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現実というのは礼儀正しく列をなして待ってくれるなんてことは無い。
ひとつの事件が起きている時、周りは大人しくしているなんてことは無く寧ろそれを良しとして襲ってくるものだ。
だから、主人公もそのヒロインもいない今の状況は何かをたくらむ組織や集団にとって千載一遇のチャンスである。
真正面から戦うだけが現実ではないのだ。
もっともそんなことを考えているのは俺でもなければチヤでもない。
因みにチャンスに一番近かったチヤさんにそのほどを窺ったら軽く笑われてしまった。
「そのやり口や考え方は大変非情でいんだけど人質というのは頂けない。武器なんかを奪って使うとかその身に乗り移るとかなら上策だと思うんだけどさ。人質の場合は人質が生きていることに意味があるから殺すことは出来ない。けれど脅すためにある程度傷つけるなりしなければならないという面倒な状況に陥る。それは肉体的に限らず精神や感情も含めてね。故に数人の人質なんて意味はない。数百人単位で人質を確保して数時間に一度殺すとかなら効果は上々だろうけどそんなのは浪費が多いしコスパがよくないんだよ。その人質も確実に使えるわけではないからね。それに交渉が上手くいったとしても最後には人質を解放しなければならないのなら自分の身は安全ではなくなる。どう考えてもいい方法ではないんだよ」
と、わりと真面目に考えていたご様子で真っ当に否定された。
その意見は理解できるしそれが普通の感覚だろう。
人質による交渉などそうそううまくいかず成功したってその後が難しい。
最終的には人質は返さなければ交渉にならない。だが返してしまえば元の木阿弥。自分の身を守るものは無い。交渉時にいくら解放すれば身の安全を保障するといっても絶対ではない。
人は騙し欺く生き物だ。
しかしそんなごく一般の考えとは異なりその費用対効果を考えない輩たちもいる訳で、そんな輩が物語の核もそのお付きもいない状態で勝手に盛りあがったわけだ。
その輩どもは主人公不在もあり、いとも簡単に学校を占拠した。
役者のいない学校には防御力など皆無なのだ。
そして占拠した集団は悪趣味が過ぎた。
下品で不愉快な声が校内に響き渡る。
「此処にいるお前らにチャンスをやろう。御幸実咲という少女を引き渡せばお前ら達を見逃してやる。もちろん差し出した奴だけじゃない、このゲームに参加した奴全員だ。そして得物を捉えたやつには商品をくれてやる。商品は金でも何でもいいぞ。……何ならその少女であっても、な」
画して主人公不在の中、お遊びが始まってしまった。