13-2
御幸を保健室に預け学校の外に出る。
街では相変わらず爆音やらが酷く主人公たちが暴れているらしい。自分たちの住んでいる街だというのに遠慮や自重というものは無いらしい。
街中で自由に暴れて死傷者ゼロで済ませられるはずもないというのに。
ま、街の防衛は俺の管轄ではないし戦闘区域内に俺の家は無いのでどうでもいい。
主人公たちの活躍をいち早く見学しに行くために人様の家の屋根を飛び越えていく。
神居も一応身体能力は優れているらしく屋根伝いで移動できるらしい。
但し、その速度は遅い。凡人に合わせてなんていられないので無視して先に行く。後方から何やら声がしたが恐らく幻聴だろう。
主人公たちの戦場は主人公の家付近だった。付近というよりは竜泉寺家を中心に繰り広げられている。
一応俺の実家も戦闘区域内に入っていたが、どうでもいい事だ。
その戦闘を300メートル程離れたマンションの屋上から眺めることにする。戦闘の全体図が見渡せる分人の大きさはかなり小さいがその辺は妖気で何とかなる。
どのみち個々の戦闘には興味がないので問題はない。
敵は4人組。立ち振る舞いからすると上司1名に3人組の平といった感じか。
4人のうちやはり上司が能力的にずば抜けていて少しだけ面倒そう。それでも並みかやや上程度なので竜泉寺たちには到底及ばない。
ただ、厄介そうなのは上司が空を漂っていること。
おまけに上空には人質らしき人影がある。あれは、確か竜泉寺の父親。主人公父が綺麗に上空で貼り付けにされている。
オヤジヒロインとか誰得だよ。
竜泉寺たちの中で自由に空を飛べるのはキャロルくらい。
九重は肉弾戦闘員なのである程度の高さまではジャンプできるがそこからの動きが出来ない。マンガのように二段ジャンプとかは出来ないらしい。
早乙女も念動力で自分を浮かせることは出来るようだけれど飛行には慣れていない様子。あるいは能力の燃費が悪いようで短時間で離着陸を繰り返している。
竜泉寺はキャロルを真似て火炎の翼を生み出しているけれどこれまたうまくいっていない様子。こちらは単純にセンスの問題だろう。
おまけに上司への挨拶はきっちりと部下が制御している。
地上にいる3人の誰かが上手く飛べそうになると必ず邪魔をしに行く。しかも倒すための攻撃ではなくただただ邪魔をするだけ。
どうやら襲撃者はキャロルだけが目的らしい。
そのキャロルは人質がいるという事もお構いなしに上司へ攻撃を仕掛けている。火炎の剣で斬り付けあるいは火球を投げつけあるいは火炎を吐く。
まさに怪獣映画のようだ。
しかしキャロルの攻撃は上司に一切通用しない。
それもそのはずでキャロルはただただ攻撃するだけ。学校で感じ取ったようにキャロルの攻撃力、戦闘力は向上していたが技の威力破壊力が向上しているだけ。戦いの上手さ賢さはかなり落ちている。
本当にただの怪獣のよう。
そんな単調な攻撃を上司はひらひらと躱している。
気になるのは反撃の隙はあるはずなのに上司はそれを見逃してどこか楽しんでいるようなこと。
「あなた、女の子を置いていくなんて、どうなのよ」
状況の確認を終えると神居が追い付いてきた。
それ程走っているわけでもないのに息も絶え絶えといった様子。そして何故か睨まれている。
ま、人様のヒロインなんて正直どうでもいいので気にしない。
「そういった扱いはうちではしていないので他所へ当たってください。それとどうやら面倒な状況になってるみたいですよ」
「どう、いう、こと?」
自分の予想の整理ついでに神居に状況を伝える。
現在4対4の戦闘が繰り広げられている。
戦力としては主人公側が圧倒的有利。但し、人質と制空権を取られているので一筋縄ではいかない。が、物量で押せば何とでもなる。
敵軍はその不利に気付いていないのか焦った様子はない。
折角の人質も有効に使っていないし勝機を態々見逃している。
間違いなく何かを狙っている。
単純に主人公を倒すのではなくそれ以外の何かを。
ここまで情報が揃えばある程度今後の展開は読める。
敵軍の狙いはキャロルの暴走。それによる自滅。だから敵軍は自分から攻撃をしなくてもいいし焦る必要もない。ただ力を使わるだけでいい。
問題は暴走後のシナリオだ。
恐らく敵軍の思惑通りにはならない。竜泉寺の背後組織、神崎やザマス眼鏡たちが何か仕掛けてくる。あるいは既に施されている。
単純な展開で行けば暴走状態のキャロルを竜泉寺と戦わせることか。強い相手、気心の知れた相手を踏み台にして更なる飛躍を促すのかもしれない。
どんな展開になるにしろ竜泉寺は窮地に立たされるだろう。
俺の推測を聞いた神居は顔を青ざめさせる。
「じゃ、じゃあ今すぐ止めに入らないと。あなたはなんでこんなところでぼさっとしているのよ!!」
流石は曲りなりにもヒロインということだろうか。竜泉寺の危険となると居ても立っても居られないらしい。
けれど、そんなこと俺には関係ない。
「関係ないことですからね。あれがどんな状況に巻き込まれようとどんな思惑に巻き込まれようと、生きようと死のうと、ね。自分には竜泉寺がどうなろうと関係ないんですよ。勿論、キャロルもね」
あれが本当に世界を救う存在になるのならそれでも構わない。仮に夢破れて笑い種になるならそれでも構わない。俺にはあれに対する情なんてものはない。
俺はあれの親友でも何でもないのだから。
そんなことより問題は主人公様がしっかりと役を全うできるかということ。
全う出来たとしてそして表に出る綺麗な結末ではなく現実の結末がどうなるのかという事だ。あるいは笑い種になった時、その場がどうなるかだ。
キャロルは、まあ同情しなくもないがそれだけ。
他人の行く末なんかより自分のいる環境の方が比べ物にならないくらい重要だ。ひとりの為に社会が変わってしまったらその方が面倒だ。マンガとかアニメとかなくなったら困るし。
そういった個人的な感情を抜いたとしてもキャロル1人を助けるために動くのではなく事態を安全に終息させることを俺は選ぶ。ザマス眼鏡たちが動いている以上ここから介入は難しいので何もしない。
俺の言葉と態度が嘘ではなく冗談でもないと悟ったらしい神居は、俺を殴った。
勿論神居程度の動きは簡単に見切れるし躱すことも受け止めることも難しくない。けれど、避けることはしなかった。
別に自分への罰とかではない。単に面倒だっただけ。
それに痛覚の遮断もやろうと思えばできる。傷の回復も普通に出来るので避ける意味がなかっただけだ。
「最っ低!!」
暴力に動じることなく物思いにふけている俺を神居は詰る。
けれどそんなものどうでもいい。他人にどう思われようと俺には関係のないことだ。
「そんなことをしているよりレオチャンに伝えに行かなくていいのかな? たぶんこのままいけばキャロルは暴走して止められなくなる。その前になんとかしなきゃいけないんじゃないかな?」
普段、竜泉寺の前で使うような言葉で神居に微笑む。
自分でもかなり滑稽に思う。
そんな俺を見て神居は表情をなくして去っていった。取り残されたことに特に感慨はない。
所詮神居は竜泉寺側の人間だ。いてもいなくても問題はない。寧ろ俺の行動の邪魔をされかねないのでいない方が良い。
邪魔者がいなくなったので今後の展開と方針を考えていると別の人影が現れた。
「相変わらず潤は口下手だよね。そんなに人を遠ざけなくてもいいのに」
「まさか。さっきの言葉が嘘やごまかしだとでもいうんですか」
「それはないよね。たぶんあれは潤の本音。でも本音は本音としても言う必要はないんじゃないかな」
「生憎色々と面倒な性格をしているんですよ」
「けどまあそういうのが斎藤潤君の面白味なんじゃないかな。私は好きだよ」
現れたのは万能事務員の綾香大明神。
そして季節感も文化感も破壊するメキシカン、伊勢谷。
有能な2人が現れた事に安堵しつつも現れたということはかなり面倒なことになることが確定したっぽいので俺の気分はダダ下がりになった。