13-3
飛び出した神居が竜泉寺に追いつき何やら話し込む。
竜泉寺は神居の話を聞いていくと呑気にしていた雰囲気が次第に真剣なものに変わる。そこからは緩慢だった動きが機敏になる。秘められた力が解放されているようだった。
それにしても追い込まれないと本気を出せないとは随分な怠慢だよな。
そんなことを思いつつ物語が加速し始めたことを見届けると俺は俺の面倒な現実に向き合うことにする。
「それで最近引きこもってばっかりだった綾香大明神が出張って来たというのはどういう用件なんですか。どうせ面倒なことなんでしょうけど」
「それだと私が面倒な女みたいに聞こえるのだけど? それに好き好んで引き篭もっていたんじゃなくて潤がそういう事をしないから代わりにしていただけなんだけど」
「まあ、そんなことより話を始めましょう。それで、なんで伊勢谷まで一緒なんですか。こっちが諸悪の根源ですか」
「諸悪の根源とは酷いなぁ。折角情報をあげに来たのに。それに諸悪の根源は斎藤君のいうところの主人公様じゃないかな」
「それは、まあ、そうですね」
「自分で言いだしておいて私は無視ですか。まあそれが潤だから仕方がないけど、なんだかなぁ」
伊勢谷にまで諸悪の根源認定を受けた主人公様は能力を増強したにもかかわらず部下3人組の防御を突破出来ずにいる。
恐らくだが突破は出来ないだろう。
突破してしまえば物語にはならないだろうし背後組織の思惑にもならないので元から突破できないようになっているはずだ。あるいは主人公様がそういった展開を望んでいないのかもしれない。
それにたぶん部下3人組は雰囲気や能力以上の力を持っている。
主人公様を倒すことは出来ないだろうが通行の邪魔をするくらいなら簡単なのだろう。あるいはそういうことに長けている集団かもしれない。
主人公様も先に部下3人組を処理してから突破すればいいのに先を急ごうとして防御を突破することに専念しているので結果的に時間がかかっている。周りのヒロインも主人公が感情的に動いているので手助けも上手く出来ていない様子。
キャロルの方はいよいよ最終段階といった具合。
上司は無傷でただただ遊んでいるだけ。
一方キャロルは魔力がほぼ枯渇している。それでもまだ力を求めて行動している。
このままいけばそう時間をかけずザマス眼鏡たちの思惑通りの展開になるだろう。
それ自体はどうでもいいのだが、問題は伊勢谷までもがここに来た理由だ。
そう考えていると文化感崩壊男が三日月の様な口を更に釣り上げた。
「どうやら君たちは彼らの思惑から外れたようだよ。彼女たちは竜泉寺くんを強化するついでに君たちの街を滅ぼすらしい。その為に関係のない人間が何千何万消えても仕方がない代償だってさ」
「そうですか。因みに具体的にはどうやって滅ぼすんですか? 関係のない人間を巻き込むというんですから刺客を送るとかじゃなくて戦術兵器使われるんでしょうけど」
「ローズマリー・キャロルの暴走の矛先を君たちの街に向けるんだって。彼女らにしてみれば事態を綺麗に終息させるなんてわけないんだろうけれどついでにやっちゃおうっていう魂胆なのだろうよ」
道化が本気を滲ませて言う。
口調こそ適当だがそこには冗談や悪ふざけを挟んだ様子はない。
突き付けられた面倒な現実を素直に受け入れてあっさりと理解した。
伊勢谷の言い分ではキャロルの暴走は意識を失って狂戦士化するのではなく力だけが暴れるタイプのものらしい。そのうちキャロルは力を制御できなくなって膨大な魔力と共に炎が荒れ狂い人間兵器となるのだろう。
単純な魔力の暴走が人間兵器になるとは思わないがそういった仕込みが施されているのだろう。
ザマス眼鏡たちはそれをどさくさに紛れて北陸に落とすことを計画に入れている。しかも周りの被害など気にせずに俺やその関係者を消すためだけに。
目障りだからと言って戦術兵器で街ひとつ消失させるとか何とも厄介なことだ。
第2皇子かっての。俺は今日じゃなく明日が欲しいというのに。
「でも、そんなことを主人公様が許すんですか?」
「そこは知らぬが仏ってね。事実を知らなければ起きていないのと同じさ」
確かにその事実を知らなければ無かったことと同じだ。何事も全てつまびらかにする必要はない。特に主人公様には耳障りの言い現実だけでいい。
それにしても何万人もの人間を消滅させたことを無かったことにしようなんてかなり終わっている組織だな。
呑気に今後の展開を予測しているとテンガロンは驚いたようなそぶりを見せた。
「おや、かなり面倒なことを言ったつもりだけれど落ち着いているとは意外だね。あれかな? 斎藤君も登場人物としてやる気が出てきたのかな?」
「まさか。自分としては寧ろこんなことで慌てふためくと思われていた方が意外ですよ。それに自分がそんな善人だと思ってますか? 嘘でしょう?」
ポンチョさんは驚いたふりをしているが俺がこういう反応をすると分かっていたのだろう。それを理解したうえでの悪ふざけだ。
呑気なものだ。俺も含めて。
確かに万単位で人を殺せる戦術兵器を投下されるのは面倒だ。それも今のキャロルの保有魔力を砲弾とされるとかなり厄介。どういう形状の攻撃になるか不明だが周囲へ甚大な被害を出す攻撃となるとおそらく対応しきれない。
残念ながら俺にはそういった対応が出来る力を持ち合わせていない。多少の誤魔化しは出来るかもしれないが街を守り切ることは出来ないだろう。
だが、街が危険だというのなら逃げればいいだけの話。無理に戦術兵器を止める必要はない。
そう思い綾香大明神の方を見ると俺の思考を読んでいたかのように首を振った。
「渡貫さんを始め皆さんに避難を求めたけど断られたよ。ここが私たちの住む場所だってね。おまけに何かあるのなら何とかしてくれって言われちゃった」
流石は綾香大明神。
分かってらっしゃる。
それにしても北陸の方々は北陸に残るのか。キッドマンたちは拠点を動かすだろうが大半はザマス眼鏡たちの思惑に巻き込まれるのだろう。
面倒なことだ。
「そういうこと。で、組織のトップである斎藤君はどういう判断を下すのかなってついて来たんだよ。このまま様子見で済ませば確実に君たちの街は焼け野原だよ?」
「そりゃ、まあ、何もしませんよ」
「街の人を見捨てるのかい」
「戦術兵器が使われるなら仕方がないんじゃないですか? 自分には関係のない話ですね」
メキシカンの問いに俺は即答する。迷いなんてない。
確かに何万人単位で死滅できるほどの戦術兵器が使われるのならかなり面倒だ。
だが、そもそもの前提が間違っている。
仮に北陸が戦場となったとして俺が何かをしなければならない理由は無い。義理もなければ義務もない。知り合いがそこにいてその親族たちが住んでいる街だとしてもそれが俺に影響することは何らない。
俺がすべき道理があるとしてそれは綾香の報告で終わっている。
被害を事前に知らせただけでも助けにはなる。
それ以上各々の判断だ。
彼ら彼女らがその街に残るというのなら死を覚悟すべきだ。生きたいなら逃げればいい。
逃げたくないけど死にたくない、何とかしてというのは唯の阿呆だ。
阿呆なんてどうでもいい。
俺の反応に伊勢谷は嗤ってみせる。
いつもの様な冷やかしの仮面ではなく性根からの感情の様に。
「いいのかい? 君の所為で何万もの人間の命がなくなるんだよ?」
道化の問いを笑って一蹴する。
「それは見当違いな指摘ですね。無垢な人間を殺すのは自分ではなく竜泉寺を操って楽しんでいる人たちです。俺の責任じゃない。仮に自分にどうにか出来る力を持っていたとして大虐殺の責任を押し付けるのは単なる阿呆でしょう。そういう阿呆は少なくないと思いますがそんなのは自分に関係ないですからね。それに自分の身を守れないのは己の無力が招いた結果ですよ」
生憎俺には阿呆の論法に興味がない。おまけに人様からの評価も関係ない。
阿呆の為に命を張る趣味なんてないし外聞の為に身を投じる癖もない。
所詮俺は我が身大事だ。
そんな俺を伊勢谷は良い表情で嗤う。実に興味深そうに面白そうに可哀想に。
一方で綾香は呆れている。俺の反応を予想していたようでそれ程嫌悪は無いように思う。
そんな戯言に興じていると物語がついに動き出した。
キャロルが暴走を始めた。




