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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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90/123

13-4

 キャロルが暴走を始めたので伊勢谷との会話を切り上げて戦況に注視することにした。伊勢谷も話を切り上げることに不満はないようで特に何も言わなかった。


 登場人物たちがどの様に踊るのか気になるので視覚聴覚を強化しておく。聴覚は単純に強化すると近くにいる人の声がうるさく風の音など小さな音に過剰に反応してしまうので色々と工夫をする。

 あれこれ準備を整えて登場人物たちの観察を始めた。



『あああああああああああ!!!!』



 特殊強化した聴覚が最初に聞き取ったのはキャロルのものと思われる咆哮だった。


 その声には心の底からの痛みからの叫びを感じ取れたし絶望も感じ取れた。

 けれど残念なことに俺の感情は大して動かなかった。

 精々可哀想だなぁと思ったくらい。勿論それは純粋な心配などではなく、あんな野獣の様な声を人様に見せるだなんて後々恥ずかしいだろうなというモノ。

 実に非人間的なモノだ。


 そんな残念な感情は無視して突然耳にした音への単純な感想だけを呟く。



「すごい声ですね」

「そりゃ全身が焦がれているからね、しかも彼女の場合焦げたそばから再生してまた焦げる。それもご丁寧に痛覚は残ったまま。そんな声を挙げたくもなるんじゃないかな」

「へぇそりゃまた難儀な」

「それにしても自分の学友が酷い目にあっているというのに随分な感想だね、斎藤君は」

「まあ、自分のことではないですから」



 どうやら伊勢谷は実況に徹するらしい。俺にはメリットもデメリットもないので何も言わない。


 現在キャロルは伊勢谷が言ったように炎に包まれている。それも普通の火ではなく青白くかなり高温で強い炎。よく視ると伊勢谷が言った通りで腕や脚はドロッと溶け出しているがすぐに綺麗なものに戻り再度解けるという繰り返し。

 軽い地獄だ。


 そんな状況下であってもキャロルの意識は飛ばないようでただただ絶叫をあげ続けている。

 断末魔に近しいので仕方がないのだろうが常人が効いたらトラウマになであろう叫びだ。



 その声にほとんどの人物が戸惑う中で最初に動き出したのは我らが主人公様だった。



『何をした! マリーに何をしたんだ!!』



 マリーの唐突な異変を何かをされたと思ったらしい竜泉寺は上司に詰め寄る。戸惑いにあっても直ぐに行動出来るというのはやはり流石というべきか。


 けれどその行動は胆略的で簡単に躱されている。



「流石は主人公くんってところなんだろうけれど何とも無様だね、斎藤君の親友はさ」

「別に親友ではないんですが、お恥ずかしい限りです」



 伊勢谷の言う通り竜泉寺は無様だ。感情や体だけが先走ってまともな行動が出来ていない。

 子供が喚き散らかしているような稚拙さ。あるいは規約とかルールを理解しないで自分が正しいと主張する阿呆な大人の様に哀れだ。


 やはり想いだけでも力だけでもダメなのだろう。


 唯々暴れる竜泉寺と暴走するキャロルを満足そうに上司は嗤う。



『何をした? 私たちは何もしていないさ。したのはキミたち自身だろう? 自分たちの魂胆を他人に擦り付けるというのはどういう教育を受けてきたんだい?』

『何を言っている! お前がマリーをっ』

『だから私たちではないと言っているだろう。聞き分けのない子供だな。それとも事実を理解して知らない振りをしているのかな』

『何を言っている!』

『これは全て君たちの計画通りなんだろう。私たちもその歯車のひとつでしかないのだろうがな! それは君とて同じだ! つまりこの結末は君にも責任があるんだよ! いやむしろ君の責任でしかないな!!』

『……もういい。だまれよ』



 そこまで話したところで緩慢だった竜泉寺の行動が激変する。

 本当にそれ以上話を聞きたくないかそれまでの苦労が何だったのか理解できない程あっさりと上司を排除する。そしてその片手間とでもいうようにさっくりと部下3人組も排除する。



「ねえ竜泉寺くんさ、4人をあっさりと倒したんだけどどういう事なんだろう」

「さあ、単にバカなんじゃないですかね。自分にもあんまり理解できない、というかかなり度し難いんですが」



 伊勢谷が驚いて見せるように竜泉寺の動きはそれまで手加減していたかと思いたくなるほどの違いがある。あれ程手こずっていた相手を瞬殺。適当に叩きのめして退場させている。

 本人にその意思はないんだろうけれど見ている方は何とも不愉快だ。


 排除しただけでは納得できないお冠な主人公様は上司へ追撃を仕掛けようとする。今日の主人公様は随分とお怒りらしい。


 けれど主人公様が暴挙に出るその前に人影が立ちはだかる。



『落ち着きなさい竜泉寺。あなたがどれほど叫んでも現実は変わらないわ。寧ろそうやって時間を無駄にすればするほどマリーは苦しむだけよ』



 なんとも良いタイミングで神崎の登場だ。

 確か竜泉寺は神崎がこちらの世界の住人だとは知らない。怒りで思考がおろそかになっているとはいえ突然の登場にいい感じに戸惑っている。


 勿論このタイミングでの登場は偶然などではなく演出。キャロルが暴走する少し前から神崎はスタンバイしていた。それをさも今来たと言わんばかりの慌て様を見せるあたり神崎も流石は登場人物といったところか。



『い、いいんちょ……、なんでここに』

『教えてもいいけれどそうやって時間を無駄にするの? そんなことよりあなたは知りたいことがあるはずだと思うのだけれど。そしてやらなければならないこと、助けなければならない相手がいるはずよ』

『……分かった。委員長、いや神崎。俺はどうすればいいんだ』



 白々しい神崎が竜泉寺に迫る。

 それを何故か受け入れる頭の悪い竜泉寺。


 どう考えても怪しいというのにやはり主人公様は都合のいい事実、心地のいい言葉しか聞こえないのだろう。難聴なんだろう。あるいは脳みそがないのだろう。


 そんな主人公に対して神崎は白々しく続ける。



『マリーは体内の魔力循環機構がうまく機能していない。そのおかげで魔力は暴走をしているの。もっともそのおかげでマリーの肉体再生も出来ているんだからふざけた事になっているんだけれど。兎も角、マリーの魔力循環機能を正常にすれば問題ないわ』

『神崎の言っていることは大体わかった。けど俺にはそんな力を持って』

『いえ、あるのよ。あなたにはそれが出来る。それが出来る力を持っているのよ』

『俺に……ちから?』



 うん、何とも安い展開だ。

 御都合主義もいいところだ。


 確か竜泉寺の能力はコピーだったか。いや、伊勢谷はその本質は別にあるとも言っていたような気がするが、神崎の口振りからするともっとトンデモな様子。普通にチートなのだろう。流石は主人公と言ったところか。


 茶番はさらに続く。



『あなたの力は人真似なんかじゃないの。あなたが望めば世界は変わる。変えられるの』

『俺が、世界を、かえ、る?』

『そうよ、竜泉寺零王。あなたが世界を変えるのよ。でなきゃマリーは助けられない』



 滑稽ここに極まれり、とでもいうべきか。

 たかがニンゲン1人で世界が変えられるとか、終わっている。

 しかもたかが1人の為に世界を変えようとするとかどこぞのシスコン皇子かっての。それでも結局すべてが思い通りにはならなかったし。


 こんな言葉でいいなりになるのなら主人公は本当に脳無しだ。嫌悪さえする。



『分かった。俺がマリーを助ける。その為に必要なら世界でも何でも変えてやるさ』



 ……残念なことに竜泉寺はどうしようもなく阿呆らしい。

 気持ち悪くなってきたのでそこで観察を終える。聴覚強化も止めて阿呆と大根役者は放り投げて今後の展開を考える。



 やはりザマス眼鏡たち組織の目的は竜泉寺の能力覚醒だろう。

 竜泉寺に本当に世界を変えられるほどの力があるとは思わないがかなり厄介な能力に違いない。現時点でその面倒さはどうでもいい。

 多分ここまで手の込んだことをしているのでかなり追い込んだ状況、ヒロインの命が危ないという状況にならなければ覚醒しないということだが、それもまあ俺に関係ない

 何度も言うが自分以外はどうでもいい。

 竜泉寺が能力を覚醒させてキャロルを助けようが覚醒できず諸共死んだとしてもどうでもいい。



 問題の本質はこれらが俺にどんな影響が出るかということ。


 素直に主人公様が主人公として覚醒して物語を完結に導けるというのならそれでも構わない。

 それならば何にも問題はない。ただのお話が続くだけ。


 けれど主人公様は、竜泉寺零王は完璧ではない。

 竜泉寺零王は主人公のような立ち振る舞いをしているけれど本当に主人公である、主人公であり続けるという確証は何もない。この先、物語の様にあの手この手、御都合主義をも使ってハッピーエンドを掴めると決まっているわけではない。

 

 何かトンデモ力に目覚めようとして挑戦するがあっさり失敗する可能性だってある。どこか途中で心が折れてしまうかもしれない。


 そうなればいろいろな思惑を無視して唯々被害が出るだけになる。


 実験観察者からすれば失敗例が増えるだけなのかもしれないが被験者とそれに巻き込まれる人々からすればたまったものではない。今回にしても暴走しているキャロルの魔力は膨大でそれが制御できず破裂するなんて空恐ろしい。簡単に数万人が死ねる。


 おまけに伊勢谷の弁が正しければという事だが観察者たちはこれを利用して北陸壊滅計画を企てている。そちらも何万人単位で人が死ねる。

 何とも面倒なことだ。


 勿論これらに俺が関わる道理はない。面倒なら逃げればいい。自分だけ逃げだすなんてのは簡単なお仕事だ。


 けれど、それが出来るのなら俺はこんな面倒な立ち位置にいないだろう。



「さて、主人公くんは物語を順調に進めるようだけれど斎藤君はどうするのかな」



 文化感破壊男は見透かしたように訪ねて来る。


 本当に面倒だ。



 俺は自分以外どうでもいいけれど何もなしで生きられる程高潔ではない。

 出来れば世俗に塗れて溺れたい。その為には命だけあればいいと逃げ出すことも出来ない。何とも面倒な現実だ。



「一応手を出すなとも言われているので静観するつもりですよ。それでも何もしないというのは危険なので取り敢えずは倒された4人組の回収ですかね」

「おや、主人公くんを助けなくていいのかな?」

「悪いですけど無意味な問いに律儀に答える趣味は無いんで。綾香、4人組の居場所は特定できてますか?」

「大丈夫だよ、潤。でもあちらさんが既に回収してしまった後のようだけど」

「構いませんよ。主人公様やヒロインじゃなければ雑魚ですし」



 俺の取れる行動は状況を注視するくらいしかない。

 そして出来る範囲で手を加えるだけ。


 気持ち悪い主人公様が物語をそのまま進めてくれるというのならそれだけの話だし道を逸れるのならそれに合わせて行動するだけ。

 その為にも駒は多い方が良い。現状においては上司と部下の4人は手に入れておきたい駒だ。



「結局はいつも通りか」



 変わらない自分の立ち位置に呆れつつも愚痴ひとつこぼして切り替える。

 それでも今までとは少し変わった小さな決意を固める。



「まあ、処理をするとしても阿呆の、誰かの思い描く通りにしてあげるつもりは無いけれど」



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