というのは酷いんじゃないかな」
俺の気楽さが伝わってしまったのか時間もないというのに無駄な話を吹っかけてくるババアの面倒くささ。婆はこちらで対応しておくとして捨て駒さんには話し合いを進めてもらう。
ため息をつきながら頭の湧いた方を見ると本当に能天気そうな美人スマイルで見返された。
これの外面なんて作りモノなので特に感情は湧きたたないのだが、気になるのはこれの精神面だ。これは少なくとも俺の親世代くらい生きている。加えて非合法研究所で使われていたのだから俺なんかより色々と削ぎ落としているはず。なのに能天気なことを言いだすあたりかなり面倒だ。
若い身体を作り若者に囲まれたことで退行でもしたのだろうか。
捨て駒さんたちは何やら揉めているようなので暇つぶしに能天気なババアに付き合うとしよう。
もしかしたらさっきのババア発言の仕返しだろうか。うん、どうでもいいな。
無視してしまってもいいのだが、というより無視したいのだけれど、これはどうせ無視しても面倒を振りまいて来る。流石に本題に入っても邪魔をするとは思えないが逆に言えば相手いる時間は付きまとってくるという事だ。実に面倒だ。
仕方がない。
暇つぶしにでも介護でもしますか。
「それで、自分にどうしろと?」
「彼女たちを配下にするならちゃんと名前を憶えてあげなきゃ。それともそんなことも覚えられない程潤は退化しているのかな? もうおじさんなのかな? ひとをババア呼ばわりしておいてさぁ」
ああ、うん。やはり単なる嫌がらせらしい。本当にどうでもいいな。
ババアの妄執は放っておくとして、確かに『捨て駒さん』というのは今後を考えると改めた方が良いかもしれない。
ただ、これが普通の配下、協力者ならそれなりに配慮するがこれらは名前の通り捨て駒。下手に情を持つと面倒ということもある。折角の捨て駒なのに捨てられなくなると意味がない。
生憎俺は凡庸な人間なので知人を簡単に切り捨てられるとは思えない。ある程度の線引きは必要だろう。
とはいえ、確かに捨て駒さんという名前では味気ない。それに作戦上分かりやすい名前であれば情報漏洩に繋がる。まあそんな重要なことをするつもりは無いのだが。
ならば適当に名前を付けておこう。特に意味のない名前を。
「では、今後捨て駒さんたちの名前はマツウラということにしましょう。マツウラといえば捨て駒。捨て駒といえばマツウラという感じで。今後増えていくようなら1号2号というナンバリングでいきましょう」
「えっと、いや普通に名前を憶えてあげればいいと思うのだけれど。それに何故マツウラ?」
「別に、特に意味はありませんよ。何となくです何となく。マツウラという名前に恨みはありませんとも」
別にマツウラという名前に意味はない。本当に何となくだ。
中学時代にマツウラという同級生がいたが別に関係ない。
その同級生と中学二年で同じクラスになったが特に意味はない。
その同級生マツウラとはそれなりに面識はあったが特に意味は無い。
知人のつながりで時折オタク話をしていたが特に意味はない。
オタク話の中で、声優を追い過ぎてキャラクターの声を聴くとその声優の顔が浮かんでくると言ったら
「それは病気だわ。病気」
とか言われたが断じて意味はない。
その後、三年では別クラスになり疎遠になったが意味はない。
3年の時いじめにあって不登校になったらしいが特に興味は無い。
故に「マツウラ=捨て駒」という方程式に意味は無い。
意味は無いったら意味は無い。
それにしても同級生のマツウラケン何某。今頃何をしているのだろうか。立派な自宅警備員になっているだろうか。それとも頑張って社会に出てきているだろうか。まあこの世界には大して関係のない話だな。
さてそうこうしているうちに捨て駒さん改め、マツウラの話し合いが終わったらしい。
どうやら1号は元の身体に戻って泣きわめいていた元上司。唯一の男だから妥当だろう。今後彼らの身の振りようや統率にはリーダーが必要だろうし。
そのあたりは俺の感知するところではないので追及はしない。黒刀を作り出して1号に渡す。
「この刀でキャロルの心臓を突いて下さい。この刀は実体には影響しませんから一拍後に剣なり手刀なりで心臓を突いて下さい」
「……了解した。本当に俺たちの呪いを解いてくれるんだよな」
「信じられなければ信じなくていいですよ。所詮は口約束。ご自分で判断してください」
そういってあげると1号は黙り込んでしまう。聞こえの良い言葉を吐いてもいいのだろうが、というよりはここは吐くべきなのだろうが面倒くさい。自分で考えて自分で判断してほしい。
急かすことなく1号の決心を待つ。それも数秒の間で彼の中では既に決まっていたようだ。
だが決心をしたらしい1号は何故か俺ににじりより手間で握ってきた。
「俺はあんたについていく。ここで死ねというのなら正しく死んでみせる。だから、だから! 妹だけは救ってほしい!」
「は?」
「俺には14になる妹がいる。そう、14だ。既に呪いが発現している」
「いや、ちょっと待ってください」
「その妹を救ってくれるなら、あんたの伴侶に、いやそこまで贅沢は言わない。愛人でも愛妾でも都合のいい女でもいい。なんならペットでも構わない。何をしてもいいどんな扱いでもいい。ただ、1人の普通の女性としての人生を与えてやってほしい」
「あーうん。考えておきますねー」
1号はどうやらシスコンらしい。別に兄妹愛に偏見は無いけれど妹をペットにとはどうなのだろうか。りゃ乙女がオッサンになるよりはマシだろうけれど。
それにしても14歳、女子中学生をペットにか。かなり危険な香りがする。北陸のどっかの阿呆な医者が知れば歓喜を起こしそうな話だ。
取り合えず1号の妹の件は置いておくとして捨て駒が、いやマツウラくんがやる気になってくれてうれしい限りだ。これでババアのヤンデレヒロイン化が無ければもっと嬉しいのだがババアは気にしないでおこう。
1号には自分の判断で行動してもらう。一応主人公とヒロインが集中しているので警戒を掻い潜るのは難しい。下手に素人の俺が口を出すより慣れた人が独自で行った方が確実だろう。
もし1号がヘタレた場合はその時だ。
1号を送り出すと俺たちは距離を取った。暴発で起こる被害の範囲外に退避する。そしてその時を待つ。
やや緊張して待っていると唯一呑気なテンガロンがうさん臭そうな笑みを向けてきた。
「順調そうで何よりだ斎藤君。そんな斎藤君にひとつ助言をしておこう」
「……聞いておきましょう」
「うん、素直でいいねぇ。面白くない。ま、兎も角だ。時間を気にしておくといい」
テンガロンはそれだけ言うと大人しくなった。意味深なもの言いにいくら聞き返してもニコニコと三日月の様な目と口で嗤うだけと実に気味が悪い。
かなりの消化不良だが助言というのなら聞いておこう。
時間が重要という事なので確認すると今は昼の2時前。正確には1時53分。既に昼休みは終わり午後の授業が始まっている時間帯だ。
授業が始まっていること指摘したかったのだろうか。いや、そんな馬鹿な、である。
取りあえずこまめに時間は確認することにしよう。
物語の観察に戻る。
主人公様は終に力を発現することは出来なかった。
キャロルの肉体的にも精神的にも魔力的にも限界が迫り、何も出来ずに項垂れる主人公。
限界をとうに超えて奇跡ともいえるように意識を保っているキャロルは介錯を主人公に求める。
けれど主人公はそれを受け入れようとしない。
他のヒロインが意思を汲み取り介錯を執り行おうとするが主人公が邪魔をする。
救うことも出来ず願いも叶えない。
駄々をこねるだけの主人公。
ここでは奇跡も何も起きない。
そんな物語にひとつの影が近寄りそしてあっさりとヒロインに剣を突き刺した。
2時7分。爆発が起きた。




